第140話 法律と令 ~「二人とも遅いな」 「キャー茹ってます!」
今夜も書き上げました。
昨日よりは早くかけてホッとしています。
毎日が綱渡り~
では第140話 どうぞ
「でも精霊さんがいないとあたしは何もできない只の役立たず。
軍にもいられないし働くことも出来ない。
ご飯も食べられない・・・だから今まで・・・・」
精霊魂石に封じられている精霊の開放の方法を問うた知矢。
それ痛いし長く沈黙をしていたミサエラは故郷の事、精霊の事、軍の事そして自分と精霊の関係などをぼつりぼつりと告白するように語ったのだった。
それを黙って聞いていた知矢は
(つまり精霊がいないとこの人は何もできない、無力だと言う事か。ステータスを見ると精霊を無しにして冒険者が務まるとも思えない。さて彼女の行く末をどうしたものか)
知矢はミサエラとコルサミルを亡命させ本人たちの希望通り冒険者にして生活させようと考えていたのだったがミサエラの告白からそれが困難なのではと精霊を開放させた後の事を考えていた。
その時
「ミサエラ、何言ってんのよ。簡単じゃない」
隣で同じく黙って話を聞いていたコルサミルがミサエラを励ますような口調で言い出した。
「えっ」
「だってあんた精霊魂から精霊を開放できるでしょ」
「・・・勿論できるわ。でも開放して精霊さんがいなくなったら私は何もできない只の役立たずよ。冒険者になるなんて言ってたけどあんたみたいに剣が使えるわけでも攻撃魔法が使えるわけでもないし・・・」
「だから!何言ってんの。精霊を開放したってあんたはあいつら山の一族と違って精霊が喜んで寄ってくるんでしょ。ならあんたは今まで通り精霊使いとして生きていけるじゃないの。そしたらこのトーヤと約束した通りあいつらの精霊だけ開放すれば無事約束を果たしたことになるでしょ!」
コルサミルはそう言いながら知矢を振り返る。
「確かに。俺達からの依頼は既に捕縛されている工作員が所持していた精霊魂石が暴発して怒り狂う精霊が都市で暴れる事のないようにしてもらう事だ。問題が無いならミサエラの精霊をどうこうするつもりはない」
知矢はコルサミルの意見に賛同したが一抹の懸念はあった。
「だがそこで問題が無いか確認したいのだが、モンドール。俺が聞いた話だと帝国では精霊に関する制約があったに聞いていたんだが」
知矢に話の主導権を譲り任せて黙って推移を見守っていたモンドールへ聞いてみた。
「そうですな。確かに精霊を使役、強制的に操るルドマリッドの精霊の扱いを知った皇帝陛下が禁止を通知しています」
この世界に於いて精霊は神の使徒または神の使いもしくは神に仕える奉仕者と考えられていた。
そんなん存在を相手(精霊)の意思に関わらず強制労働させるなど神への冒涜でもあると考えるのが一般的でもある
そう言った観点からこのギルバルト帝国に於いて精霊を使役する事を禁じた令が過去に出ていたのだった。
「あたしは強制使役なんかしないわ。精霊さんにお願いして力を貸してもらうのよ」
ミサエラが山の一族とは違うと訴える。
「そうだな。確かに話を聞くと使役では無く友好的な関係に思える。俺の従魔契約と同様にな」
と知矢は肩にのり大人しくしている従魔ピョンピョンを指で撫ぜるのだった。
「・・・・・『ハーイ私はご主人様のそばにいたいからで~す』」
従魔も知矢の頬を前脚でスリスリト好感を示すのだった。
「その”令”はどの程度の強制力なんだモンドール。俺の感覚だと単なる通知に聞こえるのだが」
「そうですな。その辺りは正直明確ではないのです。ですが前例で解釈すると皇帝陛下の出した令に反するものが殆どいないので、確かに罰則規定は明記されていなかったと記憶しますが」
モンドールも歯切れが悪かった。
このギルバルト帝国の成り立ちは以前にも記したが南の大国ルドマリッド人民共和国の侵攻に対抗するために小国家や小国家群が互いに手を取り協力しながら対抗してきた経緯の延長線で建国した。
その際、犯罪処罰や刑事警察に関する事は憲法として定められていた。
しかし長く国家を運営する過程で種々の問題が発生するたびにそれに対して新の規定や憲法の追記等、条文の補足を行ってきた。
これは知矢のいた地球であっても同様で初めから何もかも詳細に規定された法律が完璧に作られるなど有り得ないのだから。
そして法律の定める規定以外に手続き上の問題もあったのであろうが皇帝の意思で規制、制約を発する事の出来る”令” 皇帝発令という手続きがあった。
言葉の通り皇帝が自ら勘案した結果発する命令であるが帝国議会や市民会議、都市議会を通さないで発行できる決まりである。
勿論その内容は後日議会等で審議され憲法や帝国法へ明記されることもあるが内容によってはわざわざ明記するほどでもない反対意見など特にない場合に運用されていた。
基本罰則規定なども付帯されず主に対ルドマリッド様に発行されることが多かった。
要約すると『奴らの行為は悪い事だからまねしない様にね』と言う感じであろうか。
