第158話 散歩、いえ任務です ~ 「・・・・・(またお留守番)」
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では第158話どうぞ
知矢は久しぶりにゆったりと周囲に対し緊張を持たずに街を散策でもするような気分で歩いていた。
とは言ってもいつもそれ程緊張し周囲を警戒しながら歩いているわけでもないが、魔鉱石発見の騒ぎの頃は過剰に人の目を気にして隠れる様に歩いていたのは数カ月前とはいえ懐かしい思いでだ。
特に今日は頼もしい警護の者が二人も付いている。
勿論それは頼もしい友人、ニャアラス。それに知矢を兄貴と慕うボンタであった。
知矢はまるで親しい友人とのんびり散策ついでに買い物をするような気分でいた。
「そういやこのメンバーで街をゆっくり散策するなんて初めてだな」
「ニャア、そう言えばそうだニャ。いつもは郊外や船の上、馬車に揺られたこともあったニャ、あとは宴会ばっかりだニャ」
ニャアラスも楽しそうに答えながら屋台で売っている物を指さしながら知矢と何でもない会話を楽しんでいた。
その中でもボンタは気負い過ぎなほどに周囲の気配に気を配り目つきも真剣そのもので回りをきょろきょろ見るしまつだ。
「ボンタお前張り切り過ぎだニャ。目つきも悪くて通る人が逆にお前を騎士団へ通報そうだぞ」
ニャアラスの言う通り、街を行き交う人が 『こいつなんだ? 』 『悪そうな眼付きで何かたくらんでいるのか』 と訝しい顔を向けながらすれ違っていた。
「何言ってんすかニャアラスの旦那。 あっしが周囲に気を張ってるっすからこそ兄貴たちが安全なんじゃありませんか。あっしに任せてくださいよ。 って痛っつ! 」
そんな事を言いながら後ろ向きに歩いていたボンタはその正面からきていた荷車に激突しているのだった。
「あんちゃん、ちゃんと前見て歩かねばなんね。きいつけてな」
野菜を満載していた荷車を押す農民が荷車にぶつかった衝撃で路肩に跳ね飛ばされたボンタに一言声をかけてそのまま行ってしまった。
「あんにゃろあっしを跳ね飛ばして一言だけか! オイコラ! 」
地面へ尻を突いたまま文句を叫ぶボンタを相手にもせずその農民は去っていった。
周囲の者がその様子を見ながらくすくす笑っていた。
「オイボンタ置いて行くぞ」知矢とニャアラスは大したことも無いだろうとそのままスタスタと歩を進めていく始末だ。
「エエッ、ちょっと待ってくださいよ! 」
慌てて立ち上がったボンタは走って追いかけるが周囲の者は未だその様子を見ながら笑っている。
しばらく歩くと周囲の雰囲気が変わるエリアに足を踏み入れていた。
ここは商業中核都市とはいえどちらかと言うと都市を管理する官庁街である。
よって買い物をする市民たちが行き交う通りとはかなり異なり騎士や兵士が行き交う事も多く貴族の魔馬車や貴族家の使用人、各役付きの官士の方が多い通りだ。
「ここいらはめったに来ニャイけど相変わらず面白みのない場所だニャ」
シャアラスは周囲をのんびりと見まわしながらつまらなそうに言う。
「ニャアラスはあまり用が無いか」
「ニャイな。あっでもちょっと前に子供たちを学校へ入れる手続きをしに皆で来たにゃ。でも書類が難しくて面倒だったニャ」
ニャアラスは故郷の獣人族の子供たちに高等教育を受けさせるため仲間と資金を出し合いその準備に追われていたことがあった。
既に準備を終え後は子供たちの到着を待つばかりである。
「書類は上手くかけたのか」
お役所の手続きと言うのはどこの世界でも面倒で無駄に複雑なんだよなあと知矢も日本での経験を思い出しながら心配した。
「ニャア、1人狐人族の仲間もいてニャ。そいつが交渉事が得意でニャ色々してくれて役所の人に殆ど書いてもらえたニャ」
「それは上手く行って良かったな。何にせよ手続きも済んだし子供たちが来るのが楽しみだろ」
