第118話 新たな魔法 ~「ご主人様絶対”シノビ”だよ」
今週は更新が出来ずに申し訳ありませんでした。
なんとか週末1話投稿できましたのでご覧ください。
では第118話
どうぞ。
商業中核都市”ラグーン”には東西南北の門から中心へ伸びる大通りを軸に閉口する準大通り、そして更にそれと並行する裏通りがありさらに大通りと交差する俗称”周回通り”が何本もありそれを区割りにして街屋や商店、行政区、倉庫街などが存在する。
今、知矢達が陰に潜むのは南門から大通りを進み脇道のそれた奥まった地区にある倉庫街である。
昨今”魔道具商店”で販売されている光の魔道具により大通りの交差点付近は煌々とした灯りが点在するようになったがさすがに裏通り、しかも夜に人気が全くなくなる倉庫街に明かりは無い。
そんな中を気配希薄の魔法を使い知矢と選抜された使用人が音もたてずに目標の倉庫へと進んでいた。
「よし、ではお前たちは予定通り配置についてくれ。俺は上から二人の存在が確認出来たら侵入する。中で騒ぎが起こったらそっと侵入してきて加勢してくれ。
ただし二人の存在が確認できなければ様子を窺がいながら確実に居ることを確認するまで動かないかもしれん。」
知矢の説明に黙って頷くミレ達である。
知矢によるGOのハンドサインで4人は2手に分れ表と裏の扉付近で中の様子を探りながら周囲の警戒についた。
その様子を確認した知矢はスルスルと外壁に手を掛けながら登って行った。
知矢は転移前この様な身軽に外壁を登れるなど想像もしなかったがあらゆる身体能力が最高神のおかげでブーストされた事で難なく登れるのだった。
(しかし本当に”Ninja”だな。色はグリーンじゃないが)
等と変な事を思いながら板窓の一つへ接近した知矢はそこで改めてレーダーを表示。倉庫の中に人が居るかを確認する。
(反応は二人・・・これはあの男女か。マリーとアンドウの反応が無い?・・・)
レーダーの表示に例の男女を記録していたので今いる二人がその人物であることは確認できたが肝心のマリーとアンドウの表示が無い。
「コナビ、マリーとアンドウの存在がどこかに無いか?最大レンジで探して見てくれ」
「”ピーン”了解しました。検索します・・・」
「・・・・検索終了。範囲内存在を認められません。最大レンジ半径1000mです。 なおこの建物に魔法障壁の存在を確認。隠ぺいの魔法も検知されてます」
(居るのか居ないのか・・・魔道具で隠すと言う事は捜索を警戒しての事か?、だとするとやはりここにいるのか?それとも隠れ家だからか?)
知矢は今一つ確証を掴めぬ状態での突入を躊躇していた。
万が一突入し怪しい男女を拘束する前に二人へ危害が及んでは元も子もない。
(・・・・・何か確証が欲しい)知矢は屋根で気配遮断をしたままじっと中の様子を窺がうのだった。
場所は変わりラグーン郊外、街道を外れた森の中。
猟師や冒険者も来ない街道から奥に入ったその場所に潜む集団のキャンプがあった。
勿論良からぬ事しか企まない南の大国”ルドマリッド人民共和国”の破壊工作員や諜報員の集団であった。
周囲には魔道具による隠ぺいの結界が張られ外部からはそこでキャンプを張っている集団がいることなど全く感知できなかった。
2カ月ほど前からそこを拠点にラグーンやその周辺への侵入・情報収集・破壊工作を行っていた。
だが情報収取要員の偽装商人だったメンバーの殆どは拘束され今いる者は破壊工作や荒事専門の者達だけであった。
今はラグーンに潜入する者からの連絡を待ち要人誘拐の手引きをするために待機中であった。
そこへラグーンへ潜入していた連絡員の1人が急遽戻りキャンプは急に慌ただしさを見せていた。
「これがその薬だ。しかし一度使うとものの数十秒もしない内に死ぬぞ。情報をとれるのか」
