その二人、酷似につき
やあやあどうもこんにちは、語り部だよ。お久しぶり…ってほどでもないのかな、どうなんだろう。今度は神様が「ルーチェとファルルの二人組」を書けって言ったそうなんだ。つまり、賽子で二人を指す目が出たんだけど。その前にソラ嬢も出たらしいけど、筆者がソラばっか書くのもな…って思ったそうだから、彼女は脇役として出てくるよ。そして例によって例の如く、今回も僕は語り手じゃないよ。そろそろ本気で他の名前が欲しくなってきたね。今回は三人称の小説で、筆者はまだ色彩表現の練習中だから、色の表現がいっぱい出てくるよ。という訳で、時空魔法、スクロール!さあ、行ってらっしゃい。
初めのきっかけは、ソラの言葉だった。
「そういや、ルーチェとハルって似てるよなぁ。」
「え、そう?」
「ああ。中身はともかく、外見は。まあ、他の四人の色彩が違い過ぎるのもあるかも知れんけど。」
その場にいたルーチェとファルルは、顔を見合わせて首をかしげた。しかし、他の四人も意見は同じらしい。最初に口火を切ったのはクロスだ。
「まあ確かに、髪の色素薄めやしなぁ。いや、私もやけど。」
次に続けたのが、ウィンディとカーレス。
「髪の長さも同じ位やんな?」
「どっちも美人やしな!」
「いや君もな…目の色も似てるか。一応ルーチェはスカーレット、ハルは苺色に近いけど。どっちも赤系統やな。」
と、手元の本を覗きつつ最後にソラが言った。ルーチェとファルルは、もう一度顔を見合わせる。そう言われると、確かに似ているのかも知れない。少なくとも、この色とりどりの六人の中では外見が一番似ている二人であることは確かであった。いや、内面のみで言うならクロスとソラが一番似ていると思うが。それを口に出すとややこしくなりそうなので、ファルルはその言葉を飲み込んだ。主に「私ここまでイカれてない!」と叫び出すであろうソラの為である。
次のきっかけは、一通の手紙だった。サラチア国内の、五大公爵家には及ばずともそれなりに権力のある一家からのものである。内容は、「次に我が家が開くパーティーに、是非ルーチェ様もご臨席頂きたい」といったものだった。ルーチェは王女なので、こういった誘いも時折届くのだ。だが、その手紙の出処が問題だった。
「この家、最近怪しいねんよなー…」
とぼやいたのはルーチェである。それに、クロスが続ける。
「なんか、闇魔法でなんかしようとしてるっぽいって聞くな…それにルーチェが邪魔なんやろか?パーティーの日に城にいて欲しくない、みたいな。ほら、ルーチェ光属性やし。王も光属性やけど、ルーチェおらんだけでそれなりに変わるわ。」
ま、もしくはルーチェを暗殺したいんかも知れんけど。そんな物騒な言葉で、クロスは話をしめ括った。
「とはいえ、仮にクロスの言ってること…あ、先に言った方な?それが正しいんやったら、実行させて迎えうちたいけどなぁ。また違う手考えられたら面倒やし。」
こういうときのクロスの勘は当たるから、とウィンディ。しかしその意見に、
「でも、それやったらルーチェおらん状態でやらんとあかんやろ?それは嫌や!というか無理!」
と、カーレスが反論した。議論がそこで行き詰まる。すると、黙りこんで話を聞いていたソラが口を開いた。
「じゃ、ハルがパーティー行ったらええやろ。似てるし。」
「「「「あ、それええな。」」」」
ファルルを除いた全会一致で、そんな馬鹿げた案は可決されてしまった。しかし、それで一番困るのはファルルである。ファルルもパーティーは経験があるが、あれは物語にあるような優雅なものではない。嘘か真か、様々な情報が飛び交う戦場である。
「はぁ!?いやいやいや、無理やって!」
「いや、いけるいける。」
そう無責任にも言葉を続けるのはソラだ。そもそも、最初にパーティーを戦だと評したのはソラのはずだったが。
