第192話 今日は何も起きませんよ ~ 『ハッ!主にフラグが立った!』
こんばんわ。なんとかかんとか今日も一話更新が叶います。
では第192話 どうぞ。
その日知矢は朝食を食べると二人の従魔を従えて冒険者ギルドへと足を運んだ。
今日は徒歩である。
貴族相当待遇を叙され使用人からも世間からも貴族籍の者、と受け止められているらしい。
これは使用人筆頭のリラレットよりの話であった。
そして「知矢様、ご面倒ではございましょうが周囲の目それにお立場というものがございます」
そう重ねて申し入れをされた為その言葉を一旦は受け入れ魔馬車での移動を受け入れた知矢であったが
「ちょっと待て。なぜ俺が自身の意思にそぐわない生活を強いられなければいけないんだ。
俺の目標は自由なのんびり老後だったはずだ」
能々考えた知矢、自身の部屋で思い出したようにつぶやいた。
そして早速、翌日には屋敷にいる使用人を集め改めて考えを語った。
「そう言ったわけで俺は仮初めの貴族的な何かを得たようだがそれを前面に出すような暮らしは望まないし、端的に言えば嫌だ」
まるで子供のわがままのような口ぶりで使用人たちへ伝えるが
「ですが知矢様。帝国皇帝陛下の御意でございますので・・・」
リラレットにしては珍しく知矢の考えに抵抗を見せた。
「そう、そこだ。もし帝国にいることで俺の自由が奪われるなら俺はこのまま出奔して大森林にでも居を構える。それぐらいの気持ちでいる。
だってそうじゃないか。代々貴族の家に生まれ家臣を養い領土を守る義務。
これは【 高位な者が果たす義務 】であるから当然のことだ。
だが俺は一代貴族相当と言うだけで守るべき領地もなければ領民もいない。正式な貴族でないのだから当然だ。
そんな俺が貴族のまねごとをしているのは滑稽だ。
ましてや俺はそれを望まない。
先ほども言ったがもしそれを義務だとか言い出されたら即俺はこの国を出る。
以上が俺の考えだ。
これからは貴族の様に都市内を不必要に魔馬車で移動もしなければ貴族のようなパーティーも開かない。
ただし屋敷は冒険者としての功績から下賜された物であるから皆と共に住む事には問題ない。
ただしここに住んでいる奴は”単なる冒険者”であり、強いて付け加えるならば、ちょっと商売に手を出して小銭を儲けただけの奴だ。
全員これからは変に貴族の使用人ばったような態度や行動をとらない様に厳命しておく。
以上だ」
知矢は言いたいことだけを伝えてその場を離れた。
ホールに集められた使用人たちは戸惑いながら周囲の者と言葉を交わしながら主人の言いつけだからと納得するようにそれぞれの仕事へと戻っていった。
しかしその中で”リラレットとサーヤ”は硬い表情で何かを考えている。
『・・・・(ご主人様があんなに強くみんなに話をしたのは珍しいですね)』
通りを歩きながら片に乗っている小さい従魔が不思議そうに話す。
『主様の意に添わぬことをしていたのだ。当然であろう』
知矢と歩調を合わせようと短い脚を一生懸命動かしてついてくる子犬の姿の従魔が知矢の代わりとばかりに答えた。
「まあ俺も今まで任せっきりにしてはっきりとした意思を示していなかったのだから悪いところもある。だがそれに気が付いたら即訂正し方向転換をしないと気が付いたら家臣と領地持ちにでもなっていたら逃げるに逃げられん」
冗談めかすように知矢が言うが、実際このまま放置していくとどんどん修正が利かなくなる様な危機感も感じていた。
『・・・(私はご主人様と森で暮らすのも賛成ですよ)』
小さい従魔が賛意を示す。
『うむ、私も異議はございません。一層の事今日このまま出奔成されては』
「おいおい、気が早いな。二人が俺に賛同してくれるのは嬉しいが。それにああは言ったが実際この帝国や都市を捨てて出る気はそうそう無い。勿論さっき言った通り貴族的な事や俺の意に染まないことを強制する何かが起これば即行動だ。
しかし今俺のもとにいる使用人たちの生活もある。そう易々と行動できなくなっているのも事実だがな」
