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魔王討伐始めました  作者: 夏山繁樹
始まり
3/11

3.出会い

「お嬢ちゃん!回復こっちにも頼む!」


「はい!今すぐ!」


「誰か!魔力回復のポーション持ってない!?」


「敵が多すぎる!一時退避!少し下がれ!!」


「でかい魔兵が出たぞ!援護はまだか!?」


 騒がしくなる前線、湧き続ける魔兵、更にはボスレベルの魔兵までやたらと出てくる始末。魔王の城へと続く、正真正銘の最前線で、アリシアは杖を片手に、一つに結い上げた橙色のポニーテールを揺らしながら走り回っていた。

 怪我人に治癒魔法をかけては別の怪我人の下へと走り、治癒魔法で傷を癒す。魔兵がアリシアのいる後衛まで侵入してきた時は、他の魔導師と共に倒していく。自分の魔力が残り少なくなってきた事を感じ、ポーションの残り本数を思い出しながらも怪我人の所へ走る足は止めない。



 アリシアが何故、前線へ赴き援護をしているか、全ては数十分前に遡る。


□■□■□


 アリシアが受けた依頼は案外楽に終わった。低ランクの魔物という事もあり、ハッデルの村に出現する魔物よりは少し強い程度だった。

 指定された魔物はあらかた倒し、討伐完了の証であり、状態が良ければ売ることのできる、角や毛皮などを集める戦後処理をしていた所だった。

 ガサガサッと奥の茂みが揺れた。魔物がまだいたのか、とアリシアはすぐに杖を構えた。

 しかし茂みから飛び出てきたのは、切り傷が多い軽傷を負った男性冒険者だった。茶色の髪で、見たところ20代前半だろうか、腰に下げた剣の鞘や服は、土や血で汚れている。前線付近で、しかも最前線の方向から現れたということは相当手練れな冒険者なのだろう。焦った表情で急いで茂みを飛び越えてきた様子は、ただ事とは思えない。

 前線で何が、何故一人なのか…とアリシアが男性を観察していたら___その男性と目が合った。


 男性は私と私の手にある杖を見た後、目を見張り、走ってこちらまでやって来た。


「君ッ!冒険者だよね!?頼む!助けてくれないか!?」


 ガシッと効果音が付きそうな勢いで、彼は両手で私の両手を杖ごと握りしめた。


「見たところ、ここまでソロで来れる腕前のようだし、今、向こうでは回復役が足りてないんだ!頼む!応援に行ってくれないか!?」


 彼の必死な勢いに圧倒されながらも、話を聞いていくと、彼が何故ここまで必死なのか、そして彼が何故一人でここまで来たのか、それはとても容易い問題だった。


 一、二時間前、彼が属するパーティーは、他の二つのパーティーと合同で最前線に出ていた。最近押され気味だった前線を押し返すためだ。最前線で戦うパーティーなだけあって、序盤からこちらが優勢だった。

 しかし、ほんの数十分前、突然大量の魔兵が出現した。そこには魔兵の中でも段違いに強くて硬い、中ボスレベルの魔兵まで現れた。突然の魔兵乱入だったが、そこはベテランな冒険者である、元々の討伐対象だった魔物は既に壊滅状態だったため、次々と魔兵を蹴散らしていった。

 増え続ける魔兵、ひたすら倒していく冒険者、持久戦になるなと誰もが覚悟したその時、後衛からの援護が途切れた。魔導師の攻撃だけではない、僧侶からの癒しも途切れたのだ。

 何事かと、前衛の冒険者が後衛に目を向ければ、そこには中ボスなんてレベルじゃない、確実にボスレベルの巨大な魔兵がいた。接近戦に不慣れな魔導師や、戦闘力が低い僧侶は逃げ回り、冒険者達の態勢が崩れるのにそう時間はかからなかった。

 これは不味い、応援を呼びに行け、とその場で一番足の速い人物を逃がした。

 それが目の前の彼、という訳だ。


「分かりました。貴方は早く応援を!」


「すまない…助かる!」


 即決だった。アリシアは彼の言葉を最後まで聞かずに走り出した。彼が走り込んで来た方角へ、茂みを飛び越えると獣道に入った。恐らくこの先だろう。

 アリシアが冒険者になった理由は、もちろんクラウスを探すためでもあるが、もう一つある。あの日、村を襲い、クラウスを拐った魔王軍へ復讐をするためだ。木箱の中での恐怖と孤独は、この先一生忘れられないし忘れない。

 だからこそ、前線の様子を聞いた途端に走り出していた。何のために力を付けてきたのか、何のために冒険者になったのか。最前線で動けるほど、自分が強いとは思っていないが、魔法で支援するだけなら出来るだろう。