知矢はそう言いながらも(どんな交渉すれば役人が変わって手続してくれるのだろう? )と不思議に思ったがそれは知矢の日本人としての感覚でありこの異世界、特に帝国内では日常的な光景であった。
「そうだニャトーヤにも手を貸してもらえたから助かったニャ。子供たちが来たらお礼をしに来させるニャ」
知矢はニャアラス達獣人族の皆が子供たちの将来の教育の為と力を合わせ資金を集めていた話を耳にしていくばくかの資金援助を申し出たのであったが一方的な援助は断られた。
しかし知矢の 『これは施しでは無い。この国を担う子供たちへの投資だ』 との説得もあり資金提供を受け入れたのだ。
「まあお礼は気にしなくていいがともかく頑張って勉強してほしいな」
知矢は以前も記したが剣術と弓術の道場を持っていたがそこには不登校や家出をした若者も少なからず身を寄せていた。
何も強制はしていなかったが衣食住を与えて考える時間、見聞きする別の世界を示す事で再び学校へ通う様になった者や目標を見つけ仕事に就いた者などもいた。
知矢は教育者では無いとの自覚もあったが何らかの場所と切っ掛けは与えたいとも思っていた。
そんな経験もあった事で知矢自身が何かをしてやるつもりはないが貸せる力だけは貸したかったのだ。
知矢の考える自信が得た豊富な資金の還元事業の一環とも合わせての行為であった。
そんな話をしながらゆっくりと散歩のように一行は1刻程の時間をかけ目的地へ到着した。
その建物は石作の綺麗な外観で落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
初めて訪れた時は (証券取引所とか銀行みたいな雰囲気だな) などと思ったがまさに奴隷取引商会はそういった少し堅苦しさも持ち合わせた半ば公の役所の様なものであった。
事実、管理貴族配下の管理を受け公正で清潔、誠実をモットーとする取引を行う事で知られていて知矢は物語で得た知識から (薄暗い後ろめたい裏通りにひっそりと有る怪しい店) との印象を真っ向から否定するものだった。
事実この世界でも南の大国における奴隷取引はその様な取引であると聞き及んでいた。
そんな南の大国の状態とは一線を画す帝国の奴隷取引商会。
今日知矢はこの商会長であるザイードよりの協力依頼を受け訪れたのだった。
玄関で訪いを告げた知矢達は早速明るいガラス窓より陽の光が差し込む応接室へ通されお茶を供され暫し待つこととなった。
「ここが奴隷商会っすか。何か商業ギルドより品がある建物っすね」
ボンタは珍しそうに部屋を見回しこの都市では比較的珍しいガラスがはめられた窓などを繁々と観察していた。
そうこうするうちに応接室の扉がノックされ口ひげを生やした落ち着いた雰囲気の中年紳士が入ってきた。
「トーヤ様。この度はご足労頂きまして申し訳ございません。」
入ってきた男。この奴隷商会を束ねる商会長、ザイード・ギムベルグであった。
以前から何度かこの商会を訪れたことのある知矢は度々奴隷を購入したりと交流があった。
「いや問題ないさ、手紙を貰って仕事の依頼だと言うので伺った。だが大人数ですまない」
知矢も席を立ち互いに握手を交わしながら軽く挨拶を交わした。
「こちらは親しい友人でもありBランク冒険者のニャアラス殿、そしてこっちがDランク冒険者のボンタだ。ちょっと最近色々あってうちの者が俺に一人でふらふら出歩くなと言われお目付け役を連れての訪問になってしまったよ」
軽口をたたく知矢であったがザイードはその背景を十分に理解していた。
「いえいえ、どうぞご遠慮なく。最近この都市で起こる凶悪な事件の数々。配下の方も心配されるのは当然でございましょう」とニャアラス達の同行の目的を的確に理解していた。
「まあそんなところだ。さてじゃあ手紙に書いてあった件、早速伺おうか」
知矢は二人の同行の件を含め都市の出来事、情報を的確に確知しているのも当然かと理解し今回呼ばれた件も含めてザイードは既に分かっているのだろうとも思った。
