第160話 炒めうどん?? ~ これってあれだよな! サーヤ「トーヤ!すぐ作ろう!」
こんばんは
また数日空いてしまいました。
申し訳ありません。
ではさっそく第160話どうぞ
奴隷取引商会を後にし時間も昼を過ぎていた事からボンタのおすすめの店へと連れてこられた知矢とニャアラス。
このメンバーで街を歩き食事へ、と言うのはかなり珍しいシュチュエーションである。
「こんちわ! 今日は客を連れて来たっす!!」
ボンタは店の中へ大声で声をかけるのだった。
「あれぇ、珍しいじゃない昼間に飲みに来るなんて。何、とうとう兄貴って人に見捨てられたわけ? 」
ボンタの声にこたえたのは歳の頃はボンタと変わらない様な若い女給であった。
ショートボブにブラウンの髪で丸顔だが目鼻はすっと筋が通り少し生意気そうな印象であるが悪い子では無さそうだった。
服装は茶系の薄い色合いのワンピースで腰の黒い幅広のベルトがオシャレを演出しているのだろうかと知矢は見ていた。
だが知矢にファッションを語る知識もセンスも皆無ではある。
「何言ってるんだマルゲリッタ。失礼っすよ。 今日はその兄貴とそのお仲間をお連れしたんだ。粗相のないように頼むぜ」
そう言い返しながらボンタは知矢とニャアラスへ勝手知ったる店と席へ案内する。
「あらそうなの、ごめんなさい。 この人頼りないからとうとう見捨てられたと思ったのに。
こんにちはあなたが兄貴分のトーヤさんね。私この店の娘、マルゲリッタよ。ゆっくりしってね。
っていうかボンタ、兄貴さんあんたより若く見えるわね、それに颯爽としてカッコいいし」
マルゲリッタはずけずけと知矢へ近づき繁々と観察する様に上から下までそれこそ舐める様に見ていた。
「お前兄貴に失礼だろ。ほれ早くビール3つもって来るっス」
ボンタは不必要に知矢へ接近する様子のマルゲリッタを引き離し厨房の方へと押しやった。
「ハイハイ、母さんビール3つ! 大盛ね」
「何だか落ち着かない店だニャ。 ほんとに美味いニャ」
椅子に腰かけテーブルに肘をついたニャアラスは既に雰囲気で味を不安視する。
「もうニャアラスの旦那は疑い深いっすね。まあ食べてみてくださいよ。他の料理もみんなうまいっすから。
まあ、正直兄貴の所で食べる物と比べるのは無理っすけど、他の店なんかと比べたら全然美味いんす」
知矢はその会話を聞きながら店の中を見回すと確かにニャアラスが言う通り酒飲みが多い通りと言う言葉の通り既に出来上がって楽しそうに騒ぐ客や静かに1人黙々と飲む者など店はまだ昼間にも関わらず盛況であった。
しかし悪い雰囲気でもなく気楽さもあり知矢の第一印象は良好だ。
店内はこざっぱりと片付けや掃除も行き届いており年季は入っているが内装も荒れてる訳でもなく所々に植物を配するなど気を使っている様子も窺がえる。
しかもただ置いてあるのではなく日常的に手入れを欠かしてない様子も見て取れるのが好印象だ。
日本では店内の植物などはリース品が多く定期的に業者が交換・メンテナンスをする等きれいに保たれていることが多いが実際全てを自分たちで管理するのは中々の手間だったりして植物を色々置いては見たものの枯れかかっていたりろくに手入れも無く置かない方が良いような雰囲気を醸し出す物などではせっかくの店も台無しだ。
知矢の経験、感覚では
「店内の植物や店前の植え込みを見るとその店の料理が窺がい知れる」
と常々思っていた。
そう言った点で言うとリース品も無いこの異世界に於いて店内の植物が綺麗に手を入れられている点と行き届いた掃除だけでも料理に期待が持てると考えていた。
「まあそう言うな。食べてみればわかるさ」とニャアラスを再びなだめる様にしながら壁へ吊り下げられているメニューの板を見ながら少しだけワクワクする知矢だった。
そうしているうちにボンタが注文していたビールがさっそく届いた。
「ハイおまちどう様。 じゃあ注文決まったら声をかけてね。ごゆっくり」
マルゲリッタは知矢達の前へビールの金属ジョッキを3つ置くと忙しそうに厨房へ取って返した。
「兄貴、じゃあ取りあえず1杯やりやしょう」
「そうだニャそうだニャ」
二人は早速ビールを持ち上げ飲み気満々だ。ニャアラスなどは先ほどの文句はどこへやら。ビールで機嫌を直した様子。
