第106話 帰還そして宴会 ~あっしは何で呼ばれてないんすかね?( ;∀;)
こんばんは
遅くなりましたが今夜は何とか更新できました。
では第106話どうぞ。
秋がどんどん深まり晴れたそれに比して通る風は時に肌寒さを感じさせるようになってきた。
そんな帝国の北に位置するこの都市の周辺の季節の中、知矢とニャアラスそして使用人を代表した者達が突如知矢の思い付きでスライム捕獲作戦の旅に出て数日、目的を果たし一昨日には湖に設けたキャンプ地を引き払い帰路に付いた一行は皆の住まいがある商業中核都市ラグーンへと帰還した。
北門より都市へ帰還した知矢達は先に一度冒険者ギルドへ寄り道し知矢はニーナに挨拶がてら顔を出す。
「ニーナさん、こんにちは」
「あら、トーヤさんそれにニャアラスさんも。無事お戻りのようですね。お帰りなさい」
いつものデスクで仕事をしていたニーナは声を掛けられ顔を上げるとそこには知矢とニャアラスが顔をそろえていた。
「「ただいま(にゃ)」」
「うふっ。そのご様子ですと無事に目的を果たしたようですね。スライムを捕獲って聞いてましたけど。」
知矢達に無事な様子を見てニーナは優しく微笑みかける。
「そうなのだニャ。だけどそんなことを忘れるくらいの大冒険、大騒ぎに出くわしてもう生きて帰ってきたのが不思議なくらいだニャ」
ニャアラスは大げさに腕を振り目を剥いて如何にも大冒険であったかを訴えるのだった。
「えっ、そんな騒ぎが起こったのですか?」とそれにしてはにこやかに帰ってきた二人の様子に訝しさをみせ横で苦笑いをしていた知矢へ視線を移した。
「ええっと、まあ騒ぎと言うか事件と言うか・・・あはは。」
周囲を気にしてなのか歯切れ悪く語ろうとしない知矢にニーナは何かを感じ
「じゃあ詳細は今夜にでも聴取する事にしましょうか。今夜は帰還お祝いで宴会でもするのでしょう。仕事が終わったら顔を出しますからお二方とも覚悟をしておいてくださいね。」
と二人を見つめウインクしながら後で必ず説明してくださいねと念を押すのだった。
その後ニーナと別れギルドの倉庫に廻り狩った獲物の買取を依頼した。
しかしドロップ品買取担当者は知矢のマジックバックから次々と出て来る魔物やドロップ品の山を見て
「こりゃあすぐには無理だな。後日清算になるが良いかね」と若い職員に取りあえずの数量を確認させながら言うのだった。
「ええ、それで結構です。グレイトボアの肉だけ今解体して頂ければ持ち帰ります。あとの肉や皮、ドロップ品や魔石があればすべて買い取りで。後日清算によりますから。」
今夜の夕食用に300kgはありそうなイノシシのような魔物の解体だけ頼むのだった。
「ああ、構わんよ。そいつだけならすぐに出来る。おい!」若いギルド職員に指示しその場で解体を始めさせた。
知矢が即その場で解体された肉を内臓や骨も全て受け取りマジックバックへ入れる様子を見ていた老練の職員は。
「いやあ最近冒険者は皆マジックバックを持つようになったがそのマジックバックも例の魔道具商店の製品だろ。
冒険者や小さな商人でも買える手軽で安いと評判だよ。
良い商品が出回るようになって冒険者もこれまでは持ちきれなかったりして諦めていた魔物やドロップ品それに採集しきれなかった物まで手軽に持ち帰れるようになった事で素材の流通量が飛躍的に増大して我々は嬉しい悲鳴を上げているんだよ。」
少し興奮する様に説明する職員だが実際商人が多く恩恵に与っているばかりでは無く冒険者も多大な恩恵を受けていた。
それまでは持てる量の限られた食料や医薬品、武具や野営用具が身軽に増やせるようになり行動範囲の拡大と活動の質や安全の向上。そして狩った獲物や採取した物を今までの何倍も運べることで収入の向上にも大きく貢献する事となった。
本来だと物流が増えると価格が下がるのが市場経済の原理だったが魔物の素材やドロップ品、薬草や希少鉱物などは元々が極品薄な状態であった為供給量が3倍も5倍も増えたところで値段が下がる事は無かった。
逆に商人の販売流通量が増えたと共に時間停止機能の備えたマジックバックが手軽に用意できることで傷んだり腐ったり味が落ちたりしない製品の販売範囲の拡大で遠隔地からの要望が増え逆に希少性の高かったが保存性の問題で手に入れる事の出来なかった物を始め値段が上がっても良く売れる物が多く出現した。
