第133話 新春特番 ~ 「閑話ですね」「閑話じゃの」「閑話なのです」
新年1本目!
酔いながら書いたので変な所が有るかもです。ご勘弁を。
そして無駄に長いです。
では第133話どうぞ
ここは地球世界、日本の関東地区の片田舎。海無し県でございます。
202☆年1月1日、元旦正月
ピーンポーン
「ばーば!来たよ。あけましておめでとうございます」
「いちごちゃん言ったでしょう。今年はご挨拶が違うって」
「あっそうか。ばーばやりなおすね。
きょねんはおせわになりました。ことしもおせわになります!」
「ハイハイ、お世話します!っと。さあよく来たね。
明けましておめでとう。今年もどうぞよろしくね、
さあさあ上がったり上がったり。喪中だから正月料理はないけど普通に美味しいもの一杯作ったぞさあさあ!」
***
「さて良いかい。世間の流儀はいざ知らず、我が家では今日をもって喪をあける事にします。
明日からはあの人の事は頭の片隅のどっかにしまって皆がそれぞれの事にまい進する様に。
わかったかお前たち!」
と自らを鼓舞する様に家族へと宣言した女だった。
そんな知矢が生前、転移前に暮らしていた日本にて残された家族が年を越した頃・・・
**********
こちらは異世界。
通称帝国と呼称されることが多い正式名称
”ギルバルト帝国 ”
そしてその帝国内に存在する幾多の中核都市の中でここは商業中核都市
”ラグーン ”
知矢が最高神によって転移し初めて訪れた地方にある大都市のひとつである。
この異世界での日付、暦の詳細は後日に改めて紹介するとして、この異世界にも年替わり。新年を祝う風習があった。
「さあ、新年大市まで時間が無いよ。皆、段取りを間違えずにね。総支配人から渡された段取り配置票をよく見直して確実に行くよ!」
威勢のいい声を上げ新人使用人たちを叱咤するのは元冒険者で警備担当の女傑、獣人族のミレである。
ミレは肩に鞘に入れた細身の剣を担ぐ姿勢で胸を張り周囲の動きを見ながら声をかけているのだ。
今は新年を明日に控え今日は新年年明けより開催される野外大市の最終準備の真っ最中であった。
この国、帝国中では丁度真夜中、新年を迎える刻、その都市を管理する貴族側からの大魔法を合図に中央広場へ集まった魔法をつかえる者達が各々一斉に大空へ向けて魔法を打ち上げるのが習わしである。
貴族、騎士、兵士、魔導士、冒険者、一般市民に至るまで広場へ参集した者が一斉に魔法を打ち上げるのは壮観、圧巻である。
そしてその後は広場に設けられた屋台や臨時市場で買い物や食事を楽しみながら新たな年へ皆が語り合いながら夜通し宴を繰り広げるのだった。
特に今回は魔鉱石の鉱脈発見で湧くラグーンには近年にない人があふれて好景気であり人出の予想も予測できない程だと思われていた。
そんな新年の市へ知矢が率いる魔道具商店へ管理貴族から屋台の出店依頼が届けられていたのだった。
「リラレット。俺は帝国で新年を迎えるのは初めてなんだがこの”新年おお市”と言うのはどんな様子何だ。」
管理貴族からの手紙を読んだ後執務デスクの前に控える総支配人へ内容を問う知矢。
相変わらず管理貴族からの手紙には読む前から嫌そうな顔をしているのはいつもの事だ。
「ハイ知矢さま。
夜中、刻が移った瞬間、大魔法が 東の大門上から打ち上げられそれを合図に市民も呼応するように漆黒の大空へ魔法を打ち上げそれはそれは美しい色とりどりの魔法の光が大空へと広がります。
その後は大通りや広場へ設けられた屋台で新たな都市を祝うと称し飲食しながら各所に設けられた臨時市場で皆が買い物をしたり広場に設けられた壇上で管理貴族様の演説があったり、日頃は貴族などしか目にする事の出来ない楽団の演奏や貴族や市民の有志が舞台で寸劇を披露するなど朝まで大騒ぎをするのが恒例となっております。」
知矢はどこかの都会や浜辺で行われる年越しカウントダウン花火大会や初市、神社などの門前屋台などを想像していた。
「で、この屋台出店依頼と魔法打ち上げ参加要請って言うのはつまり」
「ハイ、魔法を打ち上げる事の出来る物を一人でも多く集め盛大にしたいアンコール伯爵様の想いかと。
特に知矢さまが大魔法使いであるとあちらは認識しておりますので打ち上げ魔法に更なる華を添えて欲しいとの思惑かと。
