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第201話 新種?変異種? ~「美味しく頂きました」

はい、こんばんわ。

いつも誤字報告や感想をいただきありがとうございます。大変助かっています。

特に間違った表現や言い回しは自身の不勉強知識不足から全く気が付かないことを丁寧にご指摘いただき助かります。


では 第201話 どうぞ!







 知矢がオーク討伐を終えて屋敷に友人知人を招き盛大な焼肉大会を開催していた時であった。

 夕闇が既にすぎ去り辺りは漆黒につつまれている時分、知矢の屋敷へ通ずる門におとないを告げる者が一人。



 「誰だ、こんな刻限に。姓名を名乗るよう」


 屋敷の門には騎士や兵士ではないが食い詰めた冒険者を臨時雇いとして採用し門番をさせていた。

 本来であればそれなりの手練れや訓練を受けた者が屋敷の入り口を守るのもだが知矢はそれほど防衛力としての役割を望むよりは訪問客の受付、誘導の意味に重きを置いていた。


 食い詰めた臨時雇いの冒険者であるのでそれ程の戦闘力を期待出来ないこともあったが知矢自身をはじめ屋敷内部には以前から知矢の店、魔道具商店で警備を担っていた人材も多くその半数がこの屋敷に在住していることからそれ以上の戦力は求めていなかった。


 そもそも人材不足の折に人を集めるように知矢の部下ともいえるボンタヘ

 「すまないがお前の知り合いでも誰でもいいが仕事にあぶれているような者はいないか。もしいれば警備などの仕事を用意する。冒険者といえど毎日十分な依頼が有るわけでもないだろうしお前みたいに路頭に迷って悪い奴らになんて事になるよりは臨時雇いで小銭を稼ぎながら冒険者を続けるという道もあるだろう。声をかけてくれないか」

 そう頼んだ事がきっかけでいつのまにか冒険者ギルド依頼掲示板の常時依頼スペースに



 『商店や屋敷の警備のお仕事・雇用期間、時間応談・朝晩食事付。対象FからEランク』



 そう掲示される様になっていた。



 これは知矢の冒険者育成学校という構想の一歩二歩手前の段階でもあり安定収入を得られるまで武具や装備、ポーションなどを買う為の資金補助も視野に入れてあった。

 勿論依頼をするのであるから仕事の方はきっちりとこなしてもらうことが大前提であった。


 先人の警備担当者から周囲に気を配り長い時間気を張り詰める心構えや方法なども指導を受けることもでき希望者には庭先で簡単な訓練も実施していた。

 そういった事を積み上げて徐々に次の段階へ進むことも模索しているところだ。




 門番の誰何を受け現れた人物は素直に


 「遅くに済まない。この屋敷の主に会いたい。俺は・・・・」



 「あっ! 失礼いたしました。只今うかがってまいりますので少しお待ちを」


 訪問者の姓名を聞き暗闇で魔道具の明かりをかざし顔を確認した今日の門番役の冒険者はこの知った顔の男に驚いて少し高圧的な物言いから丁寧な口調へと瞬時にかえながら答えるともう一人の門番を残し玄関向けて慌てるような足取りで走っていった。






 今だ焼肉大会と銘打った宴会は続いている。


 最初に口にしたオーク・キングは1頭しか手に入れられなかったことからこの宴席に招待した者にはほんの1口2口分。そして知矢の使用人にも全員最低1口はいきわたる様に分配した為その後本来の食事として出てきた肉はオーク・ジェネラルとオーク・リーダーのものとなる。


 それでも肉のうまみや味は十分に秀でた味わいで全員の舌を満足させていた。


 酒も進み肉の他にも種々の料理がテーブルへ並びだした頃である。

 【宴会場】の大扉が静かに開けられ一人の使用人が静かに入ってくると(うたげ)を差配する総支配人兼屋敷の家令を務めるリラレットへそっと近づくと耳元で何かを告げた。

 黙って頷くとリラレットは楽しそうに歓談する主の知矢の元へ

 