「二人とも体型似てるし、髪の色一日変えるくらい楽勝やし、目は覗きこまな違い分からへんし。大丈夫大丈夫。」
すると、ルーチェが奥から自分のロイヤルパープルのドレスを持ってきた。
「はい、ちょっとこれ着てみて?」
ロイヤルパープルは、権威、高貴を象徴する色だ。
「いや、こんな上等なん着られへんって!」
「ええからええから。」
そのままウォークインクローゼットに押し込まれてしまう。しぶしぶ袖を通すと、誂えたかのようにぴったりだった。これを見られたら、本当に断る理由が無くなる…!しかし無情にもクローゼットの扉は開かれる。ノックもせずに開けた無礼者はクロスだった。その横から、
「おー、ぴったりやん!」
とカーレスが叫ぶ。ファルルの逃げ場が消滅した瞬間であった。
以上、ファルルの現実逃避的回想である。今ファルルは、パーティーへ向かう馬車の中にいた。その後の下調べで、やはりパーティーは何かしらの陰謀であることが明らかになったからだ。招待客は無関係だが、パーティーが戦場であることには変わりない。ついでに陰謀まで付いてくるとなれば、もはや地獄である。あの日着せられたのと同じロイヤルパープルのドレスさえも少し恨めしかった。そして、横からそんなファルルの顔を覗きこんでいるのはソラだ。ソラは護衛として来ているのもあって、白い軍服に加え、腰のベルトに打刀を差している。いかにも戦う気満々です、と言わんばかりの格好だ。ソラにそれを指摘すると、
「パーティーは戦だから問題ない。」
と返された。その戦に無理矢理護衛として引っ張って来たことへの、彼女なりの意趣返しなのかも知れない。しかし思い返せば、ルーチェとファルルが似ているなんて言い出したのも、ファルルがパーティーに行けばいい、なんて言ったのもソラである。ファルルは決意した。もし上手くいかなかったら呪おう。藁人形と五寸釘で呪う、という文化があることはソラに以前教えてもらっていた。ソラは意図せず墓穴を掘ったのである。そんなことは露知らず、隣に座る彼女は
「変装してるからハルの顔いじれない…」
と不満げだ。ざまあみろ。
「ああ、でもそろそろルーチェって呼んどかんと間違えそうやな。」
「せやな。私はルーチェ、私はルーチェ…」
声を出すと、自分の喉からルーチェの声が聞こえてくる。なかなかに不思議な感じがする。このチョーカー型変声機は、クロスに貸してもらったものだ。何でも、某探偵の漫画から着想を得たらしい。見た目はただの綺麗なチョーカーである。暫くそうして役作りをしていると、ガタン、と音を立てて馬車が止まった。先に馬車から飛び降りたソラが、ファルル扮するルーチェに悪戯っぽく手を差し出す。
「では、お手をどうぞお嬢さ…失礼、お姫様。」
「…ありがとう。」
さあ、欲望渦巻くパーティーの始まりだ。
ところ変わって、サラチア城では。
「今頃ハル達何してるんやろ?」
「もう着いたんちゃう?クロス、連絡しよ、連絡!」
「連絡は緊急時以外無しやろ、カーレス。落ち着き。」
「まあ、多分緊急事態にはなりそうやけどな。」
「あ、おかえりウィンディ。」
ルーチェはハル達のことを考えていたが、ウィンディが帰ってきたため意識をこちらに戻した。ウィンディは偵察に行ってくれていたのだ。
「城から南東方向に敵部隊発見。なんかでっかい魔方陣書いてるで。多分闇魔法で間違いないわ。」
「成る程。」
「つまり!」
「私の出番やな。」
そう言って、ルーチェは杖を取った。部屋にいた他の三人も、それぞれ武器を取っている。ルーチェは皆にぐるりと視線をやって、頷いた。
「では、第二部隊!出撃します!」
「「「了解!」」」
パーティーで談笑(という名の腹の探り合いを)していたファルルは、耳元のイヤリング型通信機に着信したことに気づいた。この機械も、某探偵漫画からのアイデアらしい。さりげなく壁際により、イヤリングの位置を直すふりをして受信ボタンを押す。そこにソラを呼び、会話しているように見せかければカモフラージュは完璧だ。