それにうどんの屋台は出来れば複数、各所に出店をと願っており添えられた配置地図に依りますとこの様に5カ所ほど示されております。」
そう言いながらリラレット総支配人は知矢へ絵図を差し出した。
「・・・皆騎士団や兵士の待機所付近だな。一か所は本部テントの隣じゃねえか!」
「ハイ、アンコール伯爵様も 『是非ともうどんを食したい』 とのご意向が漏れ伝わっております。」
「・・・不参加だ。
年内商店が店終いした後は全員に休暇と一時金を与える事になっている。皆楽しみにしているだろう。よって不参加だ。
魔法の打ち上げは各自の任意で自由参加で良いが屋台は無理だと断って良いぞ。」
伯爵の伝言を聞いた途端余計にやる気をなくした知矢はそう宣した。
もともと使用人には休暇などの触れを事前に出しており年が明ける2日前から年明け3日間は休みにするとしていた。
そして奴隷身分で普段の給金を殆ど借金返済へ充てている使用人達へは 『これは日頃懸命に働いている皆へ俺から感謝を込めて特別支給のいわば年越しの小遣いだ。借金返済とは別に自由に使ってくれ』と一時金を渡してある。
中にはそれすらも返済へ充てる者もいるかもしれないが知矢は宣する事で自由になる金を得て各自が休みにゆっくりと出かけたり買い物や外で食事などをできる機会を設けた。
日頃昼夜懸命に働いてくれるみんなへ知矢からの感謝の気持ちである。
そんな皆が楽しみにしている休暇を知矢の 『参加する』 の一言で打ち破るなど到底できない。と知矢は考えたのだ。
「そう仰ると思っておりました。 ですが念のため事前に他の使用人へアンケートを取ってありまして」
リラレットは管理貴族から要請があるのではないかと考え事前に使用人達と出店要請があった場合どうするかを参考意見として話をしていた。
「皆一様に 『ご主人様が出店を希望されれば是非とも参加したい』 との意思は確認してあります。」
と知矢へと告げるのだった。
知矢は何だかなと思いながらリラレットを見つめ
「それは俺の命令が在ればの話だろう。じゃあやはり無しで、休みだ、俺は希望しない。
そう伯爵に伝えてくれ。」
「お言葉でございますが知矢さま。」
知矢の決に珍しくリラレットが反意を示した。
「・・何だ」
意外な反応に知矢は執務デスクの前で背筋をキリリと伸ばし眼鏡の奥に見える瞳を輝かせるようなリラレットへ先を促した。
「ハイ、大変失礼ではございますがこの皆の回答には ”是非とも参加したい” と言う思いがございます。
出来ますなら皆の気持ちを汲み取り参加させてあげられないものかと思います」
リラレットの表情は知矢を敬いながらも少し弱弱しかった。
日頃知矢の意向を最大限汲み取り行動するリラレットでありしかもこの休暇と一時金は知矢の使用人たちへの感謝の気持ちが詰まった物だ。それを否定し使用人たちが参加したいのだから認めろと言うのはリラレットにとっては非常に心苦しい事であった。
しかし知矢もリラレットも好意で考えているのだがベクトルが少し異なるだけだ。
「うん? ひょっとして皆は休みが減っても良いから参加して屋台を出したい、と言う事か」
「ハイ! 恐れながらその通りでございます」
知矢に気持ちが通じた事に感激する様に笑顔になるリラレット。
知矢は(やはりまだまだこの世界の感情、思考が理解できていないな)と反省しながら考える知矢。
皆が積極的に参加したいのを止めるのは自分の意思にも反すると思いなおし
「そうか、なら許可しよう。参加は自由だ、強制は無い。屋台を出したい者だけ集めてやってくれ」
と知矢は前言を撤回した。
「知矢さまありがとうございます。皆も喜ぶでしょう」そう頭を下げたリラレットは「では伯爵様へは参加のお手紙を出しておきます」と知矢へ告げてその場を辞したのだった。
*************
「そうですね。やはり可能であれば参加したいと言うのが一般的かと。」
知矢は店を離れラグーン冒険者ギルドへニーナを訪ね先ほどの使用人たちの話した。
ニーナによれば大人から子供まで夜を徹して賑わいを楽しみ空が明るくなるころそれぞれ帰路に付き寝るのが年越しの定番であると。
