第128話 閑話 ~さまよえる人々
はいこんばんは珍しく本日2つ目の投稿になります。
このお話は以前少し話(第108話)の中で触れたお話をもとになっております。
そして今日ご感想を投稿していただいた
”蛇三”さんの
屋台を求めてさまよう町民(笑)
「ぅぅうぅ、何処だぁ・・うどんは何処だぁ。」
ゾンビっぽい
との感想投稿をみてふと書きたくなった次第です。
蛇三さんありがとうございました。
では第128話 どうぞ
ひと気も失せる丑三つ時。
ここラグーン、いや異世界に丑三つ時は無い。
この世界では電気の明かりなど存在しない。よって平民は夜が明け始めた頃活動を始め夕闇が大地に没するまでに帰路へ着く。
家ではランプの明かりも存在するが植物から抽出される油は高価だ。
よって最小限の使用に止めるのがふつうである。
それ以上に有用なのは魔法だった。
この世界では魔法が使えるのが当たり前である。
人族やだけでなく獣人族や妖精族、ドワーフ族、エルフ族、魔獣人族、その他すべての種族が魔法を使えると言って過言は無い。
勿論種族や個体能力等で大きな差はあるが一般的に最低限の魔法を使うことが出来るのはどんな種族でも変わりない。
その中で闇夜を照らすことが出来る生活魔法の”ライト”は魔法不可もごくわずかでどんなに魔力量が少ない者でも使用できる魔法の1つであった。
しかし一般人は魔力量が殆ど無いのも事実でありライトの魔法を一晩中行使するのはまず難しかった。
よって必要な時にだけ使用するのが一般人の魔法の使い方である。
そのような訳で一般の者は夕闇が落ちると床に就くのであるが最近その実情が大きく変わる出来事がこの世界に起こった。
ライトの魔法やその上位魔法スポットなど手元を照らす魔法から少し先をぼんやり照らす、更に強い光源で周囲を照らすなどの魔法と同様にしかも常時魔力を必要としない画期的な魔道具が開発販売された事であった。
それが知矢が率いる”魔道具商店”の商品。光の魔道具である。
値段によりその能力は異なるが中銀貨数枚程度で手軽に買える小さな懐中電灯程度の物から大銀貨では部屋の明かりとして十二分に周囲を照らし出す壁掛け式の物や天井吊り状の物、小金貨で買う小型車のヘッドライト程度に遠くを照らせるもの、中金貨以上はする天井からさんさんと光輝くシャンデリアのような物、その他にも意匠をこらした高価なものまで種々が発売された。
発売と同時に商人や豪商から貴族に至るまでこぞって買い求める大人気の商品だった。
そして冒険者も魔力の温存が出来さらに危険を回避できると知りこぞって買い求める姿が多く見受けられた。
しかし一般庶民は当初殆ど買う者がいなかった。
それはそうである。今まで同様の生活をしていればそれほど困る事は無いのであるのだから当然だ。
そんなものに金をかけるなら衣服や食事、または仕事道具などに金をかけるのは当たり前のことである。
よって庶民は「豪商や貴族の玩具」程度の認識で有用性を認識していなかった。
しかし一度購入すれば壊れない限り数年の使用に耐えると言う話と灯りが在れば今まで暗闇では出来なかった事または暗闇では危険でためらっていた事が可能となる。流行りもの好きが先に買ったとたんその有用性を吹聴した事で関心を示さなかった者まで買い求める様になった。
「最近は店が遅くまで明るいからついつい飲み過ぎちまうな」と良いながら足元を光の魔道具で照らしながら千鳥足で歩く者もいた。
中には限られた時間、光の下でしかできなかった仕事を夜にも出来る事で収入が上がる者なども出始め一気に都市の庶民の間にも光の魔道具が普及していったのである。
それによる生活様式の変化が起こり始め早朝から夕刻までの活動時間がさらに伸び今迄では人っ子一人いないはずの深夜にまで人の動きがみられるようになったのはこの世界の革新的な出来事であった。
勿論それによる弊害もあった。
「あんた起きなよ!もうとっくにお天道様が出てるよ。仕事に遅れるよ」
「・・・もうちょっと、もう少し寝させてくれ」
「まったくもう!また夜更かししたんだね。もうあんたには光の魔道具は使わせないよ」
「え―っ!そんな殺生な」
「うん?あそこの路地で何か光っているな。おい!お前そんなところで何をしている!!」
「あっヤベエ!騎士団だ!逃げろ!」