 「知矢様・・・」

 リラレットが静かに知矢の耳元でそっと要件を伝えた。


 「そりゃあ珍しい客だな」そう笑みを浮かべながら知矢は傍の席で食事を楽しんでいるニーナをちらりと見た。


 ニーナはほかの招待客と歓談しながら食事を美味しそうに食べそしてゴブレットに注がれたワインを飲みその白い透き通るような肌を薄っすらと赤く染め楽しそうであった。



 「構わないからこっちへ案内してくれ。席もその対面がいいだろう。用意してお迎えしよう」


 そう知矢の指示を受けたリラレットは承知致しましたと軽く頭を下げ新たなゲストの席を用意する旨ほかの使用人へ指示を出すとそのゲストを誘導すべく宴会場を出て行った。


 ちなみに知矢は”宴会場”と呼んでいたが使用人達は”大食堂(ダイニングルーム)”と呼称していた。




 少しすると新たなゲストがリラレットに誘導され宴会場へと姿を現し第一声を告げた。


 「お前、こっちには後始末で残業させておいてこんな盛大にお祝いか。この野郎!」

 そこに現れたのはラグーン冒険者ギルド筆頭、ギルド長のガインであった。



 「ギルド長!」突然の上司の登場に驚く声を上げたギルドサービスマネージャーのニーナだった。


 それを軽く制して席を立った知矢。



 「これはこれはギルド長さま。当家に足をお運び頂きありがとうございます。どうぞそちらに席を設けてありますので。リラレット、ギルド長さまへ冷たいおビールだ」



 わざとらしく恭しい出迎えの言葉を述べた知矢にガインは「フン」と鼻を鳴らして何か言いたげであったが家令のリラレットに丁寧に即されると不承不承の様にしながらも指定された席についた。



 「みんな冒険者ギルド長のガイン様のお出ましだ。もう一度乾杯をしよう」

 そう言って薄い金属で作られたジョッキを掲げ周囲へ宣した。


 「カンパーイ!!」と知矢の声に周囲にいた友人たちや使用人が


 「「「「「「乾杯(プロージット)!!!!!」」」」」」と声を合わせ同じようにジョッキやゴブレットを掲げる。


 その周囲の様子に渋い顔をしていたガインも仕方がないという様子で

 「乾杯(プロージット)」とぼそりと言いながらジョッキを目の前に差し出しすぐに一気にビールをあおって飲み干した。


 ドーンとテーブルに軽くジョッキを置く音がすると

 「てめーそうじゃねえだろうったく」と知矢へ食って掛かるガインの脇から「お注ぎ致します」と使用人のワオンが慣れた手つきでピッチャーから新たなビールを注ぐ。



 「エッ、ああ悪いな。

 って違うトーヤ!。お前あんなに大量のオークを狩ってきやがって。

 しかもギルド倉庫に丸投げか。 俺がギルドへ戻ったら肉を捌く者、数を集計してより分ける者、魔石を選別するものと職員総出で大騒ぎだ。しかもなんだあの巨大な魔石は。そんな報告もろくにせず立ち去りやがってありゃ【ジェネラル】の魔石どころじゃない。まさかぞれ以上の奴か!」



 知矢達は今日のオーク討伐を終えると冒険者ギルドへきちんと報告を上げ”集落”が形成されていた旨を伝えると解体場へオークを持ち込む買取査定を依頼した。


 【オーク】はそのほとんどを売却。【オーク・リーダー】は半数にとどめ【オーク・ジェネラル】は持ち帰り、当然【オーク・キング】も持ち帰った。


 その際【オーク・ジェネラル】【オーク・キング】は魔石のみ買取依頼を出して置いてきた。その時の職員は

 「こっこれは・・・・」とオーク種では考えられないほどの大きくしかも命滴るような漆赤に輝く巨大な魔石を前に言葉を失う。


 やっと出たセリフは「ギルド長と相談させてください・・・」との事だったので知矢はそのまま預けて帰路へ着いた。




 「あの魔石の大きさと言い深い輝きと色。そうめったにお目に掛かれるもんじゃあねえ。いったい・・・」

 ガインが興奮しながら大声で知矢へ問い詰めていると



 「どうぞお召し上がりを。熱いうちにどうぞ」

 使用人のミミがそう言いながらガインの前に焼いたばかりの肉の塊を載せた皿を差し出した。

 そこから湯気と一緒に立ち(のぼ)る香りは塩コショウの他にわずかに醤油を使用しているため強烈にそそられる匂いであった。



 「ぐっ」知矢へ声を荒げていたガインはその香りが鼻に届いたのか一瞬驚いたように言葉を噤みおいしそうな肉へ目を奪われた。



 「・・・せっかくだから頂こう」と憮然とした表情で答えたガインであったがその目と口元は緩みそれを目撃していた周囲の者や知矢そしてニーナも薄っすらと生暖かい笑みを浮かべてガインが肉を食するのを見守った。



