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第168話 希望、絶望、達成そして壁とはいったい

こんばんは

今回は全く今までと様子が異なります。

しかも無駄に長くなってしまい何話かに分けます。

それでも中身はだらだらとしたものになりますのでご了承ください







 その時青年はなるべく顔に、表面に己の今を出さぬ様冷静を精一杯装っていた。装っていなければ相手に己の力を悟られでもしたら一巻の終わりであると理解していた。

 目の前で青年へその凶悪な気を全く隠す様子も見せずに牙をむく相手は見たことも無い魔獣であった。


 大きさ的は何度も倒したクレイボア程度ではあったがこの相手は違う。出くわした瞬間理解した

 『次元が違う』 と。



 青年の両手に握られている大剣は希少な鉱石をふんだんに使い”聖”の魔力も付与されその力は何物も両断出来ぬ物など無いと言われる一品であった。


 勿論冒険者である少年が金銭を払い購入したものでは無い。黙って出てきた家に古くから伝わる言わば家宝のような存在で何かの祭事以外蔵から出される事の無い物であった。

 そんな家宝であるその大剣をもってしてもいや青年が持つ膨大な魔力を生かした種々の属性攻撃魔法でさえ一笑に付すそんなあまりにもかけ離れた力の差を瞬時にわからせられるほどの相手に出会ったのは初めてであった。








 少年は黙って家を出、冒険者になると誓った日よりどうしたら冒険者に成れるのかそればかりを考え調べる日々を過ごしていた。


 少年は世間をあまり知らなかった。だが決して無知で馬鹿ではない。単に環境がそう少年を無知で目の見えない生活を作り出していたからだ。


 それでも少年は一冊の本と出会い夢中で何度も何度も他者へ全てを空で読み聞かせられるほどその物語を呼んだ。



 物語は冒険者が主人公の英雄譚であった。

 少年は冒険者に憧れ自らの立場や家族、そして周囲の者達の事を思いはしたものの自らの好奇心と未知への欲求が勝り全てを投げ捨て冒険の旅へと出た。


 少年は最低限の理性が働いたのか残された者や周囲の事をおもんばかったのか騒ぎが起こらぬようにと一応置手紙を残して人知れず家を抜け出し大冒険の旅へと出発した。



 持っていたのは蔵から持ち出した大剣と周囲の者が訓練所で使用していた革の鎧や籠手それにブーツや盾を黙って拝借し自分の装備とした。金は不自由しない環境であったが少年が自らの手で金貨を持ち買い物をする機会が殆ど無かった為持ち合わせが無かった。

 しかし自身のもとに有った貴金属や宝石類を金に換えようと持ち出していたため最初に訪れた家から数刻の街で少しだけ売り当座の資金を得た。



 家から持ち出した者の中で少年の冒険の大きな助けになった物の一つに”マジックバック”があった。

 本当は父や父の使用人が持つ様なその内容量が巨大な物を手にしたかったが叶わず自身の手の届く範囲、これも蔵へ仕舞われていた小さなものであったがこれも持ち出していた。

 ここまで聞くと良い処のお坊ちゃんが安易に浮かれてちょっと家出をして冒険者になっただけに思える。

 確かに事実そうであった。

 安易に家を出て数日、まだ国境を超えるほども家から離れてはいなかったが既に少年は後悔をしていた。


 言葉では理解していたつもりだったが現実は甘くないとも知っているつもりだったが実際装備を持って歩いている時浮かれていたのは最初だけ、すぐにブーツの中で靴擦れを起こしまともに歩けなくなっただけで泣きそうになった。