「じゃあ 乾杯 」
「「プロージット」」
知矢の掛け声に併せジョッキを キーン! と打ち鳴らす三人はゴクゴクとビールを喉へ流し込むのだった。
「プッハーッ、美味いっす!」
「ニャパーッ、美味いニャ!」
「ああやっぱりビールは美味いな!」
上機嫌で昼酒を飲み始めた三人であった。
以前、知矢は昼酒や毎日の晩酌の習慣が無い。 と紹介した事があったと記憶している方もいるかもしれない。
それは事実であった。 ただし日本でにいた頃の話である。
この異世界へ転移後知矢は流石毎日昼酒を飲む習慣こそなかったが夜は殆ど毎晩呑む癖がついてしまっていた。
これを悪い習慣だと言うか、いや問題ないと思うか・・・何とも言えない。
知矢に言わせると言い訳がましく聞こえるかもしれないが
「明日の出社を気にして生活する必要が無い」
「若返って肝機能も健全、しかも最高神様の加護の御かげか魔法のせいなのかすこぶる体調は万全」
「飲酒運転で事故を起こすことも無い」
そう考えた時少しそう言った事ものんびり老後の一つと思い自由で良い。と考えを変えていたのだった。
ここで少し知矢の日常に触れてみよう。
知矢は毎日仕事をしているのか?
していると言えばしているがしていないようなものと言えばしていない。
ひじょうに曖昧な表現ではあるが確かに知矢は収入を得ている。
もちろんそれは ”魔道具商店” と言う店を主宰し物を売り利益を得ているから商売をしていると定義できる。
しかし基本的に知矢が店へ出て接客や魔道具の製作、材料の仕入れなどを行う事は無いのは前述の様子でお分かりであろう。
使用人たちが日常的な生活に関するすべてを行い店を運営し会計処理や帳簿管理、使用人への給料、資材調達先への支払いなど一切を行っているこの店では知矢が行うのは突拍子もない事を考えだし使用人達へ実行させること。
これに尽きる。
一見とんでもない主に聞こえるかもしれないがその知矢が考えだす事が全ての発端であり収入源の根幹であるのも間違いでない。
よって重要な仕事である。だが毎日それを行っている訳では無いのも確かだ。
”冒険者” 確かに知矢は冒険者でありしかもAランクに名を連ねる立場だ。
しかしその立場を収入の根幹に於いていないので日常的に冒険者ギルドを訪れ依頼掲示板からその日の仕事を探すと言う行為も行う事は無い。
しかし時にギルドの指名依頼を受け時に友人に誘われ共に依頼をこなす等はしているがこれも毎日の事ではない。
では知矢は毎日何をしているのか。
店を自宅として使用している現在は特に何もなければ朝は自室で目覚める。
そして使用人の用意してくれているきれいに洗ってある衣服を身に着け階下へ降りるとこれまた使用人たちが用意してくれている美味しい食事を食べる。
食後は特に用が無ければゆっくり紅茶を飲みながら使用人筆頭の総支配人リラレットや秘書的立場にいるサーヤから前日までの報告を受け何かあれば指示を出し、相談事を聞きながら対処を話し合う。
そうした後おもむろに出かける事が多い。
特に何も用事が無ければ当ても無く都市を歩いたり、使用人に頼まれれば都市を出て夕食のおかずなども狩ったりする。
さらに都市の通りを徘徊しながら何か目につく物が無いか、気になる物は無いか、など数時間通りを歩きながらの散策をし時に店や屋台を覗いて食事や軽食を食べ店のおやじや他の客と話をしながら情報収集を行う。
武器屋や防具屋なども覗くし道具屋に珍しい魔道具や魔法の書籍などが無いか見てみたりも欠かさない。
まあ言わば暇なご老体がフラフラしているようなものである。
最近は顔なじみの店や商人もでき定期的に顔を見せるが相手は知矢を冒険者であると認識している事からたまにふらりと顔を見せても特に訝しむことも無く応対する。
夕刻が近づけば店へ戻り風呂に入ってこれまた使用人の用意した夕食を食しながらビールを飲む。
来客が無ければ夕食後は自室で従魔と戯れたり刀の手入れをしたまに日記的な雑記帳に思い出したことを少し書き留める程度である。
よって基本知矢はのんびりとした日常を送っていた。
知矢が目指しているのはそんな生活なのであるのだから。
だが一見のんびりしているようだが現実はそうはいかない。