 肉をフォークとナイフで切り分けたガインは大きな塊を一口で口へと運ぶと確認するように味わった。


 (この者は貴族の出と言うが今も貴族位を持っている割に所作が雑であるな)知矢がそんな感想を思い浮かべていた時



 「なっ! なんだこの肉の味わいは!」そう叫ぶと次から次へと残りの肉を切り分けていそいそと食す。



 元々それほど大きな肉ではなかった為あっという間に食べ終えたガインは空になった皿に気が付くと「あっ」という表情を見せたが流石にお代わりをよこせとは言う程図々しくは無かった様でナフキンでゴシゴシと雑に口元を拭うとビールを一口飲み気持ちを落ち着かせたのであろう再び知矢へと視線を向ける。


 「おい!これは!」


 「ああ、今日の獲物の中で一番の収穫だ。残念ながら1体しか手に入れる事が叶わなかったのでなそれだけしか提供できないが。最高だろう」

 知矢はどこか勝ち誇ったようにお変わりはないぞと言外に告げた。



 「一番の収穫、1体・・・まさか【キング】種がいたのか!」

 ギルドで見た巨大な魔石、この味わったこともない旨さが凝縮された肉、そして知矢のセリフ。ガインは半信半疑ながらキング種がいたのだと思い知った。



 「ああ、まさに【オーク・キング】の名にふさわしい巨体と力だった。

 それにこれはまだ俺も半信半疑なんだが下半身を痛めつけられさらには血脈を断たれ追い詰められたと悟った奴はその持っていた大剣へ全霊を込めるように何か、おそらくはほとんど魔力であると思うがそれを凝縮させて大剣に込めると考えられないほどの高温を放つ灼熱を生み出し尋常ではない力で俺に向けて放ってな。 一瞬でも防御が遅れたら俺も危なかった」


 そう言いながら知矢はその光景を思い出し (そうあれは危なかったのう)と反省しきりだった。


 オークは物理攻撃や肉弾戦しかできない。そう信じ込んでいたが追い詰められた【オーク・キング】の一撃は確かに魔力。それも尋常ではない物を込めた一撃であったのは確かだ。



