第1話 更波駅
とある高校で、こんな噂が広まっていた。
<更波駅>誰も知らない、誰も止まったことがない駅で、とある人はそこに行き着き化物を見た、と。
そんな噂を聞いた1人の高校生、七種かけるは何故こうも自分が通う高校は噂好きなのかとため息をつく。
前にも近場で神がいた、縁結びの神だとか在り来りな噂が広まり成功も失敗も良くあった。そんなこんなでかけるはこの高校で噂される話を信じる訳もなく、帰りの支度を始める。
だが噂好きの生徒が多い事もあり、放課後には沢山の生徒が集まってその噂について話し合っている。その中でもかけるがいるクラスの中の一番のお調子者が大声で話し始めた。
「なんか隣のクラスの奴がさ、終点白戸駅行きの電車に乗ったのに最後違う駅に止まったらしいんだよ。不思議に思って降りてみたら更波駅って場所なんだと! そこに人は誰一人居なくて暗いし直ぐ電車に戻ったんだけど、その時……! 手から火の玉を浮かせて笑う鬼を見たんだってよ! そいつの話してる時の顔も青ざめててリアルだったんだよなー、本当にあるぜ更波駅!」
「マジ? ヤバくない?」
白戸駅……そこはかけるの家の最寄り駅だった。つまり今回の噂の舞台はどうやら帰り道に必ず使う電車でかけるも関係してしまうらしい。噂を信じる訳では無いが周りは信じてるクラスメイトも多数いて、主に女子は怖がっていた。
そんな話を耳に入れながらも帰り支度は終わっていたかけるは駅へと向かう。
(きっとそいつは寝ぼけてたんだろ。疲れてて終点まで乗っていたら眠くもなるしね。夢と現実が曖昧になったに違いない)
かけるも度々終点まで寝ている事があり、たまにその時の夢が現実と曖昧になっていた事もある。だからか特に気にすることもなく、いつも通り白戸駅行きの電車に乗る。
「今日はやけに乗客が少ないな……?」
少ない、というかかけるが乗っている車両には誰一人として居なかった。周りを見渡すが、少なくともかけるが乗ってる車両からほかの車両へは誰も乗っている人を見かけない。
「まぁ、普段の鬱憤やら独り言やら言っても気にする人が居なくて楽だな! それに、こういう日もあるだろ。今日は貸し切り気分で座席に荷物もおけるわー」
特に気にすることも無く、この状況を楽しむ様に座るかける。
元々かけるはイケメンと言われる様な顔立ちはしていなく、平凡。強いて言うなら声がカッコイイと人生に数度褒められた事があるくらい。褒められる事に恥ずかしかった当時、思春期のかけるはあまり話さない様に務めた結果、クラスでは第一印象は根暗とまで言われている。だが、接してみれば良い奴だの面白い奴だの言われているから性格的には明るい方でノリもいい。そして今、周りに誰もいないこの状況はふざけたりできる一番かけるらしい状態でいられる状況だ。
普段できない足を伸ばして座ってみたり、はたまた座席に寝っ転がってみたり……。そこは、男子高校生だからか少し行き過ぎた事もしてはいるが、迷惑を掛ける人が周りにいない分やりたい放題だ。
大分満喫したであろうかけるは、いつも通り座席にきちんと座り直しそこで疑問が生じる。
(そういえば、俺が乗ってから一駅も止まってないな……? この電車、急行?)
いつもの時間、いつもの電車に乗ったはずなのに”いつも通り”ではない。確かに乗客が少ない日はある。だが、0では無い。そして各駅に止まらない。
(何かが、可笑しい……)
――――ガタン!
「何!?」
急に、電車が大きく揺れる。座っていたかけるは、横に滑り端から端の席まで移動してしまう程だ。そして、乗ってから今まで聞かなかったアナウンスがノイズ混じりに聞こえる。
「――次は、更波駅。更波駅。ご乗車のお客様はお荷物等お忘れなくお降りください」
「……は?」
(聞き、間違い?)
かけるは焦った表情で電子掲示板見上げる。
電子掲示板には
ツツツギ ツギギ ハ ササラサラララサラサラナミエエキ
と流れていた。
――その瞬間かけるの背中に冷や汗が伝い全身には鳥肌が立つ。かけるは電子掲示板を見つめ続ける。
(何だ、これ。間違いであってくれ。故障だよな? ドッキリか? こわっ、怖すぎだろ)
身震いした体を自分で抱きしめ何とか今の状態を正常に思考できる様、落ち着かせる。
だが電車は待ってはくれず、更波駅へと到着した。
――プシュゥゥウ
電車が止まる。アナウンスはない。周囲には無音が広がり、辺りは真っ暗だ。かけるは動く事が出来ずじっと電車が動くのを待つ。
(早く動いてくれ、早く…!)