「もう手が無い。まさかあいつらの誘惑が全く通じないとは予定外だぜ。しかし何か情報を掴まないと俺たちは国へ帰ったら命はない、だったら僅かなチャンスにかけるしかないだろう。」
戻って来た連絡員は奴隷契約を破棄させ情報を聞き出す薬を手にしながら語る。
「だがそれも成功すればだ。何も訊きだせない場合は全くの無駄だぞ。それこそ貴重で高価な薬だけ失って何も聞き出せませんでしたじゃ同じ事だ。別の手を考えたらどうだ。」
破壊工作を得意とする男は潜入した者達の不手際で何も行動していない自分たちまで国から罰を受けるのではなたまらないともっと確実な手を打たせようと説得する。
「いやもう使用人を2人誘拐しているんだ。時間が経てばアジトも露見するかもしれん。時間が無い。」
しかし連絡員は譲らない。
業を煮やした工作員の男は
「わかった、しかし俺たちも潜入しよう。お前らが情報の入手に失敗した段階でその魔道具商店を灰燼に帰そう。そうすれば魔道具は入手できないが制作しているやつらも居なくなる。帝国の奴らもこれ以上魔道具を得られなくなり祖国人民の脅威を消すのだ。」
破壊工作の男は製作者の拉致誘拐が無理であろうと考え店ごと制作者を消すことを決めた。
これは元々本国の人民同志(上役)からも事前に最後の手段として言い含められていた。しかし諜報員や誘拐役の者達はそこまでの話は聞いておらず困惑するが自分たちが任務を果たせていない現状で強硬に反対する事も出来なかった。
「よしお前はすぐに戻り他の仲間へ話を通してくれ。俺たちは夜が明ける直前に隠し通路から侵入してその魔道具商店とやらへ接近し潜む。」
「しかし脱出はどうする。騒ぎが大きくなれば都市警備の連中があふれかえるぞ」
「なに単なる民家が火事で焼失しまだ寝ていた者が焼け死ぬだけだ。出火を確認したらそのアジトへ合流する。また夜陰に紛れて抜け出せばいいだけだ。」
じゃあ頼むぞと連絡員の男へ念を押すと破壊工作員の男は部下に指示を出し侵入作戦と放火準備をさせるのだった。
連絡員は走りに走って都市へ潜む仲間の下へと急いだ。
真っ暗闇の街道を走り商業中核都市ラグーンの姿が暗闇に浮かび上がるほどの距離まで近づいた連絡員はそこから街道を外れ都市の門から外れた川沿いの排水路へと潜んだ。
周囲に人気のないのを確認すると水路の中へ水音をたてないよう静かに没し首だけ出した状態で水中をゆっくり進み獣止めの鉄格子に手を掛けると一部の鉄棒が抜け人の通れる隙間をが出来た。
その隙間から侵入し再び格子を戻すと真っ暗な排水路の中へと消えていった。
知矢は屋根から倉庫の中を覗いていたが今もって誘拐されたであろう2人の気配も感知できずにいたが思い切って板窓をゆっくり開けるとするりと内部へ潜入した。
板窓の内側は丁度良くキャットウオークになっておりそれを伝いながら音を立てずに階下へ降りられそうな場所を探しながらゆっくりと忍び歩く。
階下には相変わらず男女2人の気配のみだ。
2人は小声で何かを話していたが未だ知矢の位置からその内容を聞き取り事は出来なかった。
少し進むと階下から屋根へと延びる斜めの柱をみつけそれを伝って降りることにした。
実はその手前に木製階段を見つけたが僅かに手を触れただけで古びた階段が揺れたため足音で発見されることを懸念し屋根を支える斜めの柱を使う事にした。
柱に組み付きスルスルとマシラの如く音もたてずに降りる知矢。
人の気配がする方からランプの明かりが届く手前で柱から大きな窓枠に移り枠にぶら下がるように横移動、その後枠と枠を使い見事に着地し運送用の大きな木箱の影へと姿を潜めた。
倉庫の外では倉庫の入り口が視認できる場所へ隠れ待機中の使用人ササスケとアカネが隠れて中の様子を窺がっている。
「まだ何も音も無いでござるな」殆ど余人の耳に届かない彼ら独特の話し方をするササスケ。
