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第109話 神様の手紙  ~じいじ元気でね!

はいこんばんは

今日もなんとか投稿できることを私は嬉しく思います。(いやホントに)


では第109話

どうぞ。





 季節の移り変わりと言うものは早いとよく言われるがその女にとって今年ほど季節感を感じる余裕も無く月日が過ぎて言った事に気が付いたときには既に新年を迎え街は迎春に浮かれ華やいでいた。



 しかしその女と家族にとって今年の正月はカレンダーこそ掛け直したが正月料理も無く新春の挨拶の控える静かなものとなった。




 ここは日本の関東地方でも都内と言われる場所から少し外れた田舎の地方都市。


 海の無いその立地は女の連れ合いにとっては物足りない場所であったが女を妻に迎える時に女の要望でここ女の生まれ故郷に居を構えたのだった。


 海が好きだった夫は夏になると家族を連れてまだ日も明けぬ時間から車を運転し一路海を目指す。そんな旅行をよくしていた。


 幼かった息子は寝たまま車に乗せられ起きた時には目の前に広がる海と眩しい朝陽に「うわ~海だ海だよ!」と感動していたものだった。


 そんな子供の喜ぶ様子を見るのが好きだったその男はいつもそうやって海を目指して走る事に喜びを感じていた。


 幾ら仕事で疲れていても、ろくに寝る時間が無くても事故も起こさず寝ている家族を起こすような運転もせず目が覚めたら海だというその言葉と家族の笑顔の為に。



 そんな息子も成長し結婚するとすぐに子に恵まれた。初孫は女の子だった。


 その男は妻である女以上に孫の誕生に浮かれ舞い上がりそれはそれは孫の成長を楽しみにしていやがる息子夫婦の事も考えずに毎日毎日孫の顔を見ては言葉も解らぬ幼子に話しかけるのが日課になっていた。


 そんな孫もすくすく育ち歩き始める頃にはすっかりじじっ子となっていたのは必然なのか。

しかし或る時から状況は一変する。





 1月1日、元旦正月

 ”ピーンポーン”



 玄関のチャイムが鳴りモニターを確認するまでも無く息子夫婦と孫が女の自宅へ訪れたのを感じていた女はすぐに玄関の電磁ロックを外し上がり框で出迎えた。



 「ばーば!来たよ。あけましておめでとうございます」


 「いちごちゃん言ったでしょう。今年はご挨拶が違うって」


 「あっそうか。ばーばやりなおすね。 きょねんはおせわになりました。ことしもおせわになります!」


 「ハイハイ、お世話します!っと。さあよく来たね。 明けましておめでとう。今年もどうぞよろしくね。

 さあさあ上がったり上がったり。喪中だから正月料理はないけど普通に美味しいもの一杯作ったぞさあさあ!」


 「貴方?」

 「まあ母さんが良いなら良いんだろ。はい母さんおめでとう。今年もよろしく」

 「お母さま今年もよろしくお願いいたします」


 喪中と言いながら祝い言葉を口にするその女に息子夫妻は遠慮がちに挨拶をするのだった。



 「うわーばーばまたクリスマスみたい!」


 居間のテーブルには所狭しと料理が並びジュースやワインビールにお酒オードブルにサラダ、煮豚にエビフライ、保温機にはスープが用意されケーキやデザート、お菓子まで並んび配置されたグラス類が天井照明の明かりに輝いていた。



 「おいおいずい分張り切ったな母さん」

 「お母さまこれ全部お作りに」

 「うわーおいしそう」



「 はっはっはー年末1人暇だからね。テレビ見ながら作っていたら止まらなくなったハッハー

さあ席について食べよう」


と声をかける女。息子は上座の席にいつも座っていた男の箸と大好きだったラガービールの缶が置いてあるのに気が付いた。



 「よし!じゃあ乾杯だ!」

 「かんぱいしよう!」

 「「「「かんぱーい」」」」



 「もぐもぐ・もぐもぐ」必死になって肉を頬張る幼い孫


 「いちごちゃん、お肉硬かったかい?」


 「ごっくん。ううんとってもやわらかくっておいしいよばーば」


 「本当に、お母様の煮豚はいつ食べても美味しいですわね」


 「はっはーそれやあ良かった。あの人も大好物だったからね。よく作ったよ」


 「いやいや母さん俺も大好物だったから」


 「知ってる、小さい頃あんたとパパはよく肉の取り合いしてたっけな」



 女の夫の席には皿に盛られた料理が置いてある風景を観ながら女は懐かしそうにつぶやいた。



 「でも毎年正月は純和風のお節ばかりだったからなこんな洋風のメニューは今年だけだな」

その息子も父親が座っていた席を見ながら呟く。


 「何言ってんだい。これからは我が家の食事は基本洋風だよ。あの人が居なくなったんだからもう私の好きな物を作って食べるのさ」と楽しそうに話す。

 

