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11.男の友情に目覚める

 アルステムの王女エリシア様とお別れして、ぼぉーと塀を見詰めていた。

 さぁ、今からどうしようか。


 時間的にもまだ三時くらいだろうか。

 まだまだ一日は長い。


 もう一度城下町へと進出しようかと思った所で、騎士見習いの訓練所が近かったので、誰か居ないかと顔を覗かせる事にした。


 騎士見習いの訓練所の建物の中は、正方形の形に中央が屋根が無く砂場の訓練をする為のスペースとなっていて、外側の建物部は更衣室、休憩室、魔法の訓練室等が設置されている。


 休みの日に真面目にやってる人が果たしているのかと思ったが、近くまでいくと剣を振るっているような掛け声が聞こえてきたので、駆け足気味に訓練所まで行くと、そこにはイアンさんが一人で素振りをしていた。


 「おぉ、リックじゃないか! お前も汗流しに来たのか?」


 イアンさんはすぐに僕の視線に気付いて、振るう剣を止めて軽く手を振ってくれた。

 額からは爽やかな汗を流している。


 「いや、僕は騎士エリアを全部回ってなかったんで、散歩がてらに見学してて、今日ここに誰かいるかなぁ、って思って寄ってみただけです」


 「なんだ、そうだったのか。俺は休みの日はたまにここで稽古してるんだ」


 やっぱりイアンさんは真面目な人だな。

 こんな真面目な人がなんで二回も昇格試験落ちるんだ?


 「それなら僕も別にやる事ないですし、付き合いますよ」


 「それは助かる! 一人だと出来る事なんて限られてるからな。次は何としても合格したいしな。頑張らないと……親にも申し訳ないしな」


 いつも気さくなイアンさんな表情に影が落ちる。

 少し乱れた息を整える為に、大きく息を吸って、静かに肺に溜めた空気を出していった。


 「イアンさんの両親がどうしたんですか?」


 「なぁに。ウチはそんなに裕福じゃないからさ。俺が騎士になって楽にしてやりたいって言ったら、親が無理してお金を工面してくれて、ここへ入れたんだけど、二年も失敗してしまってさ……何やってんだろってな」


 僕の前で無理して明るく振る舞おうと笑顔を作るけど、その笑顔は悲しみに引きつっていた。

 イアンさん……めちゃくちゃ良い人じゃん!

 うん、そうだよ!

 ここへ来て九割女性の事しか考えてなかったけど、男の友情というのも大事だよな!

 女性では散々な想いを味わっているんだ。

 今からでも男の友情を目指していこう!


 「イアンさんなら、必ず立派な騎士になれますよ! こんな良い兄貴的存在のイアンさんを騎士にしない上の人がどうかしてるんです! 今年こそは頑張りましょう!」


 「リックに言われると何だか自信が湧いてくるな。何だかんだで、俺が騎士見習いになってから見てきた奴の中で、一番才能ありそうだからな。ちょっと嫉妬してんだぜ?」


 悪戯っぽく茶化すように、僕へと言葉を投げ掛けてくる。

 何だかハッキリと言ってくれるイアンさんと話していると、力を隠している事が申し訳なく思えてくる。

 別に誰かを見下す為に力を隠している訳じゃないけど、もしバレたらイアンさんはどう思うだろう……。

 この人に嫌われるのは、ちょっと悲しいな。

 それでも僕は、隠すしかない。


 「……僕なんて大した事ないですよ。それよりもイアンさん! 手合わせしましょう!」


 気持ちを切り替えて、木剣を取りに行きイアンさんの前へと向かい合う。


 「休日にこうやって誰かと手合わせするのは、訓練の時とは何か雰囲気違って、ちょっと恥ずかしいな」


 「あー、何か分かります」


 なんか背中辺りがむずむずして変な感じになる。

 なんで訓練時はならないのに、オフだとなるんだろうか?

 私服だからかな?


