第107話 今回は俺が主役っすよ!! ~作者「ボツにするか」
こんばんは
今夜も何とか投稿できましたのでご覧ください。
一風変わった流れかもしれません。
では第107話どうぞ
未だ冬到来とはならずもすでに宵闇に通りを吹き抜ける風は冷たく辺りに人の気配は薄いのは寒さのせいと言うよりもこの世界で夜を照らす灯りは高価な魔道具を用いるか、貴重な油ランプを用いるかまたは生活魔法がつかえる者が魔力で照らすしかないのであるから人々は陽が沈む前に家路へ着き早い者は日没とともに就寝する。
よって夜、しかも寒さが身に沁み始めてきたような時期に通りを歩く者などは胡乱な考えも持つ者かはたまたその様な者を捕縛する兵士ぐらいなものである。
そんな静まり返った大通りに煌々と魔道具の明かりを照らし出す奇妙な物体が出現した。
その物体は灯りを照らす筒状の看板を掲げ何やらボソボソ声を出しながら移動しては時折停止し、また移動しては時折止まる事を繰り返していた。
その掲げた筒状の横腹には”うどん”と街の者は聞きなれない文字が書かれていた。
そしてその物体は一人の男に寄り担がれ移動と停止を繰り返しながら
「うど~ん、温かいうど~ん、美味しいおうどんはいかがっすか~」
奇妙な掛け声をぼそりぼそりと口にしながら男は誰もいない通りをゆっくりゆっくりと移動し続けていた。
その男が担ぎ移動している奇妙な物体は長方形の柱状の物が前後に立ちそれを繋ぐように簡易な屋根とテーブル状の板が渡されている。
これは知矢の故郷、日本で江戸期など盛んに観られた移動販売屋台、振り分け、担ぎ屋台、風鈴そばなど色々呼称があったようだが前後の柱状の部分には丼や食材火種の火鉢などを入れ前後の重量バランスを降りながら真ん中に空いた空間へ人が立ち丁度肩の高さに設けられた心棒を肩に乗せ持ち上げながら移動販売できる形状。
肩から降ろすと前後の柱で自立しテーブル用の板をぱたりと置けば即屋台の完成である。
そんな簡易屋台を作ったのは勿論知矢の発案で手先の器用な使用人が試行錯誤しながら作った力作だった。
屋台の上に掲げられているのは竹状の植物を割いて芯にし薄紙を貼りつけた提灯のつもりであるが中には蝋燭や油行灯では無く知矢の魔法で作られた光を発する魔道具を用いていた。
屋台の屋根の下にも光の魔道具が備えられ真っ暗な通りに異質の明かりを灯した異形の物体とも言えなくはない。
そんな手製屋台を担ぎながらそろそろ歩いている男。
若いひょろっとした男はよく見ると知矢を兄貴と慕う冒険者のボンタであった。
「あ~あ兄貴から久しぶりのお声がけだと思って勇んできてみたらこんなもんを担いで街を歩き回れって・・・客なんか居るわきゃないと思うんすけどね」
ぶつぶつと文句を言いながら時折移動しては先ほどの掛け声を繰り返す。
この世界に全くなじみのない屋台のうどんや。知矢は急な思い付きでまたしても配下の者達を戸惑わせたのだった。
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「夜鳴きそばならぬ夜鳴きうどんの屋台をだそう!」
日本からの転生者であるサーヤ以外全く何の事かもわからない事を言いだした。
使用人達やニーナそして既に酔いが廻り半分寝ぼけているニャアラスは何を言い出したのかわからなかったが黙って知矢の話を聞いていた。
「寒い夜に小腹が空いたと思いな~そんでようそんなところに夜鳴きうどんの屋台を見つけたとあったら江戸っ子なら一杯や二杯食べていくだろう、ええそう思うだろう~」
奇妙な節回しで語り始めた。
ポカーンとするニーナたち。
サーヤは何か嫌な物でも見る様な目つきで黙って観ている。
そんな様子を気にもしない知矢は
「まあ、そんな感じで寒い夜に暖かく美味いうどんを屋台で売ればこの都市に新たなムーブメントでも起こせるんじゃないかな」
「「「「「はあ、そうですか」」」」」使用人たちは言っている意味が解らぬまま同意しているが
「トーヤ君、ですがいくら美味しい物でもいきなり人気のない夜の通りで販売して食べにくるお客さんがいる者でしょうか」
ニーナは当然の疑問を口にした。
その脇で「コクコク」とサーヤは黙って頷いている。
「まあ確かにニーナさんの懸念も解りますがこの都市には内の店で販売が進んでいる光の魔道具が市中にかなりの量が普及し始まっていますから段々と生活環境も変わって来て夜に出歩く者や夜遅くまで起きて腹を空かす人が居るかもしれませんよ。当分は試験的に始めて見てあと昼間も出そうかななんて思ってます。」
「しかしご主人様、夜に店を出すと言っても多少なりとも危険が伴いますが警備班から人を出しますか」
警備主任のサンドスがもっともな意見を出す。
「そこは俺に良い人材の当てがある」そう自信をもって言い切る知矢にもはや反意を示せるものはいなかった。
そういった事が有りまたもや思い付きで言い出した知矢の”夜鳴きうどん計画”が発動したのだった。
