第103話 罪と罰 (魔物編) ~「うむ~私も同行すれば・・」「マリーさん手が止まってますよ」
数日更新が滞り申し訳ございません。
明日以降も不定期投稿になりますがお許しを。
では第103話。どうぞ
「Gyyougryugryugugaoooogyagyugyugyou・・・・・・・・・・・・
(なんだよじいちゃんいつも言ってるじゃないか
『強い者は誰にでも何をしてもどこへ行っても力で相手を制すれば勝だって。弱い奴が食料になるのがこの世界だ』
って言ってるじゃないか。だから僕は見つけた食べ物を食べただけだし、行きたいところに行っただけだし、それで文句を言ってきたこいつが僕をこんな目に遭わせたんだ。じいちゃん早くこいつをやっつけて助けてよ!)」
水龍の幼体の言葉を聞き古龍は何も言葉を発せず愕然とした表情で固まっていた。
古龍は思い出していた。
数十年ぶりに産まれた我が子の子供、実の孫である。
眷属の幼体は数あれど血のつながりを持った孫は久しぶりであった為古龍は舞い上がった。
それはもう人間世界でも多く見られる親馬鹿ならぬ”じじ馬鹿”振りを文字通りいかんなく発揮し息子や嫁が嫌がるほどこの孫を溺愛し、一族の長で古龍である”じじ”はこんなに凄いんだぞと昔話を誇張し自慢していた。
「良いか孫よ。わが一族はこの世界最強の一族だ。何物にも負けない最強の力を持ちどんな奴らでも我々の前にはひれ伏す、それが龍族だ。この世界に我々に逆らう者などおらん、おったとしても我々が力を見せればすぐに逃げ出すであろう。良いかそれが強者たるゆえんだ。何物も逆らえず世界の全ては強者たるわしらの物だ。」
そんな話をつい興が乗り話をしていた記憶がある。
古龍としても孫に自慢話がしたかっただけであったが幼体である孫は外の世界を知らないのだ。強いじじの話を目を輝かせて聞き入ってそして鵜呑みにしてしまうのは仕方の無い事なのかもしれないのは人間の世界でも同じである。だからこそ本来であれば年長者たる古龍は若き者への指導をする立場なのは人間の世界も龍の世界も同じである。
ふと顔を上げ見ると””森の仲裁者”キング・ゴールデン・デス・スパイダーが黙って古龍を見つめていた。
森の仲裁者は魔物たちの無駄な争いを調停し大森林に平和と秩序をもたらす存在でもあるが実はその力はアリガッターヤなどの多くの魔物たちはおろか龍族、古龍でさえも争いを避けるだけの実力を持っている。
それ故森の仲裁者を名乗れるのだ。
そしてゴールデン・デス・スパイダーは人間からは”暴食の魔物””危険な魔物”と恐れられているがその実態は温和で争いを好まぬそして知性も兼ね備えた魔物であった。
だがそれも森の平和を乱す存在が現れると一族の長、キングの一声で数百の眷属が参集し対話による解決を見ない場合は一斉攻撃も辞さないそれは恐ろしい相手であった。
古龍を見つめるキングの眼は落ち着いた優しいまなざしであったがそれ故に古龍も己の発言を恥じ何も言い出せないでいるのだった。
しかしこのままと言う訳にもいかない。
古龍の背後には己が呼び寄せた数十の眷属達が控、古龍の号令を今かと待っている。
対して目の前にはキングを始め数百のゴールデン・デス・スパイダーがじっと古龍を見つめさらに最高神の加護を持つ人間、知矢も見つめているのだから進退窮まる状況だ。
そして遠く離れた湖畔に設けたキャンプ地からその様子を固唾をのみながら見守る一団、知矢の使用人たちがいた。
「どうなのどうなの何が起こっているの!」震えるミレは傍らのギムの腕につかみかかりながら状況を説明してと訴える。
「いやこんなのわしには到底理解が及ばんぞ。」額に冷たい汗を流しながらギムも遠くの状況を見つめながら答える。
「怪獣大戦争・・・」突如カンゾウが呟く
「怪獣大戦争だと?何だそれ」ワイズマンも遠くの光景を注視しながらカンゾウの言葉を訊き返す。
「あっそれご主人様が以前お話ししてくれた架空の巨大魔物たちの戦いのお話しでしょう!私も聞かせて頂いたから覚えているわ」ミミはワイズマンの陰に隠れながら遠くを見て居たがカンゾウの呟いたセリフの話を思い出した。
「あれはご主人様が考えた物語を酔って語ってくれた話であろう。今目の前のは現実じゃぞ」