 「何だと、オークが魔力を込めた攻撃だと。そんな話は聞いたことがない。何かの間違いじゃねえのか」

 当然のことながら魔物や魔獣に造詣が深くなくては冒険者ギルド長など勤まるものではない。それ故にガインの驚きと疑問は当然である。



 「俺もまさかそんな攻撃を受けるとは思わなくてな驚いた」


 「それはひょっとすると新種なのではないでしょうか」

 黙って知矢とガインの話を聞いていたニーナが口をはさんだ。


 「新種? 変異種の可能性か。うむー。おいトーヤその個体をギルドで調査したい。明日にでももう一度持ち込んでくれ」


 「何言ってんだ。いまお前も口にしたばかりじゃないか。みんな切り刻んで食材に加工しちまった後だ。まあ内臓や頭部、外皮は残っているが」


 「お前そんな貴重なものを確認もしないで食っただと!それがどれだけ重要な資料になると思ってんだ!」

 ガインは特異な変異種である可能性を考慮し知矢を責める。


 「ギルド長」

 そこへニーナが優しく声をかける。


 「なんだニーナ」じろりと視線を向ける


 「ギルド長もお食べになったのですから同罪です」

 ニーナはすました笑顔でそう答えるのであった。


 「・・・くっそ。まあ仕方ない。残った部位は全て提出しろ」そう苦々しい顔で告げるとあきらめた様子で再びビールをあおり呑むのであった。




 その後ガインは皆と食事をしながら大いに飲み同席していたカーネタリア老人へ以前から願っていた大森林での冒険譚などをせびったがとうの老人は


 「ひょっひょっひょー」と相変わらずのくしゃくしゃした笑みを浮かべるだけではぐらかすのだった。





 宴も終わり客もそれぞれ帰路へつく時間。


 思いのほか酔いが回ったガインはろれつが怪しげながらも魔馬車での送迎を断り帰っていった。

 「いーかトーヤ。ヒック。かならずだぞ、かならずのこったぶいをとおどおけろよ。くっちまうないよ~」

 と少し絡みながら千鳥足で暗闇へ消えていった。





 すべての客を送り出し宴会場に隣接する小部屋へと居を移した者のところへ顔を出す知矢。


 ニーナは風呂へ行った様子で姿がない。


 今日もべろんべろんに酔ったニャアラスと静かに紅茶を飲むカーネタリア老人。そして知矢の従魔、G・(ゴールデン)D・(デス)S(スパイダー)のピョンピョンとフェンリルの上位種ではあるが姿を子犬へと変化させているフェリシアがソファーでくつろいでいた。

 珍しい事にその傍の椅子にボンタの姿も見えるがこちらはまだ飲み足りなかったと見え小皿のつまみを肴に未だビールを飲んでいるようだ。


 「兄貴、今日も盛大なご馳走をありがとうございやした」

 そう言いながらボンタはジョッキを掲げ軽く頭を下げる。


 「ああ満足そうでよかった。しかし中々希少な肉だったみたいだからな機会に恵まれて良かったな」

 最近の宴会に姿の見えなかったボンタは久しぶりの宴への参加であった。


 「ニャア、こいつはほっといていいニャ。こいつは北門(ノースゲート)の飲み屋の女さえいれば満足ニャ」ろれつの怪しいニャアラスがまたもやボンタの不在理由を暴露した。


 「ああそういう事か。でお前たちはどこまで進んでいるんだ。結婚の約束でもしているのか」

 知矢はソファーの空いている席に着くと目の前においてある茶器で自らの紅茶をいれながら聞いた。


 「ニャアラスの旦那何を言って、いや兄貴あっしとマルゲリッタはそんなんじゃ」

 慌てて弁解するボンタであった。


 そんなボンタの様子を微笑みながら見る知矢は。

 「なあボンタ聞け」

 知矢の声にボンタは神妙な顔をむける。



 「お前は以前、冒険者としての活動に苦慮(くりょ)しその挙句には悪い奴らの仲間へ引き入れられた。それもこれも収入のめどが立たず困窮(こんきゅう)しての事だろ。

 しかし今のお前は数多くの修羅場も経験し自身に秘められた行使力(スキル)の使い方も覚え以前とは全く異なりいわば生まれ変わった様なものだ」



 「それもこれも全て兄貴のおかげっす。あっしが奴らの元を離れることができたのも、そして仕事を与えてくれたのも兄貴です。兄貴と出会えたからこそ今のあっしがこうしてうまいもんを食って酒を飲めるっす。一生兄貴について行くっす」

 姿勢を改め真剣な目で知矢へと感謝を伝えそしてこれからの忠誠を改めて誓うボンタ。



 「だが一生俺のもとで下働きという訳にもいかないだろう。どうだ今後は冒険者としての立ち位置へ戻し、依頼を受けランクアップを目指してはどうだ。

 最近のお前は剣の腕も向上し受けさばきも(さま)になってきた。魔物との戦いでも行使力(スキル)を上手に使えるようになりオーク程度なら複数現れても十分さばけるじゃないか。

 その様子ならすぐにでもCランクへ上がることもできるだろう。そうなるとさらに生活も安定する。結婚を視野に生活基盤を構築できるはずだ」



 知矢はボンタと出会った頃を思い出していた。


 ぼさぼさの長い放置したままの髪でどんよりとした眼差しの若い男。おどおどした物腰と口調は全てに於いて自信が無い事の現れであった。

 強者のもとで単に命じられた事をするだけ。自分の考えなど持つこともなくただ指示されたことをなんとかこなしその報酬にわずかな(かて)を得るだけ。

 そんな生活をしていれば生気や希望も無くなるのは当然である。



 ボンタはそう言った期間がまだ短かったのが幸いしたのかそれほど度胸もないので悪事にどっぷりと浸かる事もなかったのが幸いしたのか、知矢と出会いその力におののき、そして許された後に自分と向き合いながら自分の意思で知矢の緊急依頼への動向を決めて必死に願った。