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「はぁさっきから人っ子一人いやしねえっすね」
得意の気配探知魔法を使っても通りには全く人の気配を感じられないボンタはこんな仕事やってられるかと投げ出したくなる気持ちをぐっと堪え再び屋台を担ぎながら歩き始めるのであった。
「うど~ん、温かいうど~ん、美味しいおうどんはいかがっすか~」
ボンタは街の悪い冒険者の仲間としていったんは都市警備騎士に拘束されたが知矢の命で元仲間だった悪い奴らの捕縛への協力やその後の取り調べで積極的に情報提供をした事で罪を免れ放免された。
しかし冒険者ギルドにおける所属冒険者への犯罪行為処罰規則に則り冒険者資格をはく奪された過去があった。
しかし知矢の緊急依頼に随行し事を無事成し終えればはく奪した冒険視野資格を再度与えると言うギルド長のガインへの嘆願から知矢に無理やり同行しその後依頼を完遂。無事再度冒険者として活動できることになった。
しかし冒険者として実績も無く、経験も少なく失敗ばかりで他の冒険者からも相手にされていなかったボンタであったからいざ資格を取り戻せても一人で活動し生活することが出来ずにいた。
そんなボンタが年下の知矢を”兄貴”と呼び慕っていたのだったがしかし知矢は最初は相手にもしていなかったが然るきっかけでボンタのステータスを確認して彼にはしっかりとした才能が秘められている事を知った。
しかしその才能、特技を全く生かせないボンタを最終的には不憫に思い
「その能力を活かして俺に従うなら仕事を与え衣食住と活躍に応じた金銭を支払う」
と知矢の配下とする事となった経緯がある。
基本的な生活、住まいは魔道具商店に近所の空き家を密かに借り受け商店へ何かたくらむ輩がいないかの監視や待機場所を兼ねて与えられていた。
日々の食事も商店の食堂で自由に食す事も出来る。
この食事はボンタにとって望外の喜びであった。
何といっても美味しいの一言に尽きる。しかもおかわり自由と来たら冒険者時代の薄給で悪い奴らの仲間になる事でやっと飢えをしのいでいた頃から比べればまさに天国であった。
しかも知矢から時折言いつけられる命をこなせばその度に金銭が支払われるのだからもう言う事は無い。
言いつけられる仕事は殆どが気配感知や気配消失、我慢強さという自分の得意能力を生かせるものばかりだったのだから何も不満は無かった。
最近は知矢が外出する事が多く特に任務を命じられてはいなかったが久しぶりにご指名との呼び出しに勇んできてみると「毎晩屋台を担いで街を歩け」という命令だった。
ボンタは訳が分からなかったが兄貴の命だ、嫌は無く従った。
最初は屋台の初商い「いやああっしは一度商売っていうのをやってみたかったんすよね」と浮かれていたボンタだったが数時間歩きまわっても誰一人とて客も無く、気配感知に反応するのは家で寝ている者かまたは野良犬程度だった。
気を抜きながらしかし声はだし続け歩くボンタ。
その時であった
「おい、待て」
突如闇夜から声がかかる。
一瞬ドキリとしたボンタではあったが一応気配感知は常時発動していたのでその者が一軒の商家風の家の路地にいる事は感知していた。
しかしまさか声を掛けられるとは思いもよらず一瞬驚いたのだ。
「へいなんでしょう。うどんをご希望っすか」
すっかり商売人になった気でいるボンタは一瞬の動揺も見せずに声をかけてきた男へと愛想を振りまく。
「ああ?お前はこんな夜中に何か売っているのか?うどんだと?聞いた事も無いぜ。」
酔っているのか少しやさぐれているのか判別は付かない男だったがボンタは知矢に教わった通りの説明をする。
「へい、こいつはですね”うどん”と申しまして遠く東の地方独特の料理でさあ。小麦を練って伸ばした”麺”ってやつを温かい出汁の効いた汁に浸してこうスルスルっと掻っ込むんでさあ。すると何とも言えねえ出汁の香りともちもちとした触感の麺がたまらなく美味いこんな寒い夜には最高の料理っす。」
ボンタはその男に身振り手振りでさも美味しそうにうどんの説明をする。
このセリフや身振り手振りも知矢から細かく演出され指導を受けた物だ。
何度も何度も繰り返し練習させられやっとの思いで習得したその成果をやっと披露することが出来た。
ボンタはそれだけで何か達成感を得、満足げだった。
「ほーっそんなにうまいのかい。じゃあさぞ儲かっているんだろうな・・っと」
男はそう言いながら家の路地から顔を見せボンタへと近づきそしていきなり後ろ手に持っていた大ぶりのナイフを突き出し「じゃあ有り金全部出してもらおうか」と暗闇で魔道具の明かりに半分照らされた醜悪な影が有る顔をニヤリとさせボンタをおどすのだった。
戦いのからっきしなボンタ。
冒険者として全く役に立たないボンタ
知矢がいなければ立ち行かなかったボンタ
死を予感させる暗闇に光る静まり返った通りで果たしてボンタの運命や如何に!




