帝国の真実とパンケーキ ~ 「兄貴たちは遅いっすね。もう年が明けたっすよ」「・・・・・・(未ださっき行ったばかり)」
はい第135話投稿いたします。
今年2稿目、閑話を挟んで本編は1項目の投稿です。
改めまして本年もどうぞよろしく。
「・・・・・美味しい!!」
一口、二口と食べ終えたコルサミルは誰に言うでもなく呟くのだった。
「若い娘ならどんどん食べるニャ」ニャアラスはうどんを美味しそうに食べる二人へ木皿に盛りつけた串肉のフライを差し出し次には深めの木皿に野菜や肉がゴロゴロ入ったたっぷり熱々シチューもテーブルに並べる。
最初は遠慮気味に食べていた二人だがうどんを食べ終えて串肉のフライに手を伸ばした辺りから遠慮を見せずにどんどんと手を出し始めた。
(まるで欠食児童だな)
(帝国は決まった食事のメニューばかりだニャ。携帯食も不味い干し肉と不味い堅パンそれにそこらの草を入れて塩味だけの草スープが決まりだニャ)
2人の食べる様子を黙って観察していた知矢とニャアラスだったがあまりの食いつきぶりに驚く知矢、だがその実情を知っているニャアラスは淡々と答えた。
しばらく無言で夢中に食べていた南の工作員の女二人であったが流石に知矢達が用意した4人前を食べ付したところで人心地ついたのか皿やスプーンを置き大きく息を吸いながら椅子へも垂れかかている。
どうやら食べ過ぎて少し苦しいらしい。女の子のやって良い姿では無かった。
「どうニャ満足したかニャ」ニャアラスは二人の前へミルクたっぷり砂糖もたっぷりの紅茶を大ぶりのカップに入れ目の前へ置いた。
「・・・はい・・”ゲフッ”お腹いっぱいです。すごくおいしかった」
(おいおいゲフッて・・・品が無いにも程があるだろ)
(南ではゲップは満足した証で出せば出すほど相手に喜ばれるニャハハハッ・・)
知矢はやはり南の大国”ルドマリッド人民共和国”とは相いれることが出来ないなと強く思ってしまった。
それはそれとして
「ニャアラスさんが美味しい紅茶をいれてくださった。良かったら飲め」
そう言いながら知矢はダメ押しの一品を無限倉庫から出して準備する。
「にごった紅茶?・・・うわっ甘い!それにミルクがたっぷり入ってる」
「ホントだ!なにこれこんなに砂糖使うなんて! でも美味しい!」
南では食料も調味料も貴重だ。ましてや砂糖やミルクなど一般庶民が早々口にする事などできはしない。
「気に入ったか。じゃあラストだ、デザートに食ってみろ。腹がいっぱいなら無理しなくても良いがな」
知矢が最後に差し出した更にはミルクと砂糖そして卵たっぷりのクリームが乗りその下にはこれまたミルクと砂糖たっぷりの丸い茶色のフワフワした物が3段に重なっているパンケーキだ。
「えっ?これなに?」
「食べ物みたいだけど?」
2人は腹がいっぱいと言いながら目の前に出された未知の物を見つめて固まっている。
コルサミルと呼ばれていた女剣士が恐るおそる鼻を近づ匂いを確かめると
「うわ凄い甘くていい香りがする!」ビクッと驚いて上半身を椅子へ投げ出した。
「これはパンケーキと言う。まあ食ってみろ」
知矢は何でもない様に言い放ち二人へ勧めた。
ミサエラは驚くコルサミルをちらりと見ながらオズオズと木のフォークを手に取りパンケーキへ突き刺す。
「柔らかい・・・」
先でちぎり口元へ運び一瞬躊躇を見せるも思い切って口へと運んだ。
「!っ!!!・・・・・」
目を剥く様に驚き背筋を伸ばしたミサエラは無言で咀嚼し今度は皿ごと掴みフォークで口へ運んだ。
口いっぱいに押し込み無言で噛み締めるミサエラ。
その様子を見ていたコルサミルもあわてて皿を引き寄せフォークで自分の口へと運ぶと
「なにこれ!!」何度目かの叫び声をあげた
「おいひいおいひい!!!」
「・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
・・
・
(ねえねえ、起きてるコルサミル!)
