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第1話 プロローグ ~旅とバイクと神様と狸も一瞬出るよ

初投稿になります。温かい目で見守ってください。

基本投稿速度ものんびりですし話も行き当たりばったりなので何が起こるかまだ検討中です。

プロローグ項の序番はさしたる意味のない内容です。単なる作者の趣味で書いています。

ではよろしくお願いいたします。


追伸: 初期は話があまり面白くないかもしれませんが我慢をいただいてお読みいただければ幸いです。

    そうですね 5話 以降は段々と異世界物の話らしくなるような~

2020/8/26一部訂正加筆

2021/5/11一部再構成・加筆・訂正

https://ncode.syosetu.com/n1303gz/

こちらのリンクはこのプロローグを大幅再編してだいぶ削除した短編になっております。

もしよかったら覗いてみてください。



 


 秋にしては強い太陽の光が山肌の斜線を照らし、木々の隙間からも同様にそがれた光はヘルメットのミラーシールドに反射して七色に輝いている。


 木漏れ日の中を疾走するのは一台の大型バイク。 それを操る者の名は 塚田(つかだ) 知矢ともや(よわい)60歳を迎えたもう老人と言って良い域に片足をいれている男だ。

 本人はその事を自覚し身体の老いを感じ始めているものの気持ちはまだ若いつもりであるのだがそれは多くの年寄り共通の思考かもしれない。


 彼の老人の趣味は弓術と居合術、そしてバイクに乗る事であり現在絶賛ツーリングの真っ最中。

 日本中をバイクでツーリング中のはずだったがこの場所はいったいどこであろうかと半ば夢うつつの様な意識の中を彷徨(さまよ)っている。


 どこの峠でもなく、観光地でもなく薄暗いが広く暖かくもあり涼しくもある非常に快適な空間であったが見た目には実にシンプルで言うなれば何も無い空間と言って差し支えない。


 「一体ここはどこだ、何故俺はここにいる」と思いながら記憶をたどり始めるが


 「歳を取ると昨日の事も思い出せん」と自身の記憶部へ文句を言うような口調で呟く。


 「二、三日前は確か・・・」





**********************




 『今回のツーリングの目的地の一つである九州は長崎県にて近隣在住の同級生や後輩たちそして他大であるがかつて在籍していた国大やら女子短大の後輩連中を呼び出し大宴会。

 互いに歳を重ねてはいるが久しぶりに顔を会せ旧交を深めた仲間や後輩たちと浴びるほど酒を呑み、さらには歳も考えず〆の九州とんこつラーメンを”思案橋ラーメン”で堪能したのは覚えている』


 久しぶりの”思案橋ラーメン”は学生の頃と少しも変わらずめちゃくちゃ旨かったなどと記憶の中の味を反芻しながら振り返る。

 

 ただし知矢(ともや)は翌朝ホテルでの朝食は重い胃腸の訴えにより食する事が出来なかった。要は二日酔いであった。 40年前と同じように飲み食いできなくなっているのは当然の都市であるが寂しい気持ちに肩を落としつつチェックアウトの為にツーリングバックとヘルメットを手に一夜の部屋を後にする。


 結局、朝食も食べずホテルを出た知矢はバイクにまたがると楽しかった夜と友を思いだしながら次の目的地へ向け愛機、バイクのアクセル開ける。


 グラバー園にほど近くにあるこのホテルは観光はもとより結婚式や会議にも良いし何より流石上級ホテルという従業員も感じも良く、ホテル自体も隅々まで清掃が行き届いており気持ちのいい朝を迎えられた。

 ホテルの駐車場からバイクを発進させると次の目的地は熊本である。

 バイクのハンドルに取り付けてあるスマホのナビに従うなら県道51号から唐八景(とうはっけい)トンネルを抜け長崎自動車道へアクセスするのが近道ではあるがこの老人、知矢(ともや)はあえて遠回りをするべくグラーバー通りから右折、R(国道)499に出た。

 新地中華街、浜町アーケード入り口を横目で見ながら諏訪神社から大工町、赤迫とその昔し走った道を40年振りになぞってみる。

 ここから先は長崎バイパスへ通じる2車線の快適な道だが俺は敢えて水源地の手前で快適な新道を逸れ古い峠道、旧長崎街道(日見峠)を進みトンネルを抜けるとここはバイパスが出来る前、唯一峠を越える狭い国道であった。

 知矢の若かりし頃よりもはるか大昔、江戸期やそれ以前はその国道も勿論なく、旧日見(ひみ)トンネルの側道よりトンネルを超える今では間道の様な山道が日見峠(ひみとうげ)と呼ばれた街道であった。


 旧トンネルを抜けると際立つ崖を左手に緩やかなコーナーを何本か経過する。右手は逆に数十メートルはある谷になり底にはその昔は小川であったか、今はコンクリートの水路がその両岸には住宅が立ち並んでいる。

 そして旧国道をさらに進むと宿町を通過する頃あい、右手の遠い山の斜面に現れた建物、知矢の母校、大学の校舎が微かに見える。


  その後大曲のコーナーを気持ちよく旋回しその後R34からR251へ。 この先は昔住んでいた頃は何もなく道も途絶えており矢上大橋へ曲がると有料道路になっていた為学生の頃は100円を惜しんで団地へ迂回したが今では料金所も撤去され無料へと変わっていた。


 畑と林の街道を右に海を見ながら時折広く広がるジャガイモ畑を眺め放し飼いのカステラ専用養鶏場の鶏たちも横目に過ぎ去り愛野の展望台から千々石、小浜温泉を通過後左折、雲仙方面へとバイクを走らせる老人であった。



 その昔学生だった老人は雲仙普賢岳の噴火見物に後輩たちとドライブに来た事があった。

 しかし折しも雨が降り出し火山灰まじりの雨にワイパーが擦れさらに火山灰まみれで酷い事になり早々と帰路に付いたがその娘達にせがまれて軽い気持ちで行った火山見物だが翌日に発生した大火砕流により多くの死傷者を出したニュースを見た知矢は自然の驚異を目の当たりにし、そして浮かれた気分で行った事をひどく反省したのだった。


 そんな火砕流の名残りの山肌を眺め、心の中で手を併せ慰霊の思いを胸に熊本へ渡るフェリー乗り場へと快調に飛ばした・・・・・のはもうすでに昨日の事・・・・・



 と記憶を探りながらこの数日を振り返りながら思い出していったがここで記憶が途切れた原因と言うか。そう、まさにライダーには常に伴っていたはずのリスクをすっかり旅に浮かれていたせいか忘れていた老人はその現実に直面したのだ。




 人の気配が希薄な峠道。


 すれ違う車も先ほどから皆無で道幅も広くゆったり深いコーナーが続く。そんな理想的な峠を老親は喜んで疾走していた。


 しかし、その直後


 ”トタトタトタ”


 道路脇、山肌の草むらと木々の斜面からのんびりと狸が現れ俺と目が合った。その狸がなぜか二本足で歩いていた事などその状況で老人は気づく事など無かった。



 「マジか!!!!タヌキ!!逃げてくれーーーーーーーー!!!!」


 Kiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!!!


