ファンタジー世界でままある女体化展開の話
クライドさんと言えばこの辺りのギルドでは特に名の知れた男だった。
その鍛え上げた鋼の肉体、対魔物に特化した長い太刀、顔こそごついが言い寄る女も数知れず……。
うぬぼれになっちまうがよぉ、俺ぁ仕事こそ冒険者なんてヤクザなことしてるが……立派な男に育ったはずなんだ。
「それがお前の一番大切なものか……ク、ク、ク……。これは我をほふった呪いよ……グッガハッ!」
「……な、なんだ、何が……て、てめぇっ!! はっ?!」
だがしくじった。
王直々の討伐令により、悪霊の神々の眷属を討つことには成功したが、そこで自らの声が、視点が急変していることに気づいた。
あのダークエルフとでも呼べるような存在は、王女殿下に永久の眠りをかけた張本人だ。
ならば死なばもろともで呪いをかけて来るに決まってる。そう予測しておくべきだった……。
俺はもうクライドであってクライドではない。
クライド(35)だった者は、ヤツの置きみやげによりクライドちゃん♀(17)となっていた……。
・
命に別状はない。
女に変わって肉体が衰えたわけでもなかった。
だが元通りの生活とはいかなかった。
「クライドさん、次は俺と組んでくださいよ」
「あっお前っずるいぞ! クライド先輩、次は俺たちを連れてって下さいよ!」
「クライドちゃんは町の誇りだよっ、あたいらが守ってやらないとねぇ!」
まず野郎どもとの酒盛りが難しくなった。
どいつもこいつも気の荒い連中だ、酔いが回ると何をしでかすかわからねぇ。
事実やつらは俺に妙な期待をしている。
ずっと隠していたんだが俺童貞なんだ、お願いだクライドさんでやらせてくれ! なんて土下座するバカまでいたんさ……。
「うるっせぇぞてめぇらっ、俺をおかしな目で見んじゃねぇ!!」
ギルドを訪れればモテモテ。これまで素っ気なかったはずの女冒険者にまでおかしな色目を向けられる始末だ。
「ええっでもクライドさんかわいいっスよ! 俺、こんなかわいい女の子、生まれて初めて見たっスぅぅ……!」
「おまっ気持ち悪ぃことガタガタ抜かすなウラァッ!! 俺みてぇな荒くれがかわいいわけねぇだろ!! もう一度見て見ろ、このクライド様の姿をヨォォ!!」
不敵に笑って両手を組む。
……そうすると邪魔にでけぇ乳房が挟み込まれて、眼前に逆方向の自己主張をすることになっていた。
クソッ、ふざけんなよあのクソダークエルフ!!
「かわいい……」
「やっぱおっぱい大きい……」
「それでいて強くて、威勢が良くて、あたいもうメロメロだよ……。なあクライド今夜うちに来ないかい……?」
ああ、何をやっても逆効果だったんさ……。
こいつらホモかよ、レズかよ、あの厳めしいクライドさん35歳を思い出しやがれ!
