第149話 帰還・報告 ~ 「お風呂!」
こんにちは
またまた一日投稿が開いてしまいました。
今日は早めですが初の午前中投稿に成ります。
では第149話どうぞ。
「よおっし! それではマジコさんのレベルアップを祝い、そして皆のキリングパンサー討伐依頼達成を祝して、乾杯!」
「「「「「「「カンパーイ!!」」」」」」」
その晩の魔道具商店は珍しく外部の客を招いての宴会が行われた。
勿論この宴会の主人公。それは知矢をFランク冒険者と勘違いしたことが発端で知り合ったガンツ。
そしてそのパーティー仲間のマリノスとマジコである。
「そんな面白い事になっているなら俺も声をかけるニャ! 」グビグビとビールをあおる知矢の友人ニャアラスさんも参加。
「今回は残念でしたが彼らももう少しでDランクへ昇格してもおかしくはありませんから今後楽しみなパーティーですね」
静かにワインのカップを傾ける冒険者ギルド主任のニーナも加わり閉店後の魔道具商店。その新たに併設された建物を改装終えた洋風レストラン風に作られたスペースで行われていた。
因みに人員的な問題と併せて知矢が事業を広げ過ぎない様にとサーヤからの進言を入れオープンの予定は凍結されている。
仕事がある使用人は別として既に勤務を終えた者は皆参加している為その人数は何人だかわからない程に大勢がそれぞれ大きなテーブルに島を作り次から次へと運ばれてくる料理に舌包みを打ちお酒を飲む光景は初めて訪れたガンツ達を唖然とさせるのだった。
「貴族のパーティーとは異なり確かに一般市民の宴だが・・・」
「ええ、出て来る料理は何とも・・・」
「豪華で・・・素晴らしくて・・・美味しい物ばかり」
目の前のテーブルに並べられた数々の料理を驚きながら手を出してみるとそれはどれをとっても今まで食した事のない旨味に溢れ深い味わいと経験した事のない触感や味付け、とにかく驚くばかりであった。
「おいトーヤこの肉を丸めて輪切りにしたものは何だ。凄くおいしいぞ。肉は何を使ってる?」
ガンツは自分の皿へ取り分けた料理を頬張りながら知矢へ何となく聞いてみた。
「ああそれか。それはええと。リラレット」
知矢は使用している食材が解らなかったので傍にいる総支配人のリラレットへ顔を向ける。
「はい知矢さま。そちらの肉巻き野菜ロールのソテーに使われておりますのは先日ご主人様がお出かけの際に仕留めました グレートボア でございます」
さすがリラレットである。
実際に料理を作っているのは別の使用人であったが主に出す料理の内容は素材に至るまで把握に努めているのだった。
「ありがと。だそうだガンツ・・?どうした」リラレットの説明を聞きガンツへ顔を向けた知矢だったが様子がおかしい。
「「「・・・・・」」」
料理を目の前にしたままガンツ、マリノス、マジコは顔をこわばらせたまま微動だにしない。
「おいどうした。不味かったか」
知矢は口に合わなかったのかと心配そうに様子を窺がう。
「何言ってんだトーヤ。お前・・・お前! 偉い物食べさせてくれたな!」
ガンツはこわばりを解いたと思うと並んで座る知矢へ食って掛るのだった。
その様子に驚く知矢
「えっ、何か禁忌な食べ物だったのか。そりゃあ悪い事をしたな。おーい誰かこの三人のグレートボアを下げて別の肉に変えてやってくれないか」
知矢が配膳を担当する使用人へ声をかけると
「バカ違う!」ガンツが慌てる様にさらに声を荒げた。
「じゃあいったいなんだよ。変な奴だな」
知矢は訳が分からないと少しふくれる。
「お前何しらっと出してんだ。グレートボアって言ったろ。クレイボアじゃなくて!」
ガンツは知矢へと迫りながら興奮している。
「オイオイ落ち着け。クレイボアでもグレートボアでも美味しけりゃ良いだろが」
「「「良くない(良くありません)」」」
三人が声をそろえて知矢へ異議を申し立てた。
知矢は狩った獲物は冒険者ギルドで買い取ってもらう事は殆ど無く解体だけ依頼し素材の皮や骨等肉以外は買い取ってもらうが肉は毎回持ち帰り自分たちで食していた。
知矢にとってクレイボアはイノシシに似た中型の魔獣で引き締まった肉には旨味があふれ僅かに入っている脂も癖が無く焼いても煮ても美味しいとの認識だ。
