7.褒めさせるのも大事です
実技試験当日。
ダイン教官率いる騎士見習いの全員でアスレンの森へと来ていた。
「よぉし、到着だ。良いか? バッファローは中型の危険なモンスターだ。騎士見習いのお前らでも、一撃を受けたら無事じゃあ済まないと思え」
そういえば、僕自身も雪山ではイエティやホワイトウルフくらいしか戦った事がない。
バッファローとイエティならどっちが強いのだろう?
余裕で倒せるモンスターとは思うけど、用心するに越したことはない。
「教官。バッファロー一頭で良いんですよね?」
騎士見習いの一人……えと、名前はなんだったかな……カインだ。
カインが挙手して、ダイン教官へと質問した。
「あぁ、そうだ。それがどうした?」
「いや、簡単過ぎません?」
「ふん、そう言うなら五頭くらい狩ってみるか? 言っておくが、バッファローは好戦的じゃなく、警戒心の強いモンスターだ。周囲の危険をいち早く感じて身を隠すから、ゴツい見た目の割に見付ける事が難しいんだ。制限時間内に見付けられなければ話にならんからな」
なるほど。
つまりはこれはモンスターを倒す力を示すのが目的ではなく、殺気を抑えて如何にモンスターを捕捉するかが鍵になってる訳だ。
そういう事はセルシウスにみっちりと仕込まれたから、心配はいらない。
僕一人の場合ならね。
「教官!」
今度はエミリが元気良く手を挙げる。
「どうした、エミリ?」
「二人で狩っても大丈夫ですか?」
「ん……まぁ良いが、その場合はちゃんと二頭狩れよ?」
「はぁい!」
ダイン教官の許しを貰うと嬉しそうな笑顔を僕へと向けてくる。
やっぱり二人で狩るんですね。
ん~、正直今の説明を聞いたら一人で狩る方が効率が良いような気がしてきた。
二人一緒に行動しても、結局バッファローを『見付けられるスピード』は一人の時と変わらない訳だ。
だから、単純にノルマ達成するには二倍の時間が掛かってしまう事になる。
生い茂る木々が視界を狭くさせる分遠くまで見渡す事が出来ない。
足で踏むであろう、草花の音まで消す事が出来ないし、触れる葉の音もある。
野生の生物にしてみれば、殺気よりも音に敏感だったりもするから、難易度は意外と高いかもしれないな。
「制限時間は一時間だ。それまでにこの場所まで持って来れなければ失格とする。ま、精々頑張ってくれ」
各々が返事をしながら、屈伸やストレッチをしてやる気を漲らせている。
斯く言う僕もお情けとはいえ、誘ってくれたエミリの為にも頑張ろうと気合いが入っている。
「それじゃあ、試験開始!」
ダイン教官の合図と共に、騎士見習いの皆が一斉に森の中へと姿を消していく。
「あれ? リッキー、急がないと遅れてるよ!」
「大丈夫。ちょっと、あっちの外れの方から森へ入ろう」
慌ててるエミリに対して冷静に指示を出す。
エミリは不思議そうに指さした方へと凝視する。
あんな一斉に慌ただしく入れば、確実にバッファローはどんどん森の奥や横へ逃げていくだろう。
皆と同じ場所を探していたんじゃあ、二匹も仕留められない。
「ほぉ、リックはなかなか分かってるじゃないか」
ダイン教官が感心しながら、後ろから僕の肩へと手を乗せた。
「もっと褒めてください」
首だけ後ろを向いてダイン教官へ要求する。
「……賢いな」
「ありがとうございます」
賢いな、戴きました!
なんて言ってる場合じゃないな。
「それじゃあ、行くとしますか」
「うん、頑張ろ!」
少し横へと逸れた場所から森へと入っていく。
「エミリ、バッファローは音とかにも敏感かもしれないから、なるべく音を立てずに静かに行動しよう」
「分かった! やっぱ、リッキー頼りになるぅ!」
その声が大きいのですが……。
バシャバシャと草や落ち葉を踏み荒しながら走るのを止めて、なるべく一足で遠くまで跳ぶように移動する事にした。
目的の木を定めて、その木の近くまで跳んでいく。
木の上から跳び移っていくのも手だが、ここの森の木は葉っぱが生い茂り過ぎて、跳び移ると凄い音を立てそうなので止めた。
僕が先に移動して、エミリが後に続く。
何度か繰り返してる内に何か気配を感じたので、止まって様子をみる。
「どうしたの?」
エミリも分かってくれたみたいで、ヒソヒソ声で話してくれた。
今までで一番感激した瞬間かもしれない。
「近くに何か気配を感じたから……」
エミリと二人で、今度は静かにそろりと忍び足で歩きながら、周囲の様子を窺う。
エミリがバシバシと僕の背中を何発も叩いてきた。
「見て、あれ」
エミリの指す方向にお目当てのバッファローが居た。
大きさは馬位だが、横幅もあり、紫色の毛皮を纏っている。
角は太く渦巻状に曲がっている。
今は大人しく食事中みたいで草を食べてて隙だらけだ。
「どうすれば良いの?」
僕に指示を仰いでくるけど、もうこうなれば速攻あるのみじゃないかな。
いっぱい生えた木をバッファローが避けながら逃げるのは、相当無理がある。
目視してしまえば、こっちの勝ちだ。
「念のためにもうちょっとだけ近付いてから、一気に飛び掛かろう。合図へ出すから」
「オーケー」
左右に分かれながら、ゆっくりと近付く……八メートル程だろうか、そこまで近付いて剣を抜いて構えた。
エミリも僕に倣って剣を抜いて構える。
エミリと視線を合わせ、僕が頷いて合図を出し、一斉に飛び掛かる!
バッファローは一瞬逃げようとしたけど、追い付かれると感じたのか、僕の方へと突進してくる。
「『サンダーボルト!』」
エミリが魔法を放ち、雷に打たれたバッファローは動きが止まり、そこへ透かさず僕の剣が走る。
「グモォォー」
バッファローは唸り声を上げて、ドサリと落ち葉の絨毯の上へと倒れた。
「やったな」
「すっごーい! リッキー格好いい!」
「エミリの魔法があればこそだよ」
「えへへ、褒められちった!」
自分の頭を撫でるようにして照れてる姿の可愛さに見とれながら、バッファローの身体を持ち上げる。
うん、重いな。これも訓練の一環なんだろうな。
「さて、一旦戻ろうか」
「え、もう一頭は?」
「一度持って帰ってから、また来よう。このまま持って狩りを続ける訳にもいかないし、ここに置きっぱなしにしてたら、盗られる可能性もある」
「そかそか。りょーかい!」
エミリはそう言ってビシッと敬礼をする。
相変わらずのリアクションに笑みが溢れる。
そりゃ、エミリにしてみれば僕は暗い人間なんだろうな、なんて卑屈になったというより開き直ってしまった。
少しずつ増えてきてます!
ありがとうございます!
読んでくださる方々の為にも勉強しながら、より良く改善していきますので、これからも宜しくお願い致します!




