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10.真・二人だけの秘密

 謎の天使に連れられて、城下町までやって来た。

 これこそ、デートだ! モテ期の到来に歓喜する!


 「ごめんなさい。こんな事に付き合わせちゃって」


 「ぜんっぜん! 良いんですよ。僕ごときなら幾らでも付き合わせて頂きますよ!」


 「うふふ、良かった」


 コロコロと笑うその姿を見ているだけで、全てが浄化されていくようだ、

 このチャンスを活かして、本当にお付き合いとか出来ないだろうか。

 せめて次回のデートくらいはこぎ着けたい。


 「ねぇ、お腹減ってません?」


 「言われてみれば……少し空いてますね」


 朝起きて散歩してから食堂へ向かおうと思っていたから、何も口にしていない。

 少し遠慮がちに言ったけど、かなりお腹は空いていた。


 「じゃあ、お食事にしましょうか」


 「良いですね! 何処で食べようか……あ…………」


 「どうかしましたか?」


 丸く銀色の瞳がキャップから覗かせて僕の様子を窺う。

 僕は無一文だ。

 食事なんて出来るはずがないじゃないか。

 せっかくのデートで、とんだ醜態を晒す羽目になるとは……。

 てか、それなら金輪際何かこういう事があってもお金が出せない……。

 自分の未来が急に暗く閉ざされていく。


 「申し訳ありません。今、持ち合わせが無くて……」


 今だけではないけど。


 「なんだ、そういう事でしたら、心配要りません」


 「いや、だけど、そういう訳には……」


 「では、付き合っていただくお礼……と言う事で如何ですか?」


 「そういう事でしたら、有り難くお受け致します」


 僕がその提案を承諾すると、嬉しそうに後ろで腕を組んで身体をくの字に曲げて、ありがとうございます、とお礼を言われた。

 お礼を言いたいのは僕の方なんだけどな。


 案内されたのは、少し外れにある小さな食堂だった。

 夫婦で経営しているのだろうか、四十後半くらいの男女が厨房とホールに分かれて働いている。

 天使さんには余り似合わない場所だけど、お忍びだから仕方ないか。


 「いらっしゃい! おや?」


 「また来ちゃいました。いつものをお願いします」


 「それは良いですけど……駄目ですよ。本当に皆心配してるんですだから」


 「ふふ、ごめんなさい」


 天使さんは全然反省していない様子で席へと座り、向かいに僕は座る。

 しかし、またって事は良く抜け出しているんだろうか?

 なかなかヤンチャな侍女だな。

 おばさんと仲良く話す所を見ると、地元なのかな?


 「そっちの子は、護衛?」


 「いいえ、違います。あ、そういえばお名前伺ってませんでしたよね?」


 「リックです。騎士見習いをやってます」


 「へぇ、あんた騎士見習いかい。頑張んなよ!」


 おばさんは力加減を知らないのか、バシバシと背中を笑いながら叩いてくる。

 僕になんか恨みでもあるのか?

 実はこのおばさんか黒幕なんじゃないか?

 

 「リック様は騎士見習い方だったのですね。私はエリシアと申します」


 「エリシアですか。可愛らしい名前ですね」


 「ふふ、ありがとう」


 「……あんた、田舎もんかい?」


 「え? 何ですか、急に?」


 「いや、だって……」


 「おば様! しぃー!」


 エリシアが急に人差し指を立てて口元へ持っていきポーズを取る。

 何なんだ一体……え、待てよ…………さっきの会話、王宮エリアの塀から降りてきた、可愛さと美しさを兼ね備え気品溢れる容姿……さては…………本物の女神様では?


 いや、まさかそんな女神様がここに居るなんてあり得ない。

 そんな非現実的な考えは止めておこう。


 「王女様ですか?」


 「あははははぁ…………そうです」


 なななな、何だと?

 じゃあ、僕は王女様を連れ出した事になってしまうのか?

 ヤバい……ヤバいぞ……只でさえ団長達から疑われているのに、王女様を連れ出したとなれば、僕の命が……。


 「あの、大丈夫ですよ? ちゃんと王宮へは帰りますし、リック様にご迷惑の掛かるような事はしませんので」


 「で、ですが、こんな状態が見付かれば、僕は言い逃れ出来ませんよ!」


 「……ごめんなさい。やっぱり迷惑……ですよね」


 エリシア様は瞳を潤ませて、上目遣いに悲しそうにする。

 そんな汐らしく言われてしまうと……許してしまいたくなる。

 あぁ、僕の命の安い事……。


 「いや、もう全然良いですよ。最後までお付き合いしますよ。ハハハ」


 「本当ですか?」


 「えぇ、過ぎた事は気にしないタイプなので」


 もうこうなればヤケだ!