ギムは呆れながらも答えるが以前知矢が皆と楽しく宴会をしているときに若い使用人たちへ興が乗ったのか創作の物語を語ってくれた事が有ったのをギムも思い出した。「確かあれは最後・・・」ギムも酔っていたためはっきりと覚えてはいなかったが
「最後は”キングウルトラスーパー星人”っていう遠くの星から来た正義の味方が悪い怪獣ってやつを全部倒して平和を取り戻してくれたんだよね」カンゾウは楽しそうに思い出しながら語るが目の前の出来事はとても物語のように解決できそうな状況には思えなかった。
「大体龍と言うのは殆ど物語に出てくるようなわしらには幻の存在だ。それがこんなにたくさん・・・」
「しかもよ超でっかいピョンピョンみたいなのと対峙してんだぜ。ようギム俺たちゃどうすりゃいいんだ。」ワイズマンはギムに迫るがギムも答えようがない。
「ともかく少し距離があるのが幸いじゃ。ご主人様たちの事は心配だがわしらが動いても何も出来ん。このまま様子を見ながら、いざとなればご主人様の指示通り我々だけで逃げるしかない。」
そういうと皆も黙って頷きながら遠くの光景を見守るのであった。
相変わらずじっと動かず対峙したままの古龍とキングである。
そんな中、知矢の従魔ゴールデン・デス・スパイダーのピョンピョンは主の方へスタンと飛び乗り耳元で囁く様に「・・・・・・・・・・・・・(ご主人様、あの龍の子を従魔にして引き取りご主人様が鍛え直す、と言うのは出来ますか。このままでは古龍さんも動けないみたいなんですけど)」
従魔は知矢へ進言するが
「そうは言ってもな。まずあんなのを街へ連れ帰ったらそれこそ大騒ぎになるのは必至だ。しかも話を聞くとそうやすやす従うようにも見えないしな。」
と従魔になったゴールデン・デス・スパイダーの時の様にはいかないと知矢も考えていた。
「ピョンピョン、こんな場合、魔物の世界ではどう事を終わらせるんだ。」知矢が知らない魔物の常識を従魔へと尋ねる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・(森の仲裁者の裁定に従い納めます。ですが水龍さんはあの子と共におじいさんまでもが森の仲裁者へ反意を示してしまいました。もう私にはどうなるのか分りません。)」
たとえば2者が争う場面で仲裁裁定を行う森の仲裁者。その裁定に従うのがこの魔物たちのルールである。従えない場合は仲裁者との争いになるが仲裁者へ敵対する者などいないのが仲裁者が仲裁者でいられる所以だ。
それだけこの森、大森林、魔物たちの世界におけるキング・ゴールデン・デス・スパイダーに対する畏怖、中立性、信頼を一身に背負いその責務を全うできているがこそ秩序が保てるのだ。しかし今回そんな森の、魔物のルールを幼い眷属に教えていなかった龍族。しかもその長たる古龍さえもが短絡的な行動であったのだが森の仲裁者へ牙をむけようとしていた。
しかも幼い眷属へのルールを学ばせないばかりか逆に暴君になりうるような話をしたのが古龍であるのだから事を納めるのは至難の業である。
一番早い方法は森の仲裁者へ完全なる謝罪を行い一族のルールにのっとり反した者へ厳しい罰を与える事だ。
だがしかしこの通りに罰するならば古龍の孫には相当の厳罰が下されなければ他の種族への面目も立たず魔物の世界の秩序が保てなくなる。
それが解っているからこそ古龍は身動きが取れなくなっているのだ。
見た目には他者にはわからなかったが古龍は全身冷や汗をかき色が解れば顔は真っ青であっただろう。
ただ実際は鱗に覆われ汗もかかず色も変わらないので余人には古龍の心の中を見据える事は出来ない。かに思われたが・・・。
「フォッフォッフォー。」
それまで沈黙を守っていた森の仲裁者、キング・ゴールデン・デス・スパイダーが口を開いた。
知矢と従魔もキングへ見上げる様に顔を向ける。
古龍はじっと押し黙ったままキングを見つめて不動だ。
「友よ、一族を下がらせるが良い。友の気持ちは十分わかる、しかし今なら友の威厳で納められるであろう。先ずは一族の者達を静かに家へ返すのじゃ。わが眷属も皆帰そう。そしてその後はわしと友の二人で納めようか。」
突然静寂を破ったゴールデン・デス・スパイダーは古来よりの友人と言ってはばからない水龍の長、古龍へと優しく諭す様に話をするのだった。