ザイードは知矢へ今までに扱ってきた奴隷の中でどうしても南の国の者だけは異常であると薄々認識はしていたがその異常さが最近増してきた事で想像していた事を裏付けたく知矢へ協力を仰いだのだ。
「ご存知の通り私はそれなりにこの商売をやっておりますから ”鑑定魔法” の使い手としては一般的なレベルより上だと自負しておりました。
しかし先のトーヤ様を拝見しまだ足りない事は痛感いたしましたがそれでも私のレベルで何も窺がい知れない隠された何かがあるとは常々感じていました」
ザイードが言うのは戦争捕虜からその扱いに苦慮した帝国政府が止む負えず奴隷と言う処置に至った経緯は依然語った通りであった。
しかしこの数年前から何かが変化して来たと言う。
昔から奴隷になったルドマリッドの兵士などは反抗的で奴隷として一般に販売する事が不適切な程でもあったがそういった者は国の管理する鉱山や土木作業に従事させるのが一般的であった。
しかし最近のルドマリッドの奴隷は元々反抗的な事に加え全くと言って良いほど話も通じずに手に負えなくなった軍が手元に置けず扱いに困り情報が取れぬまま奴隷にするしかないような事例ばかりになってきた。
当初ザイードも奴隷として販売すると言うより国より委託を受け奴隷の管理や教育の趣旨で預かっていたがその異常ともいえる態度やおかしな言動に役に付ける事さえできなくなっていた。
このような異常な態度のまま如何に奴隷紋による契約をしても送られた先で役に立たないだけでなく混乱を生み出す事は想像以前の事であったからだ。
「当初は薬物などの異常か精神異常を考えましたが、薬物にしては健康面の問題も無く時間の経過を見ても薬の効果が切れる事も無く、精神異常にしては余りにもすべての者が同様の状態である事から別の何かと思いました」
ザイードは政府の関係機関とも調査を行ったが何一つ証拠も得られず時間ばかりが経過し益々収拾のつかない奴隷ばかり増える一方であった業を煮やし最終手段と考え知矢への依頼を出したのであった。
「おおよそ話は分かった。実は少し前から俺も何かおかしいと感じてはいたのだ」
知矢は聞きかじりが殆どではあったが南の大国からの移民や亡命者等も一応にこの国へ馴染み生きていこうと言う感情が生まれないと言う話やいつまでも獣人に対しての忌避感を捨てない、失わない点。そして今回知矢達が亡命の為に連れて来た2人の女性の語っていた話から何か強い洗脳の様な状態ではと考えていた事をザイードに話した。
「成るほど。私が接しているのは奴隷待遇が決まった者が全てでしたので平時の感情を保った状態の者でもその様な事なのですね。
しかしトーヤ様が預かっている2人。何が切っ掛けと言えば経験のない美味しい物を口にしたとき。これはキーワードとしてどう捉えればよろしいのでしょう。そもそもやはり洗脳状態であった、そしてそれが何かのきっかけで解放されたと見てよろしいのでしょうか」
「それにはやはり一度鑑定をしてみるしかないかと思う。それで何かがつかめると思ってザイードも俺に依頼してきたのだろう。ならさっそく実行してみるのが早道だ。それでわからなければまた考えるしかないだろう」
知矢の意見でさっそく元々の依頼であった南の大国の者を知矢が鑑定をする事になった。
「何だお前は、贅沢な成りをした小僧め。我々人民同志はお前の様な奴に鉄槌を下すだろう。今に見ていろ! ああんっこの獣が人の様に服を着るとは神への冒涜だぞ。さっさと4つ脚でアッチへ行け!!」
知矢達はザイードに連れられ建物の半地下になる部屋へと案内された。
そこは檻とはいかないまでも強固な作りになっている個室のような場所だった。
ザイードの先導で通路を歩く知矢達に個室を仕切る壁に設けられた柵から罵声が投げつけられる。
その言動や様子からもとても普通では無い事は知れるが知矢は別の事を気にした。