 「お父様は何につけ和食、ご飯にみそ汁でしたからね」


 「そうそうジャマイカに旅行に行った時もあの人はインスタントみそ汁とパックご飯をたくさん持っていたっけ。ホント呆れちゃうよ」


 久しぶりの賑やかな正月の団らんの風景だった。





 お察しの通りここは日本での知矢が住んでいた家であり、女は妻、男は息子で妻とその子供だった。




 数カ月前「俺はのんびりツーリングを楽しむから後はよろしくな」と自宅を出発した夫が数週間後、突然の訃報により無言の帰宅をとげた。



 妻である女は家族を連れ夫の旅先で収容された施設へと迎えに行きもう話すことの亡くなった夫と最後まで大事にしていたバイクと共に帰郷させ荼毘へ伏させた。



 家族にとってこれ以上の衝撃が無い出来事であったが気丈にも妻である女は動揺する息子夫妻の尻を叩き一連の葬儀や手続を進行させた。



 会社の代表権を返上してはいたので社葬は故人の意思もあり行わず密葬により家族だけで執り行われるはずであったが昔の友人や知人が全国から大挙して集まり、社員も列席を望むなどしたためとても密葬と言える規模では無くなっていたが生前の個人の意思を尊重したいため仕事先関係者取引先の列席は丁重にお断りをしてのあくまでも個人葬として執り行われた。



 そんなこんなでこの数カ月はあっという間に過ぎ去っていた。




 妻である女は家族ともども新年を迎えて気持ちを新たに区切るをつけるためあえて正月パーティーを催したのであった。



 「さて酔いが回る前にお前たちへ言っておこう」

 楽しい食事が進む中女は話し始めた。



 「世間の流儀はいざ知らず、我が家では今日をもって喪をあける事にします。

 明日からはあの人の事は頭の片隅のどっかにしまって皆がそれぞれの事にまい進する様に。わかったかお前たち!」

と自らを鼓舞する様に家族へと宣言した女だった。


 「まあ、母さんらしい話だし父さんもそう言っているだろう。わかったしんみりしていたのはここで終わりだ。なあ」と妻や子へと笑顔をむけた。


 息子の嫁は「お母さまとあなたがよろしければ」と同意し娘は「わたしはじーじのことわすれないよでもわたしもげんきだからばばもげんきだしてね」


 「ハイよ。私はいつでも元気さ。さあまだまだ料理もお酒もあるからどんどんやろう。あっそうだ忘れないうちに」と元気な声を上げる女はテーブルの下へ置いておいた荷物籠から何かを取り出した。


 「ハイ、お年玉!」と三人へお年玉のポチ袋を配るのだった。


 「わーい(*´▽`*)ばばありがとうございます」と孫は席を立ち両手で受け取りながら腰を折り丁寧に礼を述べる。


 息子とその嫁も恐縮ながらポチ袋をうやうやしく受け取る。


 「お母さま毎年ありがとうございます。でもこの歳になってもお年玉をもらえるなんてね」と存外嬉しそうな嫁であった。


 「まっこれが我が家の伝統らしいからな。俺のじいさんが生きてた頃も父さん母さんも貰ってたもんな」と今度は息子の祖父を思い出しながら亡き父の思い出と重ねるのだった。





 「じゃあ母さんおやすみ」

 「お母様ご馳走様でした」

と手を振りながら頭を下げて帰宅する息子夫妻。


 「パパ、ママじゃあねおやすみなさい!」


 「この子は大丈夫だから明日からゆっくりしてきな。おやすみ」


 明日から正月旅行へと旅立つ息子夫妻を玄関で見送る祖母と孫であった。



 「よしじゃあお風呂に入って一緒に寝ようか」


 「うんばあば、でもねるまでおはなししてね」


 「はいよ任せときな。じーじ程じゃないけどこのばばもお前のお父さんにあーっぱいお話聞かせてあげたんだぞ」


 孫と過ごす穏やかな正月元旦の夜はまだまだ楽しく続くのだった。





 『・・・これ・・・これ。 聞こえておるか。ああそのままで良い。突然だがお前の夫に手紙を頼まれてのう。枕元へ置いておくで起きたら読むと良い。ではな渡したぞ・・・・・』