それによって冒険者の販売、ギルドの買い取り額も上がり商人の販売量販売価格も上がり両者共々好景気となっているのだった。
そんなマジックバックの販売を行っている魔道具商店のオーナーが目の前の青年だなどとは思いもよらないギルド職員の話に曖昧に頷く知矢だった。
ギルドを出た知矢達はそれから知矢の魔道具商店へ向かった。
同行の使用人たちは先に馬魔車で店へ戻していたので知矢はニャアラスを伴い街の様子を眺めながら歩いて岐路へ着く。
「なあニャアラス。今回の出来事はどこまで公開するのが良いだろうかな。」
歩きながら今回の出来事。古龍との出会い、キング・ゴールデン・デス・スパイダーの事や森の仲裁者など今まで人族の間では知られていない内容など迂闊に公にするには問題が起こりそうな件が多いと知矢は警戒していた。
「みゃあそうだニャ。特に話さなくても良いんじゃニャイか。それに話したって信じてもらえないよな事ばっかりだにゃ」
ニャアラスは知矢に比べるとはるかにこの世界、魔物や魔獣、大森林などの事を熟知している。それなのに今回の事は全くの初めて目にし初めて聞く話ばかりだった。それこそ腰を抜かすような度肝を抜くそして死を覚悟する様な体験であったのだ。
「そうだよな。まず信じてもらえないだろうな。しかし信じたとしてそれを確かめようなんてしたり龍や珍しい魔獣の生息域を大々的に侵すような事が有れば怒り狂った魔獣たちが大挙して反撃してくるかもしれないしな。」
大森林の聖域に人族が入ること自体はあちら側の住人も拒否している訳では無かった。
しかし過去に大森林に踏み込み無事帰還できた者は少なくその希少な証言からも強力で巨大、凶暴な魔獣に大群で襲われたなどの話は数多く伝えられていた。
その為今では大森林のそれこそ奥まで踏み込む者などいはしない。
ただし今回知矢達が訪れたのは湖のはるか先に大森林を望む場所であり人族の知識でもそこは安全な場所との認識であった。
だが実際は周辺各所に多くの凶暴な魔獣が生息していたのだったが森の仲裁者のおかげなのかそれらの生息域はある程度分割し互いが距離を取っておりテリトリーを構成している為その地を侵さなければ特に危ない様子も無かった。
しかしそのテリトリーは目で見える物では無く魔物たちが定めた法であるので人族が知り得る物でもない。
情報が流れたらおそらく一獲千金を狙う高位の冒険者や高位でなくともクランや団体を組織し龍などに挑もうとする者達が現れてもおかしくは無かった。
その結果怒りを買って魔獣大行進、所謂”スタンビート”でも起こってしまうともう人族にそれを止める術はない。
それらを考え知矢もニャアラスも口をつぐみ、使用人達にも固く緘口令を敷こうと考えた。
もっとも知矢の使用人たちは元々奴隷契約に縛られており知矢がひと言言えば決して勝手に語る事は無いのであるが。
「でもニャーニャさんには話すニャ」
ニャアラスは先ほどニーナに会って今夜旅の出来事を聞かせてほしいと言われたことを思い出した。
「ああ、ニーナさんなら問題ないだろう。彼女はペラペラ不用意な事を他人に吹聴する方ではないしな。」
などと二人で話を決めているうちに角を曲がり裏小道へ入るともう目の先に見えるのは知矢の魔道具商店の裏木戸であった。
木戸の前には手代のアンドウが出て通りの先を窺がっていたようだ。
知矢達の姿を確認するとそく木戸の中へ向け「おーいご主人様の姿が見えたよ~」と他の使用人たちへと声をかけた。
「ご主人様、お帰りなさいませ。長旅お疲れ様でございました。」
「「「「「お帰りなさいませ!!」」」」」
あけは立たれた裏木戸をくぐり敷地へ踏む込むとそこには左右居並ぶ使用人たちの列が綺麗にお辞儀をして知矢達を出迎えた。
その中から一人踏む出し知矢の前へ進む女。リラレット総支配人である。
「トーヤ様無事のご帰還おめでとうございます。使用人一同お待ちしておりました。」と改めてこそを折り深く頭を下げるのだった。
「ああ、ありがとう。皆も変わり無さそうでよかった。」と挨拶を返すと姿勢を戻した使用人たちの間をリラレットの先導で裏玄関から店へと入っていった。
ニャアラスと共にいったん居間へ落ち着いた知矢はティレットの入れてくれた紅茶を飲みながら脇に控えるリラレットから簡単な報告を行けた。
