3.スカウトより告白を
予選を無事(?)通過する事が出来た僕は、リアンさんの用意してくれた宿に泊まった。
ふかふかのベッドなんて、いつ以来だろう……て考えてみたけど、泊まる機会なんてなかったし、家のベッドは固かったから初めてになる。
セルシウスの所での暮らしで一番辛かったのは寒さだった。
魔力を纏って寒さを緩和させるのだけど、そんな持続出来る程の魔力が無くて、最初の頃は死に物狂いで魔力の鍛練に励んでいた事を、ぬくぬくとしたベッドの中で思い出しながら眠りについた。
翌朝、朝日の眩しさで目を覚まし、宿で朝食をしっかりと取って、女神様に感謝を捧げる。
軽く身体を動かしてから、武道会の会場へと向かった。
受付で名乗って、控え室へと案内された。
案内されて入ってみると、控え室は個室になっていた。
そういえば、他のブロックの選手とか見てなかったな。
どんな選手が勝ち残ったのか、少し興味をそそられる。
試合はブロックの数字の順番で、トーナメント戦。
俺は五ブロックだったから、三回戦目となる。
一回戦目の様子でも観に行くも、控え室で集中するも自由だから、迷わずに試合観戦に行った。
そうしないと、どれくらいの力で戦えば良いのか判断に困るからね。
試合会場は、予選と違って舞台上ではなく、一面が砂の絨毯で敷き詰められた場所で試合をする。
つまり、場外は無しだ。
選手側の観戦スペースから会場を見渡す。
もうかなりの観客が入っている。
この中にリアンさんも居るのだろうか?
ーー「皆様! お待たせ致しましたぁ! 只今より、第七回アルステム武道会を開催致しまぁす!」
実況の男が会場の中央に立って、観客達を沸かせる。
とても長い主催者の話を頑張って聞いた後、ようやく一回戦が始まった。
「それでは、一回戦……カッタ選手とナウス選手の試合を開始致しまぁす!」
試合開始の銅鑼が鳴って、二人はお互いに間合いを詰める。
うん、やっぱり遅い。
予選に残っただけあって、多少は技術的に強かったりするのだろうが、まるでお遊戯レベルだ。
拳や蹴りに鋭さも感じなければ、力強さもない。
もう他の試合を観る必要は無さそうだ。
予選の時同様の力で充分に勝てる相手だ。
三十万ゴールドが手に入ったら、故郷へと帰って傭兵を再開するのも有りだな。
ここで優勝すればそれなりに腕が立つ事も知れるだろうし、父さんの名前もある。
後は美しい女性との出会いさえあれば、最高の人生を過ごせるだろう。
リアンさん……騎士辞めて一緒に住んでくれないかな?
そして、三回戦。
ラディという構えの様になった格闘家の男を相手に、二、三手交えてから、後ろへと周り込み相手の腕を背中へと捻って極めて、膝裏を蹴って膝を折らせる。
その状態で地面へと押し付け、動けなくしてギブアップさせる。
変に殴ったりして一撃で勝負が着いてしまうと怪しまれるから、関節技を主体に攻める作戦にした。
次の準決勝の相手はクランという選手で、ここで初めて自分と同じくらいの体格の選手と巡り会えた。
スピード重視の拳主体の攻撃で、これが意外に速かった。
さすがは準決勝となるとレベルの高い選手が残ってくる。
摺り足気味の隙の少ない移動法で、間合いへと入ってきて拳の連打を容赦なく放ってくる。
鋭い眼光がしっかりと僕を捉えている。
本気さえ出せれば、軽く拳をいなして一撃入れれば終わりなんだけどなぁ……。
バックステップで何とか間合いの外へと避けつつ、対応手段を考える。
うん、これだな。
バックステップで大きめに間合いを取って、前屈みの低い姿勢になり、素早くタックルをかます。
何発かパンチはもらったけど、そんなに痛くはない。
そのままの勢いで押し倒して、腕ひしぎ十字固めを極めた。
どうせ押し倒すなら女性の方が良かったなぁ……なんて考えていたら、ギブアップしてくれた。
ーー「それではお待たせ致しましたぁ! いよいよ決勝戦でぇす! 決勝まで勝ち残ったのは、この二人ぃ! ラック選手ぅ! そして、エリー選手ぅ!」
僕達は中央に距離を置いて立ち、実況の男の紹介を受けて観客の声援で会場が震えているようだった。
そんな事より驚いたのは、決勝戦が女性である事だ。
僕は自分の愚かさを呪った……何故ちゃんと試合を観ていなかったんだ!
エリーちゃんが頑張って戦ってる姿を何故目に焼き付けなかった!
後悔の念が僕の瞳を潤ませる。
エリーちゃんは青いツインテールの可愛い女の子だ。
今からでも遅くないから、目に焼き付ける。
「あなたの戦い方は見せてもらったわ。悪いけど勝たせてもらうわよ」
「僕の前に立ちはだかるおっぱい……もとい、相手は何人たりとも容赦はしない」
「……今変な単語がなかった?」
「……気のせいじゃないかな」
危うく変態扱いされる所だった。
本当に気を付けなければならない。
僕が隠さなければならない事は、本気なんかじゃない! 本音だ!
