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黒幕

 その部屋では今、二人の男達がグラスを手にソファでくつろいでいた。


「いやぁ、あの子がなぁ…。」


 そう言って相好を崩すのは、この国の国王であるパシェント・ド・クリスティス。

現在50を超える年齢ではあるが、その豊富な魔力のお陰もあって未だ20代半ば程度にしか見えない。

グラムナードの血を引いているものの、その耳は父親譲りの丸耳で、今は非公式な場でもある為、髪も金褐色の癖っ毛を後ろで束ねているだけのラフな姿だ。


 対するのは、現グラムナード公フーガ・グラム。

グラムナード人である事を疑う者は誰もいないであろう、尖った長い耳に漆黒の波打つ髪をそのまま流している。国王の母の兄であることから、100歳よりは上のはずである者の、やはりこちらも見た目だけは若く見えた。

 彼等は私的な場面では伯父と甥であり、公の場とは立場が逆転している。

今は私的な時間であり、主従関係よりも伯父と甥の関係の方が優先されるのだ。


「あれで、なにも悟られないと思っているのが幼すぎるな。」

「まぁ、そうおっしゃらずに。」

「お前達はアレに甘過ぎるだろう。」

「貴方にとってと同じ様に、私にとってもあの子は『息子』ですから。」


 彼の息子をとりなそうとする甥に眉をしかめながら、フーガはそう言い捨てた。

彼の長男に『錬金術師』としての才能がない事が分かった20年程前、同じ裁定をされた時の心情を盾に自らの手元から強引に長男のアスラーダを連れ去った妹の事をまだ許せてはいない。

 ただ、その長男が彼の手元に戻ってきた時に、妹の判断は誤っていなかった事だけは理解できた。

彼は、別れた時の挫折感に打ちひしがれた傷ついた目をしておらず、ただ、真っ直ぐに自身の能力を高め育てていた。

きっと、次代『錬金術師』として育てられる事になっていた双子の弟の側に居たのならば、こうは育たなかっただろうと思えたのだ。

ただ、王都で育った弊害か、価値観の違いだけは如何ともしがたかった。

アスラーダが悪いのではなく、グラムナードに住まう者たちの視野が狭すぎたのだ。

その結果、彼は家族以外から孤立する事になってしまった。


「その件に関しては、感謝している。」

「…突然でしたが、利発な息子に恵まれた気分にさせて頂きました。」


 パシェントは当時を思い出したのか、懐かしそうに目を細めながらグラスを傾けた。


「最近まで、実子に恵まれませんでしたので。」

「魔力が高くなる程、子供が出来辛くなる傾向にあるからな。」

「お陰で私も息子も、一人っ子になりそうですね。」


 フーガの答えに、彼は苦笑を返した。

彼自身も魔力が高く、お陰で今も若々しい。

だが、彼の妃はそうではなく、年相応に老いていく。

唯一の妃をこよなく愛する彼は、これ以上の子を望むのは難しいとため息を吐いた。


「アスラーダの子供を、抱かせて貰う事はできるんでしょうかねぇ…。」

「アレは義理堅いところがあるみたいだからな…。」


 答えながら、彼の事を思い返す。

そう、成長して帰ってきたアスラーダを見た時に思ってしまったのだ。

『本当に父の意思に沿うのは正しい事なのか?』と。

フーガの父は、魔法やその他諸々の大陸から自身が持ち込んだ技術の指導をことごとく拒絶してきた。

その為、彼の父親達がこの地に逃げ込んできた時に連れて来ていた民の一部が帰化する際に伝えた知識の断片のみが伝えられ、現在のこの地での魔法の主流になっていた。

専門家でなかった者達の知識が伝わったせいか、本来の物とはねじ曲がって伝わっており、それについてより深い教えを請いに昔は訪れていたと言う魔法使い(見習い)達も何百年にも渡って無視し続けられた事によって現在に至るまでそれが修正される事がなかった。

 ただ、その魔法を、グラムナードで基礎を学んでいたアスラーダが学んだ結果、今までの物とはまた違使い方をするようになっていたのだ。

それによってフーガは、それまで絶対の物としていた父親の考えに疑問を抱くようになった。

だが、まさかその疑問に対しての答え探しをする機会が得られるとは思ってもいなかったのだが…。

今はグラムナードの『錬金術師』となった次男からの『叔母上からの要望を請けてみようと思う』と言う言葉を聞いた時の事を思い出して目を閉じる。


 アスタールが、そう言いださなければ今回の事は未だ影も形もなかった…と思いながら。

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