(3)-迷走-
本編第三話です。
一月一六日(金) 一二時二五分教室
今日も私の下駄箱に封筒が入っていた。今までと同じ封筒が入っていたが、中の便箋にある文章が今までとは違っていた。便箋には「Aa・Ab・Cb・Dd・Ic」と書いていた。
私は普段通りに気にはしなかったが、今までとは違う文章に私は嫌な予感がした。
分からないけど……すごく嫌な予感がする。気のせいであってほしい、と一人、下駄箱の前で怖い顔をする中、「ま~た、浮かない顔をしてる~♪」、と綾子は私に抱き着き、それに私は「人前で抱き着かないでよ!」、と返す。普段通りのやり取りを終えて、綾子のおかげで私はついさっきまであった恐怖感から逃れることができた。私にとって安心感こそが今の自分が求めているものである。綾子のおかげで安心を得られたが、まだ恐怖は私の中に残っている。
(今までの文章とは違い、少し文字が多い。一週間も続けて送ってくる人はどんな意思でやっているのだろう……。)
イタズラということで考えれば簡単に解決する。しかし、簡単に解決して、後に当てが外れる事が怖い。ここは第三者の意見を取り入れて判断すべきか、それともイタズラということで悩まず簡単に決めつけるか、少々悩む。もし、前者となれば安心感や第三者の意見と引き換えに、他人にこの事が知られてしまう。それで解決するなら実行に移せる。しかし、私が第三者に教えたことを知った犯人が他人に危害を加えるとなると、それこそ怖い。何もかもが「怖い」という恐怖感にある私はどの選択をすべきか分からない状況にある。
(このまま悩んでいても埒が明かない。まずは相談からで、最初の相談相手は……)
私が小さな決断をした時、教室の前で授業をしていた私のクラスの担任が私の名前を怒鳴りながら呼んだ。私は大声で名前を呼ばれたことで反射的に席から立った。
「おいっ、佐藤!」
「はい!」
私の名前が呼ばれたことでクラスにいる人全員が私に注目した。
「佐藤、何ぼーっとしているんだ! 授業を受ける気はあるのか!」
「すいません、気を付けます」
「気をつけるのだぞ! 他の者も同じだ! 期末テストが近いから気を引き締めて授業に臨むように。授業を再開するぞ!」
私は授業が再開するに伴い、席に着いた。
(深く考えすぎた……。私の悪いところだな……)
私は自身の短所を静かに嘆いた。だからと言って、根本にある問題は解決しない。私は気が付いた時にはゴールのない迷路に迷ったのかもしれない。そんな私を置いて授業は進行した。
*******
私が怒られてから、問題なく授業は進行し、無事に終わった。
「授業はここまでにする。後ろからプリントを回すように」
私は後ろからきたプリントを受け取り、自分のプリントを重ねて前の人に渡した。そして、私は机の中に教材を仕舞い、鞄から弁当に出した。真美は弁当を持って、私の下へ来た。
「ま~み、一緒に食べよう♪」
「うん、良いよ」
綾子と昼食を食べ、雑談をするのが普段の昼休みの過ごし方である。自分の弁当袋のチャックを開けようとした時、先ほど授業をしていた担任が私の下へ来た。
「佐藤、これから食事のところ悪いが、すぐに終わるから授業の荷物を運ぶのを手伝ってほしい」
教師からの頼みに私はどうするか、迷った。
「真美、大丈夫だよ。待っているから」
「うん、ありがとう」
綾子の気遣いで私は担任の頼みを引き受けることにした。授業で使用した丸まったB0サイズの画用紙三つを教科準備室まで運んだ。
「佐藤、ありがとう」
「お役に立てて嬉しいです。では、私は失礼します」
「佐藤、聞きたいことがある」
私は一礼して去ろうとした時、担任は私を呼び止めた。
「さっきはどうした? 授業中にぼーっとしているなんて、お前らしくないが、悩みでもあるのか?」
「いえ、悩みは……ないです。寝不足です」
「寝不足か……。テストが近いからだと思うが、無理はするなよ。お前の成績は上位クラスだから、先生から成績のことで言うことはないが。てっきり、悩みでもあるかと思ったよ」
担任は心配した様子で私に言った。
「悩みは無いですよ。あるとしたら、卒業するのが寂しいくらいです」
勇気をもって手紙のことを話そうとはしたが、ためらってしまい私は笑いながら担任へ嘘をついた。本当は悩みがあるのに。
「そうだな。あと二ヶ月したら卒業だな。何度か生徒を見送ってきたが、生徒が卒業するのは先生も寂しいよ。もし、悩みがあるなら早めに言ってくれ」
「はい。では失礼します」
私はもう一度一礼して部屋を出た。そして、すぐに教室に戻った。
◇
「真美、遅いよ~」
「ゴメンね、綾子。先生に授業中に怒られたことでいろいろ言われたの」
「もう~、一度怒ったのに、また怒るなんて」
綾子はふざけたように言った。
「もう良いよ、綾子」
「真美が大丈夫なら。それよりも早く食べよう♪」
「そうだね。お腹空いた~ね」
私と綾子はやっとの思いからか、あっという間に昼食を食した。
「そういえば、真美。明後日は何の日か覚えている?」
「明後日は……一八日だよね。えーと、なんだったけ?」
「う~わ、真美、酷い。私の誕生日だよ!」
「あーっ、そうだった。忘れていた。ごめん」
「もう~良いもん。真美とはお昼を食べてあげないも~ん」
綾子は不機嫌になり、そっぽ向いた。
「冗談だよ、真美。う~ん、じゃあ、美味しいパンケーキの店に行こうよ」
「うん、良いよ。綾子の行きたいところに行こう」
「そうと決まれば、九時に駅前集合ね♪」
「分かったよ」
綾子と明後日の綾子の誕生日について話しているうちに昼休みが終わった。
◇
○月○日××にて
今さらながら振り替えると、思う。あの時、先生に相談すれば良かったと。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回は6月9日に投稿します。