第116話 先手・後手 ~ 「人民共和国め ! 潰す! 」
皆さまこんばんは
少し暖かい11月も末、良い季節と思いますが中国ウイルスで秋を満喫できないのが残念ですね。
さて本日は今週最後の投稿になります。
では第116話 どうぞ
また来週~
「トーヤ殿がこんな時間に突然現れる。何か起こりましたか」
当夜の突然の出現にもかかわらずその真意をすぐさま読み取り己に何か役に立てる事が有るのではとすぐに思うあたり思考の速さと分析力は高位貴族ならではだ。
「ああ、どうも気分が悪い奴らが俺の周囲をうろつくようになってな。そこで管理貴族である伯爵様へ助けを求めに来たと言う訳だ。」
どう見ても個人的戦力で言えば騎士団を遥かに凌駕するであろう力を持つと思っているトーヤが伯爵である自分に助けを求める。
「と、おっしゃると言う事は戦力を借りに来たと言うより私の地位と権力の方ですな」
知矢の言葉ですぐさま答えるのだった。
「さすが管理貴族を拝命する伯爵様だ。一介の平民冒険者の俺とは理解や思考の速さが違うな」
「何をおっしゃいます。」いつも何やら知矢にしてやられている感のあるアンコールは知矢の褒め言葉に素直に喜んだ様子だ。
これも第三者が見たら驚愕の表情をするに違いない。この会話だけを見ても力関係がおかしいぞと首を傾げずにいられないだろう。
「実はな」とやっと知矢はお忍びで忍び込んだ本筋を話し始めた。
知矢の口調が僅かに変わったのをすぐさま感じたアンコールはその緩んだ表情をすぐさま引き締め話を聞くのだった。
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「とういう訳で俺の周りそして使用人に接触する怪しい男女がいる。それだけだと伯爵様へ相談する様な内容じゃないのだが裏の情報も別ルートで探ってみた。」
黙って知矢の話を聞いている伯爵は意外にもこの冒険者が裏の情報を手にする力、関係をも持っていることに驚いた。
伯爵が調べた範囲では裏側との付き合いは一切出てこなかった。そして伯爵自信もこの冒険者はそう言った者を嫌忌するタイプだと理解していた。
嫌忌し携わらない、近寄らない、そう言った生き方は真っ当で賞賛すべきことであるが裏の世界を完全に否定する事をしないのが高位貴族、いや貴族である。
『何を青臭い事を言っている』等と否定はしないが実際大都市の運営を行い数万、十数万の人々の暮らしや国家の動静を守り続けるには真っ当な事だけ言っていては出来ない事もある。
そう言った時の為にアンコールも密かに裏のつながりを持つことを否定しないのだ。
しかしこの若者がそう言った世界を覗き見る危険性も一瞬憂いでみたが、すぐさまその考えを霧散させた。
この若者は見た目の若さに無い深謀と老練さを持ち合わせそして若いなりの素早い思考と行動力も兼ね備えていると理解していたからだ。
「裏ですか、何かうごめいておりましたかな」との問いに顎を引き肯定する知矢。
そこで一呼吸置く様に紅茶を口にし再び口を開いた。
「南の大国、あの”ルドマリッド人民共和国 ”だ」
アンコールも一呼吸おいて「やはり」とだけ答えた。
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知矢が”魔鉱石”を発見した事によりこの都市や近隣の経済は大きく発展する事になり多くの人々の関心を集めたが同時に帝国に対し侵攻を繰り返していた”南の大国”も大きく関心を示しその触手を伸ばし密かに間者、スパイを侵入させていた。
それと同時に破壊工作や経済工作をたくらむ輩も多く忍び込んでいる。
更にそれに拍車をかけたのが知矢の”魔道具商店”であった。
当初金銭での入手も考えていた彼の国であったがあらゆる伝手を利用しても得られるマジックバックをはじめとした魔道具は能力の低い物が精々でマジックバックに至っては入手自体を阻止されていた。
