消える住人2
「最近、人が忽然と消えるって噂がある。」
「…続けてくれ。」
「正直業腹なんだが、こんな都市だからね、それ自体は別段珍しくもないんだ。」
天秤都市リブラには自治が認められていて、その自治体には都市の治安維持や、外敵への防衛や、経済活性化などを図る政策を額面上は自由に施工する権利がある。
ただ、都市単独で食料は賄えないくらい人口が増え(入都がほぼ無制限で難民も多い)、経済に関しても隣接する列強3国相手の大きい取引から個人投資家同士の取引までと膨大な数と規模があり都市単独では捌けない、終戦時の条約により軍備の規模を制限されるがゆえに、列強三国の支援を当てにしなければ魔獣に十分に対応できない。
そんな現実から、自治とはいえ列強三国の意向に翻弄され、まともな政策を立てるにはかなり時間を有していた。
警察権なんてひどいもので、この都市の法律で裁けない場所・人のオンパレード(列強三国の施設や関係者が特権を有するため)で、心ある警官は心を病み、心無い警官はわいろで私腹を肥やすなんて目も当てられない状況だった。
眼の前の男に心あるなしはともかく、その現状に対して憤りを感じるくらいの良識は持ち合わせているみたいだ。
「もちろん私たちもこれを放置するつもりなどないし、捜査は開始している。ただ、都民権を持たないダウンタウンの人々にまで手が回らないのが現状だ。」
「なんとも頼りになる警察だな、これで都民は安心して暮らしていけるってわけだ、ダウンタウンを除いて。」
「残念ながらそうなるね、頼りになるもめ事処理屋が動いてくれないってなると…」
消してこいつのせいではない。
少なくともこいつは、ダウンタウンを見捨てないようにここに来た。
それでもこの都市の現状に対しての怒りが収まることはない、たとえこの仕事を受けたとしても根本的には何も変わらず、数か月後には同じような事件が起こるのだろう。
これまでもそうだった。
それでも、日ごろ嫌というほど顔を合わせているダウンタウンの面々が人知れず消えていくのを看過できるほど人間をやめてはいない。
「アル。」
いつの間にか自室から降りてきたリアが、いつになく悲しくまじめな顔で俺の名を呼ぶ。
その表情、瞳が懇願するかのように揺れる。
いいさ、これはもめ事処理屋のお仕事だ。
何事にも縛られない、俺たちイリーガルな者たちの領分である。
「受けるよ、その仕事。」
「ありがとう。」
マインが頭を下げる。
わいろは決して受け取らず、見も知らない人のために頭を下げることができる、そんな男の頼みであれば、受けない理由はない。