 Gagagagagagagagagga・・・・・・


 Gasyaaaaaaaaaaan!!!!



 ピーポーピーポー・・・・・・・



 一瞬のことでその先は記憶にない・・。





**********************





 「親父!!!!なんでだよ!!うっくくっ・・」


 「あなた・・・・・・」


 「じいじ?・・・・・・」




 (何だ?夢か?それにしちゃあ景色がハッキリ綺麗に見渡せるな?

  あれ、妻と息子だよな・・・孫ちゃんに息子の嫁もいるな?

 ここはどこだ? あれ俺何してんだっけ・・・・

 そうだ、あの山の稜線に沿って走る峠道、確か俺九州ツー途中で・・・?

 峠を走ってて・・・? えびの高原から小林市へ抜ける風が涼しい山道を──って)




 「あっ!! たぬき!! ……事故! そうだ俺タヌキを避けようとして!」

  混乱しながらも記憶を呼び起こそうとしていた老人はやっと思い出した様だ。


 「そうだよ、タヌキが飛び出してきたから山方向、IN側に切れ込んで避けようとしてリアをスライドさせたけど……

 そっからハイサイドくらったのまでは薄っすら覚えてるが──ってここ病院か?」


 記憶を呼び覚ましながら少し落ち着いて周囲を見渡すと暗い壁には煌々と光る壁に映された映像、そこには老域に入った女性と体格の良い青年が泣き叫びながらベットにすがる光景が映し出されていた。

 その傍らでは顔面蒼白の青年の嫁、そして青年の嫁との間に出来た世界一お利口で可愛いと評判【老人談】の幼い娘が、老人の孫が幼いながらも状況を理解しているのか僅かにうつむき口元をわなわなさせながら何かを必死に耐える様に佇んでいた。



 「あいつらなにやってんだ?」

 老人は状況が呑み込めていない。


 すると


 「あれは君の亡骸にすがる家族の様子じゃよ」



 「亡骸?て、えっ? 誰だ・・ですか?」


 老人はその声に振り向くと何時から居たのか白い作務衣の様な服装の老人が一人佇んでいた。


 「混乱するのも無理はない。一先ず落ち着くために映像を消すのでわしの話を聞いて欲しい」

と老人が軽く腕を振ると俺の家族の映像は消え暗い壁のような状態になった。


 まあ、座りなさいと言って再び腕を振るった突如現れた老人と知矢の間の空間がぼやっとしたと思ったら突然その空間に丸いテーブルと椅子が現れる。


 テーブルには大ぶりのグラスと中には液体が入っており老人知矢は状況を認識できないながらも勧められるがままに席に着き一呼吸置くと自身の違和感に気がいった。


 目の前の老人と同じ白い作務衣の様な、でも絹の様な滑らかで重さを感じず暑さ寒さも気にならない様な不思議な着心地の服装だった。



 「まあ、取りあえず冷たいお茶を用意したから飲みながらで良い、わしの話を聞いて欲しい。わしは君たちの世界言う処の創造神、最高神と呼ばれとる者だ。 実はの・・・」


 最高神と名乗るその老人は何か言いにくそうに言葉を選ぶかの様子をみせたがそこで知矢は何かが頭に閃いた。


 「これって神様のミスで死んだから詫びに異世界転生とかって話ですか?」


 知矢はお茶に手を出しながら老人の言葉を遮るように何の気なしに近年、年甲斐もなくはまっていたネット小説のセリフを口にしてしまったがそれを聞いた老人は驚愕の顔で目を見開いて知矢をみた。


 「なんで知っておるのじゃ!! ではそういう事なので君は早速今から異世界へ転移してもらう」

 一瞬驚きながらも気を取り直した老人は早々にと答えた。


 「ブホォ!!  おいおい!ちょっと待ってくれ!本当だったのかよ、ってか話早過ぎだろ、断固たる説明を要求する!!!。」

 お茶を吹き出しながら知矢は抗議の声を上げた。

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 まあ、ありがちな設定だが要はこういう事らしい。


 俺の住んでいた日本や世界中には八百万の神、つまりあらゆるものには神様が宿っていてって話だ。


 その神様たちが神無月、つまり10月に世界中から日本の出雲の国へ集まるのならわしがあり、そのために移動していた獣の神の1人がツーリング中に出くわし轢きそうになったタヌキらしい。


 事故当時は9月初旬だったからのんびり移動中ってとこだ。


 数年振りの集まり、そして山々に住まう獣や木々たちと心、言葉を交わしながら楽しく歩いていたらしいが突如人里離れた峠道に爆音をあげ高速で疾走してきた俺が現れた。


 結果ギリギリバイクを制御して狸(獣の神様)を避けたられた様で獣の神は無事だったものの俺は ※1)ハイサイドをくらって大転倒、全身打撲、即死だったようだ。


 まあ、即死なら苦しまなかっただけよかったのかな、と他人事のように考えるが事故の事を思い起こすと背筋に冷たい汗をかくし心臓もドキドキしてきた。


 

 「本来ならばのう、出雲の国へ集まる神々たちは人知れず集まるのが普通でのう、人の目には映らず天を駆けたり地を疾走、海を渡ったりと出来るのじゃが、彼の獣の神は秋の実りや冬へ向けての動物たちの様子を観、交わり話を聞きながら移動しとったのじゃよ。」

 申し訳なさそうな老人、いや最高神様らしい。


 だがよくよく考えるとどう考えてもそんな回避できない速度で走ってた俺の方が悪い。

 いったい何キロ出してたんだ?


