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第120話 炎上・終焉  ~「トーヤ殿は騎士団の動きに満足してくれたかのう?」

遅くなりましたが本日も投稿いたします。

では第120話 どうぞ



知矢達が倉庫で敵と対峙している頃。




「サンドスさん周囲の様子はどうですか」

総支配人のリラレットが裏木戸の内側から裏通りで周囲を警戒している警備主任へ小声で声をかける。


「今のところ変わった様子は有りませんがどこからか見られている気配はビンビン感じますね」

とこちらも小声で報告する。



ここ、知矢の魔道具商店の表通りでは今もうどんの屋台が店を出し少ないながらも客が数人今も屋台を訪れうどんを食している様子だ。


変わってここ裏通りには全く人の気配はないがサンドスは冒険者時代から鍛えた経験によりどこから見られているかまでの特定は難しいがその注視する視線を肌で感じていた。

しかしほかにも数人ギムやコレットの冒険者組と格好だけの武装をさせている使用人達も裏通りを行き来する様に巡回しているが何も変化は感じられていない様子だ。



「トーヤ様からはまだ何も?」

「ええ、まだ何も連絡は有りませんわ。ですが・・・」とリラレットが言葉をつづけようとした時だった。



『トーヤ様からのご伝言を承りました』




不意に二人の耳にどこからか声が聞こえた。

2人が周囲を見回しサンドスが「誰だ!」と誰何しようとするのを

『声を出さずに、平静を装ってください』

と再び声がしたので訝しみながらも二人は視線だけを左右に動かすのみで何もなかった様子を保った。



『ありがとうございます。こちらはアンコール伯爵様の手の者です。姿を表せられないのはご容赦ください。』

とその声が謝りを入れながら話を続けた。


『トーヤ様は今頃囚われたお仲間を救出している頃と思います。それに先立ちご指示を頂きましたのでお伝えします』



と知矢からの伝言を伝えた。


「ではやはりここも狙われていると」リラレットは声を潜ませているが動揺を隠せない。


『詳細をお話しするのにここでは不都合がございます。是非裏玄関から中へご移動いただき声の漏れにくい処へ願います』


サンドスがリラレットを促し一度店の裏玄関から中へ使用人の休息所へと移動した。


「ここなら大丈夫だろう、それで伯爵さまの使いの方お話を」サンドスは虚空に向けるように話をする。


『私は”影”とでもお呼びください。 南の破壊工作員が間もなくそうですねあと1刻と半ほどでこの都市へと侵入しこのお店”魔道具商店”を灰燼に帰す作戦のようです。それに先立ち店の周囲を6名の監視の者が潜んでいるのを先に捕縛する様にとトーヤ様から言いつけられました。

我々も誘導と捕縛の補助を致しますのでこちらの方2名様程出ていただきたいのですが』


話を聞きリラレットはすぐに信用に値する話だと確信しサンドスへ2名選抜する様に頼んだ。


サンドスが「よし分かった」とその命を受け人を呼びに言った後リラレットは

「影の方、トーヤ様や誘拐されている者の身は大丈夫でしょうか」と心配で尋ねる。


『捉えられている2名の姿は確認できませんでしたが聞こえてきた話では無事と思われます。トーヤ様は我々からお見受けしてもその武はことさらながら秀でていらっしゃると感じます。先ずもって不覚をとる事など無いでしょう』