しかし法律に明記していないとはいえ公に発行された皇帝令を安易に破るわけにもいかないのだった。
「これはアンコール伯爵様と協議が必要ですな」
モンドールは直属の上司である帝国法にも意見を出せる立場、伯爵へ確認が必要だと態度を保留するのだった。
難しい話に付いて行けないニャアラス、ミサエラ、コルサミルは不安そうな顔をするばかりだった。
「仕方がない。法を簡単に破る事は出来ない、それが法治国家の基本だ。法を守れないものは法にも守ってもらえないのだからな」
と知矢が法律の基本だと述べる。
知矢は法律など人が作った方便みたいなものだと思ってはいたが日本にいた頃から法治国家の住人としてもちろん法に準じていた。
如何に政治家や官僚が都合よく己の欲の為に小細工をする様な事が有ってもその法律の基本は守るべきであると思い。
「よし!じゃあモンドール伯爵様の事は任せた。出来るだけ良いようにしてやってくれと俺が言ってたと伝言を頼む」
その言葉にモンドールは「はいトーヤ殿が申していたとよく伝えます」と強く頷くのだった。
「じゃあお前らは俺達について来い。今日の宿へ案内する。ニャアラスも来るだろ。一杯やろうぜ」
「ニャア、旅から帰ったら宴会だニャ」ニャアラスは楽しそうに笑顔を魅せる。
「宴会は興は無理だろ、こんな時間だ。夕食食べながら飲もうぜ」
「まあそうだニャ。ついでに俺も泊まっていくニャ」
「おい二人とも、結論だ出るのに時間がかかりそうだ。ともかく夕食と寝るところだな。行くぞ」
知矢とニャアラスはミサエラ達に声をかけ先に部屋を出て行く。
「ねえあたしたちどうなっちゃうの」
「さあ、でも・・悪いようにならないでしょ。ほれさっさと行かないとおいて行かれるわ。今日は久しぶりに屋根のあるところで寝られそうだし、行こうミサエラ」
とコルサミルはミサエラの背中を押して知矢達を追うのだった。
知矢とニャアラスについて都市を歩く二人。
「うわあやっぱり人が多いのね」
「それに治安も良さそう。女性や子供が一人でこんな夕闇の中を歩いているなんてね」
「それに角々に兵士がいっぱいいるし」
「夜なのにこんなに灯りを付けて屋台やお店が商売しているのは何故」
「ホント、何あの明かり。ランプより全然明るいし。魔法なの」
「それに着ている服も皆それぞれ違うのね。色やデザインも綺麗だし」
「人民服と比べたって駄目よ」
大通りを知矢について歩く二人は初めて訪れた帝国の大都市で見る光景に大はしゃぎだった。
それをニャアラスは暖かいまなざしでみている。
「こう見ると全然彼の国の工作員とは思えないニャ」
「ああ楽しそうだ」
「そうだ、ねえトーヤ今夜の宿ってどこ。いくらくらいなの。あたしたち帝国のお金なんか持ってないわよ」
コルサミルははしゃいでいたが急に現実を思い出したかのように聞いてきた。
「安心するニャ。今夜はトーヤの家へ泊るニャ。ご飯もあるから心配するニャ」振り返りながらニャアラスが答える。
「えっあんたん家なの。それってどうなのかな、こうみえて一応女なんですけど」
コルサミルは両手を掲げ自分が女性であることを強調する。
「問題ない。俺の家の半分以上は女性が住んでいる。そうだな13歳位から35歳位だな。食事もボンタを先に帰したから準備できているだろう。おいこっちだ」
と角を曲がりながら知矢が答える。
一本裏の通りへ入ってきた。
以前は夜は勿論真っ暗であり人通りも無い裏通りであった。
今は知矢が無償で寄贈した灯りの魔道具が等間隔で各所に掲げられており昼間の様とは言わないがすれ違う者通しの顔が識別できる程度の照度はあった。
「こんな裏道でなんでここだけ明るいのよ。しかも何あの明るさは」
相変わらず二人は周囲をきょろきょろ見回しながら驚きの連続であった。
「あっ、おーいお帰りだぞ!」
通りの先で子供の姿が見えこちらを視認すると家の中へと駆けこみながら何かを叫んでいた。
「よし着いたぞ。ここが俺の家だ」と知矢とニャアラスに着いて木戸を一歩入ったミサエラとコルサミルはその光景に驚き凍り付く。
「「「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」」」
木戸から入った先には両側に知矢の使用人たちが居並び一斉に腰を折り声をそろえて挨拶する光景が広がっていた。
「みんなただいま。今回も無事帰宅できた。今夜はニャアラスの他にゲストが二人いるからこの二人にも食事と風呂それに部屋の用意を頼む」
使用人の居並ぶ中を歩きながら言う知矢。すると最奥の列から一人一歩踏み出し知矢の前で再び腰を折る。
「お帰りなさいません知矢さま。ボンタさんから窺がっております。ゲストの方は先ずはお風呂がよろしいかと存じますが」
総支配人のリラレットであった。
「リラレット急に済まない。じゃあ悪いがあの二人を案内して風呂を使わせてやってくれ。俺とニャアラスも風呂に入ったら一杯やろうと思う支度を頼めるか」
