6.発覚する真実
騎士見習い三日目に突入し、ここまでくると何処まで力を使って良いか等、感覚は掴めてくる。
武道会の一件もあり、とにかく身体能力が高い事にして、魔力は低く、魔法が苦手、そんな設定にして騎士見習いの訓練を受ける。
セルシウスとの修行のお陰で、魔力のコントロールは自分でも胸を張れる程には自信がある。
「ねぇ、リッキー。今度の試験さぁ……一緒に行かない?」
三日目にしてエミリは僕にリッキーというあだ名を付けてくれた。
長くなってないか?
訓練は夕方までで、夕食後は騎士見習いにとって自由時間。
街へ行っても、外まで出ても別に問題ない。
今僕ら二人は、騎士見習い寮の庭に居る。
騎士見習いの寮の庭とは思えない程、昼間は緑が栄えて池の水面が煌めいて、見てるだけで時間を忘れさせてくれる。
夜もまた月が水面に映り、僕ら二人の仲を演出してくれている。
……はずなんだけど、その池にエミリは容赦なく月目掛けて石を投げ込んで遊んでケタケタと笑っている。
「……試験って、四日後にやるやつだよね」
「そそ、一人だと不安でさぁ……リッキーとなら出来る気がする!」
「それって、僕任せにしようとしてない?」
「あぁー、それは心外だよ! し、ん、が、いっ! アタシだって自分で頑張るもん!」
腕を上下にブンブン振り回しながら怒って、最終的には頬を膨らませてプイッと横を向く。
さすがエミリのリアクションは、飽きさせない。
もうちょっと怒らせたくなってくる。
「ごめんごめん。エミリに誘われて照れてしまったんだ」
「駄目だよぉ。アタシ達まだ学生なんだからぁ」
んー……顔を赤らめて恥ずかしそうにするのは、悪くないんだけど……何を言ってるのか理解出来ない。
やっぱりここは学校だったのか?
そして何処までの事を想像しているんだ?
「そもそもの演習だけど、複数人で達成しても良いの?」
「あれ? リッキーちゃんとダイン教官の説明聞いてなかったの? 駄目だよ、人の話はちゃんと聞かなくちゃ!」
エミリは子供に叱るみたいに、片手を腰に当て、前のめりになって人差し指だけ立てて、つぃと前に出す。
いや、エミリだけには言われたくない言葉だな。
「ちゃんと聞いてたよ。試験はアスレンの森でバッファローを制限時間内に一人一頭狩れば良いんだろ?」
「ほら」
「……何が『ほら』なのかな?」
「一人で狩らなければならない、なんて言ってなかったでしょ?」
あぁ……そういう捉え方してるのね。
それなら確かにそうだ。二人で狩るなら、二頭狩れば良いんだな。
……屁理屈じゃん。
「まぁ、その辺はもう一度ダイン教官に確認した方が良いね。違反行為で失格とか洒落にならないから」
「うんうん。リッキーが乗り気になってくれて、アタシは嬉しいよ」
本当に嬉しそうに大きく頷いている。
そして、再び池へと悪魔の石投げが再開された。
この池なんか棲んでないのか? 大丈夫だよな?
石に当たった魚とか浮いてこないよな?
「でも、どうして僕なんだ? イアンさんもだけど、他にも仲の良い奴いっぱいいるじゃん」
「んー、そうなんだけど、なんかリッキーってさ。寂しそうじゃない?」
「僕が?」
「うん、僕が」
これは予想外の答えが返ってきた。
なんだったら、ちょっと告白とか期待しようとしていた自分が恥ずかしいくらいだ。
寂しいか……むぅ、心当たりは……なくはない。
本当の所、母さんが居なくて父さんが亡くなった時、セルシウスの側に居ても最初の内はいつも死にたくて仕方なかった。
それでも、セルシウスが僕の事をずっと優しく支えてくれたから、それに応えなきゃって思えるようになった。
けど、こうして外へ出てみると、両親も身寄りもない、頼れる人も居なければ、生きていく目標も無いんだから、どうしようもない。
なんでセルシウスは僕を外へと旅立たせたんだろうか。
寂しさを紛らわすように女性の事を考えるようにしているけど、なかなか上手くいかない。
モテないんだから仕方ない。
妄想の中では、もう二、三人は恋人候補が居るはずなんだけど、皆さん恋愛対象外のようでお友達止まりです。
まぁ、こんな生活も良いなぁって思えるけど、ふと一人になった時に訳の分からない孤独を感じて眠れなくなる事がある。
そう簡単に過去を忘れる事なんて出来ない。
「……そんな風に見える、かな?」
「うん。リッキー、ちょっと見た目が暗そうだもんねっ!」
そこっ?!
おい、今の僕の感傷に浸った時間を返せ!
「僕の何処が暗そうだって言うんだ?」
「んとね……顔?」
ぐはっ!
僕ってそんな暗そうな顔をしていたのか……。
はっ! 最初にリアンさんがお金を恵んでくれたり、優しくしてくれたのも、なんか暗くて見ていたら可哀想になってしまったからとかなのか?
僕は自分という人間を分かっていなかったみたいだ……女性とウハウハデレデレライフなんて、僕なんかじゃあ到底無理って訳だ。
どおりで恋愛対象外なはずだ。
『好き』じゃなくて『可哀想』だと思われて付き合ってくれる人達ばっかりなんだ。
あぁ……僕の人生は本当に終わったかも知れない。
「ま、そんなに落ち込まなくて良いよ」
誰のせいだよ!
「誰のせいだよ!」
「ん~?」
首どころか身体まで傾けて惚けてやがる。
本当は全て分かってて言ってるんじゃないか?
悪気ない振りした確信犯なんじゃないか?
エミリが本当に悪魔に見えてきた。
「またそんな顔して、駄目だよ! 明るくハッピーに、スマーイル!」
両手人差し指の先を頬に当てて、首を傾け満面の笑み!
可愛い! っていい加減にしろよ!
「はぁ……スマイルスマイル」
「にししぃ。ま、そゆ事で演習の方は宜しくね!」
「分かったよ。宜しくお願いします」
色々と諦めた。
まさか誘われた理由が憐れみとは思わなかった。
セルシウス……もうじきそっちに帰るかもしれないよ。
「やたー! 約束だからね!」
「あぁ、約束だ」
呑気に鼻唄を歌いながら、スキップして寮へと戻っていく。
その背中を悲しく見詰める。
エミリは急にスキップを止めてこっちへと振り返る。
「リッキー、お休みなさい!」
「おやすみ」
返事をすると満足そうな顔をして、再びスキップしながら寮へと戻っていった。
「エミリは僕にとって最大の敵かもしれない……」
もう見えなくなったエミリの背中に僕は呟いた。
ブクマ……ありがとうございます!
まだまだ努力していきますので、宜しくお願い致します!




