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20/25

20.生きる目的が欲しくなりました

お待たせしました!

なるべく一週間以内の投稿で頑張っていきますので、宜しくお願い致します!

 昼食を済ませた後、皆でイアンさんのホップ畑を見学させてもらう事になった。


 他のホップ畑に比べると規模は小さい。

 イアンさんから溢れた言葉は、「この小さくても何処にも負けないホップ畑を大きくするのが、夢なんだよ」だ。


 イアンさんのお父さんの足を治すだけではなく、このホップ畑を大きくする為にも騎士となって、お金を稼がないといけない。

 そして最後には、騎士としてではなく、ここハーベルの村の人として生きていくのだろう。

 とてもイアンさんらしいと思う。


 僕は……僕はどうなんだろうか?

 父さんの仕事である傭兵を継ごうと思っていたのだろうか?

 考えてはいた。

 ただ、それは今までの僕と何も変わらない『流れに任せて』傭兵を継げば良い、なんて考えてた。

 いや、それを言うなら、考えてなかったのか。


 今の僕は、何になりたいんだろう。

 復讐? そんなのは正直どうでもいい。

 目の前に仇が現れれば、衝動的に……いや、流れに任せて殺意を抱くだけだ。

 アスレンの森に現れた魔物のように。


 目標も、目的も、夢も、希望も、意志も、憧れも、生き甲斐も、遣り甲斐も、方針すらも、てんでない。


 鍛え上げられたはずなのに、他の同期より出来る事が多いはずなのに、ある程度なら願えば叶えられるくらいの実力を所有しているはずなのに、今までの僕の生き様は何一つ想いを伴っていない。


 良いのか、これで。

 このまま生きていて良いのかな。


 何かを目指したい。

 何かを掴み取りたい。

 何かを達成したい。

 何かを追い掛けたい。

 何かを貫きたい。

 何かを……大切にしたい。


 今日のイアンさんを見て、産まれて初めて自分という存在が不安になった。

 このまま生き続けて、自分はどうなるのか分からない。

 そりゃ、騎士くらいにはなれるだろう。

 実力もある。

 その内、団長にだってなれるはずだ。

 でも、団長になって自分は満足出来るのか?

 何かを達成した気になれるのか?


 いや、なれない。

 今までもそうだ。

 父さんやセルシウスに鍛えられていた時も、強くなっていく実感はあったけど、何一つ喜びも高揚感もなかった。

 ただ、言われた事を、目の前に提示された課題をこなしていただけだ。


 何故、それを疑問にすら思わなかったのか。

 あぁ、だから僕は父さんが殺された時、最初に思ったのは怒りや悲しみではなく「これからどうしよう」という不安だったのか。


 僕はどうやら、冷めた人間らしい。

 セルシウスが気に入ってくれたのも、そういう一面なのかもしれないな。

 与えられないと、僕は不安になる。

 なるほど、理解してきた。


 変わろう。

 これから変われば良いんだ。

 イアンさんを羨ましく思えたなら、変われるはずだ。

 何かを見付けてよう。


 僕の人生はきっとそこからなんだ。



 「今日は、わざわざこんな所へ来てくれて、ありがとねぇ」


 イアンさんのお母さんが、優しい笑みでお見送りをしてくれた。

 もう四時過ぎになり、そろそろ帰らないとアルステムに戻るのが夜中になってしまう。

 お父さんの方も、また来てください、と足が悪いので家の中から声を掛けてくれた。


 「はい、今日はご馳走さまでした。またイアンさんと一緒に来ます!」


 「とぉーっても楽しかったです! 絶対にまた来ます! ありがとうございましたぁ!」


 相変わらず、エミリのテンションは過剰だった。

 エミリにも目標とか夢とかあるのかな?