 緩やかなアップダウンの続く峠、大きく深いコーナーを調子に乗って攻めていたのを思い出した。

 年甲斐もなく50を超えてからサーキット走行会になんぞ参加を重ねて調子に乗って峠で膝をズリズリ、ハングオン・・・ジジイのやるこっちゃない。


 最高神と言っても全ての神々の頂きには幾人ものの最高神がいるらしいがそんな中の1人がこの老人と本人の弁。

 地球を管轄する神々をまとめる神様らしいが何でそんなえらい神様がわざわざ俺の前にと思っていると、


 「実はの今回、獣の神へ動物や山々の様子を観てくるように言ったのがわしなのじゃよ。数年前に起こった大地震の経過報告を特別に命じたものでな、本来ならば神々が人々や動物たちの前に現現する事は無いのじゃが・・・」


 つまり本来姿を見せないはずの神、今回はタヌキの姿で現現げんげんした獣の神様が関係した事故、しかもそれは最高神様の命によるものなので責任を感じてこうして俺の前に姿を現したって事らしい。


 俺としては自分の運転を反省しているし神様とはいえ動物の姿をしたものに怪我をさせなくて良かったと思う。 これが人や車だったら死んだ俺の代わりに残された家族へ責任を押し付けることになったであろうから俺一人の命で済んでいかったということで気持ちは落ち着いていた。


 起こるはずの無い事故が起きてしまいそれに神様が出くわした。そして死ぬはずの無い俺が死んだか・・・・・。 まあ、これも異世界転生物でありがちなパターンか。


 「で、俺は一度死んでるから現世では生き替えさせられないから別の世界でって事だよな!」

 傷も痛みも無い俺は妙に状況を受け入れ”これから”の話をすすめたくなった。



 「うむ、そのとおりじゃ。本来起こり得ぬ事故、それで神を起因した事ならわしは責任を取らねばならん。 じゃがおぬしも理解しているように一度現世で亡くなったものが生き返るなどとは決して起こらぬことだし起こしてはならんのだ。」

 苦悶の表情を浮かべ語る最高神のじいさん、やっぱり神っていう位だからまじめだな。



 「よってお前さんには本来残されていた寿命にお詫びとしてもう少し長生きをしてもらいながら希望に沿った余生を送ってもらいたい。

 それに突然家族を亡くした残された奥さんや息子さん、その家族にも申し訳がないので、詫びと言ってはなんじゃがわしから幸の加護とおそらくはお前さんが溺愛していたであろう孫娘には特別に獣の加護を付けさせてもらう。」



 「加護?それって神様たちがみんなを守ってくれるっていう力の事か?」


 「そうじゃ、幸の加護は言わば・・そうだな君の住んでおった世界のゲームで言うLUCK値を上げ不幸を避ける力がある。あくまでも小さな加護だが、十分に幸福な生活を送れることは保証しよう。

 さらに獣の加護は、かの獣の神からの詫びでもあるのじゃが孫娘のこれからの行く末を世界中の獣たちが温かく見守り何かの危機に遭遇した場合はその者を守ってくれると言うものだ」


 それを聞いておれは心から安堵した。 残された家族が今後幸せに暮らしていける加護が貰えたんだから俺の死も無駄にはならないんだとそして安心して転生でも何でもして俺は俺の老後を今度こそゆったり送れる気がした。




 俺は今年60歳を迎えた。

 小さいながらも経営していた会社は専務である息子を社長に昇格させ引退を宣言した後に俺はその後は気ままな老後を送ろうと大好きな大型バイクでアッチにふらふらコッチにふらふらとツーリングを楽しんでいた。


 最初の頃は2~3日、5~7日で自宅に帰ったりしていたが今月はもう20日以上帰ってないけどまあ会社はたまに妻と交わしている連絡で息子を筆頭に社員500名一丸となって問題なく運営してる様だ。



 俺は愛機の”kawasaki H2SX-SE+”と楽しく・・・うんっ?


 ・・・?



 「ちょっとまて!俺が死んだって事は俺のバイクは、H2SXSE+はどうなった!!!!!」

 突如思い出したように叫んで詰め寄るおれに神様は



 「ちょちょっと落ち着きたまえ」


 「落ち着いていられるか!!!あのマシーンはお仕事引退お疲れさま~って普段は財布の堅いの妻が購入を許してくれた超お気に入りのマシーンなんだぞ!

 しかもKAWASAKIの世界に誇るスーパーチャージャーエンジン搭載!

 ナント!驚異の200馬力を唸り出すスーパーマシーンでその最高速度は299km/hのスーパーツーリング ※2)SSなんだぞ!

 更にそのお値段!本体価格2,827,000円、そしてパニアケースも装備、しかもトリックスターのスリップオンマフラー(チタンカラー)にステップはBEET工業のアルミバックステップ、

その他諸々で300万を優に超えた俺の大事なおもちゃを!!!!」



 「まてまてまて、興奮するな」


 これが興奮せずにいられるかって叫びながら俺は最高神である爺さんへ詰め寄った。


 「おぬし自分が死んだと言われたときはさほど興奮も怒りの感情も表さなかったというのに、その機械の乗り物の事となるとまるで人が変わった様じゃの」

 俺をなだめながら最高神は落ち着くようゆったりと言いながらたわわな顎鬚を撫ぜおろした。



 「はあはあはああっ・・・すまん少し興奮した。」


 「いや悪い事をしてしまったな。じゃがその辺の詫びも含めて今後の事を話そうじゃないか」

 と少し落ち着いた俺をに諭すように最高神様は話をまじめた。



 「まずその機械の乗り物、バイクじゃったな。あれは残念ながら事故時に衝撃で道の脇から谷へ転げ落ち壊れた様だ。引き上げられて家族へ渡されたらしいがその後どうするかは解らん」


 覚悟はしていたが事実を突きつけられた俺は愕然としたが諦めもあった。

 俺自身が死ぬような衝撃だったのだから当然だったろう、でももう少し俺にテクニックや判断能力が有れば回避や損傷の少ない状態で済んだのではないか?等と頭をよぎったが・・・・・

 詮無き事だなと一瞬で気持ちを切り替えることにした。 機会が有ればバイクの弔いでもやってみるかなんて考えてたが........