お腹いっぱいで苦しそうにお腹を突き出しながら擦るその様子はとても女性のやって良い姿ではない。
(生きてるよ・・・苦しい)
ミサエラの小声での呼びかけに何とか答えるコルサミルも苦しそうに半身を横たえだが幸せそうに苦しんでいた。
(・・・帝国っていつもこんなにおいしい物を食べてるのかな)
(こんな野営で豪華な食事何だ家じゃもっとすごい物が食べられるかもな・・・)
(あたしもう草スープなんか嫌なんだけど)
(あたしだって嫌だよ。デザートのパンケーキって言ったっけあんなの一度食べたらもう堅パンなんか家畜の餌だよ)
(どうする?)
(なにが?)
(このまま帝国に・・・)
(仕事はどうすんだよ冒険者にでもなるのか)
(・・・それも良いね。あの2人だって冒険者って言ってるし。冒険者でもこんなおいしいもの食べられるんだよ)
(逃げられるか?あいつら戻ってきて鉢合わせなんて御免だぞ。それこそどんな目に遭うか)
(・・・じゃあさ、あの2人に守ってもらおうよ。それでさどこかの都市まで連れてってもらってさそこで亡命すればいいじゃん)
(亡命か・・・捕まって牢屋とかで拷問されるんじゃねえか。そんな話聞いたぞ)
**********
そんな話を南の工作員が小声でボソボソ話しているのを離れた場所で料理の片づけをしながら聞き耳を立てている知矢とニャアラス。
(ニャ、やっぱりおいしい物は強いニャ!)
(だな、お前に作戦通りに行ってるな。さてどこでこちらの事をばらすかだが)
(今丁度そんな話をしてるニャ)
(ああ、だがコルサミルと呼ばれている方は今一歩悩んでるようにも見えるな)
(トーヤが背中を押すニャ。俺はその手の難しい話は苦手ニャ)
(仕方ないな。ニャアラスが作戦考えてくれたんだ。今度は俺の番だな)
知矢とニャアラスの方は話がまとまった様だった。
**********
片づけを終えた二人は火の魔道具の周りで暖を取りながら寝転ぶ南の工作員の元へと戻りこちらも火に当たりながらくつろぐように話し出した。
「おおそう言えば巡視隊の2人の名を聞いてなかったな」
知矢は今思い出したように言い出すと2人は一瞬ビクッとしたが何も無かったように自己紹介を始めた。
「それは大変失礼いたしました。つい美味しい物に心を奪われて・・・私たちは、えっとあの地方巡視隊で安全を見守りながら地方を回っている、あたしはミサエラです。こっちがコルサミル」
「どうも失礼しましたコルサミルです」
慣れない口調で取りあえず名乗った二人は傍から見てかなり怪しい挙動だが知矢達は何も気が付かぬ風を装いながら話をすすめる。
「そうか役目大義。俺たちは先に名乗ったな一応もう一度名乗っておくか。俺がAランク冒険者のトーヤ、そしてこちらがBランク冒険者のニャアラス殿だ。」
トーヤは少し偉そうに胸を張りながら自己紹介を繰り返しニャアラスをも紹介する。
「「ハハーッ」」姿勢を正し頭を下げる南の工作員の二人はすっかり知矢が言ったA,Bランク冒険者はお前たちよりも上だぞと言う話を信じているようだ。
「さてお前たちは巡視らしいが俺達もラグーンの管理貴族であるアンコール伯爵様から依頼を受けこの場にいる。そうだお前たちが巡視で何か情報を得ていないか」
知矢は伯爵からの依頼だと暗に自分たちは特務で来ており強権を背後に持っているぞと告げた。
「伯爵様からの依頼ですか。情報って言いましたけどあたしたち・・・実は下っ端で上官はちょっと用があり皆と出てて難しい事はちょっと・・・」
コルサミルは巡視隊などと嘘をついた手前詳しい話を聞かれてもなにを答えたらいいのかわからずしどろもどろになっていた。