「てめぇらぶち殺すぞッッ!! せめて一発抜いてから出直して来やがれッッ!!」
「く、クライドさぁぁぁん……っ!」
ちげぇよ、そういう意味じゃねぇよ……何でだよ……。
その後のことはもう思い出したくもない。
だから遠回しに言う。……バカどもが便所に行列を作った。
・
「へ、へぇぇ……そりゃ、た、大変だったんだな、兄貴ぃ」
「おう……。大変だぜ、毎日がなぁ……」
危なくてしょうがねぇんで俺は仲間を雇った。
エルフの領域に偉い神官様がいて、ソイツなら呪いを解除出来るかもしれねぇって話だったからだ。
「で、でもよぉ? お、俺は、い、いいのかい、兄貴ぃ~?」
「ああ。お前は信用できる。ついでにてめぇは町で一番……頭悪ぃからな」
「……え、えへへ。お、俺ぇ、バカで良かっだぁぁ……」
コイツはデン、俺の弟分その1だ。
鼻水たらして若ハゲ頭をかき、うへへと知能のかけらもない笑いを浮かべる。
「おいおいデン、そこはキレたり不平を言うところだろ。ふざけんじゃねぇとか、バカにすんな兄貴とか、もっと他にあんだろバカがッ!」
「へ、へへへぇ……。で、でもよぉ……俺ぁ、ずっと兄貴のこと、前から好き、だったからなぁ……。助けれて、嬉しいだぁぁ」
こういう男だ、だから連れてきた。
もし変な気起こしても考える頭もねぇ。
俺が目を走らせてやんなきゃ、仲間にギャラの上前ちょろまかされちまうヤツ。
だが戦士としての実力はバカにできねぇもんだ。
「助かるぜデン。とはいえちったぁ自分で考える頭も持てよ? おめぇみてぇのはよぉ、利用されたり騙されちまうもんなんだからな」
「あ、兄貴ぃ、お、俺には、無理だよぉ……」
バカなくせに温厚でそのくせ力ばかり強い。
気の毒になるくらいデンのヤツはバカ正直だ。
「泣き言言うんじゃねぇっ!! ぶち殺されたくなかったらちったぁ知恵付けろつってんだヨォ!!」
「ひ、ひぃっ! ごめんよぉ兄貴ィィィーッ!!」
バカで良いヤツってだけで罪だ。
早くコイツのためにも元に戻らねぇと……。
・
その後も順調に旅が進んだ。
大森林の番人ども、つまりエルフどもと話を付けて領内での行動も許してもらえた。
あと一歩だ。あと一歩で男に戻れるかもしれない。
だがある晩のことだ……。
「兄貴……兄貴……。兄貴ぃぃぃぃ……」
その日は野宿をすることになった。
デンと交代で火の晩をしながら夜を明かすはずが、ふと目覚めると俺一人だった。
「デン……?」
「うっ……兄貴ぃ……」
いや、たき火から外れた茂みにデンの姿があった。
ヤツはそこにしゃがみ込み、俺に背中を向けて丸まっていた。
「……げ」
何をしていたかと思えば自慰行為だった。
一見安全に見えたこの男も、生理機能を持つ男性だったってわけだ。
豚みたいな声であえぎ、一心不乱で人をネタにお楽しみしていた。
「あ、兄貴……兄貴……おぉぉぉ……」
勘弁しろよ……。
嫌悪感と同時になぜか心拍が上がる。どうも俺まで身体が熱くなってしまってた。
確認に自らの股間に指を伸ばせば……うっ。ふ、ふざけんなよクソダークエルフッッ!!
俺は頭を抱えてたき火の前にうずくまった。
なんで俺があのデンごときの、気持ち悪い生理現象に興奮しなきゃなんねぇんだよ!!
「っ……っ……ち、ちくしょぉ……。ぅっ……」
ふざけんな……こ、こんな……クソォォ……。
翌朝、俺はデンをぶん殴って蹴り入れまくった。
それでもヤツは嬉しそうにニヤニヤ笑って、心底頭痛くなる媚びへつらいを見せてくる。
俺ぁもう男性不信になりそうだ……。何でこんな身体になっちまったんだよ……。
・
「同族がご迷惑をおかけしました。さぞやご苦労されたことでしょう」
「わかってんじゃねぇかよアンタ……。ああ、そうだよ、大変だったさ……クソ大変だったに決まってるさ……!」
ついに神官の元にたどり着いた。
驚いたことにソイツもダークエルフで、俺としたことがヤツが蘇ったのか太刀を抜きかけたほどだった。
「ならばすぐにでも呪いを解きましょう」
「あ、兄貴、本当に元に……も、戻っちまう、のかぁぁ……?」
悲しそうにデンが俺を凝視してくる。
名残惜しむように顔を盗み見て、胸を見て、下を見て、それから卑屈そうにまた顔を見てきた。
コイツ……オカズの保存モードに入っていやしねぇか?