 そう言った自発的な行動ができた事を切っ掛けにし知矢を兄貴と一方的に慕い今日に至る。


 知矢もボンタの行使力(スキル)を知り放り出すのはしのびないと更生の道を示した。

 その知矢の心にボンタは応え知矢の命で影の仕事を十分果たした。



 そんなボンタの成長を見た知矢は


 (これなら十分に一人でやって行けるであろう。新たな仲間を見つけてチームを組むもよし)


 と自分の庇護下ではなく自身の力と考えで未来を掴む力を着けてきたこの若者が羽ばたくチャンスではないかと考えたのだ。

 安定した収入、清潔で健康的な環境、そして好いた異性。そう言った条件が整えば幸せな未来を築くことは十分可能だ。そしておそらくは互いに好意を寄せている異性と知り合ったのだ。多少回り道をしたボンタであったがそのお陰で以前よりその地力は確実に備わり色々な経験から得た知識と対応力は確実に実っていると感じる知矢だった。



 未だ若いボンタ。村を出て冒険者を志したものの元々気の弱いボンタは一時(ひととき)は苦難に向き合うも単なる無謀さで壁にぶち当たりあっさりと抵抗をやめる様な行動しかしていなかった。

 そう言った諦めの早さが如実(にょじつ)に行動に現れ一緒にパーティーや臨時のチームを組んだ冒険者からの信用を得られず相手にされなくなりソロ冒険者として活動を余儀なくされた。

 そうなると不器用さがさらに足かせとなりやる事成す事、依頼を受けるも失敗ばかりでは生活に困窮するのも無理はなかった。


 そんな時、本来の冒険者ギルドのシステムでは低ランク冒険者がスタートで(つまづ)いて路頭に迷ったり命を失うことの無い様に導く体制もあった。


 だがこのシステムは主にFランク。初心者を対象としたプログラムでもあったことと、()()()()ボンタは最初Fランクの頃にたまたま出会い勧誘されたパーティーに連れられて活動したことにより自身の力では無くパーティーのおかげで早々にEランクへと昇格を果たし()()()()

 そしてその後パーティーを追い出される結果になったが、そう言ったパーティー加入や臨時チームに参加することで(わず)かながらギルドポイントを積み上げた事によりなんとDランクにまで昇格して()()()()のである。


 それが更なる不幸の始まりであった。


 Dランク。

 それはもういっぱしの冒険者である。



 Fランク・・・・・初心者、見習い

 Eランク・・・・・見習いを卒業し晴れて正規の冒険者とみなされる

 Dランク・・・・・世間一般的にも評価が上がり段々と信頼を得られるようになる

 Cランク・・・・・高い能力を認められ指名依頼が出されるほど信頼を得られる

 Bランク・・・・・強力な害獣等を討伐できる力と経済的な信頼を得られ貴族や国家的な依頼を受けることもある

 Aランク・・・・・国家的な功績をたてた事が認められ絶大なる信頼と大いなる力のあかし。また経済的な信用力も高く望めば大商会やギルドなどから無担保で多額の信用融資を受けられる



 そして


 Sランク・・・・・その力、能力は言うに及ばず国家をまたぐ大きな功績を認められ冒険者ギルドが存在する国家は全て出入国の自由を与えられ税金の大幅免除、政府機関への問い合わせや情報提供の優遇、騎士団などへ国家戦力へ直接の協力要請の権、その他冒険者として活動する障害が一切ないほど各種の優遇措置が設けられていた。


 しかしその待遇には勿論それ相応の義務も生じる。

 害獣討伐やスタンピードでの積極対応は勿論。Aランク冒険者で対応が困難とされた依頼は必然的に招集されるし、もしAランク冒険者やSランク冒険者が犯罪を犯した場合その捕縛や討伐の任を受けなければならない。