 それにより思ったほど歩く事も叶わず次の宿場へたどり着かずに野営をする羽目になった。



 初めての野宿。少年は宿に泊まる事しか想定しておらず野営の準備など全く持っていなかった。

 僅かにおやつに食べようと途中の街で屋台から買い求めていた串焼肉と甘いパンをマジックバックへ収納していたことが唯一の救いであった。



 しかし日が暮れると街道とはいえ人気は絶え辺りは暗闇と静けさだけが支配していた。

 月明りも無く本当の真っ暗闇を初めて体験した少年は足の痛みも忘れて自身の体を窮屈に折りたたみ両足を火kぁ得込む様にしながら時折聴こえてくる何かの獣か鳥かはたまた魔獣なのかの鳴き声に震えながら一生続くのではないかと錯覚するほど長い時間を震えながら耐え忍んでいた。



 偶然か奇跡か少年の身に何も起こることなく朝が空けた。

 少年はいつの間にか眠ってしまったが気が付いたときにはうっすらと木々の隙間から朝日が見えた時本当に 『私は生きている!』 と生まれて初めて生と言う物を感じたと後世語っていたと言われている。



 足の痛みに何とか耐え国境の街へたどり着くと未だ朝だというのに宿を取り少年は深い眠りについてしまった。

 目が覚めたのは次の日の朝である。

 そして少年が僅かに未だ痛む脚を気にしながら宿を出て国境の砦へと向かおうとした時である。

 街道のはるか後方よりいくつもの土煙が近づいてくるのが見えた。

 瞬時に 『自分の追手だ』 そう何故か理解した少年は街道から外れ森の木々の裏へと姿を隠し様子を窺がっていた。


 騎士を乗せた3頭の魔馬が目の前を通過した時少年の見知った顔が確認できた。間違いない追手である。



 少年は 『このまま国境へ向かっても捕まり家へと連れ戻される』 そのぐらいの知恵は働いたのだがそこからがやはり世間知らずであった。


 少年は少し森の中へ入り街道から見られぬ位置へ潜みながら今後をどうするか思案に暮れた。

 だが前にも進めず、かと言って街道を戻ったとしても姿を見とがめられれば一巻の終わりであった。


 ただただ世間知らずの少年ではあったが唯一昨日までと違う所が有った。

 宿を出て街の雑貨屋を覗き野営で使えそうな品々を買いあさり食料品店で日持ちしそうな食料も数日分は買い求めていた。

 昨日の、一晩の経験が少年をわずかながらに学ばせたのだ。


 少年はしばらく考えが付かず動きが取れずにいた。

 一度街へ戻ろうとも考えたがそうした時先ほど通過した騎士を乗せた馬魔の一頭が国境の砦の方から引き返してきたのを見て街へ戻れない事も学んだ。


 結局少年は森の獣道、僅かに草木の隙間が出来ている場所を頼りに感で国境の方角を目指してみる事にした。


 砦を通過できないならこのまま森を進み国境を越えればいいのではないか。そう考えに至った時少年は自分は大した物だと一瞬思った。


 しかしやはり現実は少年の浅慮など通じる訳がない。


 少年の目の前には遠くに見える大地が広がっていた。

 国境のこちら側はうっそうとした森であったが国境の先には緑の丘とその先に見える平原が見て取れる。


 しかし少年の足元に有るのは人が吸い込まれそうな錯覚を呼び起こしそうな断崖と遥か下方に見える流れはゆったりであったが深さが見て取れぬほどの河であった。


 少年に知識にはなかったがおおよそ国境と言うのは互いが中々行き来しにくい場所を境に分けられていた。

 大河や川であったり人が安易に越せそうの無い山々であったり。そう言った人の往来を困難にする物、自然の要害を国境と定めるのは必然である。



 少年はここまでたどり着くのに死ぬ思いであった。

 角を持つうさぎにいきなり襲われたり、声も出さずに木の上から少年をへ襲い掛かる鳥に出くわしたり、何かの音に茂みから先を覗くと自分よりはるかの大きな獣が茂みの中で寝ていたりと今まで生きてきた中で初めてでくわした死への恐怖。



