第187話 よし出発だ!! ~ 「別にわしは照れているわけではないぞ!! 本当だぞ」
間に合ったか?
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第187話
ガタガタ、ギシギシ、ガタガタ・・・・・
街道には多くの魔馬車が連なるように進んでいた。
時折、その行く手を遮るように魔獣などが現れるが
「よっしゃ! 今夜のおかずだ!」
そんな叫び声が聞こえたかと思うと止まりもしない魔馬車の荷台や御者台から各々の武器をもった屈強な冒険者がこぞって飛び出してきたかと思うとあっという間に討伐されマジックバックへ収納されていった。
先ほどからそんな光景を繰り返しているのである。
魔馬車の列、その長さは10台以上は優にあるだろう。
ほとんどの魔馬車に乗るのは冒険者ギルドにおいてCランクと言われる位置にいる者以上だ。
高位の冒険者になればなるほどそこにたどり着くにはどうしても年月がかかる為、この集団は10代の若い冒険者の人数はかなり少ない。
「うわっまた何かの魔物が狩られたみたいよ」ミサエラが荷台の窓から顔をのぞかせながら興奮気味に言う。
「食料なら山ほど持ってきているから追い払うだけでいいと思うのでござるが」
その声を聴き荷台で毛布を敷き寝ころんでいたササスケが暇そうに呟く。
「あんたなんか気が入っていないね。冒険者なんだから目の前に魔物が現れたら狩るに決まっているでしょう。そんなに暇ならあんたたちも出て行って狩に参加してきなさいよ」
猫獣人族のミレが同じく寝そべりながらくつろいでいるイエヒコも含め2人にはっぱをかける。
「でもミレさん。僕たちが出て行っても出番なさそうですよ」イエヒコもやる気のなさそうな声を出す。
「そうですよ。大体ほとんどがBランクやCランクの猛者ばかりでござる。あっしらが出て行ってもその前に瞬殺されてるでござる」
ササスケ、イエヒコは同意見の様であった。
確かに若い彼らの意見の通りその姿、気配を見せた魔獣や魔物はこちらを襲うどころかその前に気が付くと冒険者に囲まれ瞬殺であった。
「最近は若い連中に任せることが多いからな。しかしたまにこんな狩も昔を思い出してワクワクするぜ」
「ああ同意見だ。こっちも最近は大物ばかり狙う癖がついてていかんな。ステーキになる前のクレイボアなんて久しく見てなかったぜ」
そういいながら中年の冒険者は今狩ったばかりの大きな猪風の魔獣を素早く血抜きをしマジックバックへ収納すると走り去る魔馬車に駆け寄るとひょいっと身軽に荷台へと飛び乗った。
「ボーイックさん。次は俺たちにやらせてくださいよ。荷台で揺られているだけじゃ暇でなまって、退屈なんですよ」
少し若手の冒険者が自分にも狩りをさせてほしいと先輩格の冒険者へと願う。
「おう良いぞ、今のうちに休んで夜の立番で好きなだけ狩ると良い」
「えっ、そりゃねえっすよ」
「文句を言うな、歳を取ると夜は早いんだ」
十数台の魔馬車の隊列は思い思いの時間を過ごしながら森の奥へとどんどん進んでいくのだった。
昨日の早朝。
「よーし! 全員、荷は積んだな。武具を忘れたなんぞ言わせんからな!」
「「オウ!」」
「小僧じゃないんだ大丈夫だ」
「いつでもどこへでも行けやすぜ!」
まだ薄靄の晴れていない早朝。商業中核都市ラグーン北門には昨日の先発隊に続いていわば本隊と呼んでいいであろう冒険者の集団が集結していた。
既に荷を満載した魔馬車の列もそろい出発の合図を待つばかりである。
「それじゃあ、お前らよく聞け」
冒険者ギルド長のガインが門前の広場に集まった冒険者たちへ声をかける。
「細かい作戦はすでに伝達したとおりだ。
先発の第一陣はすでに昨日出発して先行していることは皆も知っていることだろう。今回の相手は知っての通り未知の魔物だ。単なるベヒモスであってもその戦いは非常に困難なことは知られている。
ましてや今度の相手は腐ってやがるだ。とにかく魔法を使えるやつを主戦力に力自慢の奴は徹底的に防御へまわれ。