子供は年に1度の公認夜更かし、しかも特別に小遣いをもらえるのもこの夜ならではであると。そして大人も貴族、市民関わらず夜を徹して飲んだり話したり踊ったり歌ったりと大騒ぎの一夜を楽しみにしているのだと言う。
臨時市場では昨年の売れ残りが激安で販売されるのも常でこの市の為に珍しい物なども販売されると態々遠くの衛星都市や村から大都市へこの為に来る者達もいるそうだ。
そして各地の大都市を毎年順に巡り場所を変えて年越しを楽しむ者も大勢いたりと帝国では最大級のイベントらしい。
そんな話を聞いた知矢は(もっと皆の話を聞いたりしないとだめだな)と”ゆっくり老後”をこの世界でのんびり楽しむにはもっと知らないといけない事を改めて考えた。
「トーヤさんはどうするのですか。”マジックファイヤー”に参加しますか」
マジックファイヤーとは先に述べた魔法をつかえる者が一斉に大空へと各々の魔法を打ち上げる事だ。
特に決められた魔法でなくても構わないが風魔法では目に見えにくく、水魔法は落下して冷たい水を浴びたり氷や雪を降らせることになるので殆どの者が火の魔法”ファイヤーボール”を打ち上げる。又は”サンダー”で光を演出するなどが一般的らしい。
「そうですね、魔法に参加するかは別にして祭りとして楽しむのも良いですね。ニーナさんはどうされるのですか」
「私は実は会場に行っていますが残念なことにギルド職員の立場で本部の隣に設けた冒険者ギルド出張所に詰めていなくてはなりませんので」
ニーナは残念そうに知矢を上目使いに見ながら仕事だと伝えた。
市の当日は昼夜を徹して騎士団の騎士や兵士が警備にあたるが管理貴族からも冒険者ギルドへ警備応援の形で依頼が出ているとの事だ。
しかしこれは知矢やニャアラスの様なAランクBランク冒険者へは話が来ない。
この依頼はF,Eランク冒険者へ出される言わば ※1 ”年越しのもち代を配る” 様な習わしで実入りの良いアルバイトの様な依頼でもある。管理貴族からの依頼金額は通常通りであるが差の金額に冒険者ギルドから5割増しで依頼料が払われる仕組みだ。
冬場になり採取や商隊警護の依頼も減り森の魔獣たちの活動も少なくなるこの時期に身入りの少ない低ランク冒険者へ手を差し伸べる一環でもあった。
その代わりこの依頼を受けた冒険者は一切の飲酒を禁止され朝が明け市民が寝静まり市が片付けられるまで持ち場を離れられないものである。
しかし毎年かなりの数の冒険者が依頼を受け警備に参加していた。
やはり低ランク冒険者は生きていくのも大変なのだとあっという間にAランクになり資金も豊富な知矢は未経験の話であった。
「そうですか、それは残念ですね。あ、でもうちの者達が本部テントの付近へ屋台を出すと言ってましたから良かったら食べに来てください。差し入れもする様に言っておきますから」
「わあ、それは嬉しい申し出で断りずらいですね。休憩の時間に是非お伺いして暖かいうどんを頂きますね」
では又とニーナへ別れを告げた知矢は何かを思いながら冒険者ギルドを後にするのだった。
街の通りを歩きながら周囲を散策する知矢。
やはり年の瀬とは言わないがもうすぐ年を越すと言う事で通る人や商店、行き交う荷馬魔車、屋台の活況を眺めると気ぜわしい雰囲気を感じて日本の師走を思い出す知矢だった。
知矢は日本にいた頃特に用も無かったが人ごみの慌ただしさと商店の活況を体感したいと12月31日にわざわざ東京のアメ横商店街や築地場外市場を訪れた事を思い出していた。
妻からは『十分支度は出来ていますから買って来なくても良いですよ』と言われていたにも拘らずついついその場の雰囲気で大きなカニや生のホタテなどを持ちきれないほど買ってきて叱られながら若い社員の家へ正月から 『お年玉だぞ!』 と配り歩いた事などは良い思い出だ。
そんな大通りの喧騒を人ごみを縫って進み知矢は少し静かな地区へと脚を向けるのだった。
「こんにちは。冒険者のトーヤです。
マベラス司祭様に約束も無くお会いしたいのですがお時間ございますか」
知矢が普通に挨拶をして司祭の様子を尋ねると先日も応対してくれた老爺はしわくちゃの顔をにこっともっとしわくちゃにして
「おお、救世主様じゃないか。司祭様からは救世主様がいらしたら位の一番へお通しせよと言われてます。どうぞどうぞこちらへ」