 少年は物心ついたころから父の命を受けたものあまりやる気の無かった剣の修練。

 毎日毎日決まった時間に父から命ぜられた教師役の者からいつも同じ動作を繰り返す剣の鍛錬を受けていたのだ。



 それはまだやっと幼さから少年へ脱したばかりの彼にとって死ぬような毎日が地獄の思いであった。

 しかし少年に拒否権は与えられず嫌でも毎日の鍛錬は続いた。

 少年は冒険者へのあこがれはあったがその思いの中にいる冒険者は強力な魔法をいくつも行使し摩訶不思議なアイテムを自在に操り魔物や時に悪人と戦うそんなヒーローだった。


 必然少年は父へ魔法を覚える事を望んだ。その願いはかなえられたが毎日の剣の鍛錬は無くなる事は無くしかも別の教師役の者から教えられる魔法は聖の魔法。けがや病気を治し毒を払い呪いを解き忌まわしき者を浄化する、そんな魔法ばかりであった。


 しかし選択の自由の無かった少年はそれから数年剣と魔法の修行に明け暮れる。自分の意思と関わらずに。



 そんな少年であったが初めてこの時剣の修行をしていてよかった。回復魔法が使えてよかった。と、そう心から思いながら繁みの上にあおむけに寝転がりながら未だ荒い息を整えつつ顔を脇に向けると先ほどまで襲い掛かっていた角の生えたうさぎが横たわっていた。



 そんな思いを繰り返しながらやっとたどり着いた国境地区。

 そこで見た現実とこの先どうしたらよいか何もわからず打ちひしがれる少年は初めての戦いそして追手からの逃亡に疲労困憊な所に加え愕然としたあまりに思考も停滞し対岸の景色を見たまま膝立ちでしばらく居像の様に身動きもせず固まってしまった。




 「おい坊主どうした。怪我でもしたか」突然林の中から現れた20代と思しき男。一瞬少年は追手かと思い慌てて立ち上がろうとしたが長くその場で固まっていたせいか足がしびれて立ち上がろうとしたが思わず倒れ込んでしまった。



 「おいおい大丈夫かどれ」

 その男は少年を観察し怪我も無いのを確認すると

 「でお前こんな所で何してんだ」事情を聞かれた。



 本当の事を口にできるはずもの無く少年が躊躇しているとその若い男が


 「ははーん、さてはお前家でだな。その成りだと冒険者に憧れて家にあった装備を拝借してきてしかも国境を超える通行証や身分証も無い。そこで砦を避けて国境を越えようと安易に考えやっとたどり着いたら断崖と河に絶望していたってとこだろ」



 少年はその男を驚いた眼でみつめた。

 まるで少年の事を知っているかのごとく正に正確に言い当てたのだから。



 少年から見るその男は如何にも冒険者と言うなりで背に弓、腰にライトサーベルやナイフ。肩から皮のバックを下げ冒険者御用達の河でできたショートブーツで脚を固め革のジャケットの上へフード付きコートで身を包んでいた。



 「仕方ねえな。まあ俺にも覚えがあるってもんだ」と呟いた男は少年を叱咤し付き従うように話すと砦とは別の方へ案内を始めた。

 男は国境を密かに超える術を熟知していた。きっと日頃から利用しているのであろう隠してある船へ少年を乗せ河を一緒に渡り隣国への入国を手助けしてくれた。



 その後は冒険者ギルドの登録から始まりFランクの基本の指導、採取の方法、野営の仕方他の冒険者との接し方交わり方、アイテムの入手からどんな技術を向上させるべきか、日頃の鍛錬はどうすべきか、実戦で魔獣の倒し方、解体補法、ドロップ品の知識。

