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5.嘘がバレちゃった

 「リック=ダーヴィンだぁ~?」


 夜も更けてアルステムの王宮にある一室に、各団長六名が一ヶ月に一度集い、お互いの団の進捗報告や管轄地区の報告を兼ねた情報共有の為の場が設けられている。

 ……というのは表向きで、ただ飲んで騒ぐのが好きだから集って酒を交す場所になっている。


 その一室に一際低く響き渡る大きな声で怒鳴る男が居た。

 彼は大柄で五十過ぎだというのに、その肉体は衰えるどころか覇気に満ち溢れる程の逞しいものだった。


 「ラドス殿、いきなり興奮されてどうしたんだ?」


 ミリアがラドスを言葉で静止させるが効果は無く、拳をテーブルに叩き付け、酒の入ったグラスやつまみを乗せた食器等がカシャカシャと音を立てて跳び跳ねる。


 「どうもこうもあるか! そいつはラダン=ダーヴィンの息子で、父親と共に五年も前に死んだと聞いたぞ!」


 まだピークに達していないのか、怒鳴り声がどんどん大きくなり、酒のせいか、怒りのせいか分からない程に顔を赤らめていた。


 「そんなはずないですよ! お姉さんが嫌で家出してきたって言ってましたよ?」


 「おい、リアン! そんなふざけた嘘を信じたのか? ラダンには息子一人しかおらん! 母親は息子のリックを産んですぐに亡くなっている!」


 そこの指摘に関しては、ミリアも始め、各団長……ブライン、オデッサ、レイの全員が納得する。

 全員の沈黙による肯定がリアンには心に痛く刺さって、俯いてしまう。


 「しかし、ラドス殿はやけにダーヴィンの家系に詳しいんですねぇ」


 ブロンドのウェーブの掛かった艶のある髪のオデッサが、ラドスとは対称的な落ち着いたしっとりとした口調で疑問を口にする。


 「当たり前だ。奴とは腐れ縁でな。亡くなる前に喧嘩別れをしてしまった事だけが心残りではあったがな」


 そう語るラドスは思い出したのか、最後の方では何処か寂しさを感じさせた。

 それを紛らわすようにグラスに入ったワインを一気に飲み干す。


 「そんな……リック君は嘘をつくような子じゃないわ」


 リックを信じたい気持ちはあったが、わざわざラダンがそんな嘘をつくとは思えない。

 辻褄が合わない事からして、リックが全て真実を告げているとは思えなくなっていた。


 「そのリックが偽物って事なのでは?」


 ラドスに続き、団長の中で二番目古株のブラインが訝しげに顔を傾けている。


 「わざわざ死人の名前を語るとは、スパイか何かじゃないのかな?」


 最年少で団長になり、天才にして美青年のレイが興味があるのか、無いのか分からない微笑みの顔を崩さずに言った。


 「そんな……でも、出会ったのは偶然ですよ?」


 「武道会に出場するなら、出会おうが出会うまいが、関係ないだろ? こっちの目に留まれば、騎士見習いになれるのだからな」


 「リック君はお金を持ってなかったわ。アタシが出さなきゃ出場なんて出来なかった」


 リアンは何とかリックを擁護しようとするも、前提として嘘をついている事は変わらないので、どれだけ庇おうと疑いを晴らす事は出来ない。

 その赤く大きな瞳を潤ませて、ミリアへと助けを求めるような視線を送る。


 その視線を感じたのか、ミリアは面倒くさそうにため息をついて、椅子に凭れていた背中を浮かせる。


 「どっちにしても、暫く泳がせてみればどうだろうか? 目的も正体も分からないなら、こっちも探りを入れてみれば良い」


 「良いんじゃないですか。案外そのリック君は生きていたけど、記憶喪失で別の家庭に育てられた! とかだったりするんじゃないですか?」


 レイは探偵宜しく、顎に指を添えて考えるポーズを取り推理する。


 「あらぁ、それなら名前がそのままなのは可笑しくないかしらぁ?」


 「あ、そっか」


