第155話 元準男爵の呪い ~ 新入社員募集のお知らせ
第155話 投稿いたしました
どうぞお読みください。
「兄貴!今戻りやした」
知矢の執務部屋へ元気に入って来たのは知矢を慕い年上のくせに何故か『兄貴』と呼ぶボンタだった。
「おうお帰り。早かったな」
知矢もいつの間にか信頼をし種々の探索などを任せる様になっていたがボンタとの初めての出会いは言わば”敵”同士であったのだから解らないものだ。
「いやあっしも長期の探索や見張りを覚悟をして食糧なんざ用意して行ったんですがね拍子抜けしましたよ」
ボンタは知矢に勧められたソファーへ腰を下ろしながら話し始める。
「と言う事は何か掴めたと言う事か」
知矢はボンタが成果を出してくれた様子ににこやかになる。
出会った頃の様子とは打って変わり最近のボンタはやる気も旺盛であったが与えられた仕事をキッチリとこなし十分な成果を出し知矢の期待に応えてくれていた。
正直知矢は 『よい行使力は持っているが使い物になるのか』 という思いも確かにあった。それはそれまでの状況が物語っていた。
冒険者としては何も結果を残すことが出来ず生活に困り悪い奴らの仲間に引き込まれそこでも使い走り程度しか期待されていなかった。
逆を言えば使い走り程度であったからこそ刑罰を受けずに済み知矢と出会い自らの能力の有効な使い方、使うべきステージを与えられたからこそ今があるのだが。
「ハイ、商会へ来た男を監視していた者を追跡しましてね居所も名前も背景も確認して来やした。ただ・・・」
「うん?どうした。何か言いにくい相手なのか」
はきはきと報告を始めたボンタが核心の部分へ入るところで言い淀んだのを気にした。ひょっとして大物貴族とかアンコールでも手を出しにくい相手なのかと。
「いやそうでは無いんですが、言いにくいと言うよりはあっしも兄貴も聞きたくない名前と言うか」
ボンタは顔をしかめ嫌そうな顔をしながら知矢の様子を窺がっている。
「聞きたくない名前? そんな奴いたかな。まあ良いさ言ってみてくれ、でないと話も進まないだろう」
「そっすよね、わかりました。 その探っていた男が駆けこんだのは ”ドミワ商会” と言う最近落ち目の商会でさ」
「?ドミワ商会、落ち目の商会。聞いた事が無いぞ、取引している商会は別の所だし」
知矢はボンタの口から告げられた商会に覚えが無かった。
「まあ商会自体は兄貴も知らないと思いやすがね、この名前なら覚えがあるのでは ”ドミワ準男爵” っす。」
ボンタは少し嫌そうな口調で知矢へとその名を伝えた。
「・・・・なるほど。お前が口にするのも嫌なのも当然か」
”ドミワ準男爵” は元準男爵と言うべきであろう。
以前その娘、”ソメッソ・ドミワ” という冒険者ギルドの職員の籍にあった事のある女がいた。
何故か冒険者ギルドへ初めて冒険者登録をするために知矢が訪れた時に嫌がらせの様に絡んできた女であった。
当初『何だこのおばさんは』と知矢は訝しんだが直ぐにその意図が知矢へでは無く冒険者ギルドの上司でもあるニーナ。
ラグーン冒険者ギルド主任ニーナ・スコワールドへ向けられた悪意によるものと理解した。
その後の騒ぎは前述したとおりであり知矢や冒険者ギルドに対して、いやそれ以前に数々の悪さを重ねてきたドミワ準男爵とその一党に対しバスラム辺境伯を擁した冒険者ギルド長ガインによって捕らえられ司法の裁きを受けたのであった。
「元々どうでも良い名前だし既に終わった事と思い思い出しもしなかったが、まさかその名が出るとはな。 その商会はいま誰が運営している。元準男爵の関係は全て裁きを受けたと聞いていたが」
