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再会は突然に

 ギレンをミリアさんに託して、暫くの時間を置いてからアルステムに帰ってきた。


 「ふぅ、なんか悪かったな。故郷に連れてくだけだったのにさ」


 「ううん! お陰様で良い体験させてもらいましたっ! リッキーの秘密も知れたしねぇ」


 にんまりと恐い笑みしてますけど、なんか悪い事とか考えてないよね?

 駄目だよ、喋ったりしたら!

 悪いけどそういう方面でのエミリの信頼は一切ないからね。


 「……絶対言わないでね」


 「だいじょうブイッ!」


 全然大丈夫じゃないように思えてしまった。

 口が軽いというよりかは、よく滑りそうなお口をしてらっしゃれるので、不用意に口を開かないでくれたまえ。


 「じゃあ、俺はこれから予定があるんで、ここで失礼するよ。リック、今日は本当にありがとな」


 「そんなお礼なんて」


 「あ、アタシも遊ぶ約束してたんだ!」


 お二人共、ご友人が多くて羨ましいですね。

 イアンさんはともかくとして、エミリに至っては僕と殆んど変わらない時期に見習い騎士になったというのに、交流の幅広さに脱帽だ。


 いや、単純に僕にこの二人以外の友達が居ないのが可笑しいんだろうけど。


 「ごめんね、リッキーは一人で寂しいと思うけど、めげちゃ駄目だよ!」


 コイツ……煽ってきているのか?

 悪いかよ、友達が居なくてさ!


 「ああ、もう良いから行けよ! 僕はこれから麗しい女性とランデブーと洒落込んでやるさ」


 「リッキー、何言ってるの……?」


 「お前、言ってて虚しくならないか?」


 やめろよ、そんな可哀想な感じの瞳でこっちを見てくるなよ!


 「気を落とすなよ、リック」


 本当に大丈夫だからもう触れないでください。


 「リッキー、お大事に」


 お前は許さない!



 こうして二人を見送った後、僕は城下町へと足を踏み入れる。

 さっき言っていたような事もある訳もないから、単純に寮へと帰路に過ぎない。


 あぁー、美しい女性に声を掛けられて、お付き合いする事になったりしないかなぁー。


 「あの、宜しいかしら?」


 そうそう、こうやって後ろから何とも言えない美しい澄んだ声の女性に呼び掛けられて、食事なんかご一緒したりなんかしちゃってさ。

 あ、でも所持金がないから、結局そういう男の甲斐性っていうのは魅せる事が出来ない訳だから、そこをどう上手く……って、あれ?


 「はい、何でしょうか?!」


 僕は即座に振り返って、声を掛けてきた女性へと向かい合う。

 髪はショートヘアの茶色の髪、切れ長の瞳には力強さのようなものを感じさせるが、優しさが充分に伝わってくる程に美しい。

 何処となく懐かしさすらも感じてしまうのは、覚えていない母親の面影でもあるのだろうか。


 「今、お時間大丈夫でしょうか?」


 お?

 ひょっとしたら、これはひょっとしちゃいますか?


 「あります! なかったとしても、作ります!」


 「ふふふ、面白い方」


 順調だ!

 いつになく順調な流れだ!

 リック=ダーヴィン、報われる時が来たぞ!


 「そうやって他の女とも仲良くしていたのか?」


 「………………」


 まずい。

 まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい。


 「あ、のぉ……ですね。いやぁ、やっぱり見た瞬間にビビっときちゃいまして」


 「それで?」


 「いや、隠していても隠し切れていないというか、もう貴女しかいない! そう思えるからこそだったんですよ!」


 「ふふ、それなら合格だ」


 僕の目の前の女性は最初の表情とは全く違った口調で、不敵な笑みを浮かべていた。


 そりゃあ、懐かしさだってあるはずだ。

 声を聞いた時点で気付くべきだった。

 肌も髪色も人そのものだけど、声や雰囲気は気付いてしまえばご本人だ。


 そう、育ての親にして、僕を強く鍛え上げた師匠にして、偉大なる氷の精霊セルシウス。

 なんで僕の人生に順調なんて言葉があると思ってしまったんだ。

 順調な時点で怪しむべき、憂うべきじゃないか。


 いや、しかし、どうしてここにセルシウスが居るんだ。

 まさか、僕が力を使った事を察知してきてしまったのか?


 「あ、あのぉー、それで今日はどのようなご用件でお越しになられたのでしょうか?」


 「なぁに、そう堅くなるな。私とお前の仲じゃないか。久しぶりの感動の対面だ。もう少し想いを馳せるとしようじゃないか」


 それほど久しぶりでもないような気もするけど、セルシウスが言うのだからそうなのだろう。

 こうして人の姿のセルシウスを見てみると、まるで芸術の彫刻のように儚さと力強さを兼ね備えた美しさである。


 …………違う、そうじゃない!

 普通に考えて、偉大なる精霊であるセルシウスが人の姿をしてまで『アルステムに居る』という事態の異常性。

 これは決して僕に会いに来たなんておふざけな理由なはずがない。


 「お前に会いに来たんだぞ」


 「心を読む力があるのですか?!」


 「ふん、私にそんな能力はない。強いて言えば愛の力だ!」


 「町中で堂々とこっぱずかしい事大声で言わないでください! と、とにかくここではマズイので、僕の寮へ行きましょう!」


 騎士見習い仲間だけでなく、僕を知る何者かにこの場を見られたくない。

 人の姿になっているとはいえ、この美しさは目立ち過ぎる。


 「見ない内に強引な男になったな」


 嬉しそうに、厭らしく笑う。

 それが全て僕の反応を見て楽しむ為の悪戯だと分かっていても、顔が引き摺って変な汗が流れてしまう。


 「まあイジめるのはこのくらいにして、そろそろ移動しようか」


 「思ってても言わないもんですよ」


 楽しそうに足取りを軽くしながら、僕の寮の場所も分からないはずなのに先導して歩くセルシウスの背中にぼそりと呟く。

 僕の足取りは非常に重かった。

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