 女は変な夢を見ていた。

 正月二日目の朝見た夢は正夢、なんて言葉を聞いた事が有るなと女は思った。だが元来あまり夢を観る事は少ない女だった。


 逆に夫はしょっちゅう夢を見ては寝言を言い睡眠を阻害される程の声に閉口したものだった。




 ベットでいつも通り目を覚ました女。隣には昨夜から泊まりに来ている孫娘が静かに良い顔をして寝ている。


 にこやかな寝顔からするといい夢を見ているに違いないと思いまだ早い時間だから寝かせておこうとそっとベットから抜け出しベッドサイドボードの時計に目をやると、そこには覚えのない大きな短冊状のぶ厚い紙の束が置いてあった。



 「何だいこれは」覚えのない物に訝しさを感じながら周囲を見回し何者かが入った形跡がないのを確認しセキュリティーディスプレーをチェックして一度安堵した。



 恐るおそる手に取ると滑らかで上質な紙の束だと思い表面を見ると何か汚い字でびっしりと字が書いてあった。


 「えっまさか!」驚きながらサイドボードに置いてある老眼鏡を手に取りその書かれている物を読んだ。





 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 黙って黙々とその手紙を読む女は途中から微かに嗚咽しながら涙が頬を伝いとめどなく流れ落ちていた。







 半刻も過ぎたであろうか。

 女は涙を流し終えたのかじっと黙って天井を見上げていた。


すると

 「ふわーっばあばおはよう。あさだね。しらないてんじょうだとおもったらばあばのおうちだったんだよね」

 孫娘が起き出した。


 「はいおはよう。さあお顔を洗ったらご飯にしようか」

と何も変わった事のなかった元気な顔で孫との日常が始まったのだった。







 数日後



 ”トントン”厚い扉がノックされ「社長、相談役がお見えです」若い女性秘書が来客を告げる。



 「えっ、直ぐにお通ししてくれ」

 男は一瞬驚いたが平静を装い秘書へ告げるとすぐに客が通された。




 「母さん、驚いたよ。会社へ顔を出すなんて珍しいね。」

 男は知矢の息子であり知矢から引き継いだ会社の代表取締役でもある。


 「まあ、非常勤の相談役何て柄じゃないから監査時期しか来ないからね」と答える女は勿論、知矢の妻である。



 「どうしたんだい、緊急の要件でも?」訝しい顔を素ながら相談役でもある母にソファーを勧める。



 「いや仕事中に悪いとは思ったのだけれどね家だと何か話しづらくてね。私の胸に仕舞っておこうと思っていたのだけれどお前も読む権利があると思ってね。

これを見てくれないかい。」


 女はバックから例のベット再度に突然置かれていた紙の束、手紙を出した。



 今度は男の方が訝しい顔をしながら渡された手紙らしきものに目を通す。


 「・・・・・・・・・・・・・」

 目を通した男はすぐに母である女へ視線を移したが無言で頷く女の様子に再び手紙へと視線を戻した。







 読み終えた手紙を手に持ち考え込む男はテーブルに置いてあるリモコンのボタンを押し秘書へ紅茶を願った。


 すぐに供された紅茶を親子で黙って飲みひとこごちついたのか男が口を開いた。


 「これ、本物かい母さん」


 紅茶を口にしティーカップを置くと一呼吸おいて母が答える。


 「そんな下手な字は忘れもしないよ」


 「だよね。俺も同感だ。だけどそうするとこれはどんなマジックなのか。まさか父さんが生きてる・・」


 「それこそどんなマジックだい。あたしはあの人をいくら事故で亡くなった後でも他人と間違いやしないさ。」


 「だったらこれはどう説明って、まあ説明が簡単に書いてあるけど。異世界で老後を送る事になったって・・誰に話しても信じられる話じゃないぜ。ああ何だか俺も頭がおかしくなってきた」