その言葉を聞いたリラレットは少し安堵したがその実その頃知矢は南の国の女工作員の術にはめられ受難の時の真っ最中であったのだが。



すぐにサンドスが獣人のマイと忍びの技を使えるイエヒコを伴い戻った。


戦闘力で考えるとサンドスやギムが出るのだったが密かに忍び接敵して征圧するとなると話は違った。


獣人特有の身軽で瞬発力のあるマイ。

里で忍び働きの訓練を積んだイエヒコ。


この二人に影の者が手を貸せば音も無く接近制圧が出来るであろうとの判断だった。


「ヨシ!私に任せなさい!」張り切るマイ。

「背後に忍び寄るなのは得意です。無音で絞め落としましょう」と自信を示すイエヒコの両名だった。


『では、潜み声で位置を誘導いたします。先ずは2階にある隠し戸から2件先へと出ましょう』

影の者はこの商店の隠し通路までも把握していた事に皆は驚いたが味方であるならば問題はないと素直にその指示で動くのだった。




再び裏木戸から裏通りへ出て来たサンドスは警戒中のギムへ声をかけた。


「おいギムよ、もうこんな時間だ警備も良いだろう。

表のうどんの屋台もそろそろお終いだそうだから我々も熱いのを1杯食し酒でも飲んで休むとしよう」


少し大きな声のサンドスに訝しい顔をするギムだったがサンドスの指先が特有のハンドサインを示しているのを目にし話を併せる。


「おおそうじゃな。そう言えば小腹も空いた事だしのう。熱いうどんを食べながら一杯やって寝ようかのう」


「お前の一杯はうどんじゃなくて酒の方だが一杯で済むかのうはっはっは」


そんなセリフを周囲に聞かせるように言いながらサンドスは警戒に出ている他の使用人にも声をかけ無駄話を続けながら1人、又一人とゆっくり順々に裏木戸の中へ入れていった。


(そろそろ頃合いか)と周囲の目を集め暫く無駄話をしていたサンドスとギムは最後にゆっくりと伸びをしながら木戸の中へと消えていった。





その頃魔道具商店を中心に潜む監視の目は


「グフォ・・・」


「・・・・・」


「ゲッ・・・」


「ウグウグウグ・・・・」


次々と殆ど声も出さず他の監視の者に気づかれる事も無く沈黙させられていた。




『お二方、お見事でした。これで周囲の監視は通りの正面にいる者のみとなりました。この者の始末は我々が、お二方は残りの者に気づかれぬようお戻りください』


との声に黙って頷き身を闇に溶け込ませるマイとイエヒコであった。





その後、店の前を少しだけ騒がしていたうどんの屋台もしまわれ最後に大あくびをかきながら眠い目を擦るように店の中へ消えていった手代を最後に辺り一帯はシーンと静けさを取り戻した。






いまだ夜明け前だが遠くには薄明の空が見られる。

この頃になると魔道具商店には外から人の気配も感じられず使用人は全て休んだ様だった。






店を監視していた者が自分以外、密かに制圧された事を未だ気が付かないその男は昨夜、店がいつもと異なる動きをしていた事を訝しんでいたが他の者からも特に報告も無かったため臨時に商売気を起こしただけなのだろうと自分を納得させていた。



夜通しの監視は朝が明け人が動き出すまでと指示されていた男はもう間もなくだと遠くの空に目をやりながら誰の家かもわからぬ2階の屋根狭間で寒さに耐えていた。



すると

「ピヨヨ・ピヨヨ」


少し離れた方から仲間の呼ぶ符牒が微かに聞こえてきた。


屋根に潜んでいた男はその符牒が破壊工作員の符牒だと気が付き直ぐに潜んでいた屋根から家の裏側へと音も無く降り音のした方へと走り寄った。



「ご苦労さん」旅姿のローブに朝露を付けた男たちが通りを一歩入った路地に潜んでいた。


「おう、店は少し前に寝静まったぜ。あんた達が侵入して来たって事は何か事を起こすんだろう」

監視の男は仲間の顔を見てその目をギラつかせた。


都市へ潜入してからの間その男たちは夜な夜な徹夜の監視を命じられておりもう既に飽きがきていたのだった。


そこへ破壊工作を専門とする仲間が来たと言うのでひと騒ぎ起こしてやっとこの都市から出て行けると安堵すると共にその行為に心を弾ませているようだ。




「ああ、これからすぐに店を焼き尽くしてやる。街が起き出すまでにはまだ幾分時間がある、重いおもいをして持ってきたこいつを周囲にばらまいたらファイヤーで一発!。後は隠れ家にとんずらしてまた闇夜に紛れて脱出するだけだ。」

いやらしい顔で背中の者を指し示す男、破壊工作の為に侵入してきた男たちの背には背負いのうにくくられた油壷が大量に運び込まれた。


「そいつは愉快な事になる! ちょうど店の奴らは遅くまで店を開けててさっき寝静まった。今頃はぐっすり、火の手が完全に回るまで起きやしないだろう。さっさとやってこんな所とはおさらばだ。」


監視の男も含み新たな侵入者たちは手分けをして油の入った壺をそれぞれ持ちそっと店の周囲へと散ろうとした。




その時だ!