「特筆問題も起きなくてよかった。これも君がしっかり目を配っていてくれたおかげだな。ありがとうリラレット。」
「お褒めの言葉大変ありがたく。しかし私が何か言うでもなく皆が率先して協力しつつそれぞれの責を果たした結果だと思いますれば今宵の席で出来ましたら皆にお言葉を」
「ああ、そうだな。是非皆を労おう。そうだ、これを今夜のメインにすると喜ぶかな」
知矢はいつも知矢がいない時はそれほど粗食と言う訳では無いが普通の食事をしている使用人にお土産代わりにグレートボアを食べてもらおうとマジックバック毎差し出した。
「グレートボアと言う魔獣の肉が入っている。今夜は存分に食べてくれ。酒も自由だ。ああそれと今夜ギルドのニーナさんも顔を出すから彼女の分も頼む。ニャアラス、泊まっていくだろう。彼の分の部屋も用意してほしい。」
「これはこれはこの様な希少なしかも高級な肉を我々も頂いて宜しいのでしょうか」と思いもよらない高級素材に驚くリラレットだったが知矢の指示だ。皆も喜びますと言いながらその場を辞して厨房へと向かった。
「しかしニャんだかな」とニャアラスはリラレットを見送ると突然呟いた。
「うん?何がだ。」紅茶を口にしながら知矢は尋ねる。
「にゃんだか使用人たちの様子を見ているとトーヤは貴族なんじゃないかと思うニャ」
ニャアラスの感想は当然であった。
知矢も当初から(どうも貴族みたいでなんだかな・・・)と常々感じていたが使用人の教育を行うリラレットが元々貴族のメイド長であったことが最も大きな理由であると知矢は感じていたがあえてその行いを否定してこなかった為定着していた。
もっとも知矢の転移前は平民ではあったが曲がりなりにも中小企業の代表取締役でもあった為人に傅かれるのに忌避感や拒否感が無かったせいでもある。
ただ最近使用人が増えれば増えるほど皆の態度が貴族のそれに見えてくるのは感じていた。
「まあ、おまえがそう感じるのも無理はないが皆の教育責任者のリラレットが元々貴族のメイド長だ。そういった教育になるのもやむ負えないんじゃないかな。」
そういってその話を流す知矢であった。
しかし実のところ知矢の推測は半分であった。確かにリラレットの他の使用人に対する教育の仕方は貴族時代のそれではあったのだがその方針を後押しし更に強く推進する原動力になったのが同じ使用人の中でも元貴族令嬢のサーヤによる物だ。
リラレットもそうであるがサーヤも知矢への忠誠心がすこぶる高く二人が相談しながら設定している知矢像はもう知矢が皇帝の様な気持ちでいるのだった。
そんな二人の強い思いを考えもしない知矢はニャアラスと夕食まで旅の話などをしながらのんびり過ごすのであった。
その日の夕食は知矢の帰還を祝って全使用人が揃い大宴会となった。
ニャアラスに言わせると「にゃんかこの家はいつも宴会だニャ」と喜んで呑んでいるが実際は知矢が毎日在宅していたとしても日頃の食事はそれほど豪華な物は出してはいない。それが知矢の方針であるからだ。
もっとも「使用人と全く同じと言う訳にはいきません」とのリラレットの意向で一品増えたり酒が付くのは知矢だけだったりと多少の差別化は計られているのだが。
知矢の席にはニャアラスとニーナがおりリラレットとサーヤも同席していた。
最初の乾杯でのあいさつを終えるとあとはいつも自由にッせている知矢の方針で使用人たちはめいめいに楽しく飲みながら食事をしそして今回知矢へ同行して言った者から旅の話を聞くのが常であった。
それに今回は特別な大事もあり各テーブルでその時の様子を語る者の声も大きくなりそれにつれて聞く者の反響も大きかった。
「その時です!巨大な龍をものともしない主は腰の刀を抜くと一閃!龍をバッタったバッタと切り倒し!」
「おい!そこ!話を作るな!」
「あっ・・はい申し訳ござらぬ」調子に乗ったササスケは知矢の声に慌てて小さくなるのだった。
しかし周囲はそれをも面白がり宴会はどんどん盛り上がっている。
しかし時々注意を入れないととんでもない壮大な物語が出来上がってしまいそうな勢いだった。
ニーナにも主にニャアラスが先ほどから身振り手振りで興奮しながら語っているので知矢は黙って聞いているだけであったがそのニャアラスもやはり誇張が過ぎるのでそれは逐一訂正していた。