その為制作者や作成工房へと関心を移した彼の国はかねてより商人に紛れ店の様子を窺がっていたが度重なるスパイの逮捕で(第96話 閑話 日常①を参照) 業を煮やしたのか直接使用人や主である知矢へと接近し男女の技をもって篭絡、情報を引き出すかあわよくば制作者自身を彼の国へと連れて帰る事を画策したようだ。
そう言った情報が断片的に裏の世界で流れていたものを収集し確定させた知矢は既に発見している男女と逸れに接触するもう一人意外に大規模なスパイが入り込み知矢達へ襲い掛かる事も十分考えられる。
確かに知矢の配下、使用人達で組織された警備担当者は腕に覚えのある者も多いが所詮冒険者である。
正面から向かってくる敵や魔物なら対処の仕様もあるが闇に潜み絡めてや策を弄する者達から使用人全員を守る事は知矢一人では不可能だ。
さらにもし人質にでも取られたら知矢は使用人たちを見捨てることなどできずに軍門へ降るかもしれない。
そうした諸々を勘案した時、知矢がひらめいたのが
『ああ、そうだよ。都合のよい権力者が傍にいたな。市民を守るのも彼らの務めだ、良し!』
と今回の訪問になった。
ちなみに知矢は気配遮断を使用し堂々と玄関から侵入しようと思ったがその際
”ピーン”コナビが反応
『魔力検知及び侵入者防止の魔力防壁が存在します。』
と知らせてくれた。
知矢の補助をしてくれるこの”コナビ(仮称)”は最近少しアップデートでもされたのか機能が徐々に増え今ではこうして知矢が知覚出来ない事もアラートを発報してくれる。
少し便利になった。
さすがに私邸の警戒は万全のようだったが知矢は逆に出入りする使用人の背後へ魔力を使用しない精神的な気配を消す事(武道培われた能力)で容易く侵入し先に私室へ入室しソファーでくつろぎながら待っていたのだった。
「さて、ではわしはどのように動けばよいか…」暫し情報を精査し瞑目しながら考えるアンコールである。
その間知矢は黙って紅茶を飲みだされた焼き菓子などを口にしながら待つのであった。
しかしすぐにアンコールの考えがまとまった様で知矢へと目を向けた。
「そろそろこの都市を這いずり回る害虫駆除を行おうとも考えておりましたからな。いい機会です。トーヤ殿お任せください。」
とニヤリとする老人はその後知矢とコソコソ食事の時間も忘れ談合するのであった。
その後、今度は堂々と正面元から出た知矢は一見街の辻馬魔車に偽装されているアンコール伯爵の用意した車で店へと帰ったのだった。
辻馬車を装った魔馬車を店の手前で降り料金を払う風を装いチップを渡した知矢へ伯爵配下のその男はまるで本当の辻馬魔車の御者の様にお礼を述べ喜ぶような顔をして去っていった。
そのまま歩いて店の裏口へ向かった知矢。先の方では裏木戸の前に使用人が数人出て周囲を窺がっている。
その様子からと知矢を出迎える様には見えなかった。
「おおい、どうかしたか」知矢が声をかけるとすぐに気が付いた使用人たちがこぞって走り寄り知矢へと報告する。
「ご心中お騒がせいたし申し訳ございません」代表してワイズマンが話す。
「先刻来買い物へ出かけていたアンドウ、マリーの両名が未だ帰りません。今周囲を捜索中ですが・・・」
(先を越されたか?)知矢は渋い表情を浮かべながら考える。
しかしアンドウはともかく何故マリーなのかとも思ったがマリーの事を知った者でなければただのお嬢さんに見えるかと思いなおし。
「捜索の者を一度引き上げさせろ、店を閉じろそして残った者を集合させるんだ。」
ハイと返答したワイズマン。隣にいたサーシャはワイズマンと顔を合せ頷くと片手を空へと向け「サンダー」と叫び雷状の光を漆黒の大空へと打ち上げた。
その後帰宅した知矢は全員が揃うのを大広間で待つのであった。
(くっそ、頼むぞ無事でいてくれ。)と怒りを抑えながら祈る気持ちで。