そしてグレートボアも同様に美味しく頂いていたがこちらはもう少し上品な柔らかい肉質で旨味もクレイボアより濃厚に感じて「次もグレートボアを狩ってくるかな」と思っていた。
しかしその獲物を冒険者ギルドにて丸ごと買取に出した場合大きさにもよるが一般的なサイズだと クレイボアは 小金貨3枚 30万イエンである。
片やグレートボアは同サイズで換算すると 中金貨9枚 900万イエンで買い取られる。
大きさや質によっては軽く大金貨を越える個体も存在する。
これが解体され食肉として販売されると単価はさらに上がり一般庶民がクレイボアを食せるのは年に数回。
そしてグレートボアに至っては庶民では先ず一生食すことが無い最高級品の一つでもある。
子爵家に産まれたガンツでさえグレートボアを食したのは父親である子爵の誕生日パーティーで出された物をほんの一欠けら口にしたことがある程度だった。
そんな高級食材をふんだんに使いさりげなく前菜の一品として出されたのであるから驚愕するのは当然であった。
良く回りを見ると使用人達の前にも同じ料理が普通に並べてあり皆当たり前のように食すその光景を見ると「いったいどうなってんだ」と言いたくもなる。
「大体この家に来た時から色々おかしいと思ってはいたが・・・・」
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知矢は無事キリングパンサーを仕留めたガンツ達と共に早々に森を離れ帰路に付いた。
まごまごしていると夕闇が迫り森の中は早々に暗闇に包まれる。
普段大型の魔物を狩るとその運搬や血抜きなどで時間がかかり森で野営する羽目になる事も多いが今回は知矢に借りたマジックバックが在った為運搬の手間も省けしかも知矢が後から出したマジックバックは時間経過の無い事から解体の時間も省け素日が暮れる前にラグーンへ帰還することが出来たのだった。
その際、再び都市の門を通過するが相変わらず厳戒態勢のラグーンは厳しい身元確認や持ち物の確認を厳にしており 「せっかく早く帰れたのにまたこれだ」 と不満を垂らすガンツであったが順番が来る前、検査の列へ並んだところ
「ああトーヤ殿ご無事のご帰還ですねお帰りなさい。ええとこちらの冒険者は」管理貴族配下の騎士団兵が知矢の存在に気が付き声をかけた。
「只今戻りました、お役目ご苦労様です。 この三人は同行の仲間ですよ」と挨拶を交わすと即
「それでは皆さんこちらから場内へお進みください」と長い列を素通りさせラグーンへと検査も無しで入場を促すのだった。
兵に誘導される様に入場した一行は
「おいどうなってんだ。貴族相当ったってこんな待遇有り得ないだろう。見てみろ後ろを」
ガンツは知矢へ有り得ない待遇だと言いながら今通り過ぎて来た門の検査の列を指さした。
「おいわしを誰だと思っている。マリドール準男爵当人だぞ。わしまでこの様な厳格な検査をするくせにさっきの冒険者は何故優先的に通すのだ! 責任者は誰だ」
知矢達一行が優先され準男爵本人が一般人と同様の厳しい検査を行ける事に怒り出した光景が見えたのだった。
「あははははっ・・・何故だろうな・・・」
知矢はそ知らぬ様な顔をしながら僅かに汗を流しながら
「それよりさっさと行くぞ」と足早に門を離れるのだった。
一行はまず依頼完遂報告をする為冒険者ギルドへと脚を向けた。
大きな扉をくぐるとそこには時間柄多くの冒険者がみられる。
依頼を終えギルドの受付に報告をし報酬を受ける。先ずはこれが一番重要だ。
その後は新たな依頼を求め依頼掲示板を物色する者や仲間と協議する者、他の冒険者やパーティーと情報交換をしたり既にギルド併設の食堂で食事や酒を飲み始める者等様々だが一番活気のある時間ともいえる。
そんな人ごみの中を依頼報告の為ガンツを先頭に専用受付へと向かう一行に知矢は最後尾から着いて行った。
「オイ、トーヤがいるぞ」
「こんな時間に珍しいな」
「今日はニャアラスさんと一緒じゃないのか。それも珍しいな」
「一緒にいる若いのはあああれか 『俺達はすぐにAランクだ』 って息巻いている粋の良い奴らだが今日も無事戻って来れたようだな」