「あ~あそんな大冒険でしたのね。ちょっと怖いですが私も物陰からで良いので少し覗いてみたかったですね」酒に酔ったのか話に興奮したのかニーナは頬を赤らめながら残念そうだ。
そんなニーナの頬を横からツンツンする知矢の従魔ピョンピョンは
「・・・・・・・・・・・・」今度は一緒に行きましょうね。
と慰めるようにすりすりとニーナを撫でるのだった。
「ああ、ピョンちゃん優しいのね。ありがと」と従魔の言葉が理解できているのかわからないがその優しさに喜び今度はニーナが従魔の背をやさしく撫ぜるのであった。
宴会が進みいよいよ終盤にさしかかり知矢の言う”〆の一品”が供された。
「おっ!これは!」
知矢は出された一品に驚きの声を上げた。
目の前の底の深めな大ぶりの器。所謂日本でいう所の丼である。
その丼の中には湯気を出す透明な琥珀色の汁がありその汁に浸されているのは
「うどんじゃないか!!サーヤ!」
目の前にいるサーヤへ視線を移すと「うん、食べてみて」とぼそりと呟くサーヤであったがその声音と良い顔つき目が自信にあふれている。
知矢は期待に満ちながら静かに丼を両手でつかみ上げそっと丼の縁を口に寄せ確かめる様に目をつぶりながら香りをかぎそして汁を一口すすり入れた。
「うん!!」
目は輝いていたがひと言だけ発し丼をテーブルに戻すと今度は竹で作った”はし”を手に取り
「頂きます」と手を合わせ早速汁の中のうどんを摘みあげ口へと誘い”つるん”とすすりこんだ。
黙って目を閉じながら咀嚼する知矢の姿にいつの間にやら周囲は静かに黙って注視していた。
もぐもぐごくん
と音でも聴こえそうに美味しく一口を食べた知矢はつかさず”ずずっずずっ”とうどんの麺をすすりこみながらもぎゅもぎゅと一心不乱に食べる。
そのうち片手で丼を掴みながら麺と汁を流し込む知矢。その顔が丼に隠れたと思うと次に見えた顔は満面の笑みを浮かべ大満足のまるで少年のような笑顔であった。
静かに丼と箸をテーブルに戻した知矢は合掌し”ごちそうさまでした”と軽く頭を下げ感謝の念を込めると顔を起こしサーヤを始め注視していた使用人へと
「美味かった!最高だ!」と感想を伝えた。
「「「おおお!!!」」」
と主に合格をもらい喜びの声を上げる使用人たち。
その傍らで共に供されたうどんをフォークで食べ始めるニーナとニャアラスも
「うーん香りも良いし触感もつるっとしながら歯ごたえもあり味もしみてて美味しいです」
「にゃあうまいうまい」
と喜んで食べるのだった。
その後皆も食べながらそれぞれ感想を述べあっていた。
「トーヤ様お気に召した」とサーヤ
「ああ、もちろんだ。出汁の加減も醤油と塩加減も絶妙だしうどんも腰もありながら軟らかい滑らかな触感。完璧だ!」と大絶賛だった。
「このうどんに関しては麺を完成させたのは意外にもアカネ、そして出汁と汁はイーシャとマレルの努力。皆凄い」
そう作り上げた者達を評していた。
「えーサーヤさん意外にもってそれはないじゃない!」アカネから苦情が入る。
つかさずイエヒコは
「アカネ、努力と成果の評価は頂いたんだぞ、喜べ。」
「そうそうそれにお前料理全くできなかったじゃねえか。こんなうまい物を作ったと聞いて俺も耳を疑ったぞ」とノブユキ達昔からの仲間が妙な表現でそれでも褒めたたえていたが周囲の者は腹を抱えて笑いながらもアカネたちが完成させた”うどん”という食べた事の無い新たな食に舌包みをうつのであった。
「う~んしかし良い時期にうどんが完成出来たな!」知矢が呟く。
「「「良い時期?」」」ニーナとサーヤ、そしてリラレットがその言葉に反応した。
「ん? ああそう、良い時期だ。これからどんどん寒くなればこの暖かいうどんなんか寒いところで食べたら最高だよな!」
「ええ、そうね」とニーナが訝しそうに
「はいそう思います」とリラレットは何も疑わず
「トーヤ様・・・まさか」
ニヤリとする知矢。
「冬の寒い夜は夜泣きそば、ならぬ”夜泣きうどん”なんか最高じゃないかな!」
ハットした後に愕然としうなだれるサーヤ。
何を言っているのかわからない使用人やニーナたち。
突如の知矢の宣言によりまたしても巻きもまれることになる使用人たちに運命や如何に。
次回 『除夜の鐘と夜泣きうどん』
お楽しみに。
なお”題と内容”は変わる可能性が大きいです。
今朝は朝から風が冷たくだんだん冬へと近づいておりますね。
皆さまご自愛ください。