 あっ!、今は俺が弔われる側だった。



 「すまん、もう落ち着いた。で、今後俺はどうなるんだ?  よくあるこっちの物語だとチート能力を得て異世界へ転生、魔王を倒して勇者と褒めたたえるとかなんて話はよく聞く物語だが?」


 そう、家庭用ゲーム機やアニメがはやり出した青春期を送っていた俺は数年前、50歳頃からスマホで手軽に読めるネット小説にはまっていた。


 元々読書家ではあるが大人になって読んでいたのは戦国時代小説や織田信長関係、人情江戸剣客物ばかりだったが若い社員が昼休みに夢中でスマホの画面を見ているのを目撃して話しかけた時に初めて聞いたのが素人が自由に投稿できる小説サイトで「なろう」だった。


 最初は気にもしなかったがそのネット小説から書籍化された一冊の本「無◎転生 - 異世界行ったら◎気だす」を大型書店で何気なく手に取り購入したのがきっかけで即全巻読破、夢中で読んでいた。

 その後その作者の関連作品をネットで調べていきあたったのが「小説を読もう!」だった。


 自分でもまさか50代になってラノベもどきや異世界転生なんて話を次から次へと読み漁るなどとは想像だにしなかったが、これが読んでみると一般の商業作家の作品に勝るとも劣らず。

 多くのパターン化された内容も多いがそれでも作者の個性かどの作品も面白い物ばかりであったのが衝撃的だった。

 そんな訳でつい「異世界転生か?」なんてセリフが自然と出てしまうのはこの年では少し恥ずかしくもあったけどな。



 「うむ、君の理解が早くて助かる。まさに君には申し訳ないが先ほど言った通り一度その世界で亡きものになった者を生き返らせるわけにはいかぬでな。残された御家族は幸せに暮らしていけるじゃろうから君には別の次元、そう”異世界”へ転移して余生を送ってもらいたい。だが、ただ異世界へ放り出すような真似はせぬ。 今までの暮らしと同一と言うわけにはいかぬが苦労せず暮らせるだけのサポートは十分させてもらうつもりじゃ。」


 「じゃあ勇者とかに転生か?それとも賢者とか大魔道使いか?大貴族とか大商会の大金持ちって話もあったな」


 「いやいやその条件だとまた誕生からやり直しだがそれでも良いかね? 新たな産み親をえて魂はそのままに肉体は0からスタートになるのが転生じゃ。

 それとは異なり種々の条件を設定して異世界に移り住むのが転移になるがのう。

 転生の場合でもなるべく希望に沿った産み親をえらんだり、新たな体には希望の能力、例えば 魔法の能力や剣の才能等を持たせて生まれ変わらせることができる、だがいきなり生まれたての子供がその世界最高の力や能力を発揮させるわけにもいかんから徐々に開花していくようになるがのう」


 0歳からまた始めるのか? まあ、それも悪くはないかもしれないが俺のこれまでの人生は超絶忙しい人生だったからな。 だから早期引退をして余生を好きに行きたいと思っていて数カ月、また最初からは勘弁してもらいたい、そしてのんびり自由に過ごしたい。


 「いや、俺はもう十分働いてきたつもりだから余生をのんびり好きなことをしながら生きる力と能力、出来れば暮らすに困らないだけのお金も欲しいのだが可能だろうか?」



 俺は地方の医師の家に末っ子として生まれ育った。

 家庭環境は悪くなかったが時は丁度受験戦争と言う言葉が新聞を躍らせていた時代の真っただ中。


 今の少子高齢化社会?何それおいしいの?っていう位、子供の数は溢れんばかりの競争社会の時代、小学校から私立へ受験は当たり前になろうとしていた時代だった。かくいう俺も厳しい母親の監視のもと日夜家庭教師を付けられ高校受験・大学受験をへ・・・


 まあ、途中で親のレールから飛び出して医者にはならず工学部へ進んでその後、総合建築設備会社へ就職。


 今で言う処の超絶ブラック企業で10年必死に働いた。朝は5時に家を出て帰宅は23時なら早い方、休みは月1日か2日と言う現代社会では批判される様な待遇で働き知識と経験、技術を身に着けその後転職。

 まあ、姉妹しか居ない妻の実家が経営する会社へ入ったわけだがボンボンの2代目なんて甘い話とは縁も無くい実績を積み上げ会社を大きくすることにまい進した人生だった。


 そんな俺は60歳で会社を俺にまさしく”ポーン”と放り投げて引退した先代、創業者である妻の父親を真似たわけでもないがそれに倣うかたちで俺も引退宣言さえてもらったわけだ!


 そんな俺がまた赤ん坊から我慢して老後まで・・・いや無理だ。

 転生とか転移とか言葉はともかく成人したまま好きに生きられる道があるならそっちを望むさ。


 「ホッホッホウ、まあそうじゃろうそうじゃろう、第一ゆったりのんびり余生を送りたいのなら”勇者”や大貴族、大商会などは現役で働く者の役じゃ。

 わしも君の人生を少しばっかり覗かせてもらったが仕事もそうだが色々忙しい人生だった様じゃのう、良かろう、色々希望を適えられる様考えよう」


 なんだよ人の過去みられんのかよ・・・恥ずかしいからやめろ。と考えている俺を見ながら最高神の爺さんはいくつもの蓋の無い木箱の様なものを並べ始めた。



 「さて、この箱じゃがな、中にはいろいろな条件を記した板が入っとる。この箱一つ一つからそれぞれ1枚の板を選んでくれ。一つの箱からは1枚しか選べないがこれは全て与えられる能力を記したカードじゃ。中には特殊な能力もあるが多くは人としての基本能力を決めるカードがはいっとる。



それぞれE級からD級、C級、B級、A級、S級とランクがあり種類は

 右から

 ・知性

 ・耐力

 ・成長

 ・武力

 ・幸力

 ・筋力

 ・速力

 ・魔力

 ・特力    



とそれぞれの基本能力が存在する。

君がその箱から一枚ずつカードを引くと今後の余生に適した力が自然と与えられる仕組みじゃ」



 あれこれって?自由に選べたり最高の力をくれるんじゃないんだ?

 言わばくじ引きかよ、妻と息子は何かくじ運良い人生な気が・・あれこれでさらに幸の加護を貰ったらあいつら最高じゃん?まあそらならそれで猶更安心だけど。


 「最高神様、こんなくじで能力を決めていいのか?」


 「いやいやこれはくじでは無いぞ、君の思い描く生活に適した能力を自動で選べる仕組みじゃよ。」


 「適した能力を自動で?」


 「その通りじゃ、しかも転移する世界の実情も考慮して与えられるから大丈夫じゃ」


 「だったら最初から全ての能力をS級で与えてくれれば話が早いんじゃないか?」

  ふつうそう思うよな?



 「ふぉっふぉっふぉ力や能力は過度に持つと要らぬ不幸を招くこともあるのじゃ。この基本能力を得た後さらにしたい事から適正な行使力を選択をしてもらう。

 行使力、いわば特殊能力じゃよ。


 職業特性能力ともいうがのんびり余生を望むおぬしもただ金をえて豪遊する人生を望んでいる訳では無かろう、その性格や今までの人生からして。


 例えば調理の能力を得たとするが料理屋を開いたりコックにならなくても自分が食べるのに美味しい料理を作る為の能力でもあるのじゃから持っていても困らぬであろう。

 余生を送るのに必要な基本能力と行使力を授かれば生活に困らないというわけじゃよ。」



 なるほどな、確かにそうだ。

 自慢じゃないが俺の生活能力はかなり低い。

 いや学生時代を含めて独身の頃は家事洗濯炊事に清掃と基本的には全てやっていた、そうやっていたがきちんとできる訳では無い。

 洗濯物は汚れを落として乾かすだけでしわくちゃ、料理はレパートリーも少なければとにかく量と濃い味付けで米とみそ汁は欠かさないだけ。

 掃除は人が来る前に慌ててとか家具の裏はほこりだらけで冷蔵庫には干からびた食材と新鮮な野菜が同居・・ダメだったな・・

 そういった意味では今後一人で生活するなら基本的なことができる能力はあった方がより快適な生活ができるのではないだろうか?