娘のソメッソとソメッソに加担していた不良冒険者たちは知矢殺害未遂により知矢の手で捕縛されさらに過去に犯した多くの犯罪によって騎士団へと引き渡され刑に服した。
準男爵自らも恐喝や違法取引が露呈したがそもそも上司である辺境伯の面前での失態に合わせガインが掴んでいた種々の犯罪と合わせその息子たちも加担していた事で準男爵家としての一党は何らかの処分を受けこの地にはいない。
「へえ、確かにその通りっスがそもそもあの商会ってやつは準男爵の父親が開いたものだったそうっす。その後準男爵が後を継やしたが大層な金を積んで1代貴族の籍を買った後は従弟、つまり準男爵の父親の弟である叔父が名目上商会長として店を運営していたそうっす。
その後その息子へ商会を引き継いだらしいっすけど実際は元準男爵の指示で違法な取引や強引で恐喝まがいの商売をしていたっすけど元準男爵が逮捕されてからは今まで元準男爵を恐れて仕方が無く取引していた商人や市民から総スカンを食らい最近は事実上店を閉めていた様なものっす。」
「その商会が南の国とどう繋がっているのかだな。でその駆け込んだ奴は誰なんだ」
「へえ、その男は商会の支配人らしく、店の裏口から駆け込んだ男に留守番の者が 『支配人お帰りなさいませ』 って声をかけていやした。その後その従弟である商会長らしき奴へ報告をしているのを耳にしやしたが。
『会長、半分成功しました。毒を浴びせ殺害したようですが逃げ出す時にどうやら捕まった様です』
と告げているのは聞いてやす。その後は人の出入りが激しくなってばれる前に脱出したのでわかりませんが。取り急ぎ報告と思い戻りやした」
ボンタは最後まで情報を得られなかった事を詫びるが知矢は十分な成果だとボンタを労い報酬が入った革の小袋を無限倉庫から取りだし渡した。
「状況や背景はおおよそわかった。ご苦労だったな。さて・・・」
知矢は思いもよらない者の名前が出たことと南との関係そしてオースティン騎士伯やアンコール伯爵など今後どう話が展開するかを思案していた。
「どうしますか。この後も張り付いて探りをいれましょうか」
ボンタは受け取った報酬の小袋を捧げる様にした後腰の袋へと大事に収納した。
因みにこの腰の小袋も知矢から支給されたマジックバックの機能が備わっている。
「そうだな無理に浸入する必要は今のところないが何か動きや人の出入りは知りたいな」
知矢はそう言うと部屋の中で黙って二人の会話を聞きながらも黙って控えていたマクへサンドスを呼んでくれないかと声をかけた。
マクが部屋を出て行って直ぐに魔道具商会の警備主任サンドスが現れた。
「ご主人様、お呼びとの事ですが」
「ああすまない。ところで先ほど捕まえた男は大人しくしているか」
「ハイ、気を失っていましたがその後覚醒し自分の置かれている状況に興奮したのかロープで縛られたまま暴れていましたが直ぐに大人しくなりました。
今はノブユキ達3人が張り付いて見張っております」
「そうかありがとう。 人出が足りないのは重々承知しているが誰か1人、ボンタと行確に動いてくれないか。1人だとつなぎを取り事もままならないからな」
知矢の魔道具商店には第3次まで使用人を雇いその数は既に40名を超えていた。
しかしその中で戦闘能力を有し上表収集や行動確認のために敵地へ接近し忍べる者は多く無い。
店の運営や衣食住に関わる事が出来る使用人であればそれなりに得られるが行確等を任せられる者はただの冒険者と言う訳にはいかなかった。
そういった意味でノブユキ達転移者を先祖に持つ忍びの技を学んだ者達の存在は大きい。
しかし人数が限られるのはどうしようも無い事だ。