と知矢をいつもの大部屋では無く奥にある客間のような部屋へと通すのだった。
直ぐに司祭が呼ばれ
「これはこれは知矢さま。よくぞおいで下さいました。先日ご依頼されました子供たちの職は希望者名簿を作成しリラレットさんへ届けましたがその件でしょうか」
マベラス司祭は暖かく柔らかい笑顔で知矢を迎えてくれた。
「こんにちは、いつも突然お伺いし申し訳ありません」と詫びながら無限倉庫から皮の小袋を出し司祭の目の前へと置いた。
怪訝な顔をしながらマベラス司祭は「これは?」と知矢へ問うた。
袋の様子から中にはお金が入っているのであろうとすぐに推測は付いたが司祭は貰う理由が思いつかなかった。
そんな怪訝な様子の司祭へ理由を述べる
「実は私の生まれ故郷に昔から伝わる風習と言うか行事がありまして」と語り出す知矢。
このお金が入った袋は要するに知矢から施設に住まう子供たちとその子たちと生活しながら面倒を見、指導をする助祭や下働きの人達を含めての ”お年玉” であった。
この世界にそんな風習は無いのはニーナから聞いて確認していたがかといって小遣いの様に金銭を渡すことに忌避感も無いと聞いてあった。
「もうすぐ新年を迎える年越しおお市です。施設の子供達や職員の皆さんにもおお市を楽しんでいただければと失礼ながら用意しました。
もちろんもう一つの施設の子たちと分けて頂ければ幸いです。」
知矢は正確な子供たちとその世話をする人々の人数を把握していなかったが以前渡したお布施に比べると少額ではあったが市で買い物をするには十二分な金額を入れたつもりだ。
その思いと知矢の故郷の話をするとマベラス司祭は膝の上で両手を固く握りしめ俯いてしまった。
(あれ何か不味かったか?)と知矢が思っているとうつむいた顔からしずくが数滴固く握られた拳へと落ちていった。
「トーヤ様、いつもいつも過分なお布施を頂きさらにこの様に子供達やその面倒を見る者達へまでお気持ちを頂き大変申し訳ありません。
いえ、ありがとうございます。母神デミレサス様に成り代わり御礼申し上げます。
そしてトーヤ様と皆様にデミレサス様の恩寵が賜ります事をお祈りもうしあげます」
知矢の手を取り握りしめながら何度も何度も感謝するマベラスを無理に引き離し知矢は「じゃあ市の夜を楽しむ様に言ってくださいね」と慌ててその場を辞するのだった。
(いやあ、あそこまで感激されるとどうも居心地が悪いな。次からはリラレットか誰かを代理で行ってもらうか)
と少し赤らめ恥ずかしそうに通りを早脚で歩く知矢の背後には教会の職員一同がマベラスに従って頭を下げて知矢を見送っていたのだった。
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変わってコチラ知矢の店では屋台の新築?新造の真っ最中。
管理貴族より依頼があった出店箇所は5箇所。
いま手元で常時使用中なのは2台、そこでいつもの振り分け屋台では無く簡易な庇が張り出した屋根付きの屋台を急遽3台増設する事になった。
これも知矢から許可を得おお市へ出店できることになった使用人たちが顔をそろえて相談した結果である。
絵図面を描いたのはサーヤであったがやはりその形は日本にいた頃、祭りの夜店などでどこかで見た様な形になっていたのは当日屋台の様子を見に言った知矢の感想である。
「おいギムさんや上の水の魔道具を取り付けたら下の排水受けに排水用のマジック排水口を取り付けてから試験だぜ」
何やら頭に鉢巻のような物をしたワイズマンが屋台の組み立て式を取りながら指示する。
「おおわかっとる。じゃが排水を集めて流し込む筒がまだ出来とらんからそれ待ちだな」
「ハーイお待たせしました」そこへアンドウ、シンゾウ、マリーが手に竹の様な植物を切りそろえた筒をたくさん抱えて持ってきた。
「おお待っとった早速取り付けてくれ」
「「「ハーイ」」」何故かマリーもアンドウ達のような口調でニコニコと楽しそうに新造屋台へ部品を取り付け始めた。
「マリーさん下から差したら排水が漏れますよ。上から順番に差して、そう上側が細口で下側が少し膨らんでいるでしょ」
「こうですか」マリーは不器用ながらも必死にシンゾウの指示を受けながら筒を組み立てていく。
こちらは厨房
