第4話 魔力解放
「ヨウ、さん……」
「んー?」
「何だか、すっごく疲れてきた」
かけるはずっと体中から溢れた魔力を少しづつ外に漏らし続け、加えて1箇所に魔力を集め具現化させ続けている。限界を感じたヨウは、かけるの背中をすっと撫でると全ての魔力が1度にかけるの体の中に収まっていく。
「おえっ」
「おいおい、我慢しろよ~? 今の吐き気は魔力がお前の体と同調しようとしていて、体が拒否反応を起こしてるからだ。まだ馴染みきってない所で魔力を吐いたらお前2度と魔法が使えなくなるぞ? そのうち慣れるから我慢だっ、かける~」
「頑張ってくだせえ、かける殿!」
どこからかぱるちは日の丸のついた扇子を取り出して、二本足で頑張れとかけるを応援する。ヨウもそんなぱるちを見て、辛いかけるを煽るように笑いながら応援する。
「ふ、ふはっ、がんばれー、かける~」
「フレー、フレー!かける殿っ!」
(……くそ、ただの吐き気なんてものじゃないぞ、これ。体中、中から殴られてる様な痛さに加えて吐き気もあって苦しい……。)
喉元を抑え、必死に中身が出ない様に耐えるかける。苦しさゆえか、涙が出るも汗と混じって流れ落ちていく。
「こいつの魔力は一級品だからな、そりゃ苦しさも同等だろうよ」
一瞬、ヨウが同情の視線と共に呟いたその一言。風と共に流れていき、気づいた者、聞くものは誰一人として居なかった。
「うぁ、ぐっ……」
「かける殿~! 気をしっかりもってくだせえ!」
ぱるちが、未だ苦しさに踠くかけるの元に駆け寄り、ハンカチで顔を拭いてあげる。一生懸命拭ってる中、ヨウは水辺に向かい水を汲んでいた。
「……っ、はあ。大分楽になってきたかも……ありがとう、ぱるち君」
「いえいえー」
未だ痛みは消えないのか苦悶の表情ではあるが、喉元を抑えていた手はゆっくりとぱるちを撫で始める。
「ぱるち~、避けろよ」
「はい?」
「……えっ?」
――ビシャア
「うわ、冷たっ!」
「ひゃい~」
一瞬の出来事だった。ヨウは先ほど汲んできたバケツの中の水を、かける目掛けて放ったのだ。当然、ぱるちもそれに反応できず、かける諸共ずぶ濡れになってしまった。
「あっはは、ダセェ」
大笑いをしているヨウをびっくりした表情で見つめるかけるとぱるち。何をされたのか、改めて理解した時には怒りがこみ上げてくる。
「ちょ、何するんだよ!」
「んー? 苦しそうなかける君にプレゼント」
「ふざける、な……?」
かけるはヨウに殴りかかろうと飛び起きた時に、異変に気付く。簡単に、起きれた事に。先ほどまでの、痛みが全く無いのである。
「どうだ? 楽になっただろ?」
「何で……」
「御館様~、あっしにも掛けるのは酷いですよ~」
ぱるちが側でふるふると水を飛ばしてるのを横目に、かけるは両手から自分の体へと視線を落とし、確認していく。どこも痛みはなく、それでいて常に力が込み上げてくるような感覚にかけるは察した。
「これが、魔力をもった状態……?」
「そうだ。だが、気をつけろよ?魔力が体に馴染んだって事は、それはもう生命力と直結している。魔力を切らせばお前は死ぬからな。」
ヨウの真面目な目を見て、かけるはごくりと生唾を飲む。
「そして魔力を無事手に入れたかける君に、ヨウさんから素敵なプレゼント~!」
ぱちん、と指を鳴らしたと思えば、そこは先ほど歩いた住宅地で、目の前にはアパートの様な建物が立っている。
「え!? なんだこれ!?」
「さっきまでの草原、実は俺が作った立体的な幻だったんだよ」
ふふんと自慢げに話すヨウの指には鍵がくるくると回されている。それがツルッと飛んだと思えば、かけるの手の元へ飛んでき、慌ててキャッチする。
「お前のへや、203だから」
「いやいやちょっと待って、色々突然過ぎて頭が追いつかないんだけど!」
「こんな事良くある事だぞ~? 妖怪は人間ほどゆっくりまったりしてねえから」
「どういう事っ!?」
ヨウは、既に後ろ姿を見せていて帰る様子だ。
「家具とか適当にあるしとりあえず今日は風呂入って寝とけ。ゆっくり休んだら明日はヨウさん直々の戦闘訓練だからな」
左手をひらひらさせてどっかに消えていく。ぱるちはかけるの足元に居て、そのままかけるを見上げていた。
「ぱるち君はどうするの?」
「暫くはかける殿のお側にいます! 何かあった時困りやすからね~」
後ろ足で猫が良くやるような、頭を搔く仕草をするぱるち。魔法が使えて、喋るけれど根本的に普通の狐そのものの様だ。