 日曜大工も好きだったし、休みには庭仕事や離れ家を造って遊んでたな。



 「それでは箱に手を入れてカードを掴んでみなさい適切なカードを自然と手につかむはずじゃそしてその後このもう一つの箱から行使力のカードを得れば基本的なステータスが決まる。」

 さあやってみなさいと最高神のじいさんは箱を前にする俺に促す。


 俺はなにかこう手を伸ばすのが怖いというか不安で躊躇しているが「ままよ!!」

 と次から次へと箱に手を伸ばし中の物を掴んでいった。


 それは掴むというか妙な感じだった。空を掴む?いや触れる様な確かに何かを掴んではいたが感触が希薄で雲をつかむというかでも握ると何か確信が持てた気がして箱から引き抜いた。



 「最高神様よ? 何か掴んだつもりだったが、いや掴んで引き抜いては次を掴んだんだが? 」


 そう、手にした感触はあったが実際に手にはカードどころか何も持っていなかった。感触は確かにあったと確信したのだが?と俺が首をひねっていると。


 「うむ、大丈夫じゃ基本能力と行使力は得られとるはずじゃ。どれ、ステータスオープンと発してみなさい」


 うお!!出た異世界物の大定番、ステータス表示が出来るのかよ!こりゃあワクワク何てもんじゃないぞ。

 よし!

 「ステータスオープン!!!!」


 俺は少し上擦りながら思わずでかい声を発してしまった。


 するとやはりか、目の前にはスクリーン状に薄く光る半透明の大きさはA3縦って感じの板が現れ文字と数字が並んでいた。

 まるでLEDモニターみたいだがスクロールできるのか?と指でなぞると正にスクロールできた。




++++++++++++++++++++++++++++++




 塚田 知矢 (16)

 ・基礎身体 LV1

 ・種族 人族(神の加護を持つ者)(転移者)(若返りし者)

 ・知性 A級

 ・耐力 B級

 ・成長 B級

 ・武力 A級

 ・幸力 A級+(最高神の加護)

 ・筋力 B級

 ・速力 B級+($%▽;の加護)

 ・魔力 SS級

 ・特力 基礎生活魔法、空間魔法、風魔法、火魔法、光魔法、創造魔法

     土魔法、解析魔法、獣使い+(獣神の加護)


 ・行使力  建築LV10、鍛冶LV8、設計LV5、描画LV5、料理LV5、弓術LV120、剣術LV110、体術LV45、経営LV165


 ・加護 最高神の加護(小)、獣の加護(小)、弓神の加護、$%▽;の加護(小)



++++++++++++++++++++++++++++




 「何かいっぱい書いてあるな? これって結構すごいような気がするぞ」

知矢がステータスに見入っていると傍で様子を微笑みながら見ていたはずの最高神は



 「っここりゃあ・・凄いのう!魔力がSS級じゃと」

と驚愕の表情で脇から画面をのぞき込んでいた。




 「最高神様?やっぱりすごいのか?何かSS級とかS級とか並んでるけどってえっ!なんだこの魔力SS級っておかしいだろこんなの」



 「うむー、これはわしの想像を遥かに超えたステータスじゃ。」



 「だよな、俺も散々物語を読んできた経験でしかわからないけどSとかAって人やめてるレベルじゃね?しかもSS級って物語でもありえないだろう」

 まだすべてに目を通していない知矢は基本能力の初項辺りで既に戸惑ってすべてが頭に入ってこないでいた。



 「まあ、確かに相当高い能力じゃが別に人外と言うわけでもない、経験や鍛錬で成し得た者や生まれながらの素質を持つ者もかなり居るからな。

 しかしここまで数多くの基本能力と魔術適正、行使力(スキル)を持つ者はそう多くは無かろう、いやほとんどおるまい・・・・

 おぬし少し待って居れもう少し覗いてくるからのう」


と言うと最高神様はその場で目を閉じ静かに立っていたがその気配は何か薄く霧のような存在にも感じるほど薄まって見えた。





 一服するほどの間の後、最高神様の姿が再び明確に認識できるようになるとゆっくり目を開いたのであった。


 「待たせたの、今おぬしの過去を見てきたのじゃ」

 目を開け知矢を見つめると妙に微笑みながら語り出した。


 「おぬし、前世、地球で生活しておった時、爪を隠しておったな」

 その核心を突いてやったような不敵な笑みを浮かべる最高神は信矢の返答を待つ


 「・・・」

 「・・・?」


 「分った分った、神様が相手じゃだんまり決めてても仕方がないな。 だが最高神様よ別に俺は爪を隠していたとかそんな大層な者じゃない。単に自分の環境と待遇、家族や友人、生活すべてに満足していたかからそれ以上を求めなかっただけだ。 そもそも努力とかしたことが無くただ自分の環境に流されて成るようになれで生きてきただけだからな。 その結果が俺の昨日までの人生だったってだけだ。」



 そう、俺は基本的に自らの意志で人生を切り開くなんて考えたことも無ければそれに向かって計画的に努力するなんて以ての外だ。

 確かに高校受験は死ぬほど?でもないがそれなりに勉強したし大学卒業後就職したブラック全開企業でも与えられた仕事はきっちり、まあそれ以上にこなしたから知識と経験を生かしてその後の人生にも転職先にも大きな力とはなったがそこまでだ。



 自分の目標に向かって努力したとか人生設計の為に計算して立ち回ったとか欲しい物を手に入れるために何でもした・・・とかは一切してこなかった。


 逆に明日、来週、来年、10年後なんて考えず”今日も一日無事に過ごせたな”、とか”今日も美味しいごはんを腹いっぱい飯が食えて幸せだ”なんて考えてただけであとはその場の空気や時勢、他者の意見に流されて生きてきただけだからな。