「出来たうどんの麺は一度茹でた物を水で洗い締めて水切りしてから1人前ずつ小分けして。トレーに並べたらすぐにマジックバックへ収納してね、伸びちゃう前に」
イーシャも張り切って新人たちへ指示を出す。
「ねえサーヤ。この串に刺してあるすじ肉は何?焼いても硬くて食べられないわよ」
マイが両手に刺したばかりのすじ肉ばかりの串肉を両手に持って訴える。
「ダイジョブ、この出汁の入った鍋でコトコトにて味を付けると美味しい・・・らしい」
サーヤは鍋の中へ出来た串肉を並べながら自信無く説明する。
「・・・らしいんだ」
「らしい。主から聞いたレシピだから・・・多分美味しい」
どうやらマイが作っているのは日本でおでんに入っているすじ肉の様なものらしい。
これからコトコト煮込むのである。
「煮ると柔らかくなるのは聞いた事有るけどすじ肉だよこれ。以前いたお屋敷ではすじ肉は使用人のおかずだったけど美味しくなかったよ。でも残すとメイド長に叱られるから一生懸命噛んでたけど」
マイは昔貴族の奉公人だった頃を思い出していた。
「この鍋は大丈夫。何でもコトコトすれば軟らかくなる魔法の鍋」
サーヤがすじ肉を並べている鍋は ”圧力鍋”であった。
知矢の指示で構造図を描いたサーヤが見知った鍛冶屋に作ってもらった鍋である。
「魔法の鍋なんだ! じゃあ楽しみね」
「だからマイはどんどん肉を串に刺す。急げ」
「・・・オウ!」
こうして奉公人たちは全員で手分けしながら大市の夜に出す屋台の仕込みを続けた。
いつもの屋台が5倍、しかもおお市の人出を聞くといつもの夜鳴きうどんの仕込み量では決して足りなくなると予想し1台当たりいつもの5倍それが5台。実に25倍の量を仕込んでいるのだった。
出来たうどんやトッピングのかき揚げ、野菜に味付け肉の煮込み、白身魚に角うさぎの薄切り、お揚げに磯辺揚げ、すじ肉それに大量の天かす等が出来た傍から次々とマジック棚へと収納されて行った。
結局リラレットが使用人達へ知矢から許可が出た旨を話しおお市出店の希望者を募ると全員がこぞって参加を表明した。
「私昔からおお市のお店やってみたかったのよね」
「俺は去年マジックファイヤーに参加したけど、今回は両方参加できるのか、楽しみだな」
「私、去年まで村にいたからおお市もマジックファイヤーも知らなかったわ、本当に楽しみ!奴隷として売られたときはこの世の終わりかと思っていたけど・・・」
見ないろいろな感想を持っていたがどの顔も忙しい作業の中でニコニコ楽しそうであった。
そんな準備の様子を外出から戻った知矢は離れてみていたが(存外楽しそうだな。そう言うものなんだな)と思いながら黙ってその場を後にした。
いよいよ新たな年を迎える晩がやってきた。
都市の大通りには人々が早くから繰り出し先ずはおお市を楽しんでいる。
「どんどん見てってくれ! 取り立ての新鮮野菜だぜ。収穫してマジックバックに入れてきたから採りたてのまんまだ!」
「さてご覧の皆さんこの魔結晶は何と南の大森林より届いた大魔獣、ケルベロンの魔結晶だよ。二度と手に入らない逸品だ!」
「何か胡散臭いな。ケルベロンと言うよりケロリンぐらいの大きさしかねえぞ」
「ハーイこちらは美味しい熱々のうどんですよ。こんなおいしいうどんがトッピングを乗せてもなんと200イエン。大盛でも250イエンですよ ! 」
「ねえちゃんうどんを3つくれ」
「さあ見て行ってくれこの大大刀のすばらしさ。こいつは魔鉱石がたっぷりと練り込んだ逸品だ。こいつさえあればさあそこの冒険者の旦那あんたもすぐにAランク間違いなしの業物だよ。これがナント今夜のおお市特価 小金貨3枚だ! 1大刀しかない1っ品物だよ」
「おいおやじ、さっきも同じ大刀を売ったじゃねえか。なにが1品物だそのバックにいっぱい入ってんだろ」
「この店は何だか静かだな。オイ兄さん何を売っているんだこの店は」
地面に敷きものを引いた男がぽつんと黙って座っている。
目の前には何も置かれていなかった。
木の板には 『 1びん 大銀貨2枚』としか書いていない。
「・・・買うのかい」
男は声をかけた中年の男にそれだけを呟いた。
「買うったって何を売っているのか分んなけりゃ買うものも買えないだろう」
中年の男のもっともな意見にも座っている男は中年男をちらりと見るだけで答えない。