「おいおいおい。随分と早起きで。

こんな時間からせっせと働くとはご苦労なこった。お前らちゃんと時間外手当とか早出・残業代とか貰えているのか?」


僅かに暗闇が薄くなりかけた大通りに響く男の声。



「誰だ!」



破壊工作犯を率いる男が思わず誰何した。



「今夜はまだ寝てもいないが寝ぼけてもいないぜ。お前らが火を点けようとしている店の者だ。」



薄暗闇の通りから現れたその姿は腰に刀を差し黒いシャツにグレーのローブを身にまとった知矢とこれまた全身が黒装束で背には斜めに剣を背負った美少女アヤメであった。



「くそが! お前ら俺がこいつらを抑えている間に油まき散らして火を点けちまえ!」

男が叫ぶように命じるとその他の工作員たちが一斉に油壷を手に店先へと走り寄った。



「そうはいくか! それ! 」

知矢達とは別の方から声がするとその瞬間油壷を抱えた工作員たちの頭上から大量の水が怒涛の如く降りそそいだ。



「うわっっぷ何だこりゃ! 」

ろくに息も出来ない程大量に降りそそぐ水のその勢いに工作員たちは倒れ、吹き飛ばされ流されて次から次へと持っていた油壷を落とし転がし割ってしまった。



「よーし止めろ。全員抜剣! 制圧しろ!」



魔道具商店の2階から水の魔道具の一斉放水を浴びせた使用人たちはサンドスの掛け声とともに店の戸を開け放ち現れる者、路地から飛び出す者、2階から飛び降りる者が全て工作員たちへと殺到した。




知矢と対峙していた男は「くっそ罠か! お前ら囲みを切り裂いて隠れ家で合流だ! 」


叫ぶ男は腰の剣を抜き去りながら片手に持っていた油壷を知矢達の方へ投げると同時に駆けだした。


周囲にいた工作員たちの半数は既に叩きのめされ昏倒する者、切り倒され絶命する者、中には全てを放り出し逃げ去ろうとするもので混乱していた。



囲みを上手く抜けたと思った者もいたが脚に熱い物を感じたと思うとそのまま転倒起き上がろうにも脚の自由が利かず見ると既に両足にはナイフが刺さり腱を斬られ呻くことしかできなかった。




知矢へと放られた油壷は知矢の刀でそろりと空中でその勢いを殺され知矢の手へストンと落とされた。


「アヤメ! 」知矢の一声に


「ハッ!」鋭く応えたアヤメは既に抜剣していた己の獲物を腰脇に構え向かってくる工作員へと逆進する。


「ハアアアッ!」微かな気合がアヤメの口から発せられた時工作員の男とギリギリ体を躱し互いがすれ違った。



直ぐにその身をひるがえし剣を中段に構え工作員の男の背へ向けるとその男は知矢へとまっしぐらに進んでいた歩が段々に速度を落とし終いには一歩一歩をやっとの思いで進ませたと思うと最後の一歩を踏み出そうとした時バランスを崩し横転しそのまま動かなくなった。



その男の身の下からは赤黒い水たまりがじわりじわりと広がっていくのだった。



数歩先で壺を片手に刀を肩へ載せる様に立つ知矢。



男の絶命を確認すると「アヤメ、見事だった」と声をかけ納剣したアヤメに油壷を渡すと店の方へ進んでいった。


「ありがとうございます」アヤメは嬉しそうな顔で軽く知矢へと頭を下げると壺を持ったまま知矢の後へ続く。




店の周囲には既に反抗する者は誰も居なかった。


半数以上が切られ、絶命している者も4割ほどと見受けられた。


生き残った工作員も皆傷を受け既に縄で縛られ横たわらせられている。


周囲の状況が収まったのをぐるりと見渡した知矢は

「味方に怪我人はいないか」とサンドスへと声をかけた。


「ハイご主人様。全員無事、怪我も無いです」と敵を撃退し店を守れた事で満面の笑みを浮かべる。


「それは上々。先ずは皆ご苦労だ。だがこの有様では起きてきた街の皆が困るな。仕方がないこいつらは脇へ転がして置いて掃除をしよう」



店の周囲は油壷が割れて破片や中身の油が散乱し使用人たちが水の魔道具を放ったことで辺り一帯はドロドロのびちゃびちゃであった。



数人工作員の監視に付け後は全員で後片付けに追われるのであった。



その後通りの先から魔馬の走る足音が未だシンとした大通りに響いたかと思うと騎士団の一行が大勢駆け付けたのだった。



ドロドロの通りの一歩手前に停止した魔馬から降りてきた騎士が声をかける。


「遅くなりましたトーヤ様。お怪我も無い様子おめでとうございます」


魔馬から飛び降りた騎士はオースティン騎士伯麾下の騎士マジェンソン・ボドーであった。


「おうお前かこんな早朝にご苦労さん。普段はゲートと周辺警備のお前たちが来たって事はオースティン騎士伯がアンコール伯爵に貸しを作れたって事かな」


疲れか戦いの興奮からか少しハイテンション気味の知矢は軽口を発する。



「貸しかどうか、下っ端の我々には想像もつきませんが今回この都市は総力戦と聞き及んでおります。今頃は下町にも一斉手入れが入りさらに都市のあらゆる出入りも数日は厳戒態勢。