「何か仕出かしてトーヤに絞められたかな」
「いやあの顔つきからすると無事依頼達成って顔だ」
知矢の耳には周囲から勝手な言葉が聞こえるが悪意に満ちた物でもないので放置する。
「依頼報告に来た。Eランク冒険者のガンツとその仲間だ。キリングパンサーの討伐を達成だ」
依頼報告の受付窓口で順番が来るとガンツは勇んで報告を口にする。
「ハイ、依頼達成ですね。ええとEランクのガンツさん他三名、あっこれですね。」
依頼受付書面の確認をしたギルドの受付嬢は 「では達成確認を致しますがキリングパンサーの大きさですのでそちらから解体エリアへお回りください。」と書面を渡し脇の出口から奥へ廻るよう指示した。
「了解した。じゃあ行こうぜ」ガンツは書面を受け取りと胸を張りながら冒険者の間を抜け脇の出口へと急いだ。
「おいおいあいつらとうとうキリングパンサーまで仕留めたってよ」
「三人でか、無理だろう怪我を負った風もないし。トーヤが手を貸したんじゃねえか」
少し騒然としたギルド内にそんな声が聞こえてきたのを耳にしたガンツが眉間に皺をよせ鋭い目つきで振り向くと周囲を威嚇する様に視線を巡らし 「てめえ!・・・」その瞬間
「皆、聞いてくれ。今回のキリングパンサー討伐は確かに俺は同行した。しかし実際刃を振り魔法を撃ちこんで事を成したのは彼ら三人だけだ。
俺は後ろで見ていただけだ、これは保証する。 そして彼らはなんと同時に2体のキリングパンサーを仕留めて見せた。 その手腕は評価に値する」
知矢は周囲に聞こえる様に自分は手を貸していないことを宣言しガンツ達の手柄だと宣言した。
すると周囲から拍手が起こり
「お前らやったな」
「若いから心配だったがすげえな」
「これでやっと一人前の冒険者だな」
「いい気になって死ぬなよ。早くDランクに上がってこいそうしたらレイドを組もうぜ」
周囲から称賛の声と惜しみない拍手を受け気勢を殺がれたガンツはその声に顔を赤らめておどおど周囲を見回してしまう。
マリノスとマジコは少し恥ずかしそうにうつむき加減で周囲を見ながら軽く頭を下げるのだった。
その称賛の場から逃れる様に移動した彼らは解体エリアへと急ぐ
「トーヤ、お前あんな大声で言ったら恥ずかしいじゃねえか」そんな事を口にするガンツだったがその表情はそれほど悪くはない。
「事実に対する皆の評価だ、気持ちいものだろう。それに今回の件で解ったんじゃないか」
知矢はそんな事を口にしてガンツ達を見る。
「ええ少し私の中の冒険者たちへの評価が変化しました。」マリノスは考える様に言う。
ガンツ達は確かに勢いに乗った冒険者であったし貴族社会で生まれ育ちいささか他の冒険者何する者ぞ、と言うおごった言動行動が少し垣間見れていた。
そのせいか他の冒険者たちは彼らに積極的なアドバイスや指導を行う雰囲気では無くその行動を少し離れたところから様子を見て心配していたのだった。
一見冒険者と言うのは他者を蹴落とし自分達の利の為に行動する様に思われそうだが実際は冒険者同士助け合う互助会的な構成と上級ランク者が下位の冒険者を積極的に指導監督するのが当たり前の世界である。
このシステムは冒険者ギルドの成り立ちを以前紹介したがその歴史の中培われた物である。
弱い者、未熟な者、無鉄砲で危険なやり方をする者。そういった者達が命を落としたり大けがを負いまともに生活できなくなるようなことが無いようにする。これが冒険者ギルドの役割でありそこに所属する冒険者たちの気概である。
稀に粗暴で利己的な者もいるがそういった者は指導教育されるか犯罪者へ落ち司直の手に委ねられることになる。
そうならない様にすることの表れがランキングシステムとランクシステムである。
ランキングシステムについてのお話はいつか別の機会に。
「さっき誰か言ってた 『 これでやっと一人前の冒険者だな 』 って」
マジコが呟く
「今までは認められていなかったって事か・・・」
ガンツはハッとして俯く。
「わかった気がします」マリノスも言葉少なく理解したようだ。
ガンツ達は今まで地道に活動しながら今回の知矢のように下位や初心者冒険者を見かけると声をかけ手を貸すことや指導アドバイスを行う事はあった。
