第142話貴族からの手紙 ~「むにゃむにゃ・・もうご飯?」
こんばんは
今夜は更新できました。
では早速 第142話です。
「オースティン騎士伯からの手紙?」
知矢は意外な人物からの手紙に何か嫌な予感に少し渋い顔で考えながら手紙を受け取り封を見るとしっかりとした蝋印が施され間違いなく騎士伯からの物だとわかる。
しかし騎士伯配下の騎士団への剣技の指導以外これと言った接点も無く最近は以前行われたパーティーで顔を合せた以降、特に交流も無い。
オースティン騎士伯も知矢の商店の商品を購入しているお客様だがそれについて何か優遇しろとか値引きをしろ等も無く実際買いに来ていた家令や使用人も一般の市民同様に買い物をして帰っていた。
「で、一体何だ・・・」
知矢はリラレットから受け取った封書の端を丁寧に刀に添えてある手裏剣で開封すると黙って目を通す。
「・・・・・・・・・・・・・」
黙読しながら知矢の顔は読む前は渋い顔だったものが今度は困った顔になり最後は思案顔になる。
「何か無理な要求でも」リラレットが恐れながらと声をかけると
「うーん、そうだな。読んで見てくれ」とリラレットへ手紙を渡した。
両手で押し戴く様にオースティンよりの手紙を受け取ったリラレットは声に出し隣に控えるサーヤへも聞かせる様に読みだした。
「・・『拝啓、新進気鋭の冒険者たる貴殿の活躍をいつも感心しており候。
併せ先日来我が配下への剣技指導には大変感謝するとともに如何に今までの訓練がぬるま湯であり無意味であった事を痛感した事が今後の帝国の躍進の為に大いなる規範となるよう改める鋭意検討を重ねている次第
。先ずもって御礼を述べるべきところ昨今の情勢下に於いて慌ただしい日常に埋没する日々を反省する次第。後日重ねて御礼の品とともに参上できれば幸い。
さてそれとは別に、貴殿が皇帝陛下より新たに屋敷を下賜された件、街の噂によると未だ使用に至らず空き家のままとの風聞有。
これについて良からぬ噂を撒く者もありやと聞くに我が家令によると”事業に忙しく更に昨今の騒ぎでままならないのでは”と申していた次第。
貴殿はこの都市を始め帝国に対する献身的な活躍と共にそれ故多岐にわたる諸事の事柄に忙殺されているのではと老婆心ながら心配致す処。
それにつき僅かではあるが助けになればと思いペンを取った次第。
数日中に我が使用人の内より希望する者をそちらへうかがわせる事などを勘案し貴殿の目に留まる価値を持つべきものか委細構わずご評価願え少しでも貴殿の力になれればとこれ幸い。
では次回又ラグーン城のパーティーにて友好を交わしたくこれにて失礼。
ラグーン騎士伯 ジャン・ダック・オースティン』 」
読み終えたリラレットは黙ってい聞いていたサーヤへ手紙を渡すと知矢が
「どう見る」と一言聞いてきた。
リラレットは暫し思案した後
「オースティン騎士伯様は誠実で実直な方だと聞いております。その通りだとしますと本心より知矢さまの事をご心配になり手を差し伸べたとお見受けいたしますが・・・」
表裏の無い者との評価を下したリラレットではあったがそう言いながらも貴族社会に於いて言葉通り相手を信じることがいかに危険な事かは以前勤めていた貴族家でよう様な事を見聞きして来たメイド長としての経験から素直に受け取れない。
当然知矢もそんな貴族の事はわかってはいたがではオースティンの思惑がどこにあるかを考えなければならなかった。
この手紙を素直に受け取ると
『忙しいのはわかるけど皇帝から貰った物をないがしろにしてるって騒いでいるやつがいるよ。
でも家令が人手が足りなくて忙しいのだろうと言うからさ良かったらうちの使用人を行かせるから気にいったら雇ってあげてね』
といった感じだろうか。
知矢も貴族の使用人が転職を希望してくるだけであれば素直に雇いたいしオースティン騎士伯の好意と受け取りたいところであるのだが。
「サーヤはどう思う」
黙って聞いていたサーヤへ顔を向ける。
サーヤもかつては男爵家の令嬢であったのだ。その中にいた者として受け止め方が異なるのではと聞いてみた。
「貴族の好意のベクトルは常に槍。トーヤ様とはディメンジョンが異なる。」
「・・・?」リラレットはサーヤが何を言っているのか理解が付かない様だ。
「つまり思考の次元も異なり一見好意に見えるその気持ちを受け止めると実はってやつか」
