第141話 新たなる趨勢(すうせい) ~『むにゃむにゃもうお腹いっぱい・・・』
数日空きましたが今夜は投降が叶いました。
では第141話どうぞ。
「おいひいおいひい~ガツガツガツ!」
「ひょんと・・・モグモグ・・・美味しすぎる、グビグビ」
知矢の住まい、魔道具商店へ連れてこられた二人の女性。
ルドマリッド人民共和国から来たミサエラとコルサミルは疲れのせいなのか慣れないせいか風呂で半分溺れそうになっているところを様子を見に来た使用人によって助けられた。
今はそんな事も無かった様に目の前に用意された夕食のご馳走を正に言葉通り貪り付いている。
聞いた所、酒も飲める様なのでビールを出すとグビグビ呑むわ出された食事は出された端からどんどん食べつくしている始末だ。
だがそんな彼女たちを知矢とニャアラス、そして控えている使用人たちは生暖かいまなざしで見守っている。
因みに彼女たちへ出された本日の夕食は
・角うさぎのシチュー
・グレートボアの香味野菜オーブン焼き
・根菜とチーズ、フルーツを散りばめたサラダ
・ベーコンとソーセージそして青菜のソテー
・揚げ芋
・肉天うどん
・野菜たっぷりフレッシュジュース
・ふかふか焼き立てパン
・アリの実
そしてビールにワイン
さらには彼女たちの希望で
・パンケーキクリーム添えフルーツ山盛り4段
が供された。
「ああ~もう食べられない、幸せで死にそう」
先日洞窟でのご馳走の時のようにとても女の子がやってはいけなさそうな姿で膨らんだお腹をさするミサエラ。
「ウップ、食べ過ぎた・・・・けど満足」酒も相当進み赤ら顔で幸せそうなコルサミル。
2人とも大満足の様子である。
もちろん知矢は食事対してはきちんと釘を刺しておいた。
「いいか二人とも。今夜はご馳走を思う存分食べてもらう。遠慮はいらない。
だがな、いくら帝国が南の国より飽食で特に俺の使用人が作る食事は美味しく珍しい物も多いがこれが毎日存分に食べられるとは思うなよ。
今日は特別だと思ってくれ。
まあお前たちの今後の行く末が決まるまで仕事に就く訳にもいかないだろうからここに住んで構わないし食事も提供しよう。だがご馳走は今夜だけだ。
それだけは忘れないでくれ。」
「ハーイわかっているわ」とお腹をさすりながら気怠く応えるミサエラ。
「やっぱりそうよね。特別だったのね。」赤ら顔のままご馳走の味を思い出す様に虚空を見上げながらコルサミルも答えた。
その後疲れている二人は使用人に誘導され重そうな足取りで与えられた部屋へと姿を消す。
「じゃあ遠慮なくお世話になるわね」
「夜中に忍んで来ちゃだめよ」
勝手な事を言いながら姿を消した二人だった。
「ニャアトーヤ」ニャアラスが少し酔いが回って来たのかこちらも少し気怠そうに話し出した。
「伯爵さまがもし許可しないとどうなるニャ」
ニャアラスが心配しているのはあの二人の行く末であるが先ずは当初の目的”精霊魂石”へ封じられた精霊を無事、穏便に開放する事だ。
しかし今問題になっているのはその精霊を開放後に亡命をしたミサエラが希望する冒険者として活動できるかと言う事である。
皇帝令により帝国内における精霊を強制的に使役する事を禁じる命令書が過去に発布されている件を『この者の行為は強制使役では無く精霊と親しくなった者がお願いしてその力を貸してもらう”精霊への願い”です』と言う聞く者が勘違いするかもしれない言葉の違いのように聞こえるがその実は全く異なるのだ。
しかしそれが理解されなければ精霊使いとしてミサエラはこの帝国で冒険者として活動できない曳いては生活の糧を得る手段がなくなるのだ。
その状況で精霊開放だけをさせておいて後はダメとは言えないしそんな事になったら彼女の将来をもつぶすことになる。
彼女もそんな一方的だけ都合の良い話を受けるはずもない。
それが解っているニャアラスは心配顔なのだ。
「そうだな。精霊開放が出来ない、彼女も冒険者として生活できない。誰も良い事が無いな」
ニャアラスは「ダメでもトーヤが一発かませば許可が下りるニャ」と言っていたがたまたまアンコール伯爵と知己を得互いに助け合う?様な出来事があり貴族との縁が出来たが知矢としては権力者とは距離を置き静かな老後をのんびりと過ごすのが目標だ。