そう言いながらも知矢は
(まあいざとなれば今ある資産を皆に分け与えて奴隷からも開放するだけで事は済むがのう)
と考えていた。
とは言っても知り合いや友人も増えて居心地の良さを感じているこの都市をそう簡単に出ていく気もないのは事実であるが。
そんな話をしながら通りを歩く知矢と従魔は時折目についた屋台で串焼きや果物を買い食いしながら冒険者ギルドを目指していた。
(貴族的な生活で魔馬車の中から眺めていたらこんな美味しい物も気軽に食べられないしな)
『・・・・(ご主人様、私、次はあのぶら下がっている腸詰めが食べたいです)』
『むむ、でしたら私はあちらの骨付き肉を所望いたします』
「お前たち食べすぎだぞ」
呆れながらも知矢は二人の希望通りに立ち寄っては次々と買い物をしていた。
わいわい周囲を眺めては店に立ち寄る事が楽しく久しぶりにのんびりとした時間を過ごす主従であった。
冒険者ギルドへ到着した一行は大きなドアを開け中へと入っていく。
一瞬「誰が来やがった」とでも言いたげな視線を向ける少しとっぽい冒険者がいたが直ぐにAランク冒険者である知矢であると気が付くと
「トーヤさんお疲れです」
「おお昨日は無事戻れてよかったな」
「今度俺たちと組んで依頼を受けようぜ」
など声がかかる。
知矢も少しずつではあるが冒険者達となじんできた様子であった。
それに従えている従魔についても以前ならG・D・Sと知っただけで明らかに怯えたり逃げ出すまでもないが距離を置く者も多かった。
ギルドの女性職員などは真っ先に逃げ出す部類だ。
しかし今となると
「あらピョンちゃんこんにちは」などと気軽に声をかけるほどこちらも馴染んでいた。
最近では併せて聖獣フェリシアの子犬変化の人気が高く気を許すとそく抱き上げられて撫ぜられたりする始末で
『おい!よさないか。私を降ろすのだ!』
などと言う声も聞こえてくるが知矢は
「まあ避けられたり怯えられるより良いだろう」
と傍観することにしていた。
「あらトーヤ君こんにちは。ええと依頼を受けに来た、と言う感じではなさそうですね」
いつもの低い受付カウンターに座るニーナがいた。
「ええ、昨日帰って来たばかりですからね。暫くはのんびりさせてもらいますよ。それでなくてもこのところ騒ぎが次から次へと立て続けでしたからね。もっとも未だ解決していない件も多いのでどこまでのんびり過ごせるかは疑問ですが」
知矢は緊急の事態であった大森林への調査依頼からベヒモス討伐迄かなり慌ただしい日々を送っていた。
しかしそれ以前も、南の工作員潜入にかかわる出来事や精霊魂石の解放、それに伴う南からの亡命者の件や知矢への暗殺未遂事件、そして南の工作員が全てを隠し長く帝国内部へ浸透していた事実。
これらの事件は未だ多く解決を見ていない。
もっとも知矢が今、直接関わっている件は南の亡命者受け入れの件だけである。
南の工作員が帝国内部へ深く浸透していた件は知矢が作り出した判別装置の量産を生産ギルドや商業ギルドへ委託し大量生産中であるので手を離れた。
後は知矢暗殺にかかる件は当事者たるジャン・ダック・オースティン騎士伯と監督すべき立場のアンコール伯爵の方にお任せだ。
どれも今は知矢が積極的に動くべき事柄は無かった。
「まあそういう訳でたまにはのんびりとギルドに顔を出しながら依頼掲示板を見て興味の引きそうな依頼、出来れば大急ぎで無い物などを物色してから武器屋や道具や等を巡ろうかと思いましてね」
知矢は本音でそう思っていた。
天気が良ければ二人の従魔を連れて都市を出て郊外を散策などもよいと考えていたが生憎、朝から雨模様だ。
先ほど屋敷を出るときは止んでいたのだがいつ振り出してもおかしくはないので郊外の散策は次回にお預け。
久しぶりに都市の中をのんびりうろつくつもりであった。
「そう、それも良いですね。トーヤ君は最近どころかこの都市に来てから何かと騒ぎや用事が多くて常に駆けまわっていたもの。
暫くは自由に過ごしても罰は当たらないわ」