「おいニャアラス。お前はさっきの部屋で待っていてくれ。直ぐに戻るから」
知矢は自分に何を言われても気にもしないが友人のニャアラスへ対する罵声をこそ気にした。
「こんなの気にしてたって仕方ないニャ。いつもの事だニャ」
とニャアラスは知矢の言葉を受け入れず傍らから離れようとはしなかった。
「ニャアラス様、申し訳ございません」
先を歩くザイードから詫びが入ったがそれも気にするなと先を急がせた。
「こちらへ」といくつかの扉をくぐった先の部屋へ案内された。
「なんかここ雰囲気が違うっすね」
目ざとく様子が変わった事に気が付いたボンタが呟く。
「ええさすが冒険者の方ですね。観察力が鋭くていらしゃる。ここは戦争捕虜で捕らえられた奴隷の中でも以前の身分が比較的高い地位にあった者が要るエリアです。一応政府からも多少の扱いに差をつけあわ良くば情報を聞き出せればと言われておりますので」
先ほどの様な狂気に満ちた物言いをする者がいない反面、静まり返ったその場所は逆に何か怖さを感じる。
「この部屋にいる者を鑑定してほしいのです。中は柵で仕切りが設けてありますので危害が加えられる事は無いと思います。そして中にいるのはルドマリッドでも上位の待遇に当たる地位にいたようでその物言いから具体的な情報を持つのではないかと期待されていましたが残念なことに他の者と同様一切有意義な情報は得られなかったとの事です。
しかし立場が上の者の方が得ている知識は下位の者や一般兵より多い分もしかしたら精神的な拘束もより強くはっきりとした物がかかっているのではと推測いたした次第です。如何でしょうかトーヤ様」
ザイードの説明に知矢も一理あると同意をし早速部屋へと入る事にした。
「ニャアラスとボンタはここで待っていてくれ」そう言いながら部屋へ入ろうとする知矢に
「ニャに行ってるニャ。今日の俺達は護衛だニャ、離れる訳にはいかニャイ」
「そっスよ兄貴。どこまでも付き従うっす」
そういう二人に苦笑いをしながらも感謝をし知矢は同道を願った。
ガチャリとカギを開けたザイード。ゆっくりその重く厚みのある扉を開けると
「どうぞ」と手を差し伸べ入室を促した。
ニャアラスが先に部屋へ入りその後をすぐ知矢が続く。一瞬何かを感じたのか躊躇したボンタも一歩遅れて部屋へ入ると最後にザイードが部屋へ入り扉が閉められた。
そこは柵で仕切られた元の世界で言う面会室の様な作りであった。
全体の部屋の大きさは20㎡位だろうか。その三分の一を知矢達がいる場所だ。
そして残る12㎡ほどに気のベットが1つ置いてあるだけの狭い部屋であった。
そしてそのベットの上へ座ったままじっとこちらを見る目が有った。
その目を一瞬見ただけで知矢は言う様の無い違和感を感じたが恐れなどでは無く光の無いまなざしに違和感を得たのだと思った。
知矢のレーダーによる検索では既に赤く光を放っていたがいつもと異なるのはその赤い光が点滅している点だった。
(コナビ!)知矢は声に出さず問いかけた。
(ピーン 何でしょうか)
(レーダーの表示が赤い点滅の意味するところは)
(自分の意思によらない攻征な感情と思われます)
(って事はやはり洗脳状態か)
(詳しくは鑑定魔法をご使用ください ピーン!)
(まっそうか)
「こんにちは、少し話がしたいのだけれど良いかな。俺は冒険者のトーヤって言う。こっちも冒険者のニャアラスとボンタだ」
知矢は話しかけるがその目は相変わらず意思を感じない目をしていた。
麻の様な袋を利用した貫頭衣を着させられているその人物はその姿から女性であるかに見える。
しかし意思を感じないその目から性別をはっきりと認識できなかった。
知矢はザイードの方へ眼をやるとかれは知矢へ強く頷いてきた。
知矢もそれにこたえる様に頷くと一歩女との間にある柵へ近づきその人物をじっと見つめながら
「 鑑 定! 」
と鑑定魔法を行使したのだった。




