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幼馴染みはヤンデレ!?なのじゃ!

「ねえ! ちょっと待ってよ!」


 教室がある校舎と食堂がある校舎、それを繋ぐ渡り廊下で僕はようやく朋花ちゃんの腕を捕らえる事ができました。


「なんなの? さっきからそれはあなたにあげるって言ってるじゃない」

「僕はいいよ。それより朋花ちゃん、お弁当忘れたんでしょ? だから食堂で待ってたんだよね?」

「僕はいいよって、あなたもお弁当忘れたからあそこで待ってたんじゃないの?」


 僕の場合、忘れたんじゃなくてあのアホ姫(サヤ姫ちゃん)に奪われたんだけど……まあ今はそんな細かいことは気にしません。

 

「とにかく、それはあなたにあげる。私は次の授業があるから」


 そう言って僕の手を振りほどき、朋花ちゃんが歩き出そうとした時ーー、


「隙ありじゃ!」


 聞き慣れた声がしたと思ったらフワッと、目の前で朋花ちゃんのスカートがめくれ僕の視界に素敵な物……朋花ちゃんの黒色のパパパ……。

 

「――ッ!?」


 想定外の出来事に絶句する朋花ちゃん、カチーンと石のように固まる僕、そして……。


「うむ、またも将を討ち取ったのじゃ!! お、なんじゃ主もそこでこやつのスカートを狙っておったのか! 残念じゃが儂が先に功をあげてしもうたわ! ハッハッハッ」


 なにしてんだこのボケ姫!! 僕はサヤ姫ちゃんの首を今すぐ打ち取りたい気分です。僕の中ではもう数万の兵士が挙兵しています!


 スカートをめくって高笑いするサヤ姫ちゃんの前で俯いたまま動かない朋花ちゃん。恐らくドス黒い感情が……そして、彼女の中でも兵士が挙兵しているでしょう!


「と、朋花ちゃん? あのー、大丈夫です……か?」

「……見たの?」

「え? 見たのって、そりゃ見たよ! いや、見たと言うより見えたかな? あれ、なんでこっち来るの!? ちょっと、目がヤバイよ! スカートめくったのは僕じゃなくてサヤ姫ちゃんだよ!? っていうか、黒の下着履く年頃になったんだね! あ、つい口が……ごめん! ごめんなさい! っていうか、朋花ちゃんその右手納めて! 殴る相手ま……りちちっ!!」


 朋花ちゃんの正拳は僕の顔面に直撃、そして世紀末の悪役みたいな叫び声と共に後ろへぶっ飛んだ僕。

 頭から落ちたのか、意識がボーッとします。

 

「主よ! 大丈夫か!? 主ー!」


 意識が朦朧とする中、サヤ姫ちゃんの僕を心配する声が聞こえましたが、僕はこう思いました。


 お前だけには、お前だけには心配されたくない、と。


 そして僕の意識が完全にシャットダウンされました。



 


 ……目を覚ますと僕はベッドで寝ていました。

 鼻にツンとくるアルコールの臭い、ここは保健室なのでしょう。僕は携帯を取り出して時間を確認します。


 ――十五時半。


 もう放課後です。僕は窓から見える外の景色をボーッと眺めました。夕焼けに照らされたグラウンドで部活をする生徒、野球部が制服を着たマネージャーのスカートをふざけながらめくっている所を見て僕は、今からサヤ姫ちゃんを一発殴りに行こうと思いました。


「あら? もう大丈夫?」

「はい。だいぶ良くなりました」

「よかった。あ、そうだ。廊下で君のことを待っている人がいるよ」


 保健室の先生にこの事を聞いた瞬間、僕はすぐ廊下に出ました。フフフ、自ら僕の制裁を受けに来るなんてサヤ姫ちゃんは真面目だな!


「サヤ姫ちゃん! 酷いよ! もう僕は怒ったからね! 一発なぐ……」


 全て言いきる前に僕は廊下で待っていた子を見て驚きました。僕はサヤ姫ちゃんが待っていると思っていたのですが、そこにいたのはサヤ姫ちゃんではなく朋花ちゃんでした。


「な、なんでここに?」


 壁にもたれながら立っている朋花ちゃん。僕の顔を見て少し俯く、消極的な朋花ちゃんを見るかぎり、また僕を殴りに来たわけではないようです。



「えっと……一緒に帰る?」


 帰宅部の僕は特にやることがないので、同じく帰宅部である朋花ちゃんを誘うと朋花ちゃんは小さく頷きました。



 朋花ちゃんの話によると、意識を失った僕はしばらくサヤ姫ちゃんに頬を殴られ、僕が買ったパンを口に突っ込まれと、色々されて目が覚めない僕を二人で保健室に運んだそうです。

 

