国王、未来の展望を思案する
今回は国王から見たお話しです。
その日のエスターレ城は、朝から喧騒に包まれていた。
首都エスターレにはかなわぬものの、この国では大きめに入るであろうシールズの街の、良い話は聞かないどころか、悪い話や黒い噂しか聞かない領主が、とうとう悪事を露呈させたのだ。いつかは出るであろうと思われてたが、なかなか尻尾をださず今に至っていたのだが、神の導きか悪魔の悪戯か、と思えるようなタイミングでの露呈であった。偶然と呼ぶには余りにも都合よく、奴隷密売をしてた馬車が盗賊におそわれ、尚且つそれを見つけて助けに入ったのが、訓練を兼ねて遠征に出ていた近衛騎士団の第一部隊であったのだ。おまけに積み荷は奴隷だけでなく、交易を禁止されていた希少金属まで積まれていたのだった。慌てて口止めに来た領主が騎士団長イアンに、
「この事は、内密に願えないか?」
慌てて金貨の入ったような袋をさし出しながら言ってきたのを、
「近衛の団長に選ばれている私がそのような事を許すとでも?」
表情に怒りを浮かべながら、まったく請け合わず、会話をばっさりと切って終わらせ、城へと戻りその事件と、その時の会話をも報告として届けたのであった。
「ベトルス宰相よ、あの者を処罰するのはよいが、その後の領地を如何すべきだとおもう?」
事件の報告をうけ、この国の王、マテウス・エスターレは執務室に呼び出した宰相とシールズの街の民が今度はどんな領主になるのか、と不安を抱かぬ様、すぐにでも対策と人選を行おうとしていたが、重要案件の為しばしの間、人払いをしていたにもかかわらず、突然ノックする音が響き、ドアの前に控える近衛より、
「巫女様が急ぎの面会を求められております、ご神託があったそうです」
突然の報を告げる声が掛けられるのだった。このような時に、重要案件が重なるとは、気が重くなるな・・・・そう思いながらも、
「通せ」
断るわけにはいかない案件に、近衛にそう答えるのだった。・・・・・・
この世界には神がいる、と誰もが知っている。普段はこの世界に住むものに委ねられてはいるが、魔物の大氾濫や大きな天災が来る時などは、被害をおさえるべく、起こる国の巫女<神の言葉を聞ける修道女>へと警告をうながされたり、出過ぎた行いをする種族がでれば戒めを行われることもあるのだ。かくいうこの国もかつて、国土を広げるために森に行き開拓を行おうとしたのだが、そこまではよかったのだが、そこに住むエルフを見つけ、その中の一人のあまりの美しさに当時の王はその者を手に入れんと、争いを起こした。その結果、争いを避け傷つく者をださぬよう、奥へ奥へと逃げるエルフを神は気に入られ、世界樹を植えられ精霊を友として使わされ、その場所を結界で覆い守られその地をエルフのものと定められた。そして、それを追い立ててきた王国側は神雷により部隊は全滅、国の巫女へと国王退陣と次はない、との警告を告げられたのだった。すぐに王を弟に変え、それ以来警告を守り続けているので、事なきを得ているが、王家には代々言い伝えられているので、神託の重要性は無視できず、また神の恩恵に助けられたことも一度や二度では済まない為、どんな時だろうと優先するしかないのだった。
「エレオノーラ様、女神様は何と? 今回は魔物でしょうか? 天災でしょうか?」
色々な事が、いっぺんに起き頭を抱える王マテウスは、そこに凛とした美しい佇まいで立つ女性に声を掛けた。しかし、その女性エレオノーラは、首を横に振り、
「そのどちらでもありません、お願い? というか警告? だそうです。どちらに聞こえるかは、話を聞いた王の判断次第でしょう」
理解に苦しみそうな言葉を告げてきた。なので、王は首を捻りながらも、
「ふむ・・・、では告げられた事をお話しください」
話の全てを聞いてから考えるか、と思い問いかけると、うなずきながら、
「わかりました、女神様が言うには、この国のアーカイドという村に農民として、カインという者が、家族3人で暮らしているそうなのですが、この程、このカインという者の妻セリナという方の、そのお腹の中に赤子として、女神を含むすべての神々の父なる方が降臨なさっているので、大事に大切に扱うようにする事。その代りその事を守れば、その者の住む土地は豊饒と繁栄を約束し与える。しかし事を構えて排除しようとすれば、この国のその者たちの住むその地以外の敵対した者共を滅ぼす。とのことです」
突然のその話を聞き王は絶句した。そしてすぐに宰相に、
「そのアーカイドというのはどの辺にあるのだ?」
小さい村の為、所在地が判らず訊ねると、
「先程から話に出ていたシールズより馬車で一日程度の場所だったかと?」
記憶を頼りに返事を返し、気を利かせ、
「王よ、よもや此度の件は女神様のはからいなのでは?」
私はこう思うのですが? という感じで話を振る。王本人も心の中で、これは間違いなく女神様が仕組まれた事なのだろう。そう考え、ならばそのカインというものをシールズに領主として送ることにすれば、豊饒と繁栄を約束されているので街の民の不安も解消されるとして、それに相応しい地位もあたえないと領主に出来ぬし・・・・それと領地経営の為の信頼できる文官武官も用意せねば・・・・そう考えながら、宰相と巫女も含め今後の事を話し、人選とどこまでの事を他の者に話しておくか、などという仔細を打ち合わせ、手続きをし、使者を送り出すのだった。・・・・・・
その夜、王の居室で王はソフィア王妃と二人っきりになった時、今日昼間あったことを話しながら、
「ソフィア、もう一人娘を作ろう。その子は神の妃になれるかもしれないからね」
と、笑いながら楽しき未来の話をし、熱い夜を過ごすのでした。
だいぶメインにする登場人物がでてきたかな?と言うところです。1部今後の伏線を込めてある部分もありますので、いまこのはなし?とおもわずスルー気味に読んでいただけたらさいわいです。