 漠然と騎士になりたいとか、団長と一緒に仕事したいとか、そんな夢だったりしそう。


 まだ太陽は夕日へと変わっていないので、明るい内に竹林は抜けれそうだ。

 昼間の時でも、やけに暗かったのに夕方過ぎるとどれ程暗くなるのだろうか。


 「悪いな。本当に何も面白いのは無かっただろ?」


 「そんな事ないですって! すんごい楽しかったです! 大人になったら、絶対ビール飲みます!」


 「あはは! それは助かる。いっぱい飲んでくれよ」


 「はい!」


 真っ直ぐとした声が、その心まで表している。

 ビールを飲んで酔っ払ってしまう姿まで鮮明に目に浮かんでしまうよ。


 「リックはどうだった?」


 「僕は……イアンさんが羨ましかったです。なんか目標の為に頑張ってる姿が格好良くて、自分にはそんな目標とか夢なんて無いからさ」


 僕もエミリに習って正直に言ってみた。

 イアンさんの言葉が聞いてみたかった。

 別に僕に目標や夢を与えて貰おうなんて思ってないけど、何かを期待してしまっている自分がいる。


 「なんか照れるな……。リックだって、俺よりも筋良いんだし、騎士目指してるんだろ? もし本当に無かったとしても焦る事ないと思うぜ? ホップ畑で働いてるおじさんも、ここに産まれたから仕方ないって言いながらやってる人もいるんだから、自由に生きられるお前はこれから決めれば良いんじゃないか?」


 僕の不安を読み取ってくれたのか、僕の表情が暗かったのか定かではないけど、察してくれて優しい言葉を投げ掛けてくれた。


 そうか。

 そんな皆が夢や目標を持ってる訳でもないのか。

 案外、僕のこの不安はちっぽけな事かもしれない。

 

 「そうですね。僕もイアンさんみたいに何か誰かの役に立てる事を考えてみます!」


 「ははっ、まだ全然役に立ってないんだけどな……」


 イアンさんは少し自虐的になりながらも、僕が元気を取り戻したのを確認したみたいで、屈託のない笑顔を向けてくれた。



 ーー昼間より暗く、肌寒くなった竹林を通っていると前方から、何かの気配を感じた。

 すぐにその気配は、人影となって道の先からこちらへと向かってきている。


 「誰だ? こんな夕方近くにハーベルに来るなんて、珍しいな」


 地元のイアンさんが訝しげになるくらいだから、相当珍しい事なんだろうけど、どの時間帯でも全く通らないなんて保証はない訳だし、そんなに怪しむ事ではない。


 それでも、怪訝に感じるのは前方から来る人間の気配のせいだ。

 かなり強い……それが分かる程に無警戒に魔力を漏らしていた。

 いや、それは自分の力をアピールするように魔力を発していると言うべきだろう。


 近付くにつれて、その人物の姿がはっきりと見えてきた。

 黒髪の男、背丈は百七十ちょいの一般的な体格。

 筋肉はがっちり付いているけど、それもまぁ、平均的で理想的な筋肉とも言える。

 顔は……左目は閉じていて、そこに縦に刃物の傷痕があった。


 「あれは、【闇鴉のギレン】じゃないか……何でこんなとこに……」


 小さく呟くイアンさんの表情は青ざめていた。

 ギレン? 誰だそれは。

 エミリを見てみたが、エミリも分からなさそうに眉をひそめていた。


 「あれはA級犯罪者だ。気分で街や村を荒らして回る奴だって聞いている」


 A級犯罪者……騎士見習いの講習で聞いたな。

 被害や危険度にもよるけど、A級犯罪者のレベルはアルステムの騎士でも副団長クラスでないと取り押さえられないくらいの実力者だとか。


 イアンさんは、既に嫌な汗を額から流していた。

 緊張が走る。

 騎士見習いでは、到底勝てるレベルではない。

 やり過ごすか? 気分でって事は、毎回荒らす訳でもないだろう。

 ギレンという男の表情を見ても、機嫌は良さそうで口角は上がっている。


 イアンさんの様子を伺いながら、固唾を飲んでギレンとのすれ違いに身構える。


 ギレンもこちらを目線だけを動かして品定めをするかのようにじっとりと見てくる。


 何かを言っているのかと思えば、近付くにつれそれは鼻歌だと分かった。


 別段、何かを仕掛けてくる気配はない。


 出会った相手を襲う趣味はないってことか。


 接近、そしてすれ違い。


 緊張で力が入る。


 ギレンは鼻歌も止めず、リラックスそのものだ。


 背後へと移った瞬間に警戒を高めた。

 が、何もしてこない。


 少し離れて、僕は息をついた。

 もう何かしてくる事はないだろう。


 「あんたギレンだろ? ハーベルの村に何の用事だ?」


 それは僕が息をついた瞬間だった。

 イアンさんが立ち止まり、意を決して振り返り、ギレンに呼び掛けた。


 ギレンはピタリと足を止めて、ゆっくりと首だけで振り向いてくる。


 「あぁん? 俺を知ってて呼び止めるって事は、どういう人間だぁ?」

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