彼ら日本からの転移者を先祖に持つ者達は一族の中で伝わる独特の技を数々持っていた。
その一つが”忍び声”の技だ。
「ご主人様は屋根から気配を探っているのだろう。じっとこらえて待つしかない」アカネも同様に忍び声の技で返す。
「しかしご主人様は我々とは生まれも種族も違うはずであるが先ほどの見事な”壁登り”はどこで学んだのでござろうな?」
知矢が外壁を登った時の技を見たササスケたちは自分たちの学んだ”忍びの技”と酷似していると思い知矢が実は別の忍びの一族なのではないかとか思っていた。
実は単に知矢は日本にいた頃から身体強化の一環でフリークライミングを知矢の道場の門下生と共に行っていたのだった。
ただフリークライミングは場所の制約から途中で道場の敷地に高いコンクリートのカルバートを積み上げ擁壁を造りそれを利用したボルタリング施設を建築してフリークライミングの代わりにしていた。
因みに知矢の道場にあるボルタリング施設は落下防止のロープやマットレスは低段位のみが使用し高段位者は命綱無しで行っており更に地面にはマットレスなど無く砂地でしかないまさに命がけであった。
知矢は「安全な場所を使用してやってよい。」と言っていたが自らは何の安全施設も無い場所で訓練していたので高段位の門下生がそれにならったのだ。
知矢は単に「安全に出来ると緊張感が無い」と言ってのけたが知矢の目で技量の足りない者には決して使わせなかった。
そんな経験が今回役に立ったのだったが。
そんなササスケ達や裏口のミレ、アヤメ達が息をひそめていたところへ遠い暗闇から誰かが走り寄る気配を感じた。
ミレとアヤメは隠れていた陰に更に潜み走り寄る者の様子を窺がっているとその者は倉庫の裏口へ周囲の様子を窺がいながら近づき扉を変わった符牒で叩き中の様子を窺がった。
すると中から「キキキー」と微かな獣の様な鳴き声が聞こえるとその者が「グルルルルー」と鳥の鳴き声の様な音を発した。
それが合言葉なのか倉庫の扉が静かに開けられると互いに認め合いその者は静かに中へと入っていった。
SIDE:知矢
倉庫の荷箱の陰で潜む知矢。
レーダーに新たな人の影が接近する様子をとらえると倉庫の戸が叩かれ中外で符牒を合せ新たな人物が中へ入ってきたのを見ていた。
30代ほどのその者は男であった。知矢が以前探った時にいた男の様だ。
ハアハアハアと僅かに息を切らしていた男は仲間から水の入っているのであろう木の小さな樽を渡されるとグビグビと音を立てて飲みだした。
「プハー、はぁひとごごち着いたぜ」
「ご苦労だったな、で薬は手に入れたのか。」
女が急かす様に聞いた。
「ああ、これだ」男は腰に縛り付けた袋から厳重に包まれている包みを出し女へ渡した。
「だがやはりそいつを使うと奴隷制約を突破できるが尋問する時間は殆ど無いと言っていた。聞き出して答える間もなく死ぬかもしれん」
残念そうに話す男。
「だけど何も情報が得られなけりゃ俺たちは祖国同志に顔向けできないどころかこっちの身が危ない」
優男が訴える様に男へ迫る。
「実はな、実行部隊の奴らが明け方前に侵入してくると言っている。祖国の同志に製作者の捕獲が出来ないなら制作している建物ごと住んでいるやつらを全て残されている魔道具と共に灰にするよう言われているらしい。」
「ならこれ以上動く必要も無い訳か。明け方前と言うとあと2刻も無い。なら奴らの合流を待って地下の二人を始末したら脱出すればいいさ」
女がもう自分たちはやることが無いと言う様に両手を上げその姿のまま椅子代わりの荷袋へ腰かけた。
その後三人は携帯食料らしきものを食べながら時間を待つようであった。
(この倉庫には地下があったのか・・・)女の言葉にやっと囚われられた二人の存在を確認出来た知矢は影から地下室への入り口を探してみたが何かでカモフラージュされているのか目につかなかった。