いつもの様にぶっきら棒な物言いでリラレットには理解が付かなかったがサーヤは庶民的な立ち位置の知矢と下級とは言え貴族の席次を持つ者では考え方が大きく異なる事と言いたいのであろう。
経験則なのか貴族社会ではにこやかに手を差し伸べてしっかり握手を交わしたら手には毒針が仕込んであった等と言う話がまことしやかに語られる。
日本で言う処の都市伝説なのか事実なのかこの世界に来て数カ月。未だ貴族社会の片鱗さえも垣間見てはいない知矢にその真意が理解できるはずも無かった。
少ない貴族との接点の一つ、騎士伯のオースティンは知矢の印象では誠実み感じ腹の中で何かたくらむようにも見えない。
「サーヤの意見も参考にあっち側をよく知るやつに聞いてみるとするか。」
知矢は明日の予定にもう一つ加えることを決めリラレットとサーヤを休ませることにした。
「では知矢さまごゆるりとお休みください。」
「トーヤ様おやすみなさい」
2人は知矢へ挨拶を告げ自室へと下がっていった。
「ああ今日も一日ありがとう。お休み」
「さて」知矢はなるべく欠かさない様にしている刀をはじめとする刀剣類の手入れを始めた。
だが最近は特に何も斬る様な場面も無い為”拭い””磨き”そして”油”を湿らせた布で仕上げるにとどめた。
その脇で知矢の行動を見守りながらワキワキ脚を動かしながら知矢の道具で遊ぶ従魔。
その様子を見ながら知矢は(大きくなったな)と少し今後の成長を心配もしながら初めての従えた魔物をやさしい目で見つめるのだった。
知矢は10年ほど前家族で犬を飼っていた事が有る。
生後間もないまだ乳離れもしていないであろう子犬だった。
その子犬は公園の作に荷ひもで繋がれて放置されていたのを役所の係員が保護し引き取り手がいないのをたまたま譲り受けたのがその犬と知矢の家族の出会いだった。
犬との初対面。知矢は「何だか鼻先が黒くて不細工だなお前」と思ったがまだ幼かった息子と妻が犬を欲しがっていたので「これも何かの縁だな」と連れて帰ったのだった。
暖かい優しい家族に囲まれその犬はすくすく育ちいたずらをして怒られることも多かったが基本的に人の言葉をよく理解し頭が良い犬だった。
幼い息子の面倒もよく見てくれあるひ河原で遊んでいた時に息子が一人てくてく離れて行ってしまった事が有った。
その際知矢が「連れ戻してくれ」と言った所直ぐに駆けだした犬は知矢の息子の上着の端を咥え引く様に連れて来てくれたのだった。
知矢と妻は
「「えっ?」」
と言葉が正確に伝わっていた事に驚いたものだ。
そんな犬も19年以上生きたがとうとう老衰で最後は眠る様に息を引き取った。
家族は悲しみに暮れた今でも知矢は忘れることが出来ない思い出の一つだった。
そんな事を思い出しながら知矢は従魔となったゴールデン・デス・スパイダーを見つめながら
「俺とお前はどっちが長生き何だろうな」と呟いた。
「・・・・・『私はキング様のみたいに長生きしてご主人様とずーっと一緒にいますよ』」
と言うが知矢は人族である。精々70か80歳かなと考えながら従魔のお腹をすりすり撫ぜるのだった。
知矢は最高神の力によって若返らせてもらいその時にあと60年は生きられると聞いていた。
そして更に魔法の効力と共に最高神の籠の恩寵でさらに長生きが出来ると言われていた。そんな事は忘れた知矢は
「さて明日も忙しいぞ。寝るか」と自室への扉を開け寝間着へと着替えるのだった。
翌朝知矢はいつもの様に気持ち良い朝を迎える。
階下では既に当番の使用人たちが朝食の準備をしていた。
「「「「おはようございますご主人様」」」」
「おはよう!」
と知矢と挨拶を交わしながら皆がそれぞれの責を忙しく果たしていた。
そんな様子を見ながら席に着くとつかさず知矢の前には紅茶がされた。
「ごっつ、ご主人様おはようござります。こうちゃをおめしあがりくださいい・・・」
ふと見ると今朝の紅茶は知矢の使用人として少し前から働き始めた”丁稚”のマリーであった。
「マりーありがとう」何故か緊張気味のマリーへ礼を言うと知矢は朝の紅茶を一口口にした。
(めちゃくちゃ渋いんだが・・・)そう思いながらも取りあえず一生懸命やっているマリーを叱責する事はせず要望だけ、と伝えた。
「マリーが入れてくれたのか。しかし少し蒸らす時間が長いみたいだな。出来れば蒸らし加減を調整してくれ。もう少し早めがいいかな」とだけ伝えた。