「店を閉めたことで今は外の屋台の人員だけですので警備も比較的少人数で済みます。男の監視についているのはノブユキ、イエヒコ、ササスケですがをワイズマンと交代させれば同行できますが。もしくはミホとアヤメが控えております」
サンドスは全員の配置状態から適切な案を提案する。
「ではボンタに同行するのはミホに頼もう。それとは別にイエヒコをワイズマンと交代させてここへ寄こしてくれ。別件で頼みたいことがある」
サンドスは知矢の言葉に了解しましたとすぐに部屋を出て行った。
「ボンタ、お前の知り合いで腕の立つ警備などを任せられる冒険者はいないか。低ランクでも構わないが仕事にあぶれていたりする者がいたら外回りの警備などの仕事を頼みたいのだが」
知矢は人手不足の状態を解消し効率的な人員配置と活躍の場を模索している。
「申し訳ないです、あっしの付き合いがあるやつで警備とか任せられそうな腕の立つ奴は中々。どっちかと言うとあっしみたいなうだつの上がらない奴とかチームに入っても人間関係でチームにいられなくなったような奴なら幾人か知ってやすが、使い物になるか・・・」
先の魔鉱石発見以来ラグーンを始め周辺の村や町、小規模都市や衛星都市は空前の大好景気に沸いている。
その為商人の活動や職人の動きも活発になり望めば仕事はいくらでもある状態だ。必然的に食料としての魔物を狩る冒険者も忙しく、低ランクの者でも薬草の採取依頼も多く商人の護衛依頼も山のようにギルドへ依頼があふれる状況だ。
そんな状態のこの都市であぶれている冒険者は余程問題がある者と推測するのは容易な事だ。
「そうか。だがそれでもかまわないから後日声をかけて見てくれ。面接して良さそうなら先ずは簡単な警備の仕事から頼もう。その後状態を観ながら長期で依頼するか直接雇用するかを判断する。ともかくどんな人物かを見させてもらってからだな」
「了解っす。じゃあ後日声をかけて連れてくることにします」
ボンタとそんな話をしているうちにミホとイエヒコがノックと共に入室してきた。
「お呼びとの事で」イエヒコはいつもの様にニコニコとした丸い顔をみせる。
ミホはいつもの派手な冒険者らしからぬ色合いの服装で来た。
「ああ忙しいのに済まない。ミホはボンタと共に行確に出てくれ、詳細はボンタから説明する。ただし先に目立たない服装へ着替えてくれ」
ミホは初めて顔を合した時には真っ赤な忍び衣装に身を包んでいた。その後使用人として知矢の元で働くにもこの都市では珍しい色味が派手な模様の多い服装を好んで身にまとっていた。
もちろん忍ぶ仕事の際は随時着替えているようだが。どうやら派手好きらしい忍びの様だ。
「わかりました、じゃあボンタさん裏口で待っていてください」というと身をひるがえし去っていった。
ボンタも知矢に「では」と軽く頭を下げ部屋を出て行く。
残されたイエヒコへ知矢は告げる。
「イエヒコ済まないがお前たちの里へ手紙を書いてもらいたい」
「はい手紙ですか。可能ですがどのような」
知矢から意外な命を受けイエヒコは少し驚いた顔をする。
「まあお前たちの里とは頼んである商会が定期的に手紙のやり取りをしながら俺の望む食材などを送ってもらって取引は順調なのだがそれとはまったく別の事だ。
お前の里では仕事は十分にあるのか。もしそうでなくラグーンに出稼ぎか移転をして仕事をしてくれそうなものがいれば誘いの手紙を書くのでお前も里の長老様へ俺の希望を併せて伝える手紙を書いて欲しい。
お前たちも知っての通りこの店もそれに屋台や新しい店、それに皇帝から下賜された屋敷などを考えると人員が全く足りていないのが現状だ。それに今朝の騒ぎなどこの店の皆を守る戦力やボンタの様に調査活動などを頼める人材を増強したい。
もし里での人員に余剰が在ったりこちらに来たい者がいればとも思ってな。