「いや何それほど難しい話ではない。我々は昨日の事だがこの先にある知っていると思うが中核商業都市ラグーンに於いて捕縛された南の工作員たちの足跡を追ってきた。それについて何か情報が無いかと思ってな」
いきなり核心を話した知矢の言葉に南の工作員である二人は驚愕の声を上げた。
「ええっ捕まちゃたんですか! 痛っ」(馬鹿!)ミサエラの声にコルサミルが頭を叩く
「うん?どうした」
「いえいえ何でも・・えっと南の工作員が何故捕まったんですか、それと何人ぐらい」
「何故って都市へ破壊工作で侵入すれば捕まるのは当然だろう。何人?たしか・・・」
わざとらしく思い出す様に考え込む知矢に
「先に潜入していたのは男女3人だニャ」
「そうそう、その3人が捕縛され追加で朝方破壊工作をするため侵入して来た15人とそれを待ち受けて偵察のため潜んでいたのが7人か。合計25人だな」
知矢は何でもない様に捕まった工作員の人数を告げたが聞いていた南の工作員の2人の心中は・・・
(なによ帰ってこないと思ったらあいつら全員見事に捕まってるじゃない)
(大きなこと言っといてこれかよ。気にする事なかったな)
こそこそ話す二人であった。
「うん?どうした」わざとらしい知矢の演技は続く。
「いえいえ何でも。でそいつらは拷問の上死刑っすよね」上目使いで知矢に捕縛された者達の待遇を聞いてみるコルサミルだった。
「死刑だ拷問だと随分物騒な事を言うな。今まで、過去に捕まった南の工作員、いや帝国に進軍して来た兵士たちも皆捕虜になって拷問だ処刑だに遭う奴なんか居るわけないであろう。
帝国の法は敵に対しても人権の尊重と命の大切さを明記してあるではないか」
さも当たり前だろうと言わんばかりに知矢はこの南の工作員である二人が亡命しやすいように帝国の人権擁護の法について説明した。
「「・・・・・」」言葉も無く驚く二人。知矢は続ける。
「そこでだ捕縛した工作員が漏らしたところによるとこの辺りにキャンプを張って襲撃を準備していたという事で管理貴族からの依頼でそのキャンプ地を確認して何か物が残っていたら回収する様にと頼まれて俺達が来たわけだ。
まあ実はもう既に辺りを付けていてな。」
と知矢はマジックバックを偽装した無限倉庫から先ほど魔力を停止させ確保した結界の魔道具をちらりと二人へ見せながら話を続けた。
「森の周囲を探っているとどうやら結界が施されててしかも森の中は罠だらけだ。こりゃああからさまに怪しいと踏んで探っていた。」
「もちろん危ニャイ罠は全部回収したけどニャ」とニャアラスも話を併せる様にマジックバックから撤去した罠をちらりと見せつけた。
知矢はニャアラスの方をちらりと見互いに目で会話をすると話を続けるのだった。
「でだ、周囲を探しても結界を張る魔道具が見つからなかったのでもう一人表で待っている仲間からの情報でこの洞窟を聞き侵入してきたところ見事魔道具を見つけ機能を停止させたと言う訳だ。まあその後は腹が減っていたので先に腹ごしらえと言う時にお前たちと出会った訳だ」
知矢は二人を見回した。
一瞬ビクッとした二人だったがそれに気が付かない様に今度は南の工作員である二人へと問う。
「まあ、そんな訳だがお前たちはそれに関して何か情報はないか。情報によっては管理貴族様へ奏上して報奨金を出すこともできるかもしれないぞ」
「「報奨金!」」再び驚く二人。
「何をそんなに驚く。役目以上の成果が在れば役目で受ける給料とは別に報奨金が出されるのは当然じゃないか。だから余計に皆張り切って働くのだ。」
(ちょっとちょっと何よ報奨金って。)
(あたしたち給料も満足にもらってないよ)
(それは国民のギムだし。働いて人民共和国へ尽くすのが人と言うものでしょ)
(あんた本気で言ってるの!)