 きっとエリシア様が庇ってくれるだろう。

 はぁ、でも王女様かぁ……せっかくのモテ期が、お付き合いすら出来ないではないか。


 「私、ずっと王宮の外へ出してもらえないので、退屈なんです」


 「それは王女様ですからね。無闇に外へ出られては、何かあれば大変です」


 「違うんです。一度もですよ? 他国との交流や行事の時も一切参加させてもらえないんです」


 「……王女様なのに?」


 「はい」


 不服そうに眉間に皺を寄せて怒っているみたいだけど、それでも可愛くて恐さを感じない。

 だけど、何でだろうな。

 王女様ならちゃんと他国と交流を深めておかないと、よくは分からないけど政治的にも駄目なんじゃないか?


 「ですから、こうしてたまに息抜きをしてます」


 「どれくらいの頻度ですか?」


 「それでも年に二回くらいですよ?」


 んー……それぐらいなら許せそうな微妙なラインだ。


 「じゃあ、その年に二回の内の一回に出会えた僕はラッキーですね」


 「私もラッキーです。リック様とこうしてお話が出来て」


 「お話なら幾らでも……って言っても僕も五年程、人里離れた場所で生きてきましたので、お話は上手い方じゃないんですけどね」


 僕はそんな自虐を言いながら頭を掻く。

 こんな時、エミリのあの誰とでも楽しく会話するスキルが羨ましくなる。


 「五年もどうされてたのですか?」


 「とても世話好きな仙人に育てられてました」


 「仙人ですか?」


 「はい」


 「それも冗談ですか?」


 「はい」


 「嘘ばっかりですね」


 「エリシア様こそ」


 「私は黙っていただけです」


 そう言ってエリシア様は笑う。

 本当に他愛のない会話だけど、何だか……ずっとこんな穏やかな会話が続けば良いのに……なんて思ってしまう。


 「はい。お待ちどうさま」


 おばさんは出来上がった料理を持ってきてくれた。

 ハンバーグにスパゲッティとサラダが添えてあり、スープとパンも別で付いている。

 王女様の食事とは思えない、お袋の味って感じの料理だ。

 いただきますをして、食事を進めていく。


 それを上品に小さな口へと運んで、本当に美味しそうに食べている。

 王女様は王女様で色々と悩みがあったり、自由が無かったりと大変なんだなぁ。


 「また……」


 「はい? どうしました?」


 「また、次回ラッキーが起こると良いなぁ、なんて思いました」


 「……それは冗談ですか?」


 「いいえ」


 「本当に?」


 「えぇ、エリシア様と話せるなら、今度は脱走のお手伝いまでしますよ」


 「本当に?」


 「それは……冗談です。僕も命が大事なので」


 「ふふ、嘘つき」


 か、可愛い『嘘つき』戴きました!

 悪戯っぽく微笑んで、その可愛い瞳でまっすぐ僕を貫き、小さな唇を尖らせながらの強烈な一撃を受けて悶絶しそうです!

 もうこの嘘つき一生洗わない!


 「ありがとうございます」


 「? 何故お礼を?」


 「いえ、何となくです」


 その後も他愛の無い会話をして、食事を終える。

 さすがに長い時間脱走する訳にもいかないので、エリシア様とそのままこっそりと騎士エリアの最初に出会った塀まで戻ってきた。

 どうやって戻るのかと見ていたら、近くの大きな木に登って塀に跳び移っていたんだ。

 なかなかアクティブなお姫様だな。

 塀の上に乗った状態のまま、エリシア様がこっちを見下ろしている。


 「リック様。本当に今日はありがとうございました。とても楽しかったです!」


 「いえ、こちらこそエリシア様と出会えて幸せ者です」


 「またラッキー起こしましょうね?」


 「えぇ、起こせるように日頃の行いを良くしていきます!」


 「この事は二人だけの秘密ですよ?」


 「はい、二人だけの秘密です」


 「ふふ、それではさようなら」


 「はい、さようなら」


 お互いに手を振って、エリシア様は塀の向こう側、王宮エリアへと消えていった。

 二人だけの秘密……か。

 なんだかむず痒くなる。これこそ本当の二人だけの秘密。

 決して恋愛にはならないけど、こういうのも悪くないよな。

本日ニ度目の投稿!

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