 それ以外にも各国の政府やギルドから緊急要請や国家的な催しへの参加、下位ランク者への指導、ギルドの資料室へ情報提供など多くの対応をしなければならない。



 そう言った訳でどさくさと言うか本人の力に関わらずDランク迄昇格したボンタへほかの冒険者やギルドか黙って救済の手を差し伸べる事や指導を行うことは無かった。

 それは当然である。Dランクはいっぱしの冒険者なのであるから。



 そして気が付くと一人になっていたボンタは依頼を受けるも失敗ばかりであったのは先に記したとおりである。

 こうなるともう当然のごとく落ちるところまで落ちるしかない。

 そんなボンタが知矢と出会い役目を与えられたことは奇跡でもありボンタにとって救世主と言っても過言ではない。

 そんな知矢に以前の冒険者に戻れと言われたのであるから当人にとっては死刑宣告にも同様に感じられた。


 「兄貴!あっしは役立たずっすか!何がいけなかったんでしょう。改めます、改心しますから見捨てないで下せえ!」

 椅子から転げ落ちるように床に這いつくばったボンタは知矢の足に縋りつくように必死に訴える。


 「オイオイ、何を勘違いしてるんだ。誰も見捨ててないだろう」

 ボンタの反応に驚く知矢。


 「いやあこいつはもう見捨てた方がいいニャ」

 相変わらず酔っているニャアラスがそんなことを呟く。


 「兄貴!!!」涙を流して鼻からも滂沱(ぼうだ)の水を流す若い男。そんな姿を知矢は呆れながらも(なだ)める。


 「ニャアラスお前変なこと言うな。ボンタ別にお前を見捨てるわけじゃない。お前は役に立っているから安心しろ」


 「ぐすん・・・じゃあ兄貴はなぜあっしに冒険者へ戻れって・・・・あっしは一人で依頼をこなす事なんか出来ねえっすよよよよ・・・・」再び泣き始めるのであった。


 「お前さっきの俺の話を聞いてなかったのか」

 呆れながらも再度丁寧に諭すように繰り返し話をするのだった。




 「だから将来を見据えてしっかりとした生活基盤を作ることができれば嫁を貰い子を育む事ができる様になる。だが今の様に俺から与えられた仕事をこなすだけでは不安定な収入とそして世間的な評価が定まらない状態では家族を持つなど叶わぬ話じゃないか。

 だからこそ力を付け生まれ変わったお前がもう一度冒険者として再出発する条件が整ったと考えたんだ。別に明日から即冒険者として生きて行けなどと言っている訳じゃない。毎日ギルドに顔を出してギルド職員と交流を持ち、ほかの冒険者と顔をつなぎ手ごろな依頼があれば受けてもいいし、勿論俺からも今まで通り頼み仕事を依頼するつもりだ。

 どうしても一人での活動に不安があれば仲間を募ったりもするのも良いだろう

 そしてまあ後で話そうとおも思っていたがもう一つ腹案もある」


 「はあ、兄貴がそこまであっしの事を考えてくれてたのは嬉しいっすけど。やっぱり不安っすね」

 ボンタは知矢の話を聞いてもやはり以前の失敗を繰り返すのではないかと自分に未だ冒険者としての自信が持てない様子であった。


 「腹案って仰いましたけど。それって言うのは」


 「もう言っても良いか。まだ検討段階でほとんど決まっていないがFやEランクの冒険者を対象にギルドのサポートとは別に将来的に冒険者を育成する学びの場を作ろうかと思ってな。その言わば実験みたいな感じでお前を講師にほら今雇っている冒険者たちがいるだろう。彼らをお前が率いてパーティーリーダーとして依頼をこなしながら育成をするって言うのはどうだ」


 「あっしがパーティーリーダー。なんの冗談すか。あっしは知っての通り冒険者としてダメな、落伍者っす。そんなあっしが人に教えるなんて・・・・無理っす」


 「ニャア、それも面白いニャ。ダメな奴を見れば『こんなふうに成らないようにしよう』って良い見本になるニャ」

 半ば眠るようにソファーへ寝ころんでいたニャアラスが起き上がって話に加わった。


 「ニャアラスの旦那。まあホントの事っすけどそいつはあんまりだ」

 また泣きそうな顔のボンタ。しかし


 「それだ。そう言ったお前にしか体験できなかった事。こんなふうにしたら失敗する。これが出来なくて諦めたからこうなった。それは実際体験して苦境に立たされた者でしか言えない貴重な事だ。それを含めお前もそう二度と繰り返さない様に指導しながら一緒に学ぶんだ」