キングの話を聞いて暫し考え込むように押し黙ったままの古龍。背後には一戦を辞さない勢いである若い眷属たち。
目の前には可愛い孫。
その狭間と一族の長である己の立場そして魔物の世界のルール。それを守り裁定する森の仲裁者とその眷属。それらに目をやり最後にキングの隣でじっと推移を見守る最高神の加護を持つ人間を見つめた。
少し嘆息する様に息を吐いた後、一度大きく息を吸い込み古龍は片手を挙げて大声を発した。
「皆の者よこの場はわしと仲裁者で納めることする。引くが良い!」
僅かな間があったものの古龍の眷属、若い水龍たちはその身を返し水をかき分けながら各々が水中へと静かに没していった。
「フォッ。わが家族よ、ご苦労であったな。この場はわしに任せ皆も引くが良い」
ゴールデン・デス・スパイダーも周囲に展開していた眷属達へ優しくしかし大きな響く声で伝えると大小さまざまのゴールデン・デス・スパイダーたちはそれぞれ草木や林の中へ音も無く消えていった。
なかには知矢の従魔へ手を振る者達もおり従魔も各所へ手を振り返す何か暖かな光景も見られるのだった。
当たりは再び静寂に戻った。
しかし先ほどまでの緊張感で大気が固まり爆発しそうな静寂とは異なりどこかホッとする弛緩する空気をにおわせるそんな気配が漂っていた。
「トーヤ殿と言ったかな人の子よ。そこにいるわしの古い友人の言葉から察するに最高神様と交わりがあるようだ。それならば最高神様の代わりにこの事の終焉を見定めてはくれまいか」
森の仲介者は足元に佇む知矢へと優しく語りかける。
「ああ、いいだろう。だが俺は最高神様では無いからただ見守るしかできないがそれでいいのか」
「ああ、それで良い」と答え古龍の方へと視線を向けた。
「フォッフォッフォー。友よ解っておるな」
押し黙る古龍へも優しく声をかける。
「・・・・・ふん、わかっとるわ。その前にわしの孫を離さんか!」
古龍の言葉にキング・ゴールデン・デス・スパイダーはそっと水龍の幼体を地面に下すとがんじがらめに巻いてあった糸をするりと解き放った。
「Gyyougrugryugryugugaoooogyagyugyyugryugugaoooogyagyugy(ちくしょー!こいつめ。じーちゃんはやくこいつをやっつけてよ!)」
全く懲りてもいない何も理解していない水龍の幼体であるが
「ばっかもーん!!!!」
まるで火山でも一気に爆発したかの様な罵声が水龍の幼体へと浴びせられた。
「Gyyougryu----!!!!(ひゅひゃ!!!)」驚いて腰を抜かししゃがみ込む水龍の幼体。その地面についたお尻の周囲には大きな水たまりがじわじわ広がっていった。
「このバカ孫が!ワシの責任も多大だがこれからは厳しくしつけるから覚悟しておくが良い。そしてそこでこれから起こることを十分に目に焼き付けるのじゃ!一生忘れんようにな!そこを動くな!」
そう孫に言い放つと古龍は少し左の方へ水中を移動し孫や知矢達と距離をとるのだった。
そしてキング・ゴールデン・デス・スパイダーもそれに合わせる様に湖畔を横へと移動する。
互いが移動を終え再び相対すると古龍が「GYAAAAA!!!!」咆哮をあげる。
すると黙ったままのキング・ゴールデン・デス・スパイダーは後ろ足を踏ん張る様に広げ前脚を両側に高く上げながら顔を古龍へと向ける。すると
シャーーーーーーーーーー!!!!!
キングの口から真っ白い糸が発せられ古龍を包む込む様に何百と別れた糸が一瞬の内にその巨体を覆い尽くす。
だが古龍は動じる事無く糸をじっとその身に巻き付くがままにし微動だにしない。
「じいちゃん!!!」湖畔で腰を抜かし失禁していた孫の水龍は糸に覆い尽くされた古龍の姿に驚いて声を上げた。
「孫よ!動く出ない。そして見ておるが良い。森のルールを守れない者への仕置きを!」
糸にからめとられたまま孫へ思いを伝える古龍。
キングは絡みつかせた糸の束を前脚4本で掴むと一気に引っ張りながら高く振り回し始めた。
「うぉー!!」
糸にからまれたままの状態でキングに振り回される古龍
ビュンビュン唸るような風切り音を出しながらぐるぐる容赦なく古龍を振り回すキング。
そしていきなりそれを地面へと叩き付ける。
どすーん!