 その結果がまあ幸せな人生だったという事だ。と最高神様へ言ってはみたがまだにやりとした顔つきは”知ってるぞ”と言わんばかりのそれだった。



 「まあ良かろう、おぬしの過去は全て見てきたがそれはもう過ぎ去った事だ。だがそれを(いしずえ)に能力を得たたのならそれはおぬしの力であり結果だ。 悲喜する必要もなければ喧伝する必要もない。確実なのはその結果としてステータスに現れとるからな。」

 ふぉーっふぉっふぉーと笑いながらもうそれには触れぬと話を進めた。


 「しかしこれだけステータスが揃ってれば何でも望む人生が送れそうじゃな」


 「いやそうは言っても俺には聞いた事の無いものばかりでどう使えばいいのか?」


 「まあそうであろう、そこはこの指南書を渡しておくから後でじっくり読みながら自分の力を試していくと良い。」


 と言うとA3番ほどの大きな辞書の様な本を手渡してきた。



 「この指南書にはおぬしのステータスに乗っている能力他の項目すべてに関する解説が乗っておる。

 他の者の違う能力などは書いておらんまさにおぬしの為だけの指南書じゃ。それに転移する世界の事もほとんどが書かれておるから役に立つじゃろ


 それを読みながら力の使い方、LVアップの方法、魔力の使い方まですべて書いてある。まずそれを読んで基本的な使い方を練習すると良いじゃろう。

 そうじゃのう数時間ここで過ごしながら色々能力を試して転移に備えてもらおうかのう、そのあと異世界へ転移をさせる。 あまり時間は無いがそれまでの準備期間じゃ。それと先ほどの下界を映す窓も出しておくから家族との最後の別れもしたいであろう。」


再びサッと手を振ると先ほどの様にモニターが表れ俺の家族たちが映し出された。

そして更にもう片方を振ると空間に先ほどのとは異なる机やいす、ソファー、ベット棚やドアが現れた。


「簡単だが少しの間生活するには困らんようなものは用意した。まあ死者は腹も減らんしトイレも不要だが嗜みは必要じゃからな色々用意してあるから勝手にして構わん。用があれば呼んでくれればまた現れるからのう、では後ほど時間に成ったら来るからのう・・・・・」


そういうと最高神は霞の様になり消えていった。








 消えるように姿を消した最高神を見送った後、知矢は先ほど貰った”指南書”を一瞥するとローテーブルの上に放りソファーへ腰かけ思いきり体をそらし背筋を伸ばした。


 「う~ん、死んでるのになんか疲れたな・・・やっぱりこれって現実だよな、夢落ちじゃ無さそうだしな。」

 再び上体を起こし壁際の空間に浮かぶ知矢の家族が映し出されてるモニターを見る。



 今いる世界と地球の時間差があるのか?それともさっきのは録画だったのか?いつの間にかに場面は変わり亡骸が入っているであろう棺が家族に見送られながら飛行機のカーゴエリアへ吸い込まれていくところだ。



 「きっと関東へ持ち帰り葬式をするのだろうな。自分の葬式を見るのか・・・ だめだ気持ちの想像もつかん」

 そうするうちに再び場面は変わり自宅へ無言の帰宅のシーンになったが知矢は家族や出迎えてくれた友人の悲しむ空気に見ていられなくなり「消してくれ!」と叫ぶと映像はふっと消えるのであった。


 

 しばらく”指南書”に目を通し、魔力の使い方、魔法を行使する方法のざっと読みながら色々試してみたが最初は手先から発する違和感ととして発せられる魔法の力にびくびくしていたが慣れると夢描いていた力が現実になることに舞い上がり数々の呪文を唱えて与えられた空間へ発しまくっていた。


 「こんな凄い魔法のんびり老後にいるのか?それにさすが魔力SS、全く枯渇する様子も疲れてくる気配もないぞ」



 ”指南書”に記載されていた魔法を基本の生活魔法、飲み水を出す事の出来る「ウォーター」から始まり距離感の全くつかめない今いるこの空間の虚空へ向けて水魔法の「ウォター・ショット」や火魔法の「ファイヤー・ボール」等基本的な魔法を練習していった。土魔法は小石程の石粒を打ち出すことが出来まるで子供の頃の遊びを思い出し的当てに供じてしまったがその威力はやはり武器、攻撃魔法であったので恐ろしい威力だ。

 「間違って撃ったらけが人じゃ済まないな」

と魔法による攻撃は気を付けようと心がけるのであった。



 1時間ほど魔法を色々使っていると頭の中に「ピーン♪レベルアップしました、基礎生活魔法LV2、空間魔法LV2、風魔法LV2、火魔法LV2、土魔法LV2、に上がりました」


とアナウンスが聞こえてきた。



 「うぉ!っ、いきなりびっくりした、通知有りなのか、便利と言えば便利だが出来れば会話型サポートが出来ればなお良いんだがな」



 「ピーン♪  相互通信コミュニケーション機能は只今機能限定中です、ご本人のLVが上昇するに従い機能が解放されますのでしばらくお待ちください」



 「っおふ・・・なんだよ便利な機能有るじゃねえか、まあLVに従って機能が良くなるのも定番かな、最後は実体化、具現化して可愛いお姉ちゃんが現れるのかね?」



 「ピーン♪ 申し訳ございません、実体化に関する機能は現在確認されておりません。将来のアップデートにおいても実装の予定もございません。以上です」


と残念な回答をのこしてその後アナウンスは返ってこなかった。



 その後、魔法の勉強を一通り終え再びソファーに腰かけた知矢はふと気になり「画像を点けてくれ」と発するとやはり再びモニターが点灯し空間に家族の様子が浮かび上がった。


 そこには遺影と位牌、遺骨が並んでいる我が家の通称”遊び部屋”だった。

息子が幼いころその部屋は友人たちがゴロゴロたむろって妻におやつをねだって食べて遊んでいた部屋だった。



 息子も高校生になるとほとんど使わない玄関の継の間でしかなかったがそっか、ここに遺影を置くのか。まあ、我が家には祭壇も仏間もないからな。


 19年飼っていた愛犬が亡くなって遺骨や思い出の品を飾っていたからそいつと一緒にしてもらえるのは俺も歓迎だ。間違っても変な仏間を増築して仏壇に押し込められるなんて考えたくもない。


 ・・・って、あ、俺一応”神道”だったっけ・・・・まあいいや。


 残された者の自由にする様に元々言っておいたしな。


 以前、「九州の海に散骨しろ」 て言ったら妻は「海洋汚染になるからダメです」とか冷静に言われたけど。


 モニターには遺影を前に家族が集まりお茶を飲んでいる様子が映し出されていた。突然の出来事に悲しむ間もなくあわただしく移送と葬儀を行って疲れたのであろう。やっとひと段落付き明日からは皆に日常が返ってくる。 俺の事は忘れて早く今後の生活を送ってほしいものだ。