 「また同じことになるかもしれニャイけどニャ」


 「そうなった時は勿論俺やニャアラス。それにほかの冒険者だった使用人達からフォローさせる。

 どうだ今直ぐって訳じゃあ無い。少しずつそう言った事を視野に入れて活動を再開してみろ」


 「はあ、兄貴がそう言うなら少しずつやってみます。でも本当にあっしを見放さないっすよね!」


 最後まで不安げなボンタだったが知矢の言葉を信じて再度冒険者としての活動を始めることに同意した。






 酔いが回ったニャアラスを部屋へ送りながらボンタも知矢の前を辞した。不安そうな顔をしながら、しかし強く頷く知矢の顔を見て少しは自身で考え始めた様子が見て取れる。

 そんな彼を知矢はしっかりとフォローしてやろうと思い見送った。




 「ヒョッヒョッヒョ。お(ぬし)も面白いところに目を付けたのう。いや否定しているのでは無い。楽しみだと言っているんじゃ。

 それにしても若いのに将来を見据えた考えができるもんじゃの。わしがお前さんの年の頃と言えばヒョッヒョッヒョ話すのも恥ずかしいほどじゃったわい」


 皆が去った後もその以前も終始無言で笑みをたたえ話に耳を傾けるだけであったカーネタリア老人が珍しく口を開いた。


 勿論この老人は以前より知矢が転移者で最高神の加護を持つ異世界の者であると知っていたがそれを誰に話すことなく知矢に対しても知らぬ素振りを通していた。


 この老人は(面白い物がまだまだ色々見れそうだわい)

       と興味半分で知矢についてこの都市へ付いてきた。



 しかし普段の老人は何かをするわけでもなくまた誰かに指導や助言をすることもなく日がな一日のんびりとした時間を過ごしているだけだ。

 時折ふと姿を消すこともあったが夕刻には必ず知矢の屋敷に戻ってくることから知矢も使用人たちも干渉はせず自由に過ごしてもらおうと話をしていた。

 最初は一人で外出して何かトラブルにでもと心配するリラレット等がいたが



 「Sランクの冒険者にてを出せる者がいるのか」とのサーヤの一言で皆は納得したのであった。






 「いやカーネタリア様。俺も何か難しいことをしようとか偉そうに考えている訳じゃ無いんです。

 ボンタの事もそうですがうちの使用人にも知らなかったばかりに冒険者の道を閉ざされ奴隷にまで成ってしまった者もいます。そしてガンツ達の様に真剣に頑張ろうとしていても方向や方法を誤り命の危険に遭遇する者は多いでしょう。

 それで命を落としたり大けがで今後の人生が狂う者や借金で奴隷になんて勿体無いじゃないですか。

 だったら少しだけでも継続機的な指導や世間の道理、常識やせめて最低限の読み書きと買い物や取引ができる計算だけでも教えることができたらな。そんな風に漠然と考えていただけです。

 それに商売が少しうまくいったので幸いな事に資金は多少あります。この資金を貯め込んでいてもしょうがないので市中への還元の一環でもあるんですよ」

 話しながらカーネタリア老人と自身のカップへ新しく紅茶をいれながら漠然とした思いを語る知矢だった。

 (市場の流通貨幣が減るとデフレにもなるからな)とも頭の片隅に思うこともあった。




 (ううむ。こ奴は異世界の知識と経験があるから面白いわい。しかしわしにも何か出来るかのう)

 そう知矢の話を黙って聞きながら老人は新しく入れられた温かい紅茶を口にしながらそのしわくちゃの顔で静かにほほ笑むのであった。






200話突破を記念して何か閑話とも考えています。

もし(if)と言う話が読みたいや登場人物をご指定いたければその者をメインに構成するお話も考えたいと思いますのでリクエストなどがあればメッセージをください。


ではまた次話にて。




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