 髪をかきむしる様なしぐさで天井を見上げる息子だった。




 その手紙は知矢が以前転移前に最高神へ願い別れも出来ずに二度と会えなくなった妻やそして息子たちへの別れの手紙だった。



 事故後天界みたいなところから見てるよとか神様の計らいで現世には戻れないけど別の世界で余生を送らせてもらえる事。

 生活の安心の保証ももらえたとか、残された家族には神様がお詫びに安心して過ごせるようにお守りとして加護を与えたはずだからとか魔法の練習をしていて転移に備えてるとか読めば読むほどいたずらにしか見えない内容だった。


 しかし母も息子もその汚い筆跡、そして拙い文章独特の言い回し、それに何より家族でしかわからない符牒も記載されていたのだから疑いたくても疑いようが無かった。





 「神様のミスで事故で亡くなるってどんな映画だよそれ」薄笑いを浮かべながら息子は力なくつぶやく。


 「そうだよね、そんな話信じろったって信じられないけど・・・信じるしかないね」と母も笑みを浮かべながら答える。


 「そっか父さんは今頃別の世界でのんびり老後を送っているのか。良かったって言っていいのかね」


 「何か複雑だけどまあ閻魔様にお仕置きされてはいなさそうだから良かったんじゃないの」


などと暫く親子で手紙に中身を読み返しながら話を続けた。



 「でこの手紙だけど。お前のお嫁さんや孫ちゃんの事も少し書いてあるけどそうする」


 「妻はともかく娘にはまだ理解が付かないだろうし変な勘違いで『じいじは別の所で生きてます』なんて話されでもしたら『死亡偽装』とか言われても困るからな。ある程度大きくなるまで黙ってよう。

妻は後で母さん所へ行かせるから話をしてやってくれ。」


 「孫ちゃんはそれで仕方ないけど。お嫁さんは親子で頭がおかしくなったと思わないかね」



 そんな話をしながらその場を収めた女だった。





 自宅へ帰った女は夫の遺影を前に「あなたは今頃のんびりしてるんですかね。あっちでどんな生活かは知りませんけど元気でね。・・・何かへんね遺影に向かって元気でねなんて」

と少し涙をにじませながら遺影に写る白髪頭の知矢に笑いかけるのだった。








 「へっくしょーん!!!!」

 大きなくしゃみが響き渡る。


 「まあ、大きなくしゃみです事。風でも引きましたかトーヤ君」

 ニーナがびっくりした顔で様子を窺がう。


 「いやいや大丈夫ですよ。風邪じゃなく誰かが噂をしているんですよ」


 「えっ何ですかそれ?」


 「ははっ俺の故郷に伝わる言い伝えっていうか何だろう、言葉遊びかな。

 クシャミ一回は誰かが噂している、二回三回と続けて四回クシャミをしたら、ああそりゃ風邪だってね。」


 「何それ面白い言い伝えですね」



 冬到来で厚着をしているものの快晴の昼間。街の屋台でお昼ご飯を食べながら紅茶を飲む知矢とニーナののんびりとした光景であった。





「そういや母さん、父さんの残したバイクどうするんだい。記念に保管しておくのか?」


「ああ、あれねどうしようね。バイク屋さんは今ならまだ部品があるから直せるって言ってたけど。何か直すとあの人のものでは無くなってしまいそうでね」


「じゃあ、一層の事バイクも火葬したら神様が父さんの所へ送ってくれるんじゃ?」


「・・・お前バカだね。バイク燃やしたら環境破壊になるだろ。専用の火葬場があるわけじゃないし。」


「馬鹿は無いだろ。でもまあそうか。じゃあどうする。」


「・・・寝ながら神様に頼んでみるさ」


「はあ・・・」




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― 新着の感想 ―
[気になる点] ここは日本の関東地方と呼ばれる田舎。 この書き方だと、関東地方のすべてが田舎だと言っているように見えてしまいます。 確かに田舎はありますが、関東地方全体が田舎というわけでは無いので「…
[一言] そういやトーヤは元爺で既婚者だったっけ。 夫婦仲が悪かった訳でもなし、軽々にニーナさんとくっつくわけにもいけませんな。
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