 「・・ばあば」

 丁度可愛い孫ちゃんが妻に声をかけていた。


 「どうした!いちごちゃん?おなか空いたかい!?」


 「ううん、おなかはすいてないよ。 ばあば、じいじがおそらにいっちゃったからさびしいでしょう!わたしねきょうからばあばといっしょにねようか?」


 俺の自宅裏に家を建てて息子家族は住んでいるが可愛いお利口な孫ちゃんは妻に気を使っているようだ。ホント優しい孫だ。


 「おっ!ありがとう、だけど隣だから、毎日会いに来てくれればさみしくないよ!それにいちごちゃんがいないとパパとママがさみしいだろ! そのかわり週末はご飯食べてお泊りしていいぞ。パパママが許可してくれたらの話だけどね」


 あいかわらず男っぷりな妻は笑顔で周囲に答えた。息子夫婦も安心した様子で皆を連れて自宅へ引き上げていった。







 夜も更けた頃、酒の飲めないあいつはワインを炭酸で割った(98%炭酸)酒? を飲みながら何かぶつぶつ遺影に文句を言っている。




 「なにが ”君より長生きして責任もって看取るから”よ。 まだ全然若いのに、これから一緒にのんびりしようって言ったのに・・・先に逝くなんて・・・・・・(ズビビビビ~)」


 うわっきったねえ、鼻水たらして泣くなよ・・・


 しかし・・・あいつには可哀想事したな、確かそんな約束してたな。

 あ~あ、そんな炭酸水で酔って寝るなよ、仕方ねえな・・。









 「最高神様!聞こえますか!」

 俺は試しに声をかけてみた。


 「聞こえとるぞ、おうもうそろそろ時間じゃのう、それともどうかしたかいのう?」

 すぐに最高神は再び霧の中から実体化する様に現れた。


 「最高神様! 生き返らせろとは言わないけど、家族に何か一言でもメッセージ送ったりできないかな? 夢枕に立つとかっていうのもあるだろ?」

  知矢が頼み込む様子に少し考えるそぶりを見せる最高神。


 「夢枕と言うのは人が考えた架空の話だじゃぞ、まあ神域におる者なら似たようなことは出来る。

 人々はそれを”神託”と呼んでおるがの。

 君に加護は与えたがさすがに神託の力は与えられんし与えても行使するだけの”神力”が無いからのう・・・

 そうじゃのう・・これに書いた物だけなら1人のみじゃが届けてみようかのう」

 そういうと最高神は大き目の短冊をどこらからともなく取り出して差し出した。


 「これは神託より簡単なメッセージを与え伝えるためのものじゃ。これにかける程度であまりこちら側の事を書かなければそれを希望の相手のもとへとどけてやろう。」

 そういって短冊とペン?の様な筆記用具を手渡した。


 「手紙か!ありがとう最高神様。最高神様の事はぼかして書くわ、少し時間をくれ」

 と言うと知矢は早速テーブルに向かい何を書こうか思案に入った様子。


 最高神はその様子を温かいまなざしで見送ると音もなく再度姿を消した。





 「うむ~どうすっかな。「前略」はおかしいな、っつか最近PCやタブレットばっかで鉛筆とかで手紙なんぞ10年以上書いてないからな──

 しかも字が汚いのは子供んときのまんまだしな・・・」

 「よし! なんとかこれで良いだろ。 最高神様!」


 「おうおう、書けたか、どれ貸してみなさい……こりゃあ汚い字だなしかも裏表めいいっぱい書いとるのか。まあそれは構わんだろ。しかし本当に齢を重ねた社会の重鎮かと疑いそうになる字じゃの」

 

 「字が汚いのは自覚してるからホットイテくれ! 逆にきれいな字でかいたら妻は俺の手紙だとは信じてもらえないから、大丈夫! それよりその手紙必ず妻に、あいつに届けてくれよな!」


 「うむ、約束じゃ、必ず目の届くようにして渡る様にしておく。

 さてそろそろ時間じゃが準備、気持ちの準備は出来たかいのう」


 メッセージを書いた短冊を懐に仕舞った最高神は知矢の様子を観察するように言った。


「まあ、初級の魔法は覚えたし、行先の経済単位とか概要は読んだし、あとはどうやって暮らすかは向こうで考えるつもりだ。のんびりと言っても野山で寝て過ごすわけにもいかないしな。」


「まあ、時間は十分あるでのゆっくり考えながら楽しい事を見つけてくれ。

おっ、そうじゃそれと”初期装備”を渡しておこう」

 そういうとリュックの様なものと刀の様な物等を渡してくる。



「これはマジックバック(小)じゃ、知っとると思うが見た目よりはかなりの容量を入れることができる、じゃが精々その見た目の10倍程度だがな」


 出ました”マジックバック”! 定番だよな。

「小なのか? 無限とかなら良いのにな」

 受け取りながら苦笑し注文を付けると


「おぬしの魔法に”空間魔法”が有るじゃろレベルが上がれば容量はどんどん大きくなるし使い方の幅も広がる。

 LV1ではまだこのバック並じゃがLV3程ですぐこのマジックバック程の容量を超えてくるから大丈夫じゃろ。むしろ空間魔法を持っている者の方が希少じゃて要らんトラブルを招かぬように小容量のマジックバックを持っているとしたほうが良かろう」


 なら大丈夫かと知矢も納得してリュックに手を入れてみた。

「おっ、すげえな何が入っているか頭の中に浮かんでくる。じゃあこれを」

 ”お金”と脳内で認識してみると、手に掴まれ出てきたのは、麻袋よりは柔らかい巾着だ。中身を確認すると

「おっ、大金貨に中金貨、小、・・あれこれは?」



「一応一年ほどは十分暮らしていけるだけの金額は入れておいたつもりじゃが足りぬか?」


 世界の神である最高神も細かい経済価値は完璧に把握してはいないが一般的な生活水準よりは高い価値を想定していた。


「足りないどころか逆だぜ最高神様。

 青金貨(ミスリル金貨、薄青く光る)まで入ってるじゃねえか。

 これさっきの指南書にあった異世界の経済価値を俺の国で換算すると確か1億円位の価値あるぜ、この袋締めて2億位あるんじゃねえか?多すぎだろ」

 (因みに最高価値の金貨は白金貨、1枚約10億、白く発光する)