 枯れ枝ごと地面を蹴る、枝が髪や靴に引っ掛かるが気にしていられない。ふと、応援を呼びに来た彼の顔が思い浮かぶ。焦って緊迫した表情だったが、彼の目からは仲間を死なせたくない、必ず応援を呼んで戻る、という強い意思が感じられた。どこか懐かしい、凛とした瞳だった。


 初対面の彼に、クラウスを重ねちゃうなんて…よっぽど魔王の情報が嬉しかったんだなぁ、私。本当にクラウスが魔王だったらどうしよう。一昔前の魔道具みたいに叩いて直ったりしないかなぁ。


 ようやく獣道を抜けると、混沌とした戦場が目に入った。前線後衛どころじゃない。全てが戦場。傷付いて倒れた人があちこちにいる。剣の切り合う音が四方から聞こえる。アリシアが片手で数えられる程度しか倒せなかった魔兵があちこちにいる。


 これはまたヤバい戦場に応援に来ちゃったな…。


 近くで重傷者の手当てをしている僧侶に応援に来たと声を掛け、手当てを手伝う。応急措置だけでも済ませると、他の所へも行ってくれと、少し遠くに集められた怪我人の事を教えられる。

 杖を握りしめ、その怪我人らへと走る。治癒魔法で止血をし、布や包帯で応急手当てをしていく。他に怪我人が集められている場所を教えてもらい、また走る。


 そうして現在に至る。



□■□■□



「動かないで!今、治癒魔法をかけますから!」


 集められた怪我人らの下へは大体回り終え、今はあちこちで倒れている人を、急ごしらえの救護テントへ運んでいる最中だった。


 アリシアは二人倒れているのを見つけ、重傷者の方に治癒魔法をかけていた。意識はあるようだが傷は深い。アリシアの魔法にも限度がある。早く救護テントへ連れて行かねば…という時だった。

 アリシアは素早く、杖を目の前の冒険者とは別方向に向け、光魔法を放った。光魔法の中でも衝撃波を放つ初歩的なもので、威力はそこそこだが溜めなしにすぐ撃てるのがメリットなモノである。

 魔法を撃った後でアリシアが振り返れば、そこには予想通り魔兵がいた。しかも三体。


 怪我人二人を庇いながら戦うのはキツイな…。剣を使っても飛ばされて二人の所へいったら危ないし…。どうにか自分に引き付けてこの場から離れないと…。


 光魔法を使い、魔兵の側で光をパンパンと弾かせる。私に注意を向けさせ、ゆっくり人気のない方へ移動する。怪我人の二人は応急措置だけだが終わらせている。誰かが気付いて運んでくれるだろう。いい感じに人気がなく開けた場所に着いたことを目の端で確認し、挑発に見せかけた光をバン!と爆発させる。間髪入れずにバン!バン!と爆発を続ける。前線の魔兵と言えどもダメージは受けるはずだ。そして爆発の煙が目眩ましになっている今の内に…!

 杖から短剣に持ち替え、一番近くの魔兵へと切りかかる。ザシュっと急所を突けたこともあり、一太刀で倒せた。魔兵が一体倒れ、その亡骸は黒い霧となって霧散する。まずは一体!

 一旦飛び退き、詠唱を始める。お姉様に鍛えられた高速詠唱を舐めるなよ!詠唱が終わると同時に、二体の足下に白い光を放つ魔法陣が現れる。瞬間、魔法陣から生成された無数の光線が、魔兵らを下から上へと貫いた。爆発の煙で立ち止まっていた二体に直撃だ。高威力の光魔法であり、私の得意技である。

 しかし、流石前線の魔兵と言うべきか、しぶとい。魔法陣からの光線が途切れないように、杖を握りしめ魔力を送り続ける。額を静かに汗が流れる。



 慣れない前線、手強い魔兵、残り少ない魔力、アリシアの注意を削ぐには充分な状況だった。




 気がついた時には、剣を振りかぶった魔兵が既に背後にいた。



 ___間に合わないッ…!




 それはほんの一瞬の事で、短剣に持ち替えるなんてのはもちろん、目を瞑る事さえ出来なかった。



 そしてアリシアと魔兵の間に誰かが割り込み、キィィンと金属のぶつかる音が響いたのも一瞬の出来事だった。


 目に映った人物は、小柄だがしっかりとした体つきで、魔兵の剣を自身の剣で受け止めた背中は逞しく、背中を見せているため顔は見えないが、アリシアより頭一つ高い所で“緋色”の髪を揺らしていた。


 懐かしいその色に、アリシアは目を奪われた。

“愉快な仲間達”次回全員登場します!

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