そう笑みを浮かべながらニーナも賛同してくれたのだった。
「でも、トーヤ君の現れるところ常に何かが起こる、そんな気もしますけど」
そんなフラグが立つ様な事を口にするニーナへ知矢は
「いえいえそんな事にならない様に静かに目立たず行動しますのでご安心を」
と少し道化るような仕草で手を大げさに胸元へあてると深く腰を折って頭を下げる知矢であった。
と言ったばかりであるが直ぐに声がかかった
「オイ、トーヤじゃねえか」
その声に知矢が振り返ると以前相手の勘違いから知り合ったEランク冒険者チームのガンツとその仲間マリノスとマジコの顔も見える。
以前ガンツは冒険者ギルドにいた知矢を依頼にあぶれたうだつの上がらない新人冒険者とかってに勘違いをして自分たちのチームが受けた依頼、キリングパンサー狩りへと誘ったことがきっかけで知り合った。
ガンツは子爵家の息子であったが貴族社会から逃避行。実のところ単なる家出息子であるが、子爵家で仕えていたマリノスとミジコを連れて冒険者稼業へと足を踏み入れた経歴の持ち主だ。
(詳細は 第142話 ~152話をご覧ください)
「よお久しぶりだな。どうしていた」
見た目は同年代の冒険者であるガンツへ知矢は気さくに応えた。
「どうしたもこうしたもじゃねえよ。お前ら高ランク冒険者が大森林へ厄災獣の討伐の間、俺たちは周囲の衛星都市や村々から避難民を輸送する手伝いや防御の支度をしたり交代で24時間の警戒任務を与えられたりともうへとへとだ。」
ガンツは力なく崩れるような仕草で先日までの苦労を語った。
「そりゃあご苦労だったな」
「何言ってやがる。苦労したのはお前ら高ランクの方だろう。いやあ昨日伯爵様が演説で言ってたが本当に歴史的な快挙だぜ。うううくっそ俺たちも参加したかったぜ」
こぶしを握り締めて空を仰ぎ見てガンツは本当に悔しそうであった。
「ですがガンツ、今の我々では良くて足手まとい。ともすれば即、死を経験することとなったでしょう。まだまだこれから力をつけていかねば」
冷静な口調で現実を語るマリノスであった。
「くっそ。ああ解ってるよ。トーヤ俺たちはあれから地道に頑張ることにした。無理な遠征も止めて手の届く範囲、だが少しでも力を着けられるような相手に挑むことは忘れていないぜ。直ぐにDランクへ上がって風呂のある宿へ泊るんだ。なあマジコ!」
「えっ、いえ別に私は今の宿で十分でございます」
そう言いながら静かにうつむくハーフエルフの女の子であった。
「マジコ、君はひょっとしてまた魔法のレベルが上がったんじゃないか。いやすまない鑑定はしていないが何か雰囲気がそう物語っているような」
知矢はマジコが身にまとう雰囲気を強く感じ以前とは質が変わったのではないかと率直に思った。
「えっ・・・と」マジコはドギマギしながら周囲の仲間を見回すとガンツは自信に満ちた笑顔で頷きマリノスは冷静な様子で顎を引いた。
「ハイ、その通りです。以前と異なり無理のない範囲ではありますが積極的な狩や魔法の運用を心がけて活動していましたらまた1つレベルアップが叶いました」
少し恥ずかしそうではあるが嬉しそうに打ち明けるマジコであった。
「そうかそりゃあ良かった。魔法ってのはやはり積極的な活用が上達の早道だからな。しかしどうしても遠征などでは魔法薬を惜しむために魔法自体も節約しがちだ。だが結果が出ているってことはガンツたちのチームの立ち回りは無駄ではない証を得たってことだろ。こりゃあギルドランクの昇格も近いんじゃないか」
知矢はまるで自身の事のようにマジコとそのチームが力を着けていることを喜ぶのであった。
実際普通の魔法使い達は有限な魔力の中で効率的な運用を強いられている。
魔法はその発動回数が多ければ多き程経験値が蓄積すると言われている。よって高位の魔法をバンバン打ち込めば魔力も上がり威力もレベルも上がる・・・とはいかない。
どうしても魔力の上限がある為休憩してもわずかにしか魔力量が回復しない実情ではそう行使を繰り返すことができないのであるから。
