-序-
その時代、世界中が灰色だった。
暖炉の前で聞くじいちゃんの昔話は、決まってこの一言から始まる。
俺にとってそれは、昔々あるところに、と同レベルの聞き飽きた常套句。ただ他と違うのは、続く物語が空想や創作ではなく、過去に本当にあった出来事だということ。
じいちゃんのじいちゃんは軍人で、幻燈戦争時代を生き抜いた傑物であったらしい。じいちゃん自身も、戦後の苦しい生活を乗り越えてきた、時代の生き証人だ。
灰色の世界で、人々は何を想い、何を見たのか。
じいちゃんが語る様々な情景は、幼い俺に、畏怖と驚愕と焦燥と憧憬と、とにかくいろんな感情を抱かせた。
与えられた使命、気の置けない仲間、最高の好敵手、そして世界を救った主人公は愛する人と結ばれる。じいちゃんの話を聞いた夜、決まって夢は自分が主人公の冒険譚だった。
......だが、現実は夢のようにはいかない。
夢に夢を見る時代が終わり、俺は大人になった。人生は冒険譚のように上手くはいかず、辛酸を舐め、投げ出したいと思うことが幾度もあった。
そんな時、俺はよくじいちゃんの昔話を思い出す。
その時代、世界中が灰色だった。
雲は厚く滞り、陽の光は届かず、水は濁り大地は腐った。多くの種が滅び、残された者達も随分と数を減らしていた。
誰しもが「終末」を覚悟した。
これは、終末というどん底を生きた人々の、再生と復活の物語だ。