第112話 家と仕事と・・・女 ~「トーヤ君遅いですね。まだでしょうか」
はい、こんばんは。
月曜日なんとか投稿できました。
明日も出来るといいな。
では第112話です、どうぞ。
知矢は従魔を肩に乗せ大通りを歩いていた。
つい先日までは人の目をはばかる様に身を隠しながら時には”気配遮断”の魔法を行使しながら歩くなどしていたのだが今は太陽の下、堂々と歩く様になっていた。
時折従魔であるゴールデン・デス・スパイダーを見て驚く者もいたが最近は冒険者だけでなく街の人にも従魔でありなおかつ危険が無い事が広がった様で買い物をしていても「あらピョンちゃん一緒にお買い物かい。お駄賃にこれをあげようね」などと肉片や時に果物を貰い手を振る様子等も見られる。
知矢に関してはやはり隠していた魔鉱石発掘者そして皇帝より報奨を受けたAランク冒険者という肩書はどうしても広がってしまったが逆にそれだけ偉大な事をやってのけたしかもAランクの冒険者へ何かちょっかいをかける者などいなかった。
最初の魔鉱石発見時の騒ぎが有った為必要以上に過敏になっていた面もあったが人のうわさも何とやら、その上ランクアップで社会的信用も高まったのが幸いしたようだ。
おかげで知矢も従魔もこうして普通に街へ溶け込んでいるのだった。
「さて今度の場所はお前の事も最初から紹介するからそのままでいいぞ」
肩に乗る従魔に優しく話しかけると
「・・・・・・・・・・・・(ハーイちゃんと挨拶しますね!)」と反応が返ってきた。
最近主従ラインがしっかりしたのか殆ど知矢と従魔は普通に会話しているように見えるが第三者には知矢が一人でぶつぶつ言っているようにしか見えないのが難点ではある。
知矢が訪れたのは母神デミレサスを信奉するデミス教のラグーン教会であった。
知矢が大きな木製ドアの玄関わきに下がっている紐を軽く引くと中で静かに鐘の音が聞こえた。
暫く待つと中から人の気配を感じゆっくりとドアが開き中から顔を見せたのは以前と同じ老爺だった。
「こんにちは。冒険者のトーヤと申します。マベラス司祭様にお会いしたいのですがいらっしゃいますか」
知矢が普通に挨拶をして司祭の様子を尋ねると老爺はしわくちゃの顔をにこっともっとしわくちゃにして「おお、先日の救世主様じゃないか。あんたのおかげでこの教会と子供達を食い物にしようとしていた奴らはみんな捕まっちまった。いた本当にあんたは救世主だ、ありがとうありがとう!」
老爺は知矢と解るとドアを大きく開けはなち飛び出る様に知矢に近づくとその両手を握りしめ勢いよく上下にビュンビュン振りながら感謝気持ちを伝えるのだった。
前回ニーナを伴いこの教会を訪れた際殆どブラックでグレーな金貸し”ザザン商会”と出くわし知矢がザザン達をとっちめそのご商会長ザザンと配下の者達はことごとく騎士団に捕縛され今は労役に就いているはずだ。
その事を老爺は感謝しているのである。
「いやあ、おじいさんあの時はたまたまタイミングが良かっただけですよ。これも皆さんの日頃の信仰心の賜物だと思いますよ」
と感謝で興奮気味の老爺をなだめ司教を呼んでくれるように頼むのだった。
なかなか興奮からか知矢から離れなかった老爺がやっと玄関の奥へ一度姿を消すと間もなく司祭が姿を現した。
「おおこれはこれはトーヤ様。ようこそお越しくださいました。ささ、玄関先では何ですから先ずはどうぞお入りください」と知矢の顔を見ると老爺の様に興奮しながら手を引く様に奥へと誘うのだった。
「あっその前に司祭様。」と知矢はマベラスを引き留め
「この子は俺の従魔なのですが同行して問題ありませんか。名前はピョンピョンと言います。オイ!」
と従魔を紹介し促すと知矢の肩にちょこんと乗っている従魔は「こんにちは!」とでも言う様に頭を下げそして手を、前脚を振るのであった。
「あらあら可愛い子ですね。はい噂はここにも届いておりましたよ。生きとし生ける者すべてに閉ざされる扉はございません。ピョンピョンちゃんね、どうぞよろしく」と同行を許してくれた。
講和を行う幌間から奥に案内された知矢達は部屋のソファーへをすすめられた。
すぐに若い修道服の女性がお茶を供してくれた。互いに一口のどを潤すと
「お久しぶりです司祭様。今日も突然の訪問を受け入れてくださりありがとうございます」と先ずは知矢が挨拶をする。
「いえいえ、こちらこそ。先だっては当教会と子供たちをお守りくださりありがとうございました。そして多額の喜捨を頂いたおかげで子供たちの食生活も改善し、先ごろは冬用の毛布を新調できました。
子供たちもそれは大変喜びすべてはトーヤ様と母神デミレサス様のおかげでございます。」と頭を垂れながら両手指を組み祈るのであった。
「よして下さいそんなに拝まれても困ります。それは母神デミレサス様への心神の賜物です。俺はたまたまですから。」
と繰り返すのであった。