 「それじゃあ、行くぞ?」


 「はい、お願いします!」


 イアンさんはさすがに二年もここに居る事もあり、他の騎士見習いとはレベルが違う。

 技のキレ、パワー、スピード、の基本に加えて、フェイントやこっちの動きを読んだ防御も優れている。


 全てのステータスのバランスが取れている。

 これで魔法も平均以上に使えるのだから、本当に何故合格出来ないのか謎だ。


 僕とイアンさんだけの訓練所に木剣の交わりと僕らの掛け声が木霊する。

 地を踏み締め、砂埃が舞い上がり、激しい攻防により汗が飛び散り、地面へと染み込んでいく。


 イアンさんは瞳は明るく輝きを増して、楽しそうに生き生きとしている。

 普段休みの日は一人で稽古をしているんだろう。

 そんなイアンさんを見て、僕も楽しくなる。

 本気は出せないけど、幼い頃から父から剣を教わり、セルシウスに修行をつけてもらった僕は、友達と呼べる人間と研鑽し合うという事をやってこなかった。

 こんな青春も悪くない……むしろ良いくらいだ。


 「なぁ、リック」


 鍔迫り合いとなり、接近した僕の瞳を見ながら声を掛けてきた。


 「なんですか?」


 力比べをしているせいか、腹に力が入り声が少し潰れてしまう。


 「お前、良い奴だな」


 「……そんな事ないですよ」


 イアンさんは歯を全て見せ付けるような満面の笑顔でそう言ってくれた。

 だけど、僕はその言葉を受け止め切れなかった。


 「なんか色々遠慮してるみたいだけど、俺達友達だろ? 気にするな」


 「イアンさん……」


 「例え、今年も俺が合格出来なくて、リックが合格したとしても、俺は両手(もろて)を挙げて喜んで祝ってやるよ。こう見えて器はでかいんだ」


 「……また落ちる気なんですか?」


 「……この野郎!」


 イアンさんが力いっぱい押してきて、僕は後ろへと尻餅をついた。

 器大きいのではなかったのか?

 でも、イアンさんの言葉が嬉しくて、ちょっと泣きそうになったので、誤魔化してしまった。


 「次は必ず受かる!」


 木剣の切っ先を僕へ向けて宣言するように言った。

 その後、木剣を下げて、反対の手を差し出してくれた。


 「その時は僕も両手(もろて)を挙げて驚きますね」


 「喜べよ」


 そう言いながら、イアンさんの差し出してくれた手を掴んで起き上がり、身体についた砂を払い落とす。


 「なんだ声が聞こえると思ったら、お前達か」


 声の方向を向くとそこには、ダイン教官が立っていた。


 「休みの日に訓練しているとは、感心だな」


 「教官こそ、どうされたんですか?」


 「なぁに、城下町へ行こうとしたら、バチバチと音が聞こえてきたから、様子を見に来てみただけだ」


 ダイン教官は、僕達二人を交互に視線だけ動かして見る。

 そのまま黙って木剣を取りにいく。


 「ひょっとして、教官もお付き合いくださるんですか?」


 イアンさんが期待の眼差しをダイン教官へ向ける。


 「ん? まあな。ちょっとくらい良いだろう」


 軽くストレッチや素振りをしてウォームアップを始めるダイン教官。

 やる気は満々といったところだ。


 「ダイン教官が僕達の相手してくれるなんて、意外ですね」


 「はは、普段は平等を心掛けているからな。本当言うと俺は、こういう男くさい青春も好きだぞ?」


 その言葉に僕とイアンさんは目を丸くして、お互いに見合ってしまった。


 「全然、見えないですよ。なんか面倒な事とか嫌いそうですもん」


 「そんな風に思ってたのか?」


 「はい」


 ダイン教官は自身の人望の無さに落胆したみたいで、肩を落として溜め息をついた。


 「あのな。俺は元々騎士が性に合わなくて、この教官の役職に自分から推薦したんだ」


 「そうなんですか?」


 「あぁ、俺も騎士見習い出なんだがな。なんか身分とか関係なく頑張ってる奴ら見てるとさ。こお……なんていうか、どうにかしてやりたいってなるんだよな」


 ダイン教官は表情と身体で表現するように熱く語る。

 意外なダイン教官の一面を見てしまった。

 めちゃくちゃ僕らの事を想っててくれてたんだな。


 「だから、休みの日にこうやって頑張ってるお前達を見てるとさ。身体が疼いてきたって訳だ」


 なんか格好いいな。

 見返りとかそんなの無しで、仕事と関係ない時でもこうやって僕らの面倒を見てくれようとするなんてさ。


 「ま、お前達が嫌なら無理にとは言わないがな」


 腕を組んで閉じていた瞳を片方だけ開けて僕らを見てくる。

 僕とイアンの視線が再び合う。

 今度の視線は、さっきのとは違い期待の輝きを放っていた。


 「「お願いします!」」


 僕達は元気いっぱい返事をして、男同士の青春を繰り広げた。

いつもありがとうございます。

評価とブクマを戴ける度に興奮しております。

今後とも宜しくお願い致します。

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