お前から長老様にも詳細をしたためて欲しいんだ。」
「成るほどですね。わかりました。確かに里は人の数に比してそれほど多くの仕事があるわけではありません。そういった事もあって我々は冒険者になったのです。まあ大失敗をして奴隷落ちしてしまいましたが。他にも冒険者をしている者や少ない仕事を分け合いながら生活している状態です。
ご主人様の下で働くことが出来れば皆が喜ぶでしょう。早速手紙をしたためます」
イエヒコは話を理解し里にも有意義な話であると早速手紙を書くと言い部屋を出て行った。
「さて俺も動くとするか」そう言うと知矢は机の脇に立てかけてあった刀を持ち席を立つ。
「お出かけでしょうかご主人様」本日、知矢の身の回り担当のマクが声をかける。
「ああ、そろそろ管理貴族様から派遣された一団が到着する様だ。彼らと話をしその後は伯爵様の下で色々と話をする事になるであろうからいつ帰宅するかわからない。そのつもりでいてくれ」
そうマクへ伝えると知矢は部屋を出てレーダーに反応がある青い点の集団、そしてそこからガイダンスが表示されている ”第1騎士団長モンドール”そして ”オースティン騎士伯”の名前を確認しながら階下へと降りて行った。
マクは部屋の外の廊下で腰を折り主を見送り姿が見えなくなると部屋のかたずけへと再び知矢の執務室へ戻っていった。
「思っていたより少々遅いご到着ですねオースティン騎士伯様。そして一別以来ですモンドール団長。今日は急な事で面倒をおかけします。どうぞこちらです」
知矢はモンドールとオースティンを先頭に引きつられた騎士団や兵士を裏木戸から出て裏通りで出迎えた。
そしてすぐに隣に併設してある倉庫へと改造した建物の方へ誘うのであった。
「この度はご迷惑を・・・」言葉少なく頭を下げるオースティン
「アンコール伯爵よりトーヤ様へよしなにと言付かっております」
沈痛な面持ちの2人と騎士たちの集団を案内する知矢はいつもとは大きく異なる険しい顔で先を歩いていた。
(鑑定次第だが確実にまずい、まずいぞ。)モンドールは心の中で今後の事を思うと気が重いなどと言うものでは無かった。
ともかく事態を確認し話をしなければと必死に胆力を湧き起こそうとするのだが知矢の気配に背筋に冷や汗をかきそれどころでは無かった。
片やオースティンは一言発した後黙って知矢に従い歩いていたがモンドールにその心中を察する事は出来なかった。
しかし自分と同じであると言う事は十二分に感じている。
自体がどうなるのか、今回の件は知矢への詫びと言う次元を遥かに超え対処を誤ると帝国が滅びる事になるやも知れないと理解しつつも先ずは目の前の青年と話をしなくてはならない自分の立場を少し呪うのであった。
今日は仕事もお休みで日中は春の陽気を垣間見ると想像し早朝からバイクに乗り少し出てきました。
緊急事態宣言下、車の量も少なくダム湖の周囲も走りやすく快適なツーリングになりました。
まあ、密を避けるとか他人との接触を最小限にとの思いで店などには寄らず昼食もコンビニで済ませるさみしい物でしたが。
本来ならそば屋などでゆっくり食事をしたかったですね。残念。
そうそう自宅を出発しガソリンスタンドへ寄ってから再スタート後1つ目の信号で前方に2台バイクが停車していました。
隣の車線で並びふと見るとどこかで見たバイクと姿。
「あっユーチューバーの◎▲◆くんだ!」
互いに何度か面識があったので合図をすると向こうも視認しハンドサインだけの合図になりましたが挨拶を交わしてその後は別方向へ別れました。
いやあ偶然ってあるものですね。
そんな楽しい暖かな休日でした。
ではまた次作で。