 ありとあらゆる冒険者の事を懇切丁寧に少年へ教えてくれた男。


 たまにふらりと姿を消す日があるが少年が夢中で依頼をこなす日々を送っているとまた姿を現し色々助言をくれる不思議な男だった。


 あまりに親切なその男に少年は正面切って聞いてみた。なぜそんなに親切なのか、いったい何者なのかと。


 すると男は 「何言ってんだ。俺がいなけりゃお前は家へ連れ戻されて今頃監視の中を勉強させられてんだぞ感謝しろよ」

 と言うだけでこたえようとしない。


 しかし少年には悪人では無い事だけは感じていた。


 何故か他の冒険者からの信頼も厚く冒険者ギルド職員の評判も良くたまにしか姿を見せないギルド長とも親しいその男。


 何者なのかと別の冒険者へ聞いてみたことがあるが

 「はぁ?お前何言ってんだ毎日一緒にいてはっはっはー」笑われるだけであった。



 しかし或る時にCランクへ上がる事のできた少年を祝う冒険者の輪にその男がおりそのCランクに上がった少年が「貴方のおかげです。貴方の指導で俺はここまで・・・うううっう」と男泣きを見せている場面を目撃した。



 後日その少年と出会った少年がお祝いの言葉と併せ男の事を聞いてみると。



 「俺あの人みたいにいつかAランクに絶対上がるんだ。そうしたら俺やお前みたいな駆け出しのやつを全力で育ててみせる。そして冒険者ギルドをもっと盛り上げるんだ」



 そう目を輝かせながら語る少年の言葉で初めてあの男がAランクの冒険者であり数多くの初心者を育てて来た人物であることを知った。



 意外では無かった。事実少年は基本を始めありとあらゆる冒険者に必要な事の全てを教わっていた。

 しかもそれ以外に私生活や洗濯、掃除の方法。街での買い物の仕方から料理に至るまで。時には酒場で酒の飲み方も教わりいつかは夜の街の歩き方や店、女性の選別眼にまで話が及ぶほど色々な事を学んだ。


 そして少年が少し育つと都市を移動しより活動の広がる場所を教えそしてしばらく姿を消すとまた現れた頃のは「よしそろそろダンジョンへ行くぞ」と新たな活動を教えてくれた。



 活動や行動だけでは無い。将来的にどんな冒険者になりたいのか。目標をどこに置くのか剣か魔法か僧侶や賢者、魔導士、斥候役に探索者、それだけでなく兵士や騎士、傭兵などへの様々な道を示しそれらになるには日頃からこうした訓練と勉強が必要だと教えてくれた。



 そんな偶然の出会いから3年以上の月日がたち少年はもう少年では無く若き青年へと育ち冒険者ランクも驚異的な速さでCランクへと成長していた。


 そのころになると男は殆ど少年の前へ姿を現すことが減っていたがそれでも風の噂に活躍のニュースは届いていた。


 その頃になると少年は多くの冒険者と交わりを持つようになり自らが立ち上げたチームを率いる様になっていた。

 チームはチームを呼びいつの間にか多くの都市を又に駆けるチーム群、クランを立ち上げるに至るまで成長をしていた。


 青年へと成長した少年の今の目標はあらゆる環境であらゆる事態に対応できあらゆる依頼をこなす事の出来る幅広い人材を有する軍団と冒険者を志すもの達を積極的にしかも手厚く早期に育成する事を柱に活動している。


 一見AやB等の高位冒険者では無く代表の最高位冒険者がCランクの者であることが不安視されたがそれを覆す行動力と動員力そして何でもこなせる人材の厚い層。その評判を聞きつけ各地からクランへの指名依頼が殺到する事も多かった。