それなのにどうしてこうなるのか知矢曰く「解せない」のであった。
「ともかく明日伯爵を表敬訪問して話を聞いてくる。
その場で許可が下りれば良し。時間がかかるなら仕方がないあの二人はしばらく居候させておこう。少しうちの仕事を手伝わせても良いしな」
と知矢はここで答えの出ない議論を打ち切り既に寝始めているボンタを揺り起こし「オイお前もまだ病み上がりだ早く休め」と部屋へと戻らせるのだった。
その後しばらくニャアラスと酒を飲んでいた知矢も(俺達が起きていると使用人達も寝られないな)と思い酒を切り上げて休むことにしたのだった。
以前はニャアラスは客間としていた部屋で休むことが多かったが冒険者ギルドのニーナと同じく頻繁にこの魔道具商店へ泊る事が多くなったので今では2人とも決まった部屋を持っていた。
知矢と別れたニャアラスは「おやすみニャ」とその部屋の中へ消えていった。
「さて何か報告がありそうだな。遅くまで待たせて済まない」
ニャアラスと別れた知矢は私室の手前に設けてある前室を仕事用の打ち合わせや書き物が出来る言わば”書斎”とでも言うのだろうかそう言ったスペースを設けてあった。
その部屋に置いてある重厚な一枚板で天板が作られているデスクの椅子へ腰かける知矢。
目の前には総支配人のリラレットと補佐もしくは知矢の秘書的な立ち位置のサーヤがいた。
「知矢さまにはお疲れのところをお時間頂戴いたしまして」と頭を下げるリラレット。
「でもトーヤ様はこういう時間でもないとなかなか捕まらない」とサーヤ。
「いやこっちこそ二人とも遅いのに済まない。確かにやる事が多いし出かけてばかりだからな」
サーヤの言葉に苦笑いの知矢であった。
だがこの二人に大きな負担をかけているのも確かであるしこの二人がいなければ店の運営も使用人の差配も近所との関係も何もかもが滞るのだ。本当に知矢は感謝していた。
「では早速でございますが」とリラレットが話し始める。
彼女の報告は店の経営状態や不足するであろう物資の補給の件。使用人の配置や今後の運営に関する報告が主である。そして
「知矢さまが教会の司教様へお話をして頂いた当商店への就職希望者のリストが届いております。2つの施設を併せ男女26名ですが出来ますなら全員を雇いたいのですが」
リラレットとは先日も相談していた人手不足解消の為今までは奴隷取引商会から購入していた奴隷を今回は孤児たちを直接雇う方策を検討し孤児院を併設している母神デミレサスを信奉するデミス教のマベラス司祭へ願ったのだった。
教会としても孤児たちが信用できる働き口を探していた事もあり仕事の内容を説明し希望者を募っていた。
その希望者リストが届いていたのだった。
「26名か。個別に面談とかしなくていいのか」知矢は日本にいた頃の感覚で尋ねた。
「はいその必要はないと思います。教会の方でも紹介する者達の選別を行ったうえでの希望者です。いざ働き出して向き不向きも多少あろうかと思いますが研修教育を行った後、適材適所で対応したいと思います」
リラレットはこの商店やうどんの屋台そして食堂運営と知矢の事業が今後も多岐にわたり増えて行く事も視野に入れ多彩な人材と共に当然人数を確保するのも大事であると思って全員の採用を進言した。
それに知矢には皇帝陛下より下賜された新たな住居。住居と言うより屋敷がありその維持管理にも多くの人員を必要としている。
正直採用はこの倍の人数がいても良いとさえ思っていた。
「そうかなら採用の件は了解した。事後は任せたいが」と知矢得意の丸投げであるがリラレットは了承を得られたことに満足し「はい、お任せください」と頭を下げるのだった。
「ではサーヤの方は」とリラレットとの話が一区切りついた知矢は黙って控えていたサーヤへ顔を向けた。
「この店裏で工作しているだけだと無理。外注に出したい」といつもの通りぶっきら棒な口調で話す。
サーヤが言うには各種魔道具の制作は今まで順調に行って来てはいたが一番売れ筋の魔道具は簡易な作りの比較的安い値段設定の物が多く形だけ作ればあとは知矢の魔法を定着・付与させれば完成だ。
