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22.空気を壊すのはやめましょう

長らくお待たせ致しました。

また週一程のペースで再開致します。

 「リッキー……?」


 僕はギレンを見たまま動かない。

 いくら状況的には二人を助けたとはいえ、今まで騙していた事に変わりない。


 どう言い繕えば良いのか分からず押し黙る。

 沈黙を保ったまま竹の葉が風に撫でられる音だけが静かに流れている。

 何もなければ心地好く聴いていられるのだろうけど、今はその音さえ僕の胸の中をざわつかせてしまう。


 「リッキー、さっきのまほ――」


 「リック、ありがとう。お前は俺の恩人だ」


 落ち葉を踏む音、いや、踏んだだけじゃない。

 もっと物量のある物が落ち葉へとのしかかるような音がして振り返る。


 イアンさんが、土下座をしていた。

 地面をハッキリと見ながら、イアンさんは僕に向かって頭を下げている。


 嘘ばかりついてる僕に。

 力の無い振りをして騙していた僕に対して。

 頭を下げている。


 「イアンさん、止めてください」


 「良いんだ。本当にすまないと思っているんだ。お前、その力は隠しておきたかったもんなんだろ? なのに俺なんかの為に……俺達と俺の村を守ってくれる為に使ってくれたんだろ? なんでお前がそんな力を持ってるかとか、隠していたのかとか、そんな事情は知らないけど、お前が助けてくれた事実は歪まない」


 イアンさんは地面と向き合ったままで、顔を上げる事はなかった。


 あぁ、酷い思い違いをしていた。

 僕が一番酷いヤツなのかも知れない。


 二度も試験に落ちて、三年目も真面目に頑張っているイアンさんにとって僕は、年充分に騎士になれる実力を隠していながら、年下でイアンさんを先輩だと言って持て囃して馬鹿にしている、そう思われてしまうんじゃないかと、心の何処かで思ってしまっていた。


 この人は何処までも優しいお兄さんなんだろう。

 イアンさんに出会えた事が僕にとって一番の幸運だったのかも知れない。


 「お願いします。イアンさん、もう頭を上げてください。僕は僕に出来る事をしただけです」


 「リック、ありがとう」


 今度は顔を上げて、僕の目を真っ直ぐに見て言ってくれた。

 僕もその想いに応えるようにイアンさんの視線を受け止める。


 「はいはいはーい! リッキー、悪いけどアタシは納得してませーん! ちゃんと事情を話してくださーい!」


 最悪でいて、めちゃくちゃ空気の読めない人間がここに居た。

 なんなんだ、この人は……。


 「おい、エミリ! 今のやり取り見てたか? 今はそういう事を追及する所じゃないんだよ! ほら、リックも明らかに、なんなんだ、って顔をしてるじゃないか。今は触れない方が良い場面なんだよ!」


 「えぇー! でもでもでもさ、気になるじゃないですか! イアンさんだって、本当はめちゃくちゃ気になってるでしょ?」


 「いや、俺は別に。助けて貰えただけで充分だ」


 「うっそだー! じゃあ、リッキーが事情を教えてくれるって言っても聞かないんですね? アタシだけ聞いちゃいますよ?」


 「ま、待てよ。教えてくれる分には、そりゃさ、聞かないって事はないだろ」


 「ほら、やっぱり気になってるんじゃないですか。じゃあ、やっぱりここは流れに押しきられずにしっかりと疑問を解消しておきましょう!」


 どうしてそうなるんですか、エミリさん?

 どうかお願いですから、さっきまでの感動的な友情モードを返してください。


 「さぁ、リッキー話なさい! でないと、この事は全部色んな人にバラしちゃうからね!」


 恐喝してきやがった。


 「エミリ、さすがにそれは酷くないか?」


 「何を言ってるんですか、イアンさん! きっとリッキーだって本当は言いたくて言いたくて仕方ないんです! でも言い出すキッカケが無いから、なかなか言い出せなかったんですよ! だから、アタシがここまでお膳立てしてあげれば、言うしかない、って空気になって話しやすいでしょ?」


 暴論だ!

 そんな理屈が通ってたまるか!

 エミリさん、あなたは一体どういう神経をしてらっしゃるのですか?


 「はぁ……分かったよ。話せば良いんだろう」


 「うん、素直でよろしい! 絶対秘密にするから安心して!」


 人生の中で一番信用出来ない言葉だと思った。

 これから先もきっとこれ以上に信用出来ない言葉は聞くことがないだろう。


 僕は渋々ではあったが、全てを二人に打ち明けた。

 雪山での事件、セルシウスに拾われ育てられた事、実技試験の時に現れた化物の正体、そしてそこでミリア団長にバレてしまった事。


 二人共、というよりエミリは予想外にも大人しく聞いていてくれたので、話すのにそれ程時間は掛からなかった。

 全部を話し終えた時、胸の支えが取れた気がしてすっきりとした。

 案外、エミリの言っていた事は当たっていたのかも知れない。

 二人には話しておきたかった、そう自覚する。


 「ふぅん、じゃあやっぱりリッキーはただ者ではなかったんだね! アタシの目に狂いはなかった、うんうん」


 調子良さそうに頷いては、瞳を輝かせる。

 そう言えば、最初に話してた時に実力を隠しているんじゃないのか、どうのこうの、と言っていた気がする。


 「そうだったんだな。リックも色々と苦労してきたんだな」


 「まぁ、そのお陰でこうして今に至ってる訳なんで、そんなに悪くないですよ」


 イアンさんは「そうか」と短く言って笑ってくれた。


 「全部分かったから良いんだけどさ。あの人どうしよっか?」


 忘れていた。

 エミリが指差した方向にギレンがまだ気を失って倒れていた。

 あのまま放置する訳にもいかない。


 ちゃんと連行して報告しなければならない。


 「どうしたものやら」


 「なぁ、ミリア団長なら何とかしてくれるんじゃないか? 引き渡すのはミリア団長に相談してからにすれば良い」


 確かにそれが無難だろう。

 だけど、あの人に借りを作って良いものなのだろうか。

 気は進まないけど、そうするしかないか。


 「そうと決まれ帰りましょー!」


 本当にエミリは元気一杯だね。

 念のためにギレンの手足を氷のリングで拘束しておく。


 「なぁ、リック。今度さ、勿論どっか見付からない場所で良いからさ、稽古つけてくれよ」


 「わー、それアタシも参加したい!」


 「いや、エミリは目立つからなぁ」


 「えぇー、そんな事ないもん! ねぇ、良いでしょ、リッキー?」


 「良いよ。だけど、教えるのが上手いとは限らないから、その辺は期待しないでくださいね」


 「よっしゃー! これで今年こそは受かってみせるぞぉ!」


 「やったー!」


 二人の喜ぶ姿を見て安心した。

 僕はまだここに居ていいんだ。


 「二人共、ありがとう」


 「「ん、何か言った?」」 


 「ううん、何でもない」


 これで心置きなく騎士見習いを謳歌出来そうだ。

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