 そしてその人材を確知の冒険者ギルドへ必要に応じて派遣するなど新たな冒険者集団の形を見せていた。

 そんな団体での活動を行いながら青年は自らの鍛錬を怠らず日々努力と学びを積み上げていった。


 そんな広域な活躍によりギルドへの貢献度も評価が高くすぐにBランク冒険者へと成長した青年であったが個人的には苦境に立たされていた。


 活動の充実と構成員の増員でクランの運営は順調であった。

 しかし青年は己の力が最近とみに伸びあぐねている事に苦慮していた。

 確かにこれまでの成長速度が著しく早かったせいでもありこれが普通であると周囲の者は言うが青年は不満だった。


 ランク的な問題では無く身体レベルをもっと上げたい。魔法のレベルを上げたい。魔力を増やしたい新たな行使力を得たいその他青年は不満ばかりであった。



 実はこれには理由があった。

 その後青年はその理由を知り愕然とするのであったが逆にその理由を知った事に依り大きな壁を乗り越えるどころか壁を正に打ち破りさらなる高みへ飛躍する事になるとは今の青年は知る由も無かった。



 それだけに今の状態を何とかしたいと喘ぐあまり青年は禁断の山を目指しチームとクランを一時チームの者へ任せ1人修行へと新たな冒険の旅へ出たのであった。




 青年が向かった先。

 禁断の山と呼ばれ人が立ち入ることを大昔から禁じていた場所である。


 単に禁じているというだけで柵や壁がある訳では無かったが何も無かったとしてもその山へ好んで入ろうとする者など皆無である。



 禁断の山、別名 ”大森林”。



 人々を寄せ付けない空気を醸し出すその森と山は事実人が立ち入れるような場所ではない。



 森を入るとどこか国境線でも引かれているのか踏み入れた者へ襲い掛かる魔獣や魔物の数々。

 そのすべてが強力で強大。魔力に富む生き物や到底人族では考えられない力を誇る魔獣たち。



 それが大森林へ踏み込むと次から次へと姿を現し襲い掛かってくる。

 襲い掛かってくるとは言ったがその魔獣たちは正面から姿を見せ侵入者へ警告の様に咆哮をあげる。


 それを意に介さぬ者に対し 『警告は発したぞ』 と言わんばかりに向かってくるのだ。



 青年はBランク冒険者として自信を持っていた。勿論まだ少年であった頃の様に世間を知らないうぬぼれではなく十分に実績を残し他者から、仲間から、ギルドや国からも高い評価を受けていたがそれに慢心するのではなく常にさらなる高みを目指しチームの最前線へ身を投じていたのであるから当然ではある。


 しかも青年は剣士であり魔法使いでもあり僧侶等複数の 職種(ジョブ) 適性を兼ね備えていた事も根幹にあった。



 大森林へ踏み込む事数日。青年は見たことも無い魔獣と数度の遭遇に大剣を振り呪文を唱え決死の思いで勝利した。

 本当に1つの戦いが毎回死ぬ思いで全力で剣と刃を交えての勝利であったが青年は満足だった。思えば最近死を覚悟する様な戦いから縁遠くなっていた事も気が付き、背中を預ける仲間も無いこの汗と血と泥にまみれ精も魂も尽き果てそうな状態であったがこみ上げてくるの歓喜にも似た興奮と充足感であった。


 これだ、これで俺はもっと強くなれる、そう歓喜しながら大木の洞に一時の塒を得て乏しい魔力でやっと己の傷を癒していた。



 青年はさらに大森林の奥へと踏み込む。

 一日一日、また一頭一頭。日々戦いを繰り広げ傷を癒し森を進み山を登る毎日であったが青年は自分が着実に強くなったことを強く実感し新たな魔獣に出会うとその顔は恐怖に歪むのではなく歓喜に満ち溢れた笑顔を振りまきながら今日もまた大剣を振るうのであった。



 一体青年が大森林へ踏み込んで何日が経過したであろう。そんな事は青年の頭の中からすっかり消え去っていた。それよりももっと強い相手はいないか、そればかり考えそしてどんな戦い方をするかそんな日々を重ねていた。



 そしてその時が来た、いや来てしまった。


 青年はその日も更なる強者を求め大森林の先に見える山々を目印に道を進んでいた。

 道。青年はそう思っていた。

 確かに大森林の巨木、大木を縫う様に荒く整地されたいわば獣道を大きくしたような空間を歩いていたがそれは人族の定義として道と称していいのか。そんな思考は埒外に置かれともかく青年はこの道を遠くに見える山々へ向かう事しか考えてはいない。