それでやつの防御力を根こそぎはがしまくったら最後は接近戦。お前らの番だ。
良いか! とにかく距離を取って互いに防御しあう事が要だ! 忘れるな!」
「「「「オー!!!!!」」」」
「よし!それじゃあ行ってこい! 決してだれ一人欠けることの無い様にな!」
「「「「「「「 ウーラー!!!!!! 」」」」」」」
早朝のラグーンに冒険者たちの鬨がこだまする。
各魔馬車へ飛び乗った冒険者たち。
魔馬車は先頭から順に門をくぐり朝靄の中へと消えてゆく。
ちょうど魔馬車の半数が出発したあたり。
「モーリス、頼んだぞ」
ガインが鬼神モーリスの乗る魔馬車へと声をかける。
「ああ、こんな大所帯のリーダーなんぞやったことは無いが、まあ皆がそれなりの上級者ぞろいだなんとかなるだろう。それより言いたか無いがもしもの時の準備は頼んだ」
老練の冒険者は気楽そうな言葉を吐いた後、表情を引き締めガインへ呟いた。
「ああわかっている。そうならないことを祈っているぞ」
そう言葉を交わすとモーリスの乗る魔馬車が出立していった。
それを見送るガインの真剣な表情。
すると
「主の魔馬車が出立します。道を開けてください」
ガインの背にわずかな冷気が漂うとともに声を投げかけられた。
ゾクリと一瞬身を震わせながら瞬時に振り返ったガインの足元には可愛らしい子犬が一匹。
「はっはっハイ! ただいま!!」
そうガインが素っ頓狂な声を上げながら持ち前の俊敏さと兼ね備えた力を存分に発する見事なバックステップを披露しその場から数メートルを瞬時に後退した。
「フェリシア、乗れ」
知矢が魔馬車の御者台から子犬に声をかけるとその子犬は 「ハイ主様」 というなりどこにそのような力を秘めているのか、小柄で短い脚ながらも軽々と高い御者台へと跳躍し知矢の側へ音もなく着地するのであった。
「じゃあ行ってくる」
知矢を乗せた魔馬車がゆっくりと進みながらガインへ声をかける。
「ォオオッ、オホン。 ああ行ってこい、頼んだぞ」
一瞬固まっていたガインはその言葉に我を取り戻し精一杯虚勢を張るように威厳を見せながら見送るのだった。
門を出た知矢は
「カーネタリア様、お待たせしました」
と門の外で大型の魔獣、ギガント・ポメラニオンの背に悠々と座る老人へと声をかけた。
「なにそんなに待っとらんよ。じゃあ行こうかね」
老人はそう声をかけながら自らが騎乗する魔獣の首元を ”ポン” と軽くたたくと香箱座りでおとなしくしていた魔獣が静かに立ち上がり知矢たちの魔馬車と並走するように位置した。
「カーネタリア様。もしよかったらこっちにもゆっくりくつろぐ場所を用意してあるニャ」
荷台から顔を出したニャアラスが老人へと声をかける。
「ヒョッヒョッヒョ。おおすまないのう、眠たくなったらそっちに移らしてもらおうかのう」
そんな言葉を交わしながら魔馬車の列は都市を離れると順次歩みを増して大森林方面へと街道を進んでいくのであった。
その様子を静かに城壁の上から見守る集団がいた。
「うむ。いよいよだな」
この周辺一帯の都市を統括する管理貴族アンコール伯爵であった。
「ハッ、無事、事が済むことを祈るばかりです」
一歩控えて応えるのはラグーン騎士団、第一騎士団長のモンドールだ。
「こちらの準備はどうか」
「ハッ、予定通りこの都市へ向けて3キロほどの間隔を置き東西方向へ1キロの範囲に物見台と簡易防柵をを建設中です。
あと二日もあれば形になるかと。併せて魔導士部隊の配置も進んでおります」
「よろしい。とにかく騎士団と兵士には周囲の巡回を徹底させろ。応援の冒険者たち協力してな」
「ハイ心得ております」
「この準備がすべて無駄になると良いな」
心の奥から呟くようにアンコールは本心を吐露した。
「ハイそうありたいものです。トーヤ殿もおりますしカーネタリア元教皇様もおります。期待してよいかと」
「ああ、そうだな」
二人は祈るような思いで街道の木々の中へと消えてゆく魔馬車の隊列を見送るのだった。
「姐さん! 斥候が戻りやした」木陰で休息をする一団へモヒカン男が駆け寄ってきた。