「はい承知いたしました。ミミ、お二人をお風呂へご案内して。使い方もお教えする様に。マクは他の者を指示して知矢さまたちのご夕食の準備を」
リラレットの指示で各員がそれぞれ散っていった。
「それじゃ後でな」と知矢がミサエラ達を見ると二人は互いに抱き着き合い何か恐れ震えていた。
「何してる?さっさと風呂に入って食事にするぞ」とじゃあミミ頼むと言い残し勝手知ったるニャアラスがすでに向かった風呂へ知矢も向かうのだった。
「お二人ともこちらへどうぞ。」とミミがミサエラ達に声をかけるが2人は
「ちょっとちょっとちょっと・・・・・」
「何よここあいつ貴族だったの」
驚き思考が進まない様子であった。
「お二方」そんな様子にリラレットが優しく声をかける。
「ここはご主人様。トーヤ様が経営する店 ”魔道具商店”の裏玄関です。ささお疲れでしょう主の言もあります、どうぞお風呂へ」とミミを促し二人を風呂場へと誘うのであった。
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カポーン、ピチャピチャ
石積みの腰壁に白い漆喰状の壁と天井。床は切り出した石が敷き詰められ浴槽は大きな木製の長方形の立派な作り。
壁には光の魔道具が取り付けられ眩しくない淡い光が何か所も設置され、壁からはコンコンと新たな湯が流れ込み熱すぎない快適な湯温である。
「ねえあたしたちどこに来ちゃったのかな」チャプンと湯をその着やせする豊満な体で揺らしながらコルサミルは天井を見上げていた。
「どう見ても貴族の屋敷か大金持ちの家にしか見えないよね」ミサエラは目を閉じ湯加減を味わう様に見た目通りの薄い胸を隠すように肩まで浸かっている。
「さっき言ってた『主の店魔道具商店』って言ってたけどそれって」
「ええ、聞いた名前よね。あいつらが襲撃しようとしていた店の名前と同じね。凄い偶然だわ」
「何言ってんのまさに本人でしょ。えっって事はあいつは冒険者でAランクで騎士や兵士を顎で使って大金持ちの商店主?」
「いったいどこの物語よそれ」
「あたしたち何かに化かされているのかな」
「それこそ子供の絵本よ」
疲れからかそれとも湯の心地よさか二人は段々考えるのをやめて心地よい風呂を堪能するのだった。
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「「カンパーイ」」知矢とニャアラスは一足先に風呂から出てさっそくキンキンに冷えたビールを堪能していた。
「う~んやっぱり冷えたビールは最高だ」ゴクゴクと一杯目を飲み干した知矢のジョッキへ控えていた新人使用人がつかさずビールを注ぎ込む。
「ニャア最高だニャ」ニャアラスも使用人に2杯目を注いでもらう。
「兄貴、結構遅かったですけど揉めましたか?」手酌でのむボンタが聞く。
「揉めた訳じゃないがやはり帝国の法治国家としての手続きの問題っていうのかな。まあ何とかなるだろ」知矢は揚げたてのジャガイモの様なつまみを口にしながら楽観的に答える。
「ダメでもトーヤが一発かませば許可が下りるニャ」ニャアラスは好物の魚のフライを頬張りながらこちらも楽観的だ。
「そうっすよね。じゃあ任務無事完了って事っすね。ああ酒が美味い」おそらく解っていないであろうボンタは任務が終わったと思い一安心であった。
「ああそうだボンタ」
知矢が不意に思い出した様にボンタへ声をかける。
「はいなんでやすか」
「お前明日一番にこれを持って教会に行け。そして重ねてお礼を伝えるんだ。これはお礼を兼ねた教会へのお布施だ」知矢は無限倉庫から金貨の入った革袋を出しボンタへと渡す。
「いや兄貴、今回はあっしのミスっすからお布施はあっしが」
「いや俺の指示での活動だ。雇い主の責任ってやつだな。いいから良く頭を下げて礼をしてこいよ」
「兄貴~! わかりやした。心からお礼を述べてきます。デミルサス様へもお参りしてきやす」
そんな自宅へ帰宅した知矢達が安堵してお酒を飲んでいる頃
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処変わって中核商業都市ラグーン周辺を管轄する貴族、アンコ-ル伯爵の執務室。
「モンドールよ今回はちと厄介かもしれんぞ。わしの権ではこの場で決する域を超えておるわい」
知矢が連れて帰った南の工作員の件をモンドールから報告を受けた管理貴族のアンコール伯爵は執事にもてこさせた法令集や通知文の項を探しめくりながら眉間に皺を作りうなりを上げるのであった。
「何とかせんとトーヤ殿にまた怒られる・・・・・」
アンコールの夜は長そうであった。
緊急事態宣言が各所に拡散しているし、相変わらず中国ウイルスは猛威を振るうし
バイクは12カ月点検で帰ってこないし・・・・・
今度の休みは何しよかな・・・・・・・・・・・・
皆さんはお休みの日はどう過ごされていますか。