それはギルドとしても上位冒険者としても歓迎すべき行いだと評価していた。
しかし逆にガンツ達は上級者へ教えを乞うたり指導を受ける事をかたくなに拒否し自分達のみでの活動に終始していた。
これを離れてみていた冒険者たちは 『壁に当たり痛い目を見なければ良いが』 と心配していた。
”他の者、上位の者の話に耳を貸し自分たちの間違いを指摘される事を素直に受け入れる”
これは中々自信家の者や小人には受け入れがたい事であった。
しかしそれを受け入れ無い者には破滅が待っている。これは長い歴史が証明している。
しかしそれを受け入れ新たな知識と経験を積んだ時やっと冒険者としてのステージへ上がったとされ周囲にも認められるのであった。
今回勘違いから知矢を仲間に引き入れたガンツ達は僥倖であった。
Aランクそして貴族相当伯として目の前にその身分を明かした知矢の言葉を受け入れるしかない状況に追いやられた三人だった。
それが功を奏し知矢の指導のもとに今回の依頼を達成できその事で周囲の冒険者に認められた時、やっと自分たちの立場に気が付いたともいえる。
何より事実、恪上であったキリングパンサーを2体同時に討伐を達成できた事実はゆるぎない。
自分達だけでは獲物に遭遇する事も出来ず一つ間違えれば2体同時に襲撃を受け全滅していた事さえ想像できたのだ。
周囲の祝福を受けた時3人は理解した。
「「「ここからが冒険者のスタートだ」」」 と。
理解し受け入れたことに寄り急に恥ずかしさもこみ上げ言葉少なくなった三人へ
「おいさっさと報告に行くぞ! 終わったら祝杯だ!」
知矢は三人の背中を押す様に活を入れるのだった。
ギルドを出た後さっさと前を歩く知矢へ少し気落ち気味のガンツが声をかける。
「トーヤ、どこへ行くんだ。食事ならあっちの商店街の方が良くないか」
「ああ、せっかくだから俺の家へ行こう。さっき伝言を頼んだから準備は出来ているはずだ」
訳もわからず知矢に言われ従う三人。
大通りを折れ妙に煌々と明るい裏通りを進むと裏木戸には使用人のような恰好をした女性が見えて来た。
「あっ! お帰りです!!」その女性は知矢の事を視認すると慌てる様に中へ飛び込み声を上げるのだった。
「さあ着いた、ここが俺の家だ。裏木戸から出すまんな」と言いながら知矢が木戸へ姿を消すのを追いかける様に続く三人。すると
「「「「「おかえりなさいませご主人様」」」」」
大勢の男女の使用人が声をそろえて頭を下げる。
「ああ今戻った、ありがとう。ゲストの事は伝わっているか」
知矢は羽織っていたローブを脱いで先ほど出迎えに出ていた女性。マリーへと手渡す。
マリーは緊張しながら受け取るとすぐに列から離れローブをきれいにしてクローゼットへ収納すべく動いた。
「知矢さまお帰りなさいませ。伝言を受けご用意整っております」列から進み出たリラレットが笑みを返す。
「じゃあまず風呂だな。おおい早く入って来いよ、先ずは風呂に入りホコリと汗を落とそう。そしたらお祝いに一杯やろうぜ」
呆然と木戸の前に立ち尽くす三人へ声を掛けながら知矢は先に裏玄関から中へ進んだ。
つかさず歩み出た使用人が三人へ「どうぞこちらへ、ご案内いたします」と声をかけるとやっと
「あっああ・・」と少し呆然としながら付いて行くのだった。
チャポーン。静かな空間に時折滴の垂れる音がこだまする浴室。
「おいマリノス」
「何でございましょうガンツ様」
「この風呂屋敷の風呂よりでかいぞ」
「そうでございますね」
「それにあの温かいお湯が出る魔道具・・・いくらするんだ」
「・・・・想像もつきません」
「・・・迎えの使用人の数、うちの屋敷より多いのだが」
「当家も全員を集めればもっと多いかと」
「子爵家が意固地になって使用人を集合させなければ対抗できない数・・・」
「「・・・・・・・・」」
「どこえへ来てしまったんだ俺達は」
「Aランク冒険者と言うのは私共の想像以上に裕福なのでしょうか」
「・・・知らん・・・・・・・」
気持ち良さなのかそれとも考えすぎなのか
この風呂を初めて使うゲストは皆のぼせるまで入る様であった。