「はい、こちらクロス。第二部隊あと5分後くらいに襲撃かけます、どうぞ」
「こちらハル。第一部隊了解しました、どうぞ」
「では健闘を祈ります」
ブツ、と音を立てて通信が切れた。ソラとアイコンタクトをとり、風に当たるふりをして外へ出る。外は拓けた庭園になっており、その向こう、城方面へは林が広がっていた。ファルルとソラは暫しその場に立って庭園の花を眺めようとしたが、暗くてよく見えない。すると、そこへ声をかけるものがあった。
「ルーチェ姫様、暗闇で何も見えませんでしょう。光魔法を使われてはいかがですか?」
声をかけてきたのは主催者だった。逆光で表情はよく見えないが、それでもにやにやと笑っているのが分かった。
「…ええ、そうですわね。」
そう言ってファルルは右手を挙げて手のひらを上に向け…そこに炎を作り出した。そのタイミングに合わせ、ファルルの左側に立つソラはファルルの対称となるかのように左手を挙げ、水球を作り出す。二人の顔がゆらゆらと揺らめく炎に照らされ、水面に映っている。主催者は驚愕と恐怖に顔を青褪めさせながら、それでも強気に言った。
「お前がルーチェでないとしても同じだ!生きて帰れると思うなよ…!林には伏兵を潜ませてある!」
「そうですか。情報提供、ありがとうございます。」
ファルルは変声機のスイッチを切ってそう言うと、レティシアが持ってきたレイピアで峰打ちにして主催者を気絶させた。
…さて。馬車は人質に取られないよう帰してしまったので、確かに帰るには林を通らねばならないが。ここでファルルとソラの使い魔を思い出してほしい。梟と白いるかである。梟は夜目が利き、白いるかは超音波で物の位置を把握できる。つまるところ。この二匹、夜間偵察ガチ勢であった。二人は使い魔の先導で戦闘することなく城へ帰還した。夜が明けるまで待機していた伏兵の皆様は誠にお疲れ様である。
時は二人が帰還する少し前。クロスのイヤリング型通信機に、ファルルから着信があった。すぐさまそれを受信する。
「こちらハル。第一部隊主催者捕縛しました、どうぞ。」
「こちらクロス。第二部隊あと十秒後に襲撃します、どうぞ。」
「そっちに集中して!?」
驚いたファルルの声と共に、通信が切れた。4,3,2,1…ゼロ。
クロスがゼロを数えたのと同時に、ルーチェが最大出力の光魔法を放つ。魔方陣はぱりん、と音を立てて消滅した。
「何故ここにルーチェが…!」
「分からん!撤退だ、逃げるぞ!」
蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた兵士の前に、突如竜巻が出現する。何人かが巻き込まれ、ウィンディによって気絶させられた。ならばと方向転換した兵士の前では、地割れが発生する。勿論カーレスの仕業だ。そして二人の魔法によって閉じ込められた兵士を捕縛するのがクロスの役目だが、兵士達が逃げ回るので上手く行かない。早く捕まえないと、彼ら自身の魔法で外へ逃げかねない。そこで、一計を案じたルーチェがウィンディに声をかけた。
「ウィンディ!ちょっと私浮かせて、真ん中上空に持っていってくれん?」
「分かった!」
ルーチェは微かに発光しながら戦場の上空へ向かう。気づいた敵が矢を射るが、それらはカーレスに弓で撃ち落とされた。そして敵の注目がルーチェに集まり、ウィンディ達三人が意図を察して目を覆ったのと同時に、ルーチェはいきなり強く発光した。さながら人間閃光弾である。敵が目を覆って蹲ったのを機に、クロスは手早く影を操り全員を拘束した。今の発光で、影の面積も一瞬増えていたのだ。そうして立っている者が四人となった戦場で、彼女らはハイタッチした。東からは輝かしい朝日が昇っていた。朝日はルーチェ達四人と死屍累々の兵士達、ファルルとソラ、それに林の中の疲れきった伏兵を等しく照らしていた。