 その時青年は時の流れと自身の生が止まった様な感覚に陥った。

 死んだ、そう一瞬思ってしまったがそれも無理からぬこと。

 青年の目に未だ映らぬ何かが青年をどこからか認識していた。

 そう、ただどこか離れた場所からその何かに察知されただけであった青年は体を硬直させ脚はすくみ全身から冷たい汗がまるで滝のように流れるそんな感覚に陥っていた。


 必死の思いで手にしていた剣に力を込め聖魔法が付与された大剣へ魔力を微かに送ると大剣の聖なる加護が僅かながらに発せられ青年の心を少しだけ癒してくれた。


 その癒しによって何とか気を呼び起こした青年は胆力にも気を込めると四肢にやっと生が戻って来た。


 しかしまだ見えに何かに対しほんの一瞬でも気を抜くと瞬く間に魂を吸い上げられそうな状態は続いている。


 微かにカタカタ震える歯をギリリと血が噴き出すほど噛み締め視線を強めて堪え魔力を体内で精いっぱい練るとやっといつもの青年の力が戻って来た気がした。


 ただその脚はさらに一歩を踏み出すことを拒否していた。

 それは自身を守る為なのか相手からの威圧によるものなのかわからなかったが事実上動くことも出来ずに刻が過ぎていくばかりだ。


 いったいどれくらいの刻が過ぎたのか。半日かそれとも一瞬なのかそれすらわからなくなっていた青年の視線の先からその何か強い気を纏う何かがずしりずしりと音を立てながら近づいてきている事だけは分った。


 分ったが何も出来なかった。そしてその時が来た。

 巨木の陰から姿を見せたのは紛うことなき強者のそれを纏い何者にも制する事を許されないとでも言うべきか青年の知り得る力を超えた存在である事だけは感覚的に理解できた。


 その時青年はなるべく顔に、表面に己の今を出さぬ様冷静を精一杯装っていた。装っていなければ相手に己の力を悟られでもしたら一巻の終わりであると思っていたがそんな事は相手は承知している。

 目の前で青年へその凶悪な気を全く隠す様子も見せずに牙をむく相手は見たことも無い魔獣であったが相手に言わせれば何ら気にする事の無い矮小な生き物と言うだけの存在だった。


 大きさ的は何度も倒したクレイボア程度ではあったがこの相手は違う。出くわした瞬間理解した


 『次元が違う』 と。


 渾身の力と魔力を持って挑めば・・・等と考える事すら無駄な存在。

 青年と同等の力を持つ者が群れて向かってもきっと相手は気にもせず人睨みで終えてしまうであろう。


 魔獣と呼んでいいのかその相手に青年は大剣を大きく構える事すらできずもう死を待つか相手にされずに立ち去ってくれるかそんな自身には選択できない道しか残されていなかった。






 その時である。



 『おい!ミケ。何してんだお前は。ご飯って呼んだらちゃんと来いよ』



 その場の状況、空気を一切読まない、いや有り得ないセリフが巨木の奥から聞こえてくると青年の前にいた物は気を静め踵を返し巨体の喉をゴロゴロと鳴らし四肢を畳腹ばいになりその声の主を待つ姿勢を取った。



 『おいどうしたミケ・・・ってお前なんだ?』


 森の奥、巨木の陰から現れたのは額に一本の角を生やした人族だった。


 いや人族が角を生やすなど聞いた事も無い。


 そう彼は魔族の少年である。


 青年と魔族初めての邂逅であった。


 その少年の姿を見た後、青年の意識は断たれ記憶が無い。












 『ニャアトーヤ。この話ニャんだ?』


 『いやあ、俺に言われてもな』


 『で、いつまで続くニャ』


 『それも俺にはわからないよ』


 『俺達の出番がニャイ!!』

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