伯爵に呼ばれたり貴族絡みの騒ぎも多い。知矢の魔道具商店の秘密を嗅ぎ出して奪おうとする輩は今も少なからず存在する。
そして最近は南の大国絡みの騒ぎが尾を引き未解決の案件もいくつか存在する。
それらの事を対応したり手配したり協議し検討する事も多いので毎日のんびりしている訳では無かった。
今朝は種々の報告を聞いた後、懸案事項の精査や協議を行っている時に奴隷取引商会の商会長ザイードからの手紙で急遽出かける事になったのであるからやはりそれ程のんびりしてはいなかった。
そんな中、今日はニャアラスとボンタが警護の名目で同行し用が保留になった為こうしてのんびりともに食事などをする時間を得たのであった。
「兄貴、食事の前に何か少し摘みやすか」
ボンタの問に知矢は壁に掛けられていたメニューを見ながら考え
「いやまだ昼過ぎだしな。一杯だけ飲んだらボンタおすすめの ”炒めたうどん” を食べよう。
昼から酔っぱらうのも何だしな」
「そっすか。じゃあ炒めたうどんを注文しやすね。 ニャアラスの旦那も同じで良いっすか」
「ニャア、良いニャ。そいつを食べてお前の評価を決めるニャ。もし上手くなかったら・・・シッシッシー」
ニャアラスは口角を上げボンタを見る。
「えっ何なんすか。止めてくださいよ。大丈夫っす本当においしいっす」
ニャアラスの疑いの眼にどぎまぎするも再び自信を持って胸を張るボンタ。少し慌てながら
「マルゲリッタ!」と店の女給へ声をかける。
「なあに。注文かしら」
マルゲリッタは三人を見回しながら声をかける。
「ああ、店の自慢の ”炒めうどん” を3人前な。美味しいところをこのお2人へお教えするんだ美味しく作ってくれよ」
「あらありがと。楽しみに待っててね」
マルゲリッタは自信ありげな笑顔をみせ直ぐに厨房へと取って返した。
ジョッキのビールが無く成った頃。
「はーいおまちどう様。”炒めうどん” よ。冷めないうちに良く味わってね」
そう言いながら大きなお盆から大きな皿を知矢達の前へ置いて言った。
ごゆっくりと一言残し踵を返すマルゲリッタ。
知矢とニャアラスは湯気立つ料理を見つめながら匂いを嗅いでいた。
「フミャア、匂いは美味そうだニャ」
フォークを片手にニャアラスは香りだけで既にご満悦な様子だ。
「見た目も美味しそうだな」
知矢も香りをかぎながら繁々と出された料理を見る。
直径350mm程の大きな平皿に乗せられているのは ”うどん”と言うには細めの麺、そして数種類の野菜を細かく刻んだ物と何かの肉を細切りにしたのを併せて香味油で炒め少々のスパイスでアクセントをつける等この異世界では見たことのない料理であった。
しかし (これってあれだよな) 知矢はそう思いながらも早速フォークを掴み炒めうどんをすくい取りながら口へと運んだ。
ニャアラスもすでに食べ始めておりしかし無言でどんどん食している。
(味の基本は塩だが香味油と少々のスパイス。これは胡椒の様な感じと微かな酸味が香味油と合さり塩味に深みを出している、正直美味いな。 だがこれって・・・”塩焼きそば” だよな)
知矢の思ったのは転移前に食べたことのある焼きそばであった。 しかしソース味がこの世界では庶民のものでなくほとんど流通していない事から塩を基本で味付けするのが一般的であった。
しかしこの ”異世界塩焼きそば” は上手く香味油と少々のスパイスに肉の旨味を絡め味わい深い塩味に出来ていた。
だがこれはこれで非常に美味しい出来だ。
特に知矢が驚いたのは ”うどん” と称しているがうどんでは無く ”焼きそばの麺” に近い細さと麺の味、触感である。
この麺の作り方を知れば知矢とサーヤが欲している ”ラーメン” も可能なのではないかと思いながら知矢も夢中でこの炒めうどんを食べるのだった。
「ふーっ」知矢は無言で一気に食べきってしまった。少々多かったが野菜も多く麺や肉とのバランスも良いので、しかしそれ以上に純粋に美味しいので食べきってしまったのである。
「どおっすか兄貴!」ボンタは無言で食べていた知矢の反応を心配した。
「ああ、まあ見ての通りだ。あまりの美味しさに夢中で食べてしまったほどだ。本当に美味い!」