「いえいえ、あの日御出でになったのは偶然かもしれませんがそれもデミレサス様のお導き。そして喜捨はトーヤ様のお力で得られたもの。感謝にたえません。」
暫く知矢は重ねて感謝を述べる司祭の言葉を大人しく聞くしかなかった。
「それで、本日はどのようなご用件で」とやっと話が進むなとほっとした知矢は
「ええ、それなんですが。実は可能かどうかわからなかったので直接お伺いした方が良いなと思い急に寄せさせていただきました。
実は」
知矢は今自分が行っている事業を始め活動を簡単に話しそして新しい住まいも手に入れ人手不足に陥り当てにしていた奴隷商会での話も含め正直に話した。
その上で
「この教会で養っている子供たちも大きくなると社会に出ます。その訓練も兼ねて色々と奉仕活動や派遣活動をおこなっていますよね。先日は私どももお世話になりましたが。
その子供たちの中でここを巣立つ者がいないかと思い、そして私の商会もしくは私の住まいで使用人として働いてくれる人はいないかと思い、急にですがこうして参った次第です。」
知矢はいつもの思い付きでの行動ではあったが孤児たちがこの学び舎でもあり家でもある教会の孤児院をいつかは巣立っていく者がいるであろうとも思ったのだった。
マベラス司祭は少しだけ考えるようなそぶりを見せたが
「そうですね。確かにここを巣立つ子たちは定期的におります。そしてその行く先、働き先を紹介するのも我々の務めです。
中には自らの手で働き先を探す者や冒険者になると言うものなどもおりますが。」
一度言葉をきり
「正直申しまして孤児たちの働き先を得るのは難しいのが現状です。」と思いもよらない話をし出した。
司祭によると、
決して子供たちは街で虐げられたり蔑まされたりしている訳では無い。
逆に良く働いてくれると派遣先でも高評価を受けることも多い。
しかし正式に雇うとするとどうしても一般の家庭で育つ者が優先されがちである事。
そして即戦力と思われるのは奴隷達の方である事などでどうしても孤児たちは後回しになってしまう傾向があると話すのだった。
「もしトーヤ様の申し出を受けられるのであればこちらとしては願っても無い事です。」
さらにと言葉を続けて
「この教会の孤児院だけでは無くこの都市にあるもう一つの孤児院も同じような状況なのです。もしよろしければこことそちらと両方から働きに出る希望を持つ者を雇っていただけたらどんなにうれしい事でしょうか」
との司祭の言葉に知矢は
「こちらこそ願っても無い事です。いやあ思い切ってお伺いして良かった。
もちろん待遇などもきちんと話し合い使用人として正式に契約書も交わしますしその身は保証しますから不安なく働けると思います。それに当方の使用人は全て最初から研修を行いその後実際に働くと言う体制もとっていますから不安はありませんよ。」
思わぬ幸運に知矢は舞い上がりまくし立てる様にアピールをしてしまうのだった。
「あらあらそんなにしっかりした体制なのですね。でしたら子供達も不安なく働けることでしょう。」
しばらくそんな仕事の内容などを話し合い教会の方で両方の孤児院から希望者を募って後日連絡をくれることになりその場を辞する事になった。
「今日は来てよかったです。司祭様ありがとうございました。」
率直に頭を下げ感謝する知矢。
「いいえこちらこそ。子供たちの働き先を確保できる機会を得られて感謝します。」
と互いに頭を下げながらその場を後にするのだった。
すっかり遅くなった知矢は早く帰ろうと通りをいくらか速足で抜けていくのであった。
もうそろそろ陽が大地の地平線に入るであろう頃合い。
街の中は既に日が建物で遮られている為路地などは殆ど真っ暗であった。
知矢は生活魔法の”ライト”を行使しやや広角気味に照らしながら先を急ぐ。
もう冬はすぐそこまで迫っていた。
実際に数値的な測定をしたわけではないが知矢の感覚だと同じ暗闇でも春先や夏場より冬の方が暗さが濃く感じていた。
この感覚は日本にいる頃から毎年感じその季節になると「おっこの暗さの感じ、季節が変わったな」と言っていたが果たして単なる思い込みなのか実際そうなのかはあ分らない。
そんな路地を光を照らす方向へ歩いていると。
「ねえ、そこの人」
知矢は思わず歩みを止め声のする方へライトの光を向けたが
「キャッ、眩しい!」
という声に思わず魔法の行使を止めてしまったら真っ暗で何も見えなくなったのだった。
すると急に知矢の腕が掴まれ「もう眩しいじゃないの」という声が耳元に直ぐ傍で響いた。
ハッとした知矢はするりとその声の主に掴まれた腕を体さばきで脱出し距離を取り再びライトをつけるのだった。
気が付かない内に腕を取られるところまで接近されたことに驚き一気に警戒を強めるの知矢。
すると若干弱く調整した光に映し出されたのは・・・
「知矢の元へバイクを届けてほしいとな・・・・・うむむむむむ・・・・」