「どうされますか? そのままでもこれといった副作用はありません。むしろ見た目に相応に寿命も伸びているようですが」
「おいおい、ここまで来てそんな話聞きたかなかったぜ。……そうか、そりゃ悩むな」
35のおっさんに戻ればどうなるだろうか。
確かにかつての栄光こそ取り戻せる。
だが、だがそうなるとあと10年戦えれば良い方だ。
その前に衰えて命を落とすかもしれない上、収入が途絶えては酒も飲めない。……確かに惜しい気がしてきた。
「悩むようなら日を改めましょう」
「いや……今決めることにする」
「あ、兄貴ぃぃ……」
元に戻らなければ旅も全部徒労。
野郎どものおかしなノリが今度も続くことになる。
「デン。てめぇが決めろ」
「え、えええええーーーっ?! あ、兄貴ぃぃっ?!」
「前に言ったよな? ちったぁ自分の頭で考えろと。てめぇはいつもいつもコレを俺にやってんだよ。ならたまには、てめぇが俺に変わって考えてみろや」
最初からわかっていたことだが、デンの目が当惑にあちこちをさまよった。
赤くなったり青くなったり、クソ踏ん張るみてぇに難しい顔して思考を巡らせている。
こんな真面目な顔のコイツ俺ぁ初めて見たよ、こいつぁ期待出来るかもしれねぇ。
「いいのですか?」
「いいんだよっ! ……よし決まったなデン! さあ言ってみろ!」
「え、ええええええ、あ、兄貴っ、せ、急かさないでくれよぉ?!」
うるせぇ! そのバカ頭でちんたら考えてたら日が暮れるだろが! 男らしくさっさと決めろ!
「さわがしい人たちですね……。ではうかがいましょう。デンさん、貴方はこのクライドさんをどうしたいのですか?」
「お、俺は……俺はぁぁぁぁ……」
デンはまた頭を抱えだした。
だがそれもいっぱしの戦士だ、ちゃんと決断力を持っている。
バカだが使える男なんだコイツは。
「あああああああああ……兄貴ぃぃぃーっ!!」
「なんだよっ、さっさと言えバカ野郎っ!!」
両手を組んでヤツを睨む。
……ああいかん、またたっぷりした胸が強調されて、あ……。
「お、俺ぁぁっ、女の子になった兄貴と一緒にいてぇっ!! 兄貴は戦いが生き甲斐だぁっ、その兄貴がずっとずっとつぇぇ戦士として町を守ってくれたら俺ぁぁっ!! 兄貴を従うやつの一人として俺ぁぁっ、兄貴はそのままがいいと思うだぁぁぁーっ!!」
「……そうか、そんじゃそうしようぜ。わりぃな神官さん、世話んなったな」
デンにしては上出来だ。いいや花丸をくれてやったっていい。
おめぇの言葉、心に響いたぜ。
そうだな。姿が変わっても俺は俺だ。
俺はクライド、見た目はこんなだが町一番のタフガイだ。
俺を慕う若造だって数知れず、今も俺の帰りを待ってるに違いねぇ。上出来だぜ、デン!!
「いえ、同族がご迷惑を……」
「かまやしねぇ! おかげで俺ぁ本物の男になれた気がするぜ、男の誇りを取り戻した以上は逆にこの姿を満喫してやるだけだぜっ、世話んなったなっ黒いエルフっ、アバヨォッ!!」
俺は長旅をあえて棒に振って、デンと共に遥かな帰路につくのだった。
・
「おうてめぇら帰ったぜ。でいきなりだが、俺とパーティ組みたいやつぁ今すぐ手を上げろ。たっぷり揉んでやるからよぉ……?」
ギルドに戻るなり俺は宣言してやった。
そうするとデンまで一緒になって誰も彼も受付まで……両方の手を上げる。
おい……。コイツらはよぉ、そうすりゃ二回分になるとでも思ってんのか……?
「おーっし! ただしそのイカ臭ぇ手はぜってぇぇ~洗って来いよッ! あと旅先でおかしなことしてみろ、このクライドさんが、一匹一匹丁寧に……。ブチ殺してやっからナァッッ!!!」
俺はエロい体型した小娘じゃねぇ。
デンどもその他もろもろが憧れる、ギルドの兄貴分クライドさんだオラァッ!!
TS短編書こう。
ただし性癖要素は控えめに、せっかくだしちょっと変化球でいこう。
ていういい加減なコンセプトで仕上げました。




