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(5)-祝福-

本編の第四話です。

一月一八日 八時五〇分 自宅最寄り駅前


 昨日、綾子の誕生日プレゼントを買い、帰りにパニックになった私は自力で近くにあったフードコートに行き、休憩を取ってから帰ることにした。途中、お手洗いに寄ったが、洗面所の鏡で見た自分はついさっきまで炎天下で運動していたかのように汗を掻いていた上に顔面蒼白になっていた。休憩を取って帰ることにしたため、当初乗車予定の列車に乗れず、私が家に着いたのは一九時だった。夕食は食べられたが、あっという間に食べたくなくなり、母から体調が悪いのか、と心配されたが「買い食いした」と誤魔化した。夕食後はパニックになることもなかったが、恐怖感は心の中に残っているので警戒しながら入浴するはめになった。それでも、近くに家族がいると他の場所にいるよりかは安心でき落ち着く。

(もし家族に危害が及んだら......。自分の身の安全だけでなく別に考えられる最悪の事態も避けたい)

就寝前に私はそう考え、眠りについた。

 今朝には心身ともに安定はしている上に、約束時間に遅れることなく約束の場所に来れた。心身が安定しているとはいえ、いつ不安定になるかが分からない。思考を張り巡らせている中で、再び例の視線を感じた。私は動けずにいた。

「なぁ~に、怖い顔しているの、真美♪」

 背後から抱き着く綾子。

「もうー! 人前では止めてよね」

「じゃあ、人前ではない場所なら良いんだよね」

「そういうことじゃない!」

 いつものやり取りのことから、私は先ほどの視線が気のせいだと結論づけた。綾子が抱き着いたせいで、また周囲の注目を浴びた私たちは恥ずかしい思いをし、私は視線に耐え切れず、「早く行くよ!」と言い、綾子の手を引っ張って駅の中へ向かった。無事に乗車予定の列車に乗り、片道二〇分先の駅まで行った。休日ということもあり、この時間の列車は出かける人でいっぱいだったので窮屈な思いをした。私たちは目的の駅に下車し、徒歩で目的の店に向かった。

「もうー! なんで列車の中でくっつかないでよ!」

「仕方がないでしょう。あんなに人いたら、意図しなくても密接になっちゃうよ」

 いつも通りの痴話会話(?)をしながら、歩くこと一〇分、目的の店に着いた。すでに五メートルも行列ができており、私たちは最後尾に並んだ。待つこと一時間半、私と綾子は店員にテーブル席へ案内された。

「やっと、座れたね……真美」

「うん……綾子」

 くたくたに疲れた様子の私たち。立ち話をしながら、待っていたが、中々に足にくる。

「でも、待った分だけ美味しいはずだ。早く頼むよ、真美」

 綾子はワクワクしたかのように目を輝かせてメニュー表を開き見た。メニューは一五種類もあり、チョコレートソースやミックスベリーソース、ハチミツのいずれかのソースが掛ったパンケーキもあれば、フルーツたっぷりのものなどデザートパンケーキだけで一〇種類あり、残りの五種類はオムレツとセットのお食事パンケーキだ。別にバレンタインを意識したものなのか、ハートをかたどったチョコに細切りのチョコレートが乗っかった期間限定のパンケーキもあった。

「どれにする~、真美。私はこれにしようと♪」

 綾子は迷いながらも、フルーツが乗っかったパンケーキにした。私はその店の定番であるアイスとカラメルソースが掛かったパンケーキにし、セットのドリンクはお互い紅茶にした。

 通常一五分以上掛かるが、混雑しているため二五分後にパンケーキが運ばれてきた。待っている間は先に出された紅茶を飲みながら待った。

「うわ~、贅沢♪ 綾子の誕生日に相応しい料理」

 私と綾子は料理に惹かれて、スマホでパンケーキを撮影した。

「では、頂きます」

 綾子はスマホで撮影を終えると、すぐにパンケーキを食べ始めた。子供のようにパクパクとパンケーキを口に運び、満面の笑みで喜んでいた。私は綾子の笑顔を見れて幸せを感じた。その時、綾子が急に席を立った。私は何事と驚きながら、綾子を見た。

「ごめん……トイレ行ってくる」

 そういって綾子は店内にあるトイレへ行った。私はやれやれと思いながら、パンケーキを口に運んだ。ふとっ、初めて綾子と出会った時のことを思い出した。あれは幼稚園の帰りの時。いつもは母が迎えに来てくれるが、その日に限っては所用で迎えが遅くなり、私ともう一人の女の子が幼稚園に残った。そう、もう一人の子が綾子だ。綾子の母親も所用で迎えが遅くなっていたので、私たちは幼稚園の先生と一緒にお絵かきをして遊んでいた。私は一緒に居た先生の似顔絵を描いていたが、綾子は花畑とお城にいるお姫様の自分を描いていた。私は綾子の絵に惹かれて、自然に「すごいね」と言い、それに対し、綾子は「私の夢なの」と無邪気な様子で返答した。それ以来、綾子とは幼稚園で一緒に遊ぶことも増え、家が近所ということでお互いの家に行って、遊ぶようになった。夢多き乙女。それが綾子である。無邪気に妄想したり、はしゃいだりと、周囲を振り回すところがあり、時に私は綾子に振り回され、大人に怒られることもあった。しかし、それでも私は綾子と居て、楽しい。これからも綾子とは良き友人として過ごしていきたい。最後にそう思った。

 その時、覚えのある不快感が私を襲った。どこからか、学校や百貨店の視線。

(えっ、どこ! いい加減にして!)

 再びパニックになった私は目の前がぼやけてしまった。

「大丈夫、真美!」

 綾子が私の横にいて、あやしてくれた。

「大丈夫、真美。急にどうしたの様子が変だよ」

「うん、大丈夫だよ。ちょっと目まいがしただけだよ。さっ、食べよ♪」

 トイレから戻った綾子と食事を再開した。



「いや~美味しかった」

 紅茶を飲みながら、落ち着く綾子。

「綾子が喜んでくれて良かった」

「いや~、今日は付き合ってくれてありがとう♪ 真美、好きだよ♪」

「なに自然に好き、と言ってるのよ」

「本当のことだも~ん」

(綾子の好きは友人として好きだろう。良かった。これからも良き関係でいられそう)

「綾子、そうそう、これ誕生日プレゼントだよ♪」

 私はバッグから昨日買った包装されたエプロンの入った袋を取り出し、綾子に渡した。

「おー、嬉しい! えっ、何かな」

 綾子は喜びながら包装を剥がした。

「おー、可愛いエプロンだ! 嬉しいよ」

 綾子はプレゼントのエプロンを気に入ったようだ。

「ありがとう」

 感謝の言葉と同時に綾子は私の頬にキスをした。

「なにするのよ、綾子!」

「感謝のき・も・ち♪」

「なによ、それ!」

 長年連れ添った友人と楽しく、思い出に残る誕生日を送ることができた。この後、私たちは映画を観て、帰路に就いた。

 この時、私は知らなかった。日に日に悲劇が待ち受けていることを。そして、今日のことがそれを進める要因になることを。

読んでいただき、ありがとうございます。次回の投稿は6月23日21時になります。

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