などと早速トラブルや良からぬことに使う者も出始めていたがその有用性に寄り人々からは圧倒的な支持を経て販売は継続中である。
人々が暗闇を逃れ新たな生活様式を模索している中先んじて夜の商売に革新をもたらすものが現れた。
「うど~ん、温かいうど~ん、美味しいおうどんはいかがっすか~」
「寒い夜に暖かい美味しいうどんですよ~」
振り分け担ぎ屋台の移動販売を行う ”うどんや”であった。
勿論個の屋台の運営元は知矢の配下、魔道具商店の使用人達である。
当初試験販売を始めた時はボンタ1人が屋台を担ぎ街を練り歩いていた。
しかしその際に闇夜で出会った物取りの襲撃を契機に常時2人体制での販売へと転換したのだった。
「ええと、確かそこの先の通りを曲がった先よね。ワイズマンさんそこを曲がった先にある騎士団の詰め所を通ってください」
新人使用人がサーヤから渡されている屋台の巡回指示書を見ながら屋台を担ぐワイズマンへと伝えた。
「おお、お得意様だ。間違って通過したら待ってる兵士の皆さんががっくりするだろうしな」
屋台には勿論魔道具商店、知矢が作った光の魔道具が煌々と照らされており、さらにはその行き先をも照らす灯りが道を広く映し出していた。
角を曲がり少し進むとそこにあったのはラグーン都市警備を担う騎士団配下の駐屯所である。
普通の詰め所と異なりここは駐在人員の多い駐屯地でありここから多くの騎士や兵が日夜を問わず都市のあちらこちらへと警備のために出入りしていた。
「おっあの明かりは。 おーいうどん屋さんが来たぞ!」
駐屯所の門前で立番をしていた歩哨が奥の詰め所へ声をかけると待っていたのか思いのほか多くの兵士たちがぞろぞろと通りへ顔を出してきた。
「ああ待ってました」
「今夜は少し冷えてきたから余計に待ち遠しかったな」
「おい早速うどんを頼むよ」
歩哨を含め10人以上が屋台の到着を待ってワイズマン達を取り囲んだ。
「ハーイ皆さんおまちどう様です。今から準備しますのでもう少しお待ちくださいね」
そう言いながら屋台に設置してある灯りを取り付けてある棒を高く伸ばし周囲を明るく照らしながら女は椅子やテーブル屋台から取り外し広げ始める。
なじみの兵士たちはその準備に手を貸しながらワイワイと湯けむりを上げる屋台を見守っている。
ワイズマンは魔道具でお湯を鍋に作り出し火の魔道具で加熱し沸騰させる、その脇に据えてある鍋にも火をともしツユの支度も同時に行っていく。
直ぐに鍋の湯が沸騰を始めるとワイズマンはどんどんうどん玉を熱湯へと放り込んでいった。
「今夜のトッピングは何だ」
中年の兵士が女へ問う。
「ハイ今日ご用意があるのはこちらです」と女はマジックバック機能を有する知矢特製の棚から次々と四角い盆状の皿にのせられたうどんのお供を並べて紹介する。
「ええと先ず基本の天かす、そして青菜の輪切り、天ぷらは白身魚に角うさぎの薄切り、野菜のかき揚げですね」
「おい今日はあれないのかあの茶色い薄い何かを揚げて煮たやつ」
脇から兵士が聞いて来た
「あっそうそうごめんなさい”お揚げ”ですね。勿論ありますよ」とさらに追加でマジック棚から器を出す。
このマジックバックならぬマジック棚は容量もさることながら時間停止機能を有しており揚げたての天ぷらは熱々のまま、シャキッとした青菜もその鮮度を保ち出来立て同様で好評だった。
「ハイ!お待ち! どんどん出来ますから順番にどうぞ」ワイズマンが茹で上がったうどんを丼に移し熱々の汁を注いでテーブルへと並べる。
「おっ待ってた待ってた」早速順番に兵士たちが次々出来るうどんの丼に手を伸ばしワイズマンの前から脇へと移動していった。
「さて今日はどうするかな。」移動していった先に並べられていた薬味やトッピングを見ながら兵士は思案する。
うどんの販売システムは汁の入ったうどん一杯が小銀貨1枚(100イエン)これに好みのトッピングを2種で小銀貨1枚。薬味は無料であった。
さらに追加のうどんを望む場合は汁をそのまま熱々のうどんのみ追加で頼むと銅貨5枚(50イエン)であった。
大体の者がトッピングを乗せるので小銀貨2枚(200イエン)で熱々のうどんが食べられる。
次から次へと兵士は丼を持って屋台の前から移動し早速うどんを食べ始める。
その姿は湯気を顔に浴びながら皆がニコニコと美味しそうだった。