(コナビ、聞こえるか)知矢は声に出さず意識の中でコミュニケーション・ナビゲーターを呼んでみた。
すると意識下でも伝わるらしく
「”ピーン”お呼びでしょうか。」いつもの機械的な音声が返ってきた。
(この建物の構造を探り表示する様な能力はないか)
知矢は何か便利魔法で建物の構造をスキャンする様なものが作れないかと思い聞いてみた。
「ハイ、探知魔法のレーダーと解析魔法を組み合わせた物質の構造を読み取る”スキャニング”魔法の制作が可能です。」と返答があった。
(よしじゃあそいつを作るぞ、サポートしてくれ)
「了解しました」
知矢は目を軽く閉じると(創造魔法)と唱えた。
するといつものように緊張と弛緩が体を襲う、バイブレーションの様に全身を駆け巡った。
ただ今回はそれほどの魔力を注ぎ込む要も無かった様で直ぐに
「”ピーン””スキャニング”LV1が使用可能です」
知矢の新たな魔法、スキャニングが完成した。
(よしこれでこの建物を解析して地下室を特定できるぞ!コナビありがとう)
「どういたしまして」返事と共にコナビの音声が途絶えた。
(よしこれで地下室を特定したら踏み込むか!)と知矢は考えたがその前にと
「誰か傍にいるか?」知矢も声にならないほどの声を口先から糸を吹く様に出した。すると
「はいお傍に」これもまた知矢にしか聞こえない程の声が返ってきた。
「おお、いたな。誰か俺の店へ走らせて周囲で監視をしているやつらを一人残らず確保する様に伝えてくれ。お前に仲間も手を貸してくれれば逃げられる事は無いだろう。あとさっきの奴らの話は聞いていたな。2刻後、明け方前に侵入してくる奴らの捕縛の手配も頼む」
「承知しました。こちらに2名残しておきますので何かあれば同じように声をかけてください。」
「わかった。俺は少し様子を見て救出準備が出来たら声をかける」
知矢の返答を受けると姿が見えない者はその気配を消し去った模様だった。
知矢の店と使用人を放火されてはかなわないと先にそちらの手配りをした。
先ほどの声の主と姿がまだ見えない他2名。彼らはアンコール伯爵の治世を陰で支える者達であった。
聞いたところによると詳細は明かせぬと言われたが情報収集と監視が主な役目で武力はそれほど高くはないがそこそこに敵を排除して脱出や救出するぐらいの力はあると言われたので知矢に密かに従う様にアンコール伯爵へ願った(命じて)のであった。
(さて地下室を探すか。”スキャニング”!)
知矢は新たに作成した構造を解析把握する魔法を行使した。
果たして魔法は上手く行くのか。
2人はどこに囚われているのだろうか。
都市の外部にはもうすぐ破壊工作を専門とする者達が密かに接近する。
魔道具商店の店先に急遽設けられたうどんの屋台が2台。
もう夜中だと言うのに多くの人が店の周囲で手に容器を持ちうどんをフォークですすりこんでる風景が見られた。
「あら、丁度良かった。私にもうどんを下さいな。」
「はいうどん一丁、あれニーナ様ではないですか。こんな夜更けに如何なさいましたか」
「ギルドの会議が長引いてこんな時間になってしまいました。自宅へ帰るよりこちらの方が都合が色々良いので来てしまいましたわ。トーヤさんはいらっしゃる?」
「へいうどんお待ち。トッピングは如何なさいますか。主は今ちょっと諸用で外出中ですが」
「あら相変わらず忙しいのね。ええとじゃあ”歩き鳥”のてんぷらを乗せて頂けますか」
「はい、どうぞ」
「では頂きます」
ニーナは何も知らずに美味しく夜の暖かいうどんを食したのであった。
その後リラレットに迎え入れられ風呂を堪能しいつもの部屋で休むのだった。
(あら、でも何故こんな全員で夜更けに?・・・)
と睡魔に襲われながら少し疑問を持つがそこで意識は途絶えるのだった。