――――あれから20分は経過しているだろう。かけるがいる高校は電子機器の持ち込みを一切禁じていた為携帯はなく、確かめるすべはない。
20分間電車は一向に動かず、かけるもまた動かずに電車の発車を待ち続けていたが、その間に恐怖心は薄れ今の状況を整理する。
(そういえば、学校の噂では此処に化物が居たとか言ってたな。そんな奴1人も見かけてない。だけど更波駅は今こうして俺の目の前にある。化物ってのが見間違いなのか?)
電車内だけが明るく、一歩出れば真っ暗で何も見えない。足場があるのかさえもわからないほど真っ暗だ。だが電車が動かない以上自分が動くしかない為、かけるは電車から降りて手探りで適当に進み始める。
(ここが駅かも怪しいな。何ていうか洞窟みたいでマジこわっ! ……洞窟? あぁ、そうか! もしかしたらここは新設途中の駅なのかもしれない。そしたら電子掲示板の故障もまぁ辻褄が合う……気が。)
右手を顎に添えて考えながら歩く。もうしたに足場があると思いきって、堂々と進み始めてる辺り大分この状況にも慣れてきたのであろう。
――――ドゴォン
――――ブゥウワァン
急にかけるの後ろの方から大きな爆発音が聞こえる。と同時に僅かに光が見えた。
「出口はあっちかよ! ってか今の何!?」
暗闇の中、音を頼りに進んでいくと僅かに見えていた光がどんどん大きく見え、出口が見える。
(うわ、眩しい……ここは!?)
およそ10分間真っ暗な所にいたかけるには急に差してくる陽の光はあまりに眩しすぎた。 思いっきり目を瞑り、瞼から陽の光を浴びて目を慣らせ見たそこは、和風な建物がずらりと並ぶ日本とは少し違う町が在った。
そう、言うなれば日本の平安時代、江戸時代にあるような建物が並んでいる。
――――バァァアン
「――っ!?」
町に見とれていたかけるは再び大きな爆発音のする方を勢い良く振り返る。そこには黒い煙が上がっていて良くは見えないが、それは非日常的場面であることは一目瞭然だった。
「御館様! ありゃパンデモニウムの連中でっせ」
「んー……。あ~お前に任せるわ」
「御館様ぁ! あっしじゃ叶いませんって。どうかそのお力でパパっとやっちゃって下せえ。――の1人でしょう!?」
「めんどくせぇな」
かけるの前を男と狐が通る。だが、両方とも普通では無かった。 走っている狐の見た目は、よく日本で見る狐のそれだが、日本語を喋っている。御館様と呼ばれていた男は和服を着て薄緑の長髪を靡かせ、隣にいる狐と同じ耳や尻尾が生えている。
(なんだ!? こいつら……獣の耳に、尻尾? 着物みたいな服装だしコスプレか!)
爆発音といいコスプレといい驚くことばかりでかけるは更波駅の前で立ち尽くしていた。
(此処は一体何処なんだ……。あの爆発は何だよ。行ったら絶対死ぬから行かないけど他ふらふらしてても危険そうだしああああああ! 俺はどうしたら!)