 「うふふ、レイ殿はまだまだねぇ」


 「ならば、リック君は何者かにより蘇らされて、普段は自分の意思や考えで行動しているが、無意識に何者かの思惑通りに行動させられてる……とか?」


 「ふふ、面白い推察ねぇ。それなら、瀕死の重傷のリック君を憐れみ、女神様がリック君を救いだしていたぁ…なんてどぉかしら?」


 「オデッサ殿もやりますね……じゃあ、リック君の霊が同じくらいの少年へと乗り移り、父親と喧嘩していたラドス殿への復讐を果たそうとしているとか……」


 「あらあらぁ、それ良いわねぇ~。レイ殿も素晴らしい発想力をお持ちで」


 「いえいえ、オデッサ殿の方こそ……」


 レイとオデッサはお互いマイペースなせいか、ラドスの怒りやリアンの不安をそっちのけで二人のほんわりとした世界で話していた。


 「あの二人は置いておいて……ミリア殿の言うようにリックを名乗る人物は注意して視ておいた方が良いな」


 ブラインがオデッサとレイを話から外すような形に他の三人へと寄り、話を元に戻した。


 「じゃあ、アタシが監視します」


 「ふん、そもそも見抜けなかったお前が監視した所で、何の信憑性もないわ!」


 「うるぅ……」


 ラドスがバサリとリアンの言葉を切って落とすと、机に沈み込むようにしてリアンが瞳を涙で溢れさせた。


 「ラドス殿、何も泣かせる事はないでしょ?」


 「お、俺のせいか? 別にそんなつもりで言った訳じゃないぞ」


 「謝っておいた方が良いですよ」


 「なんで俺が……」


 そう言いつつ、リアンへと目をやると、完全に涙を流し頬を膨らませてラドスを睨んでいた。

 どうやらラドスは女性の涙に弱いらしく、狼狽えながらも溜め息をついて、


 「……あぁあぁ、俺が悪かったよ。言い過ぎだった。許してくれ」


 ブラインとミリアはラドスにバレないようにクスッと笑った。

 リアンはまだご機嫌斜めでラドスを恨めしそうに睨み続けている。


 「リアン。その辺でラドス殿を許してやれ。ラドス殿だって、リアンを嫌って言ってるんじゃない。アルステムを護る為に言っているんだ」


 「うん、分かった……」


 ようやく機嫌を直してくれたのを見て、ラドスは今度は安堵の溜め息をつく。


 「ラドス殿もブライン殿もお忙しいでしょう。それにあそこで楽しそうに話している二人も当てにならない……私がリックの監視をしましょう。何度か話もしているし、別に会った所で怪しまれもしないだろう」


 完全に二人で盛り上がってあるオデッサとレイのコンビを生暖かい目で見ながら、ミリアはリックの監視役を買ってでる。


 「ふん、まぁミリア殿しかいないな」


 「俺も異存はありませんよ」


 「ミリア……なんかごめんね?」


 リアンが申し訳なさそうにミリアを上目遣いで見る。

 リアンに振り回されるのは、ミリアにとっていつもの事なので、別に気にしてない、と肩を竦める。


 「リック=ダーヴィン……なんで今更アイツの息子の名前を使うだ。胸糞悪いぜ」


 「ラドス殿、まだ偽物と決まった訳ではないでしょう。案外、本当にあそこの二人の妄想してる中のどれかだったりするかも知れませんよ」


 ミリアはそう言って、まだ二人の世界を楽しんでいるオデッサとレイを顎で指した。


 「さすがに有り得んわ!」


 「リック君……なんで嘘ついたんだろ」


 「ミリア殿頼みましたよ」


 「えぇ……ま、実技試験が終わってから開始します。失格になれば、どうせここには居られないんですから」


 「確かにそりゃそうだな」


 リック=ダーヴィンが何者で、どんな目的を持ってアルステムへと来たのか……ミリアは思いに耽ながら、見詰めていたグラスを口元へと近付けて傾ける。

本日、もう一本投稿すると思います!

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