外周に至っては内外からあらゆる個所を総点検しネズミの出入り口も全て封鎖すると聞いております」



今回は南の国の影響下にある者をことごとく捜索し都市の抜け道も全て暴き出すと知矢がアンコールと協議した折に息巻いていた事を思い出した。


そんな話をしていると後続の魔馬車や徒歩の兵士が大勢到着し騎士の指揮でとらえた工作員や遺体を回収運ばれて行き残りは知矢の使用人と共に通りの泥を排除し新たな土を敷きならす作業へと従事していった。





粗方の始末を終えると知矢は店先に使用人を集め


「昨夜から皆ご苦労だった。アンドウもマリーも無事帰って来れて皆もホッとしているだろう。細かい話はもうよそう。順番に皆風呂へ入り食べたり飲んだりしたい者は用意してあるから十分にやってくれ。眠い者は十分に寝るといい。

今日は店も臨時休業だ!皆ご苦労さん解散!」



「「「「「お疲れさまでした!!」」」」」



使用人たちは風呂へ入る者、酒を飲んだり食事を楽しむ者、直ぐに部屋へと眠い目をしながら向かう者それぞれ動き出した。



サーヤが大きな紙筒をもって現れた。


『本日は臨時休業と致します』


と書かれた紙を表戸へ貼り欠伸を手で隠しながら「トーヤ様、皆無事で良かった」と薄く笑みを浮かべ一言いうとあてがわれている部屋へと向かうのだった。





大通りでは早朝から仕事へ出かける人々が動き出していたが街中のあちこちに行き来する騎士や兵士を見て「何が起こった?戦争か?南が攻めてきたのか」等と口々に噂し混乱が生じ始めていた。



裏町周辺は防策が巡らされ兵士が人っ子一人抜け出せない様に数百人が警備をしその柵の中では一軒一軒騎士や兵士が家や店を改めて住人などとトラブルが起きていた。中には剣やナイフで斬りかかる者もいたが直ぐに捕らえられ運ばれていった。



各門の出入りも厳格で身分証の無い者は通れぬどころか保証人が現れるまでその場で拘束され全ての所持品は水の筒の中身まで出して改められる。


偽造された身分証や強硬に突破しようとした者そして検問を避け身をひるがえした者までも捉えられ取り調べを受ける事態であった。



一部の市民がアンコール城へ苦情を集団で訴えたがその後全市民に向け管理貴族アンコール伯爵の名を記したビラが配布されると真っ当な市民からの苦情は一切失せ捜索や検問への理解が広がった。



**********


・1つ  近頃新しい魔道具を強奪未遂、制作者を狙った誘拐事件が発生


・1つ  犯人はルドマリッド人民共和国の工作員


・1つ  昨夜潜入工作員を捕縛、攫われた者は無事救出


・1つ  明け方都市へ破壊工作員が門以外から多数侵入、都市を焼き討ちしようと試みるも全員捕縛



以上の事態から全都市へ厳戒態勢を敷き都市への出入りの厳格化、身元怪しき者の捜査、抜け穴や抜け道の捜索及び封鎖等関連するあらゆる手を講じる。

よって市民生活へ多大なる影響を及ぼすが敵をこの都市から全て排除するため数日間協力を願う


                   管理貴族 アンコール伯爵


**********



以上の様な内容が市民へ通達されたのであった。




都市はその話題で持ちきり。食堂や居酒屋では仕事にならない人々が情報交換と言う態で集まったり捕縛されて連行される者を一目見ようとする物見高い者が騎士団詰め所や牢獄のある建物の周りに人垣を作る等大騒ぎはまだまだ続きそうだった。




そんな中魔道具商店は表戸を閉めたままひっそりと静まり返り使用人たちは興奮冷めやらぬ者もわずかにいたがそれも時間とともに寝静まった。


店の表と裏には騎士団から派遣された兵士たちがしっかりと警備を行い安心して休めたのである。



そんな中最後まで眠れぬ様子の者も約一名


「・・・・・・私は・・・・・使用人・・・・・・騎士ではないのよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

だがやはり緊張と疲れに負け静かに目を閉じたのだった。







寝静まった魔道具商店。


だがこの時店に知矢の姿は無かった。








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