(・・・いやでもだって・・・帝国が人民共和国を害するから食料なくてみんなが必死に我慢して取り返そうとしてるって)
(そんなの嘘っぱちよ。あんたも来る途中見たでしょ、たわわに実る麦の畑や整った畑の様子を何もかも嘘なのよ同志が人民を騙しているのよ!)
とうとうコルサミルも今まで解ってはいたものの自分を押しだましていた感情を抑えきれなくなったようだ。
南の大国、ルドマリッド人民共和国は建国以前より互いに奪い合い侵略し合う小国がどさくさで集まり出来上がった国である。
その政治体制は軍の強権を握る一部の支配体制とその家族や親族が優雅に暮らす代わりに下々の者は働いて得たものの殆どすべてを人民の為と称し国へ吸い上げられてきた。
その事を産まれた頃から当たり前と教育され悪いのは人民の富を奪い隣国、帝国だと喧伝されてきたのだから無理もない。
しかし一歩国を出て街道を歩き都市と暮らす人々を見ると教わってきたことと全く異なるのはすぐに理解できた。
しかし理解できても今まで信じてきたことを打ち消す事とは少し異なる。
だがここで思わぬ衝撃を受けた。
それが知矢から食べさせてもらった食事だ。
口に運ぶのがこれほど嬉しく香しい事が今まであっただろうか。
咀嚼し呑込むのがもったいないと思った事が有っただろうか。
そして腹が食べ過ぎで苦しいという経験があったであろうか。
そんな衝撃を受けたことで今まで自分を必死でだまそうとしていた思いがまるで何か頭の中の感情の防壁がはじけ飛んだような錯覚を受けたコルサミルであった。
2人は知らない。
人民共和国の国民は幼少の頃から擦りこみ教育と共に一種の魔法的処置を施され同志の言う事は絶対だと心と頭に自由な思考と感情を制御されるまさに障壁が施されていたのだった。
知矢から受けた供応、味わった事のない美味しい料理、極めつけは甘美パンケーキ。
その衝撃波人民共和国の高官が想像も出来ぬほど心と思考を揺さぶりついにはコルサミルに駆けられていた魔法がはじけ飛んだのであった。
ミサエラも実は同様に魔法の茨から時放れられていたがその気弱な性格が今一つ感情を押し出すことを躊躇していたのだが心の中ではすっかり人民共和国から解き放たれていた。
「どうかしたのか二人とも」
知矢は(もう一歩だな)と思いながら小声で揉めている二人をさらに揺さぶろうかと考えていた。
「いえ。あの・・・そうそう実はあたしたちこの洞窟のこっち側から入って来たんですけどその穴を出たところに変な物がいっぱいあって」
とうとうコルサミルは言い出してしまった。
(ちょっと!)ミサエラは袖を引くが
(もう覚悟しなさい!また美味しいご飯が食べられると思いな!)
(・・・そうね。わかった任せる)
ミサエラも観念したようだ。
「ヘンな物って何ニャ」
「あっあの、そうそうさっき言ってたキャンプ地みたいな施設がいっぱいあるんですよ」
(ハイ!来ました!これであとは)
(ニャア!精霊だけニャ!)
コルサミルが話を自分から言い出した事で事態が思う方向へ大きく進展したと確信した知矢とニャアラスは最重要課題。
精霊の開放に向けさらにこの二人を上手く持って行こうと考えだすのだった。
(さて先に取り込むか、後でじっくり囲い込むか・・・)知矢は新たな一手を思案中である。