「そうかいすぐにここへ。飲み物を用意してやりな」
姐さんと呼ばれた若い美貌の冒険者はすぐに指示を出す。
「ハアハアハア・・・・・」
姐さんと呼ばれている女冒険者カスティーヌの前へ斥候役のモヒカンが息を切らして駆け寄った。
「ご苦労だったね。先ずはこれを飲んで息を整えてからでいいよ」
カスティーヌはそう言いながら大ぶりのコップの飲み物を斥候役に渡した。
斥候役の男は膝をつき恭しく受け取る肩で息をしながら一気に飲み物をあおった。
「・・・・フェーッ。ハアハアハア。もう大丈夫っす。ありがとうやした」
「そうかい、じゃあ早速だが」
「へえ、やつは姐さんの言っていた通りこの先30キロほど行ったところをゆっくりと、しかしまっすぐこっちへ向かっていやした。おそらくあの遅さだと明後日の昼頃この辺りへ到達しそうです」
「そうかい、よしご苦労だったね。悪いが一寝入りしたらまた見張りの連中と合流してくれないかい」
「ヘイ! 了解でやす」
そう答えるとモヒカンの男は頭を下げその場を辞していた。
「まあまあ予定通りだね」
「ヘイ、準備もこのままで」
カスティーヌの呟きに脇で控えていたモヒカンが問う。
「ああ弧を画く様にな。後は本隊の連中が明日には到着するさ。そしたら一気に仕上げれば十分間に合う。あまり体力を消耗過ぎない様に皆へ言っておきな」
「ヘイわかりやした」
男もすぐさまその場を離れていった。
「あの野郎、今度はそうはいかないよ・・・・」
カスティーヌは自身の魔法 ”逃がしやしない”によって映し出されている相手、ベヒモスゾンビの位置を睨みながら前回、這う這うの体で撤退を余儀なくされた悔しさを思い出しながら下唇を強くかみしめて呟くのだった。
『・・・・・・・・・』
『なんじゃと、そうかあまり浄化が芳しくないか。兄弟たちにはあまり無理をしないように伝えてくれ。わしも向かうからとな』
『・・・・・・・・・』
その小さきものは大きな者の指示を受けると再びぴょーんと身軽に木々や大地を飛びながらかけていった。
『さてわしの力がどこまで有効化のう』
一人残された大きな者は自身の数多い手を目の前にして自問していた。
そこへ湖から接近するものが。
ザザザザーッ
水面を勢いよく押し上げながら巨大な者が浮かび上がってざぶざぶと水面に大波を起こしながらその大きな者へ迫っていた。
「オイ! 友よ、どうなっている。わしの眷属達が大騒ぎだぞ。西の湖の湖畔に悪臭と共に木々や大地が腐っている場所が迫っている。
ほかの種族の連中も逃げまどっているわい。いったい何が起こったんじゃ説明しろ。お前なら知っとるだろう」
湖から這い出てきたもう一人の巨大な者は開口一番その大きな者へと迫る。
『わしも話は聞いた。今一族が総出で浄化をしている最中じゃ。じゃが芳しくない。今からわしも向かうところじゃ。ひょっとすると火竜族達の力を求めるかもしれん』
「馬鹿な、あやつらときたらむやみに燃やし尽くすだけじゃ。全く後先考えん馬鹿どもじゃからな。この森が焼け野原にされるぞ」
『そうも言っとれんわい。なるべくわしも頑張ってみるがのう』
「お前の聖光で浄化出来ぬものがあるのか!」
その湖から来た大きな者は驚きの声を上げた。
『うむー。一族総出で芳しくない。わしが出ても多少ましになる程度かもしれん。しかしこのまま放置すると浸食が広がり森どころかこの湖までもが侵される。そうなってはこの大森林に何者も住めなくなるであろう。』
「・・・そこまでの事態か
・・・・止むを得んか。
わかった火竜への繋ぎはわしの一族の高速飛行術者をやる。お前は浄化を頼む。
・・・・その・・・なんだ・・・・・頑張ってくれ」
その湖から来た大きな者は最後何か気まずそうに小さな声で励ましの言葉を残し急ぎその巨体を翻らせてもと来た湖の中へ没していった。
『・・・・フフフフッ。さてわしも急ぐとするか』
その大きな者は湖の方を一瞥し微笑むと踵を返し木々の間を器用に通り抜けながら急いで姿を消したのだった。