そして再び糸を振り回しビュンビュン振り廻しまた地面に叩き付け、ドスーン、再び振り廻しドスーン!!
古龍はされるがままに森の仲裁者からの裁きをその身に受け続ける。何度も何度も。しかし喚く訳でもなく許斐を乞於て泣き叫ぶわけでもなく無言でその罰を受け続けるのだった。
ドスーン、ビュンビュン、ドスーン、ビュンビュン、ドスーン、ビュンビュン、ドスーン、ビュンビュン、ドスーン、ビュンビュン、ドスーン、ビュンビュン、ドスーン、ビュンビュン、ドスーン、ビュンビュン、ドスーン、ビュンビュン・・・・・・
何度も何度も繰り返されたのち糸が千切れたのかそれとも切り離したのか突如古龍を戒めて居た糸が空中で解き放たれそのまま湖面へと古龍が放り投げられた。
バシャーン!ズブズブズブ・・・ブクブクブク・・・
数百メートルは投げられたであろう古龍は一度そのまま水面下へと没していった。
そのまま息の根が止まったかに見えた水龍の幼体は「じいちゃーん!!!!!!」慌てて遠い湖面を叫びながら見た。
するとズブズブズブ
湖面に大きな泡が立ち上るとともにザッバーン!と水撃を挙げながら古龍が水中からその姿を現した。
ザブザブ水をかき分け湖畔へと近づいてきた古龍のその姿は、全身の鱗がささくれる様に傷つき各所から血がにじみ出しとても凝視できないほどの大けが被っているように見えた。
「じいちゃん!」
湖面へ駆け寄る水龍の孫。
古龍の姿に驚き恐れおののき涙を吹き出す様に大泣きを始めた
「じいちゃんごめんよごめんよ僕がわるいことしたからじいちゃんがじいちゃんが・・・・・・」
「・・・・孫よ、魔物の、この森のルールをよくこれから厳しく教えるからな。わかったな」
「・・・・・・わかったよわかったよじいちゃん死なないで!!」
「わっはっはこれぐらいでこのわしが死ぬものか!」と大きな声で笑う古龍であったが知矢にはそれがやせ我慢だと十分理解できた。この古龍の巨体をやすやすと振り廻し地面へ叩き付けるそれを何十と繰り返す。その鋼鉄の様な鱗をズタズタにするほどの力でだ。
古龍の強靭な肉体も恐ろしいがそれを簡単に成し得るキング・ゴールデン・デス・スパイダーの強さを目の当たりにした知矢はこの世界へ転移して初めて恐ろしいものを感じたがそれはキングに対する恐怖と言うより魔物の中の純然たる厳しいルールとそれを守るもの、その罪を享受し範を示す者。その厳しい世界を垣間見た事を感じたのだった。
「友よ、眷属を連れて帰るが良い。水龍の子よその祖父の血が癒えるまで傍に従い介抱せよそしてその間多くを学ぶのだ。次は許される事は無いと知れ」
「・・・はい」水龍の幼体は力なくしかしキングをしっかり見上げながら答えた。
「・・友よ此度はおのれと眷属に迷惑をかけた、許せ。そしてトーヤ様」
短い言葉でキング・ゴールデン・デス・スパイダーに”友”と詫びを発した古龍は知矢に向き直り
「すっかりみっともない姿を見せてしまいましたな。お恥ずかしい。そしてこの子がいかい迷惑を掛けました。この詫びと借りはいつか近いうちに必ず」
そう言い残すと孫の龍を肩に乗せ踵を返しズシンズシンと水中へ分け入りそのまま夕日に眩しく真っ赤に照らし出された湖中へと姿を消していったのであった。
なお少し離れた知矢のキャンプ地では
「「「「「いったい何が???」」」」」理解の進まない光景に思考停止の使用人達であった。
「「あわあわあわわあああっわわ」」そしていまだ恐怖と混乱のまま座り込み互いに抱きしめ合うニャアラスとノブユキであった。