寒い夜勤の兵士たちにとっては小腹を満たすこのうどんは大好評であるので必ず巡回経路に入れてくれと兵を管理する騎士団本部の役人がわざわざ店まで訪れ要望書の公文書を置いていったほどであった。
さらのその要望書には ”上級騎士団長オフトレーヤ” の署名もあり要望が受け入れられたならば運営補助金も交付する旨記載されていた。
言わば騎士団の福利厚生の一環を担ってほしいと言う事である。
当初オフトレーヤの署名を見た知矢は
「無視するか」
と要望書をデスクに放り出したがサーヤの進言によりその要望は実行されることになった。
知矢は単にこれ以上貴族に係わりたくないと思っただけの事であったがすこし機嫌を損ねたのがわざわざオフトレーヤ名で書類を出してきた事だった。
もちろんこのオフトレイヤー上級騎士団長とはユニーク行使力 ”変化魔法”でその姿を変えているラグーン管理貴族のアンコール伯爵その人なのだからだ。
そんな事で・・・とサーヤにたしなめられた知矢は不承不承その要望を受諾したのだった。
「いやあ今夜も美味かった」
「ごちそうさん」
「明日も頼むよ」
「おれ ”磯辺揚げ” ってのが良いな」
それぞれ礼を言いながら兵士は満足しながら詰め所へと戻っていった。
片づけを終えたワイズマン達は歩哨に見送られて騎士団駐屯所を後にした。
「ワイズマンさん次はここを真っ直ぐ行って突き当りを右、宿屋街の方ですって」若い使用人の女が指示書を詠みながらワイズマンへ伝え二人を照らす魔道具の光を伴いながら通りの先へ消えていった。
「おい、この詰め所で聞いてみるか」
「えっ兵士にか、怒られねえか」
「じゃねえと行先も解んねえよ」
微かな魔道具の光が通りの先から揺れながら騎士団駐屯所へと接近してきたのを歩哨は知覚していた。
「おい、こんな夜更けに何をしている」歩哨は念のため声をかけた。これも騎士団の一般的な対応だ。
悪い事を考えている者は司直や兵関係者に声を掛けられるのを嫌うものだとの指導からである。
「えへへへへいや・・どうもこんばんは」
「どうもご苦労に存じます」
暗闇を魔道具の明かりも持ち現れたのは中年の男二人組であった。
「こんな夜更けに何をしている。どこまで行くのだ。住まいは、名は」
歩哨は厳格に問いただす。
「・・・おい」
「お前が言い出したんだから」
「いやだってさ」
「何をぶつぶつ言っている。胡乱な事を考えているのじゃないだろうな」
歩哨の兵士は男たちへと迫る。
もう一人の歩哨も警戒しながら手に持つ槍へ力を込めた。
「いえいえいえいえいえいえ・・・俺たちは」
「はい怪しいもんじゃありません・・・そっそのう」
「屋台を・・うどんの屋台を探してるんでさ」
はっ?と呆れた顔をする歩哨の兵士であったが先ほど味わったあの味を思い出しまあ解る気がすると
「オホン! うどんの屋台なら先ほどこの通りをほれあちら方向へと言ったばかりだ。急げばまだ追いつくであろう。」と二人の男へと屋台が消えていった方向を指し示すのだった。
「えっあっちっすか! ありがとうございます。 オイ」
「ああ、急げ!」
2人の男は暗闇へと駆けだしていった。
その様子は僅かに光る光の魔道具の明かりでよくわかる。
2人が去った後
「まあ気持ちはわかるよな」ともう一人の歩哨へ声をかける。
「あの味を知ったらな」と答えるもう一人。
その後歩哨は再び姿勢を正し暗闇へと厳しい視線を向けるのであった。
そんな出来事が夜な夜なラグーンのあちらこちらで見受けられるようになり少なからずトラブルも起きていた。
そして再び知矢の魔道具商店へと騎士団から要請書が届く。
「今度は何だ」めんどくさそうに要請書に目を通すリラレットへ問う知矢。
「・・・都市の治安維持に協力をとの事です」
「はあっ?」
「うどんの屋台を求めて都市を夜中徘徊する者が増え問題が生じ始めておりそれを是正、解決するためにうどんの屋台の居場所を公開するとともに時間も提示してほしいとの事です。そして出来れば常設の店の方が好ましいとご丁寧に希望出店位置の地図まで添えられております」
「・・・なんだそりゃ」益々嫌そうな顔をする知矢だったがその後内部協議の上屋台の運航スケジュールを都市の掲示板へ公表するとともに今後前向きに出店計画を立案させることになった魔道具商店と知矢であった。
そしてその人員確保に奔走する知矢達であった。