本当に知矢は美味しいと思った。そして懐かしさもこみ上げ ”ソース” を手に入れ提供しようかと考え始めている。
さらにソースを提供したバーターで麺の作り方を教えてもらう、又は麺を提供してもらいラーメンの開発を目指そうとも思っていた。
「そっすよね! やったあ!」
ボンタは知矢にも美味いと認められてうれしそうで思わず立ち上がってしまうのであった。
「ニャアラスの旦那はどおっすか!上手いでしょう!」
少しにやにやしながら勝ち誇ったようにニャアラスへ問うボンタを見て
「・・・・まあまあだニャ」
少し悔しそうではあったがニャアラスも認めざるえなかった。
「旦那、もっと素直においしいって言ってくださいっスよ」
「ケッ、お前が喜ぶからこれ以上言わないニャ」
ニャアラスはプイっと脇を向いてしまった。
その様子にボンタはさらに喜ぶのであったが。
「しかしボンタ。この料理は誰が考案したんだ。”うどん”と銘打ってあるが俺に言わせるとこれはうどんではない。 実は俺の故郷にこれに似た麺と味付けの料理で ”塩焼きそば” って言うのがあるんだ」
「えっ兄貴の故郷の料理なんスカこれ」
喜んでいたボンタは知矢の話に驚いた様子だ。
「いや正確には少々異なるが。この麺これはうどんのように小麦粉を使用しているがうどんは小麦粉と塩が基本だがこの麺はおそらくそれに加え別の物を添加剤、って言っても解らないか。ともかく別の何かを加えるとこの麺と言う物になるんだ。
俺の故郷ではベーキングパウダーって言う特殊な材料を用いていたんだがこの国にそう言った材料が見当たらなかったんでな、今までこの麺は作る事は出来なかったんだ。」
「そのベー何とかってのは知らないっすけど。どうしやす。作り方をマルゲリッタに聞いてみヤスカ」
ボンタの提案に少し喜ぶ知矢であったが一方的にその秘訣や秘密のレシピを教えてもらうのも気が引けた。
「いや店の秘訣だろう。そう簡単にあかせるものでは無いからな。お前の知り合いと言っても商売の邪魔をするわけにはいかない。
だが俺からも今すぐには無理だがこの料理の味付けをさらに進歩させる調味料を提供しようと考えている。
それと引き換えにこの ”麺” の作り方を教えてもらうと言うのはどうだろうか。
それなら一方的な話でもないしこの店の料理がさらに良くなることは保証しよう」
知矢は”醤油”には一際愛着があり醤油と味噌の無い生活だけがこの異世界での不満であった。
だが日本からの転移者の子孫たちの故郷から醤油に味噌、そして米を手に入れた今とても満足であった。
だがこうして麺の存在を知り加えて焼きそばの味を思い出したことから”ソース”も開発するかどこからか手に入れようと考え始めた。
そうすればさらに知矢の食生活が充実すると思い。
元々この世界でソース的な物は存在する。ほとんどが貴族の調理担当者が独自にその手で作り出しその家でのみ使うためのものとして。
それを手に入れ、さらに味を知矢達日本人の好みに合う様に改良を加えればソース焼きそばにも転用、利用できると考える。
そうすれば麺の作り方を得、ラーメンへ一歩前進すると思っているのであった。
日本人とラーメンは切っても切れない国民食。すでに隣の国の物とは言えない独自の進化を遂げていた。
知矢もサーヤも生粋の日本人だ。だから勿論ラーメンも大好物である。
「わかりやした! 兄貴の提案を話して来るっス。いつ頃になりますかその新たな物って」
「そうだな。(アンコール家から分けてもらってレシピを聞き出し味を調整するんだが少し時間は必要だな) 1ヶ月ほどでおそらく新たな調味料が出来ると思う。
それを持ってきて炒めうどんの新たな味付けを提供する代わりに炒めうどんの俺に言わせると”麺”を提供ししてくれるか、又はレシピを教えてほしいと交渉して見てくれ。必要なら金銭的な対価も加えるとな」
「わかりやした。話してみやす」
ボンタは「オーイマルゲリッタ」と厨房の方へ小走りに向かったのであった。
「トーヤ! 何か凄い美味しい物が食べられそうな話だニャ! 」
ニャアラスも今のやり取りを聞いて目を輝かせていた。
「ああ上手く行けばな。だが結構確信がある」
知矢もニャアラスに期待しておけと言いながら自らもソース焼きそばとラーメンに思いを馳せるのであった。