その代わりにマントに中をごそごそと動かすと木栓をした焼き物の小瓶をちらりとだけ見せるのだった。
「何だその小瓶は・・・・ってお前それ!」
中年男が何か気が付くと男は「シッ!」と口の先に指を立てて辺りを見回す。
「・・・本物だろうな」中年男も声を潜ませ男に近寄って聞く
「・・・匂いだけかがせてやろう」と言うと男は木栓を抜いた小瓶を中年男の鼻先へサッと一振りした。
「・・・おお! 間違いない!おい5ビンくれ! これでかーちゃんを喜ばせるぜ!」
男は興奮気味に革袋から金を取り出すと男へ渡し代わりに同じ小瓶を5本受け取った。
「・・・まいどあり・・・」
男は愛想も無く金を受け取ると興奮しながら去っていく男に興味も向けずまた黙って座っていた。
その様子を見ていた若い兵士の1人
「班長、何やら怪しげな取引をしている様子ですが」
中年の兵士へ注意を促すが
「ありゃあ良いんだ」
とにべもない。
「しかし何やら胡乱な物を販売しているのでは。確認します」
若い兵士が地面に座る男へ問いただそうとすると。
「いや良い。あれはそう言う黙って静かに売るに限る。俺も金があれば買いたいくらいだ・・・」
「班長?」
「お前も歳をとればわかるさ・・・若いうちには必要の無い物だ・・・嫁さんが聞いたら欲しがるだろうけど・・・体力が持たん程効くそうだしな」
何か寂しげな事を呟く中年の兵士に若い兵士は理解が付かないまま即されて巡回へと移動していった。
宵闇がどんどん濃くなるにつれ都市には人々がどんどん押し寄せ興奮が広がっていた。
そしてついにその時が来た。
『『『パーッパパパッパーーーーーーーパパ!!!』』』
管理貴族の楽団が一斉に城壁の上から都市に集う者達へ知らせる様に楽器を吹き鳴らし耳目を集めた。
すると集まった大勢の人々の注目が城壁へと注がれる。
東の大門脇の城壁には臨時に作られた高い足場がそびえその最上段には広間が設けられている。
人々が注視する中その広間に小ぶりな人影が一人姿を現した。
「「「「「「「オーーーーーーッ」」」」」」」
「大魔導士様だ!」
「モンゴミリア様よ!」
「かわいらしいな!」
「おれファンなんだよ!」
集まった大勢の人々は壇上になっている城壁の広間に姿を見せたのは管理貴族アンコールの食客で大魔導士の呼び名が広いモンゴミリアその人であった。
「モンゴミリアって人気者なんだな」
その様子を管理貴族本部テントの隣に設けられた”うどんや”の屋台裏から見ていた知矢が呟いた。
「ええ、その風貌のかわいらしさと大魔導士と称される大魔力のギャップが余計に人気を呼んでいるそうですよ」
知矢の隣には冒険者ギルドのニーナが並んで立っていた。
(アイドルみたいだな、だが確かニーナさんより年上って聞いたっけ)とモンゴミリアの歳の事を思い出した知矢に偶然かすこし離れ高い場所にいるにもかかわらずまるでその心の声が届いたとでもいう様にモンゴミリアが知矢の方に 『何か言ったかしら』とでも言いたげな視線を送った。
「おっとやばいやばい」と少し人陰に隠れる様な様子の知矢へ
「えっ?どうかしましたかトーヤ君」と不思議そうに知矢を見つめるのだった。
「あははは、いいえなんでもなく。あっ始まるようですよ」とニーナの関心を城壁へと向けさせた。
城壁の上のモンゴミリアはその手に持つ魔導士の杖を大きく高く掲げ始めた。
するとその杖の先へ淡い色が煌めきだすと真っ直ぐに頭上へとさらに掲げる。
「いよいよですね。トーヤ君は参加しないのですか」
周囲にいる魔法持ちが一斉にその手や杖をモンゴミリアと同じように頭上へと掲げ始めた。
「そうですね、せっかくですから私も参加しますか」
「是非、盛大なのをお願いしますね」とニーナに期待を込めた顔を向けられた。
「まあ、頑張ります」と苦笑いを浮かべながら知矢も片手を頭上に掲げ魔力を集め始めた。
城壁の舞台に立つモンゴミリアの杖は益々魔力が集められその光は赤く強い光の玉を浮かび上がらせている。
辺りはしんと静まり返り人々の意思がまるでモンゴミリアの杖に集束したかに思えた時
”ビュー!!!!!”と解き放たれた魔力の赤い光が一気に遥か頭上へと赤白い尾を伸ばしながら打ち上げられると
”ドゴーーーン!!!!!!!!”
