4.仲間
前回最後に出てきた新キャラ目線で始まってます、ご注意ください!
「はぁっ!!」
俺は競り合っていた剣を弾き飛ばし、魔兵の首へ剣を突き刺した。グサッという音と共に魔兵は黒い霧となって消える。剣を露払いの如く左右に振り払い、腰に下げてある鞘へ戻す。カチンと音が鳴ったところで、後ろにいる女の子へ振り返る。女の子が戦っていた魔兵二体も既に霧散していた。
「大丈夫?怪我はない?」
「あ、…はい。大丈夫です。助けて頂いて、ありがとうございました!」
そう行ってお辞儀をすると、彼女の頭の後ろで一つに結われたポニーテールが、はらりと下に流れた。頭を上げた彼女をよく見ると、橙色の髪にサファイアの様な真っ青な眼で、可愛いなと素直に思った。
「いや、あの魔兵、実は俺たちが引き付けてたヤツなんだよ。寧ろ俺が謝らないといけないっていうか…、一人みたいだし怪我がなくて良かったよ」
見た感じは俺と同年代、さっき魔法を使ってたから魔導師か。後衛の魔導師が一人で何でこんな人気のない場所に…。パーティーメンバーは何処に行ったんだ?もしかして…ソロなのか?
「あ!右頬、血が出てますよ!」
「あぁ、これはさっき魔兵と戦ってる時にちょっとな」
ここに来るまでに切りあってた魔兵にやられた傷か。浅い切り傷だし、すぐに治ると思う。
「ちょっと待ってください…治癒魔法をかけますから」
そう言って彼女は、片手で持つ杖を俺の頬へと突きつけた。瞬間、暖かい魔力を感じ、痛みが引いていった。
「どうですか? 簡単な魔法なんで、痕は残っちゃいますが」
自分の手で頬を触ると、血は止まっており、さっきまで感じていた鋭い痛みもなかった。あれ、これ傷口も消えてない?何処が簡単な魔法なんだ…。だったらこの子、結構凄腕な魔導師なんじゃないか?
「シオン!そっち片付いた?倒れてる人を救護テントに運ぶから肩貸して!」
ガサガサと茂みを掻き分けて二人のいる場所へ来たのは一人の少女。俺のパーティーメンバー。そうだったそうだった、俺らは倒れた人を介抱して運んでたんだったか。
「セレナ!この子治癒魔法が使えるんだぜ!手伝ってもらおう!」
治癒魔法が使えるなんて大助かりじゃないかと、思わず彼女の手を取ってセレナの下へ歩いていく。早足になってしまうのも仕方がない。さっきチラって見えたけど、強力な攻撃魔法も使ってたし、更に治癒魔法も使える人なんて中々いない。もしソロなら俺らのパーティーに入って欲しいぐらいだ。
「自己紹介がまだだったな、俺はシオン。こっちの勝ち気な人がセレナ。もう一人いるんだけど、多分救護テントの方に行ってるな。君は?」
「えぇーっと、アリシア・シャ……アリシアです。そして、そろそろ手を放して欲しいです」
「あぁー、ごめんごめん。ところでさ、アリシアはパーティーに入ってる?それともソロ?」
「ソロですね、何処かのパーティーに入りたいなぁとは思ってるんですが」
冒険者になってまだ数ヶ月なので、と恥ずかしそうにアリシアは笑う。ソロなのか…なら、
「ならさ、俺らのパーティーに入らない?」
□■□■□
「はぁ~~、前線キツイ、疲れた、眠い」
「テオさん、こんな所で寝ちゃ駄目ですよ!起きてください!ほら!」
「アリシア、そういう時はね……こーやって耳を引っ張れば一発よ!!」
「痛い痛い!起きてるって!!起きるって!!」
最前線での騒動が一段落つき、怪我人や冒険者達が近場の組合所へと戻って来れたのは日が暮れてきた頃だった。医院へ送られる者、それに付き添う者、ギルドで打ち上げと称して飲んだくれている人、噂を聞いて駆けつけた者と、珍しくギルドが人で溢れている中、シオンとそのパーティーメンバーであるセレナ、テオ、そしてアリシアは、魔兵襲撃の応援に行った報酬を貰い、四人でそれぞれの宿、家へと戻っていた。