 保健室の先生には下着を見たら失神したと説明したそうだ(サヤ姫ちゃんが)。


 なぜだろ……、またサヤ姫ちゃんを殴りたくなりました。


「その……、強く殴ってごめんなさい。あの時は気が動転して」


 家までの道を並んで歩く僕と朋花ちゃん。朋花ちゃんは申し訳なさそうに僕に謝った。


「いや、朋花ちゃんは謝ることないよ。一応、被害者なんだし……」


 っていうか、加害者のサヤ姫ちゃんは今どこでなにしてんだろ。本当ならこの場で僕達に土下座してほしいんだけど。


「ありがとう……。あなたはいつも優しいね」

「あ、う、うん」


 それから気まずい雰囲気が続く、こうして一緒に帰るのは久しぶりで緊張する僕、半年前までは家が一軒挟んだ所にあるから毎日一緒に帰っていたんですが……。


「あ、そうだ」


 僕はここであることを思い出す、それは半年間ずっと聞けなかったこと、朋花ちゃんが僕を避けている理由である。この絶好のチャンスを逃したら、また聞きそびれてしまいます。


「朋花ちゃん、なんで僕を避け続けていたの?」


 僕の問いに朋花ちゃんは足を止め、俯きます。


「半年前、私が言ったこと覚えてる?」

「半年前?」


 ……半年前、僕と朋花ちゃんがこうして歩いていたとき、確か……うーん……ダメだ。思い出せない。


「私、告白したのよ」

「告白? なんの?」

「あなたに告白したのよ。好きだって」

「え? な、な、」


 なんですとぉぉぉ!? 朋花ちゃんが僕に告白だって!?


「けど、あなたは私を恋愛対象として見ていなかった。私のことを幼馴染み以上の目では見てくれなかった」


 あ、そうだ! 思い出した。朋花ちゃんは僕に好きって言って、それは友達としてだと思って僕も好きって(友達として)言ったんだっけ?

 なーんだ、僕は嫌われたわけじゃなかったんだ。長らく解けなかった問題は解いたけどここで新たな問題が浮上。

 恋愛対象として僕を見ていた朋花ちゃんに僕はどうするべきか……。


「私はこの気持ちを抑えようと努力したわ。あなたの近くにいなければこの気持ちが消えると思っていた。けど、あなたが近くにいなかったら寂しいの! 辛いの! 私は気持ちを抑えようとしてあなたから離れたけど、私の気持ちはどんどんあなたから離れなくなったの!」


 感情的になる朋花ちゃん、僕のことを見る朋花ちゃんの目はまるで子犬のようで、うるうると潤んだ目をしたこんな朋花ちゃんの顔は初めて見ました。

 もうそこには、僕を幼馴染みという目ではなく、僕を一人の男として見る朋花ちゃんがいました。

 心拍数が急に上がり、心臓がドクンドクンと鼓動するのが分かります。彼女の気持ちを聞いて、僕も朋花ちゃんを一人の女の子として見ていました。



「私は、あなたが好き」


 きゅっと、朋花ちゃんの細い腕が僕の腰を優しく包みました。僕と朋花ちゃんの体は密着して、僕の鼓動はさらに加速します。


 ああ、もう僕の頭の中ではラブソングが鳴っています。回れまーわれメリーゴー……。


「私はあなたの目と鼻と口と耳と歯と手と腕と足と太股と声……あなたの全てが好き。あなたはもう私のもの、誰にも渡さない。渡さない……」


 

 あれ、様子が変だぞ。好きって言われて僕は答えを出していないのになんかもう付き合っている感じになってるぞ?

 

「ちょっと待って朋花ちゃん。僕はまだ答え出してない……ってか、なんか腰が物凄く痛いんだけど……なんか絞まってきているよ?」


 僕の言葉を無視してどんどん僕の腰を強く絞めていく朋花ちゃん。明らかに様子がおかしい、僕は何だかとても不安になっていきます。


「あのー、朋花ちゃん?」


 僕が呼ぶと朋花ちゃんは顔を見上げました。そして、僕は顔を見て驚きました。

 虚ろな目、瞳の奧は真っ黒ですが僕のことを見ています。あれ、おかしいなー、怖いなー。

 僕は腰にしがみつく朋花ちゃんを離しました。


「朋花ちゃん! どうしたの! さっきからちょっと変だよ!?」

「変じゃないわ……私はあなたのことが好きなの。好きで好きで好き好ぎて好き」


 ゆらゆらと動く朋花ちゃんを見て僕はゴクリと固唾を呑みました。

 すると、ガッと腕を捕まれ、僕は思わず「ヒィ!」と叫んでしまいました。



「ちょっと、どこいくの朋花ちゃん!? ってか、どうしたの!? もしかしてこれってヤンデレパターン!? そういう展開!? さっきまで普通の青春だったのに! く、くそ、回らないでメリーゴーランド! この子と回ったら放送できない! て、そっちは公衆トイレだよ!? ダメだよ朋花ちゃん! 中で何するのさ!? こんな所入ったらR18のタグ付いちゃうよ! あ、もうだめだ……サヤ姫ちゃぁぁん! 助けてー! 」




 僕は大切な何かを取り戻しましたが、また大切な何かを失った気がしました。



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