しかし簡易な少額の魔道具の売り上げは今も順調ではあったが魔道具の普及に伴いより高額の魔道具、特に光の魔道具は貴族や大商会などがこぞって買い求めていった。
しかしこの高額の魔道具は基本的な魔法の貼り付け・付与に関して知矢の手間はほとんど変わらない。
だが高額商品はその装飾やデザインに凝った物が”売り”だ。
その為部品点数が多くその部品1つ1つの加工に手間もかかり量産には向かない製品である。
その為標品のラインナップとして入手しやすい安価な物から高額でデザインや機能に凝ったものを用意はしたがそれほどの需要があるとは想定していない商品だった。
地球で言う処のシャンデリアの様なその高額商品は1台制作して見本の飾りとして華やかさで十分役割を果たすと思っていた。
しかしいざ蓋を開けてみれば勿論ダントツの売り上げは安価な製品であるが例えば玄関灯や廊下の照明にも使えるブラケット形状の物でも中金貨一枚はするのだったが毎日完売。しかも数日おきにしか販売されなかった。
シャンデリア状の物は大金貨4枚から最高級品で大金貨8枚もするのであったが購入希望者が殺到し予約だけで製品の引き渡しは数カ月先となっていた。
因みに予約の場合知矢の商店では全額前払いの条件を課していた。
それ条件を飲めないものには一切販売をしない。それでもバックオーダーの山が出来ているのだから驚きである。
「なるほど。効率から言うと最適だな。だが受けてくれる工房や職人は居るのか」知矢は部品の外注を了承したがその宛先を心配した。
「いる。ワイズマンがもう話を付けてきた。トーヤ様の了承が出次第発注を始める。」
知矢の使用人で元々はこの都市で運送業を営んでいたワイズマン。その昔の仕事柄顔も広く多くの工房にも出入りしていたことが今回役に立ったのだ。
「そりゃあ手回しが良い。よしじゃあその方向でいこう。出来れば安価な物も全て外注に出せばその分皆の手間も省け他のことが出来るな」
知矢はこの際だから一切の制作を外注に出し商店では販売のみに特化する事に転換した。その方が勿論効率も良いが工房に出すことのメリットは品質の向上や安定、そして商店の財務的にたまりにたまった金貨を放出し都市の人々へ利益の還元も出来ると考えた。
そこで疑問が出てくるのではないだろうか。
魔道具が外注で大量生産をすると言う事はその出来上がった製品に魔法を貼り付け・付与する知矢の手が間に合わなくなるのではと。
実はこの件は初期段階から危惧し解決方法として”印字”する方法がサーヤにより研究されていた。
つまり知矢の魔法を印鑑の様なものに込めそれを道具に捺印する様に魔力、魔法を貼りつけていけないであろうかと言う考えだった。
これはサーヤによって具現化は出来なかった。理論は考えたが実験しようにもその魔法を使えるのが知矢だけであった為実用化が進まなかったのである。
しかしサーヤにより理論構築を行い、知矢が手の空いたときにそれを実証実験する事を繰り返しやっと実用化の目途がついたのだった。
詳細は省くがその大きな印鑑状の器具へ知矢が指定した魔法の貼り付けを行う。魔力付与はさらにその上から別の印鑑で重ねる事により実現した。
これで知矢が留守にしても製品の生産が止まることが無くなり知矢としても大助かりである。
ただし無限に捺印は流石に無理であり1つの魔法の印鑑へ魔力を込めるとおおよそ100回は捺印可能である。
その種類と用途に分け数十の魔法の印鑑を作り知矢はせっせとそれに魔力を込めるのであった。
こうして魔法付与も効率を上げ製品の生産にも目途がついた事で今後の使用人の配置や仕事内容が大きく変化する事になる。
そして第3次まで購入した奴隷達そして今後就職が決まった孤児たちと併せ益々大所帯になる魔道具商店、知矢の家族であった。
「それと知矢さま」リラレットが再び話し出す。
「騎士伯のオースティン様よりお手紙が届いておりました」と知矢のデスクにある木製のトレ-から一通の封書を取り出し知矢へと差しだすのだった。
「オースティン騎士伯から?」
知矢は意外な人物からの手紙に何か嫌な予感に少し渋い顔で考えながら手紙を受け取りのだった。