「それにしても、今日はアリシアが居てくれて助かっちゃった!怪我の手当て上手かったよね、僧侶とかの回復役やってたの?」
呼び捨てで私のことを呼ぶこの人はセレナ。シオンのパーティーメンバーで、僧侶をやっている。攻撃魔法がメインな魔導師と違って、僧侶は怪我を治す治癒魔法はもちろん、体力、魔力を回復させる回復魔法、また防御力アップや攻撃力アップなどの支援魔法に長けた役職である。明るい茶髪を緩めにサイドで結っており、少しつり気味な黄色の目には、シオンの言う通り勝ち気な印象がある。
「ううん、ただ周りに怪我する人が多くて。自然と慣れちゃった感じかな」
喧嘩ばかりしていた、村にいる兄姉の事を思い出す。二人とも強いから、暴力で喧嘩してた時はそれはそれは大変だったなー。怪我だけならいいんだけど、色んな物を壊すんだよあの二人は。あれは大変だった。うん、大変だったんだよ。
「お陰で早く帰れたけどなー」
冗談めかしに笑いかけてくるテオさん。シオンのパーティーメンバーの最後の一人。シオンやセレナより二つ上で、マイペースな人。さっきから眠いのか、欠伸を繰り返している。パーティーでは盾役らしい。確かにシオンと比べると、背が高くて、体つきががっしりしているというか、男らしい体格だなとは思う。クセのない黒い短髪も相まって、これぞ好青年、という感じ。
「じゃあ二人とも、アリシアがパーティーに入ることに異論はないよな?」
ハネのある緋色が目の前で揺れる。私をパーティーに誘った張本人であるシオン。危ないところを助けて貰った上に、パーティーにまで誘ってくれるなんて…チャラそうだなって思ってごめんね…。人懐っこい顔にそこそこ整った顔立ちだったんで、第一印象は完全にチャラ男でした。はい。緋色の髪に緋色の目で、クラウスと同じ色だからって動揺してました。久しぶりに見る色だったから目が離せなかったというか何というか…言い訳が止まらない。
シオンに誘われてから、怪我人の介抱や運搬など、なんやかんやで三人と一緒にいたけど、正式な返事はまだしてなかった事に気付く。個人的には凄く仲間に入れてほしい。セレナは優しくて色んな事教えてくれたし、テオさんは気配りが上手で気さくな人、シオンに至っては命の恩人レベル。拒否されても、某温泉宿に神隠しされた子の様に「ここで戦わせてください!」と叫ぶぞ、私は。
そんな私の思いを知ってか知らずか
「もちろんよ、女子が増えて嬉しい!」
とセレナ。
「そうだな、後衛の人がちょうど欲しかったし」
とテオさん。
良いんですか…!! これは、素直に嬉しい。思いが通じたようで、思わずガッツポーズを構えてしまう。きっと今の私の目はキラキラと輝いているだろう。
「アリシア!」
シオンが私を呼ぶ。何故か私より嬉しそうな顔をしてる。こちらとしては、感謝してもしきれない程の恩人になってしまった。これはもう足を向けて寝られないや。
「俺達のパーティーに、入ってくれる?」
そうシオンは私に手を差し出す。夕焼けの緋色がシオンの髪の緋色を照らし、眩しい。
「喜んで!」
魔王の為にパーティーに入るつもりだったけど、今はそれ以上に、皆のパーティーに入りたい。この人達と仲間になりたい。そんな意も込めてシオンの手を握る。
「宜しく、アリシア」
ニカッと歯を見せて笑うシオンは、優しく手を握り返してくれる。負けじと私もとびきりの笑顔で返す。
「こちらこそ!」
やっと登場できました!!