「とりあえず、部屋に入ろっか」
目の前のアパートに足を踏み入れ、2階にあがる。手前から"102"と書いてあるが、ここの大陸は逆から読むのだろう、多少の混乱はあるが迷いなく"103"の札の部屋に入るかけるとぱるち。
鍵をあけ、ドア開けば玄関から三つのドアが見える。手前左手にあるドアを開ければそこはトイレだった。きちんと閉めてから、逆手の右側にあるドアを開けると洗濯機、洗面所が置いてありその奥にはバスルーム。そして最後の玄関から真っ直ぐ進んだ所にドアがあり、そこを開けるとそこにはワンルームが広がっている。12畳ほどのフローリングで、入って左手にキッチンがあり右手にはタンスやクローゼットが置いてある。
「これ……、普通に俺が住んでた世界と同じ家じゃん」
「御館様が、人間様に作ったアパートでっせ! そちらの世界の建物をまんま真似して作ったそうです」
「え、俺以外にも人間がいるの?」
「……昔、いやしたが今はかける殿だけでっせ! キッチンなんかは昔の人が使ってやしたが、ちゃんと手入れはしてありますし、家具は新しく買ったものばかりなので心配せず使ってくだせえ」
「うん」
奥にはカーテンが敷かれているが大きな窓があり、そこからベランダに出れるようになっている。窓の半分側にベットが置いてあるが、とても一人では広いダブルベッドの様だ。シーツや枕は引いてなく、袋入りの買ったばかりのものが、ベットの上に置いてあった。
「自分でやれってか」
「かける殿~、お風呂沸かしておきやした! 入りやしょ、そのまんまじゃ風邪引いてしまいます~」
ぱるちが手際よくお風呂を沸かしてタンスから新品の衣服とタオルを用意する。どうやらこの家には慣れている様で、てきぱきと動いていた。
「かける殿がお風呂入ってる間、あっしがご飯作っておくのでどうぞごゆっくりと入って来てくだせえ」
自分の膝くらいしか無い小さい狐が笑顔で人間が使う用の大きなタオルなどを背中に乗せて渡してくれる。
「そう言えばぱるち君も濡れてなかった? 一緒に入ろうよ」
「いえ、あっしはもう済んだので大丈夫でっせ! お気遣いありがとうございやす!」
かけるはぱるちの言葉に頷き、お風呂へ移動する。服を脱ぎ丁度横にある洗濯機のスイッチを押し服を入れる。洗濯機の下に洗剤が置いてあったので使用方法を読み、その通りに洗剤を入れて洗濯機を回す。
「何から何まで、準備いいな……」
その後かけるは体を洗い、湯船に浸かる。お湯の温度はちょうど良く、リラックス出来たのか今日1日の事を思い出しながら体を動かし骨を鳴らす。
(今もまだ力が込み上げてくる……。魔力を手に入れたって夢じゃないんだな。そういてばぱるちってあんなに小さいのに何でも出来るよな。子供みたいな声だからか子供っぽく見てしまうけど、性格は割としっかりしてて、小さいのに良く出来る。メンタルはちょっと弱そうだけど)
今、ぱるちはご飯を作ってくれているはずで、どうやって作っているか想像してかけるは笑う。
(小さい狐用のフライパンとかで作ってくれてるのかな、凄い可愛い! あの可愛さで魔法も強かったしぱるちってスペック高いよな。そんなぱるちが慕って忠誠してるヨウさんも、なかなか。身長も俺と10cmくらい離れてるから180くらいあるのか、髪の毛長い癖にイケメンだしあの男子大学生みたいなノリといい何かモテそうだな、腹立つ)
今までぱるちを想像しては癒されていたが、ヨウを思い出したかけるは少しイラつき顔にお湯をかけて風呂をあがる。
「ふう……、ぱるち君~、いいお湯加減でした!」
髪の毛をタオルで拭きながらリビングに向かうと、そこには何処から出したのか、先程にはなかった机と椅子が置いてあり、机の上には料理が並んでいた。
「うわっ、すごい!」
「あ、かける殿! お口に合うか分かりやせんが、そちらの世界の食べ物を作ってみやしたーどうぞ、どうぞ」
ぱるちがかけるの足元まで向かい、近くの席に座るよう足を押す。かけるはされる通りに席に座り、目の前に広がる美味しそうな料理を見てお腹を鳴らす。ご飯はもちろん味噌汁、そして野菜炒めに鮭と和食が並んでいる。
「さあ、食べてくだせえー!」
「いただきます」
異世界に来たというのに、自分がいた世界と同じ食べ物が食べられるという事に幸せを感じる。味付けが、かける好みに作られた晩御飯を残さず食べ終え、ぱるちにとても美味しかった事を使えると、いろんな事があり疲れたかけるはそのまま就寝した。