僅かな希望を持って頬を引っ張っても痛みしか感じず、分かっていた現実を突きつけられるだけであった。
――爆発音があった場所、そこに1人の男と1匹の狐がいる。
「御館様、今人間が……」
「あー、居たな。だが目の前の敵を追い払う方が先決だ。パルチは下がってろ」
「はいはいっ! 御館様頑張ってー!」
パルチと呼ばれた黄色い毛並みの狐は、ハキハキと元気よく答える。御館様と呼ばれる男の言う通り、近くの建物の影に身を隠す。
男は敵の姿を見る間もなく、建物の破壊後からのぼる煙の影に狙いをつけて炎を飛ばす。
「炎の球!」
男の放った炎の球は見事敵に当たりその体を燃やし続ける。
「ギアアアア!」
街を破壊していた物体は動きを止め、痛みにもがきながら、やがてその息は途絶える。炎はまだ燃え続けているが、男がふーっと息を吐くと炎は消え、周りの煙も晴れていき街を破壊していた物体のその姿が現れる。
黒く焼けたからか全身真っ黒で、頭に二本の角が生え尻尾が生えたその生き物は、焼けた後からでも想像できる人間が最もイメージしやすい悪魔そのものだ。
「何だよ、パンデモニウムっつっても下級悪魔じゃねえか。パルチ、お前でも倒せるぞこいつ」
「わぁ、本当ですね! 御館様のお手を煩わせなくともあっしがいけやしたー!」
物陰に隠れていたパルチは器用に二足歩行をし、前足でぱちぱちと拍手をしながら出てくる。
「いけやしたー! じゃねえよ! 俺はお前に任せるって最初に言ったのにお前が無理だなんだって喚いたんだろ」
「あっしは弟子失格ですか……?」
男はパルチでも対処できる悪魔に無駄な労力を使ったと腹を立て、パルチを責める。そこまで強く言ってないにしろ、自分のその愚かさに気づきパルチは目をうるうるさせて今にも泣きそうだ。
「いや、そもそも弟子じゃねえよ。つーか、今度こそあとは任せるわ。俺はあの人間の所行ってくる」
男はしゃがみパルチをひと撫でし、事後処理を任せて更波駅へ戻る。
「はい! 行ってらっしゃいやせー!」
パルチの元気になった声を聞き、ひと安心したところで先程更波駅にいたかけるの元へ向かう。
(この大陸に人間がいるはずねえ。って事は帰りの奴らに巻き込まれたか。他陸の奴らに見つかる前に保護すっかなー)
どうみても人間ではないその男が、本気で走ると距離にして30キロくらい離れた更波駅にも5分ほどで直ぐに着いた。男が駅に着くと風圧で周りに風が通る。
駅の周りを見渡すと階段付近の端に体育座りで何か考え事をしているかけるを見つける。
「お前、人間だろ」
「……? うわっ!? さっきの奴……ってか、え、あの……?」
かけるは急に目の前にさっき見たコスプレ男がいる事にびっくりし後ずさる。背中に壁を感じるまで下がったあと顔を上げ、目の前の男を見つめる。
「あー、めんどくせえ。俺は妖怪の狐使いだ。まぁ、ヨウとでも呼んでくれ」
ヨウは頭を軽く掻きながら自己紹介する。かけるが少しでも警戒を解いてくれる様に、自身が今出来る最高の微笑み付きで。
「ヨウ……さん? スペクター? って何ですか」
「そうだな~、スペクターはお前の世界でいう妖怪の国みたいなモンさ。つまり今、お前が居るここは妖怪の住む大陸。ついでにここ、お前の世界と異なる世界、異世界な!」
ヨウはまたニカッと笑いながら身振り手振りでかけるに説明する。かけるは口をあんぐり開けて言葉が出ない。
「ははっ、言葉が出ないか! いやしょうがない。それが普通の反応だしなー」
「え……。ちょっと待って、待ってください! って事はあれ、あの電車は俺を異世界へ運んだ!?」
「まぁそうなるな」
「新設途中じゃなかったのかよ~!」
ガーンと音でも付きそうな両手を地面に付ける体勢になるかける。ヨウもそんなかけるを見てはっはっはなんて笑っている。
「ふぅ。というよりまぁ、お前は巻き込まれた。俺たちスペクターの妖怪はここ、更波駅からお前達の世界に行ってるんだ。お前達の世界で有名な妖怪達はみんなここからそっちの世界に行っているんだよ。」
どこがそんなツボだったのかヨウはひとしきり笑ったあと呼吸を整え、話を進める。
「そんでその妖怪達が帰ってくる専用の電車があるんだが、そいつぁ本来なら人間に見えないもんでなー。まぁお前は見えた人間でたまたまそれに乗って巻き込まれたって事だ」
「前に、人間が巻き込まれた事は……?」
「あー、つい最近人間が来たみてぇだな。まぁその電車に残って元の世界に戻ったみたいだが。そっちの世界でいう霊感? 強い人間は見えるらしいからな~」
かけるは今更ながら、学校の噂を軽視していた事に後悔する。そして、初めて自分に霊感があった事に驚く。
「俺、霊感あったのか……」
「ま、お前がここに来たのはその霊感様々だな」
特に異世界に憧れてる訳でもないかけるにとっては、霊感様々と言うよりも霊感があったからこんな事になったんだと霊感を憎むしかなかった。