「それでは決勝戦……開始!」
銅鑼の音がなると同時に詰めよってくる。
速い!
今までの選手とは桁違いの速さだ。
まさかこれ程の選手が居るとは思わずに油断して、避ける事が出来ず上段蹴りをガードする。
ガードした腕にずっしりとした重みと痛みが伝わってきた。
エリーちゃんはそのまま脚を戻す勢いを利用して、回し蹴りを繰り出してくる。
さすがにもう油断はない。その蹴りを上体を後ろへと反らして回避する。
回し蹴りは外した後の隙が大きいから、一気に近付いて腹へと掌低を打ち込む。
「しまった!」
エリーちゃんが思ったより強くて、反射的に力を込めて迎撃してしまった。
気付いた時には既に遅かった。
エリーちゃんは五メートルくらいぶっ飛んで転がっていた。
「…………」
会場が静まり返った。
エリーちゃんも動く気配がなかった。
立ち尽くす僕。
実況の男が我に返って、テンカウントする。
「ゆ、優勝はリック選手でぇす!」
ざわめきながらも少しずつ歓声が広がっていく。
とりあえず会場全体に手を振ってみる。
うむむぅ……誤魔化せたのだろうか。
いや、それよりエリーちゃんだ。
すぐにエリーちゃんに近付いて介抱してあげる。
柔らかな頬をペチペチと優しく叩いてあげたら、ようやく目を覚ましてくれた。
お腹を押さえながら、苦しそうに立ち上がる。
本当にごめんなさい……。
「私、負けちゃったのね」
「いやぁ、でもエリーちゃんも強かったよ」
「随分馴れ馴れしく呼ぶじゃない」
「ごめんなさい」
「良いわよ。強い人は好きよ。次は負けないように鍛えてくるから覚悟してなさい」
負けたというのに気持ちの良い笑顔を見せてくれた。
闘うのが好きなんだろうな、なんて感心する。
「リック選手。優勝おめでとうございます! 優勝された今のお気持ちは?」
実況の男が輝かしいスマイルで讃えてくれる。
気持ちかぁ……何とも言えないな。
「えっと……なんか最後は無我夢中で勝手に身体が反応してしまったので、余り実感がないんですが、優勝出来て良かったです」
感想を言い切ると再び歓声で会場が震えた。
それくらいしか、誤魔化せる言葉が思い付かなかったが、変に言い訳を並べるよりかは良いだろう。
主催者の締めのとても長い話も頑張って聞いて、賞状と賞金を戴いた。
控え室に戻って帰る支度をする……と言っても、そんな荷物も無いので部屋を綺麗に掃除して出る。
この賞金でもう一泊してからショウデルの街に帰ろうかな。
会場のロビーまで出るとリアンさんともう一人、麗しい金色のロングヘアーのリアンさんとは対称的なクールなお顔立ちの女性が居た。
リアンさんが女神様なら、もう一人の女性は戦乙女のようで鎧姿が神々しく似合っている。
「リック君、優勝おめでと! やっぱり君が優勝したね。アタシの目に狂いはなかった。うん!」
「それもこれもリアンさんのお陰です。ありがとうございます。……それでこちらのお美しい方は?」
何か変な事を言ったのかな?
リアンさんは戦乙女に、ねぇ、面白い子でしょ? なんて笑いながら話しかけている。
戦乙女の方は、呆れたような表情をしながらも、僕の事を観察するように見ている。
「この人はアタシと同じ騎士団長のミリアよ。アタシより全然有名なんだから」
なるほど、僕の常識の無さを笑ったのか。
それにしても昨今の騎士団長というのは、こんな美しい方々で構成されているのだろうか?
「申し訳ありません。情勢に疎いもので……」
「良いのよ。それよりミリアと話してたんだけど、アルステムの騎士になる気はない?」
上半身をこちらに傾けてきて、リアンさんの顔が近くなる。
恥ずかしくなって目が泳いでしまう。
セルシウス以外の女性とこんな近くで顔を合わせるなんてなかったからな……。
それにしても、騎士かぁ……父さんの事もあるし、なって大丈夫なのだろうか?
「無論、騎士になると言っても、見習いからのスタートだ。聞けば身寄りが無いんだろ? 部屋と食事はついているから安心してくれ」
僕が迷っているとミリアさんが補足してくれる。
静かな気品のある声と覇気を感じさせる瞳に緊張してしまう。
女性への憧れと免疫力の無さがせめぎ合う。
もっと積極的にならなければ、僕のハッピーライフは実現しないぞ!
「分かりました! 騎士見習い、やらせて頂きます!」
こうしてリック=ダーヴィンの騎士見習いの生活が始まった。
もう一話投稿させて頂きます!
早くもブクマ、ポイントくださった方ありがとうございます!
涙を流して喜んでいるので、引き続き宜しくお願い致します!