その為に 【魔力回復薬】が存在する。
しかしこれはその効能が金額に匹敵すると言われ。安い物、大銀貨1枚程度ではわずかに回復するのみ、一般の魔法使い、魔導士が魔力を瞬時に全回復するよな物だと小金貨1枚から4枚程度はしてしまう。
日常的にそんな高価な薬を使うことは一般の冒険者では無理な話であった。
よって魔力のレベルアップは時間と効率的な運用などかなり厳しい条件の上で成しえ叶うのであった。
もっとも魔力量ランクSSの知矢は普通の魔法であれば朝から晩まで行使していてもほとんど減ることもない。
人に知られたら異常な存在と思われるであろう。
もしくは魔導士のモンゴミリアの様な魔道の研究者につかまり実験、研究対象にされることであろう。
そんな話を暫くしてガンツたちとは別れることになった。
彼らは今日は騎士団から防衛や協力の報酬が支給される為これから騎士団の本部へ出頭するそうだ。
「そうか。そうだ、ガンツ今夜暇か。俺の家で親しい者が集まって今夜食事をするんだお前らも参加しないか。今回の騒ぎの慰労会ってところだな」
そういって今夜の宴会へ誘うのであった。
「ほんとか! おいお前ら勿論参加するよな。うおー旨いもんをしばらくぶりに食べられるぜ」
ガンツは子爵の子とは思えない喜びようである。
「ガンツ、些か行儀が悪いですよ」
静かにたしなめる臣下のマリノスである。
「じゃあお前はいかないんだな」
ジト目でマリノスを見るガンツであったが
「おほん。ガンツが暴走せぬよう見張りが必要です。マジコせっかくですから招待にお答えしましょう」
「ええマリノス、楽しみですわ。トーヤさんお言葉に甘えてお伺いさせてください」
マジコは素直に喜びを表すのだった。
「ケっお前も本当はいきたいだけじゃないか。大体お前はないつも冷静に・・・」
「まあその辺にしておけ。じゃあ夕刻には来てくれ。待ってるぞ」
いつまでも掛け合いが続きそうであったので知矢は間に入り話をまとめるのであった。
「じゃあ今夜お邪魔するぜ」
そう手を振りながら上機嫌でギルドを後にするガンツと一行であった。
「ふう騒がしかったな。 ええとニーナさんも予定通りいらっしゃいますよね」
「ふふふ。ハイお邪魔させていただきますね。今夜は残業もギルド長へ押し付けてでもお伺いします」
「ヘヘヘヘヘッ、へっくしょーーーーん!!!」
「うわっつ、ギルド長また!! もう何か飛んできましたよ。イヤアアーーー」
「おう悪い悪い、ったくまた風邪か・・・」
「ところでトーヤ君」
ニーナが少し困ったような仕草で聞いてくる
「どうしました」
「ガンツ君たち、トーヤ君の新しいお屋敷の場所をご存じなのかしら」
ニーナがふと気づいた疑問を口にする。
「あっそう言えばそうですね。
ま良いか、店の者へ伝言して魔馬車で送らせます。元々店の者も数人屋敷に来る手はずになっていましたからついでに乗せてくるようにしますから大丈夫でしょう」
冒険者ギルドの扉の方を見てもとっくに姿を消した三人がいる訳もなく知矢はうっかりしていた。
その後ニーナと別れギルドを後にした知矢たちはのんびりと通りを歩きながら気になったものを見てみたり、何か興味があれば店の人にどんなものか聞いてみるなど予定通り自由にのんびりと散策をしていた。
勿論二人の従魔は通りの店から良い匂いがするたびにあれが食べたい、これはどの様な物ですか等と興味を示して次から次へと口にするのであった。
(まさかこんなに食べてピョンピョン脱皮するんじゃないか? フェリシアはまあ魔力量が豊富でエネルギーを使うから仕方がないか)
などと少し心配しながらも二人のリクエストに答え続ける知矢であった。
ガンテオンの店を覗いて色々武器の話が盛り上がったりしたのち訪れたことの無い一件の道具屋の前を通りかかると
『ご主人様、少々気になる力を感じます』
子犬の姿のフェリシアがその店の前で立ち止まりじっと店の奥を見つめていた。
明日の更新は無理かな・・・・・