 驚く知矢に


「ふぉっふぉっふぉ~まあ足りないより良かろう。

 それを元手に商売をしても良いし、家を買っても良いし宿に泊まっても十分長い事生活できるじゃろう」


 最高神は少し失敗した様子をごまかすように慌てて説明をするが知矢は取りあえず生活が安定するまで気が楽になったし一層の事、あともう生きても10~15年位だから老後の資金としても十分だなと考えていた。


 はなからのんびり老後の生活を送りたいと伝えてあったのだし、この年で異世界の事情も分からないのにいきなり商売をしても成功するのは容易ではないなら独り雨露あめつゆしのいで毎日ご飯を食べられる生活が10数年送れる安心感は心と体のゆとりにもなる”のんびり老後”うん良いじゃねえか!と。


「10年? いやいや寿命を延ばしておいたからあと60年以上生きられるぞ。

 それに生活魔法のLVが2になれば”回復(小)や状態異常回復(小)”、さらに”光魔法”のLVが相当上がれば魂の奇跡(死にそうになった時に心身ともに即座に回復)も使えるかもしれんし。

さらにさらにわしの加護があるのじゃからそもそもそう簡単には死なんよwwふぉっふぉっふぉ」


 なんかさらりと重要で凄い事を言ってるぞ。

「ちょっと待てよじゃあ俺はあと60年以上生きられるってか?いやいや120歳越えなんて他人から見たら化けもんだろ!エルフ族でもあるまいし」


 まさかの話に焦るが60歳でもじいさんだと認識しているのに更にこれから60年、ひょっとしたらそれ以上ってどうやって生きて行けばと汗が出てくるのであったが


 「寿命を延ばしたと言っといたろう、それにステータスをよく見てみなさい”若返りし者”と書いてあるじゃろう。

 名前の次、(16)はそなたの年齢じゃよ。

 つまり体も見た目も若返って老後をのんびり暮らしてもらおうというわしの詫びの気持ちじゃよ!」


 はっ? しばし知矢は反応できなかったがやっと理解が追いついた。

 「えっ!!俺、16歳? 若いころに戻るのかよ! ってそれのんびり老後生活とか言わないだろ

  そんな子供が大金もって家買って仕事もしないでのんびりできないだろ! ってか世間が怪しむだろ!

  嫌だぞ怪しまれて警察に突き出されたらこんな大金言い訳できないぞ!!!!」

  慌てた知矢は再び最高神へ詰め寄る。



 「おいおい、大丈夫じゃ、少しは冷静に考えてみろ。 まあ、確かにおぬしの言う通り大金を見せびらかして豪遊したりしたら怪しかろうがある程度のきちんとした身なりでおれば子供でも多少の金を持っておっても大丈夫じゃよ。


 トレジャーハンター、冒険者、大商人の子供、貴族の縁戚等は日頃からある程度の金は持って居るもんじゃ、それにバックに入れておけば、っとそのバックはおぬしに身を離れると暫くしたらとった相手も手から消えて戻ってくるし中身を探れるのはお主のみじゃから安心せよ。

 そしてついでにこの剣、お主の国に合わせて”日本刀(業物小)”にしといたでの武器を持って居れば冒険者を名乗っても良いしいざとなったら身を守れるじゃろ。お主、剣は使える様じゃしのう」


 色々話を聞けば大丈夫な気がしてきた、その世界は13歳を過ぎてれば働きにも出られるし16歳ならいっぱしの大人扱いだそうだ。

 刀か・・愛刀以外は最近あまり身に付けてないがまあ何とかなるか。二尺三寸五分に反りは二分って処か、まあまあだな。


 え~しかし16歳かよ何して過ごそう?

 まあ最高神様の言う通り金はあるからまずはのんびり世界の様子を観察してからどうするか考えるか。



「さてそろそろよいかのう。異世界へ送るとするか。もし困った事が有ったら”指南書”の最後の方に質問を書き込めるようにしておいたから質問してくれ、わしも忙しいから即答とはいかぬがなるべく早く回答するからのう」


 そういうとサッと手を振りその空間の先に淡く光る魔法陣が現れた。


 「その上に乗ると異世界に転移する。転移先は中核都市の郊外、人気のない魔物も出ない街道じゃから安心しろ」



 「了解! じゃあ色々ありがとう。頑張って生活してみるよ。あと手紙は必ず渡してくれよな!」

 俺はそう言いながら魔法陣の上にゆっくり歩を進めた。



 「こちらこそ、大変な迷惑をかけたのに話を受け入れてくれてありがとう! 手紙は責任をもって奥さんへ渡る様にしておくからのう。 では別世界での生活を楽しんでくれー」



 知矢の視界からぼやけるように最高神が消えてゆくと今度は周囲が眩く発光し次に何かに惹かれる様にその身を引っ張られたと思ったらあっという間に暗転したのであった。






 第一話はいかがでしたか。話の構成はのんびりとしたものになります。

 もしよろしければ下記の ☆印を押してご評価いただけたら嬉しいです。



※1)ハイサイド :バイクのタイヤが滑り後輪などが横滑りを始めたとする。

そのまま滑っていれば横倒しになりバイクが先に滑っていきライダーはその後から同じように滑る。確かに痛いがそのバイクが滑った際に急にタイヤに摩擦抵抗が復活した場合路面とタイヤを始点にバイクとライダーが急激な慣性で逆側に振られその急激な勢いでライダーはバイクより先に飛ばされる。

その後着地してライダーが滑っていたとしても後方より遅れて重量のあるマシーンが滑って迫りその重量により慣性速度がライダーを上回るのでマシーンはライダーへとぶつかるか押しつぶされる。

運よくバイクの滑り方向がずれたとしても急激にモーメントが発生した為地面に激しく叩き付けられることも多い。


最悪の転倒状態。


※2) :SS Super Sportの略。高性能で高機動性を誇るバイクを示す。

よくある勘違いでレーサーレプリカタイプのバイクを全てSSと言う方もいるがそれは間違い。

間違い例:CBR250RRはSSでは無い。単なるレーサーレプリカ。




投稿方法が今一つ理解していないので今後修正が入るかもしれません

ではまた次回の投稿でお会いしましょう。

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[一言] 読み始めて最初に思ったこと。 句読点を増やして区切ってください。 でした。 音読して不自然じゃない長さが、おそらく最も読みやすいかと。 バイクにまつわる話、登場はプロローグだけでしょうか。 …
[気になる点] 人の気配がない場所で事故ったのになぜ救急車(orパトカー)のサイレンが?
[気になる点] 火魔法でライトは無いんじゃないでしょうか? 灯りと明かり、火なら前者、後者なら生活魔法か光魔法? と、水魔法行使の描写で特力に無い属性も可能なの? まぁ、性能見るに出来なきゃおかしいく…
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