「わっわかりました。もっと早めにしてみます」とだけ必死に答えると両手両足がぎこちないまま厨房へと戻っていった。
(何緊張しているのかな?)知矢は不思議に思ったがそおっとしておくのだった。
そのごニャアラスや使用人を交え朝食を食べた知矢はリラレットへ後を頼み外出をするのだった。
「あの二人はまだ起きそうにないか。まあ疲れも溜まっているのだろう寝かせておいて様子だけたまに見といてくれ」
と起きてこないミサエラとコルサミルの事を頼んで出かけるのだった。
「「「「「行ってらっしゃいませご主人様」」」」」
裏木戸内に並んだ使用人たちに見送られ知矢はニャアラスと店を後にした。
「トーヤはどこに行くニャ」二人は肩を並べる様に裏通りを話しながら歩く。
「おはようございます」知矢は見知った近所の者と合う度に挨拶を交わしながら進む。
「今日は先ずあの二人の件で伯爵の所と思っていたが昨夜の今朝だ。まだ結論が出ていないだろうからあちらからの連絡を待つことにするよ。だから冒険者ギルドで少し用があるからそっちに行くことにするかな。ニャアラスはどうする。一緒に行くか」
角を曲がり大通りへ出て早朝から商売を始めている店をのぞきながら歩を進める。
「ニャア、俺は今日は仲間に用があるニャ。暖かくなり始めたら故郷から子供たちが来るニャ。色々みんなで準備をするニャ」
ニャアラスは自らの得たお金と仲間たちのお金を併せ故郷の街から獣人族の子供たちを大都市へ呼び寄せしっかりとした教育を受けさせることを以前から計画していた。
「俺たちは都会ですぐ騙されるニャ。だから子供の頃から狩りや戦いだけでなく勉強もさせるニャ」
過去に獣人族の者が多く金銭トラブルや契約トラブルで苦い思いをしていた。苦いおもいだけで済めばよいがそのせいで命を落とすことに成ったり、時には奴隷へ落とされたりすることもあった。
それらの経験からニャアラスたち大人が若い世代の為に獣人族の新たな取り組みを始めたのだった。
それには多くのお金がかかった。
それをコツコツ働いて稼ぎ出すのは並々ならぬ努力を必要としていた。
そんな時ニャアラスは”「トーヤ! 狩りに行くニャ!!」”と街道付近へ現れた六角獣討伐の依頼で一攫千金を目指していた。
けっか依頼料の増額はしたものの希少価値のある大森林の魔獣を捕獲し売りさばいて大金を得る事は出来なかった。
目論見が崩れ大金を得られなかったニャアラスへ知矢は自分が出資しようとも思ったが獣人が施しを受けたとプライドを傷つけてはいけないと思い一方的に金銭を押し付けることは避けた。
しかしその代わりと言っては何だがその後の細々とした用や狩り、時に知矢の代わりに商店にいてもらうなどを頼む様にしていた。その報酬と言う形でまとまった金額をニャアラスへ提供する事にした。
しかしやはり当初ニャアラスも
「こんな大金分は仕事してないニャ!」
と受け取りを渋ったが知矢が商売で得た利益や魔鉱石発見の報酬を都市の人々に還元する目的がある事や教会の孤児たちへ寄付をした事、不幸にも奴隷落ちになった者へ手を差し伸べる事、都市の衛生改善事業や治安維持にも資金を提供するつもりだと話した。
その一環として子供たちへの教育を推進する必要も含まれるんだとニャアラスを説得し資金を提供したのだった。
そのお陰もあり仲間同士で稼いだお金と併せて呼び寄せる数十人の子供たちを受け入れる準備をすると言う。
「じゃあまたな。時間が有ったら店へ顔を出してくれ」
途中でニャアラスと手を振りながら別れる知矢だった。
そのまま知矢は東も門の方向へと脚を進め冒険者ギルドへとたどり着いたのだった。
朝一番と言われる冒険者の集団があふれる時間から幾分遅い時間だが未だギルドの中は多くの冒険者が依頼掲示板を物色したり、依頼を受けるべく窓口のカウンターへ並んだり。他の冒険者と情報交換か、熱心に顔を突き合わせ話す姿などがみられる。
知矢は真っ直ぐいつもの様にニーナが控える奥のカウンターへと向かったがその時
「オイお前」後ろから声を掛けられ肩を掴まれそうになった。
しかし知矢はその手が肩にかかる前すいっと足捌きで体を躱しながら振り返り声をかけた主の方へと向き直る。
するとその声をかけた者は知矢を掴もうとした瞬間躱されバランスを崩し前のめりに知矢の脇を転がったのだった。
トラブルの予感・・・