はるか上空に真っ赤な大輪の花を咲かせたのだった。
「「「「「オオオオオーーーーーッ!!!!!」」」」」
人々が喝采を揚げると今度は街中の魔法持ちが
「ソーレ!」
「私も!」
「こっちは連発で行くぜ!」
どんどん一斉にあちら事らから魔法の光が上空へと打ち上げられていった。
モンゴミリアがこの日の為に練った魔法ははるか上空で広がったがその光はすぐには消え失せず暫くその大輪を大きく広げ輝いていた。
そして今度は街中から打ち上げられた魔法がその大輪のたもとに小さな魔法の華を次々と咲き乱れさせる。
「トーヤ君!」隣で見守るニーナが声をかけると知矢は
「んんんんん・・・・・セイ!!」同じく頭上でその手に溜めていた魔力を上空へと解き放つのだった。
”ズバーーーーーッン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!”
モンゴミリアに負けずとも劣らぬ音と衝撃を纏いながら知矢の手から放たれた魔力はどんどん上空へと飛び上がりそして
”パーーー!!ン!!!”
モンゴミリアの赤い大輪と同じほどの高さで今度は大きな青白くも黄色い大輪を咲かせたのだった。
「「「「「「「うぉーーーーーーー!!!」」」」」」」
「何だあの魔法は」
「大魔導士様と引けを取らないぞ」
「うわー綺麗だね」
「黄色い、いや青白いのか」
「サンダーってあんなに広がるのか」
「いやそれ以上にあんな大魔力ってだれだ?」
人々の騒ぎと興奮を見た知矢は
(やばいやり過ぎだったか)
と即座にその身を隠すように屋台裏の衝立裏へと姿を消した。
「「「「「Alles Gute zum neuen Jahr !」」」」」」
「「「「「新年おめでとう!」」」」」
「「「「「新たな年を!」」」」」
そんな知矢の事を他所に興奮に溢れかえった人々は見知らぬ者も関係なく回りに誰かいれば皆がこぞって新年を祝う言葉を交わすのだった。
そんな人々の興奮が大通りを埋め尽くしているとき城壁の上にひっそりと立つかわいらしい人影は
「やはりただものでは無いようですね」と知矢が放ったと確信しながら青白くそして黄色に輝く大輪を見つめながらモンゴミリアが呟くのは誰の耳にも届いていなかった。
「トーヤ君!」
さっと姿を隠した知矢を目ざとく見つけたニーナ
「素晴らしかったですよ」と微笑みながら祝いのワインが入っているであろう銀の杯を知矢へ渡すと
「Prosit Neujahr! 」と自分の杯を軽く当てながら囁く。
慌てて杯を受け取った知矢もチーンとお返しに杯を鳴らしながら
「新年おめでとうございますニーナさん。乾杯!」
と祝いの言葉を交わすのであった。
皆さま新年あけましておめでとうございます。
m(__)m
本年も 『老齢オヤジが死んだけど~』をどうぞよろしくお願いいたします。
そして皆様にとりまして新年、今年が良い年になりますようご祈念申し上げます。
通りすがりの浪人者




