天下を統べるのじゃ!
──某月某日。
僕は交番に居ました。
もちろん万引きしたわけではなく道を尋ねたい訳でもありません。すべての原因は僕と警官さんを挟んだデスクの上に置いてある1本の刀です。
「君、困るんだよね。外でこんな物もたれちゃあー」
「は、はい」
「これ本物? ちょっと鞘から取り出してもいい?」
「え? 取り出しちゃうの?(冷や汗ダラダラ)」
「本物だったら危ないからねー。最近、世の中物騒よー」
「だ、大丈夫です。演劇で使う模擬刀ですから……(棒読み)」
「ま、一応確認するだけだから、模擬刀だったら返すよ」
「え? ちょっと待って! 抜いたらダメ……! 」
僕の呼び掛けに警官さんは無視してデスクの上で刀を鞘から取り出しました。
その瞬間、光が僕たちを包みます。
そう、あの子が再び復活するのです。
「うおっ! なんだ!?」
もうだめだと頭を抱え込む僕。
ようやく、”刀に納めたのに“それだけのために徹夜までしたのに……。
光が消え、デスクに置いてあった刀の場所に甲冑を身にまとった女の子がちょこんと正座をしていました。
薄いピンクの首ぐらいまであるストレートの髪、クリクリとした丸い目、プルっとした艶のある唇。身長は低め胸も小め、ってか小さい(ここ重要! )典型的なロリ体型で 首には刀のネックレスを付けています。
「……お、また復活したのじゃ! ってなんじゃお主! なぜ全身が青いのじゃ!?」
青い制服の警官さんを見て立ち上がり身構える(刀はない)名はサヤ姫。
訳あって僕の家に居候しています。
「いやぁー。ビックリしたなー」
サヤ姫ちゃんを見上げて、唖然とする警官さん。そうなりますよね。いきなり甲冑を着た女の子が目の前に現れるですもの。僕だったら叫びますよ。
「えっと……この子は僕の知り合いです」
僕の声にサヤ姫ちゃんは振り向いて僕を見下ろし、
「お主……昨日はよくも儂を閉じ込めてくれたな! 成敗してくれよう! 」
デスクの上にあった警棒を持ってサヤ姫ちゃんは僕に襲い掛かる!
「ちょっと待ってサヤ姫ちゃん! 落ちつい……ゴホッ! 」
警棒が僕の頭に直撃して僕はあまりの痛さにイスから転げ落ち、サヤ姫ちゃんは馬乗りになり警棒で何度も……何度も……。
「って! 死んじゃうブフッ! サヤブフッ! ガチじゃんブフッ! 目がガチだよブフッ」
「昨日の恨みじゃ! 謝るまで許さぬ! 」
「警官さーんブフッ! 止めてー! 事件は現場で起ころうとブフッしてますよブフッ! 」
警官さんはボコボコと腫れ上がる僕の顔を見てちょっと笑って、サヤ姫ちゃんを僕から引き離そうとしますが……。
サヤ姫ちゃんが踏ん張り、なかなか引き離せないので諦めたのか電話を取り。
「あ、もしもしー? 救急車手配してくれる? うんうん。多分、撲殺されるから」
「って、ゴラァ! 僕が撲殺される前に助けろよ! 」
──その後、何とか騒動は収まり、サヤ姫ちゃんはスッキリした顔で、僕はボコボコの醜い顔で交番を後にしました。
「サヤ姫ちゃん酷いよ! 本気で死ぬところだったよ! 」
「そなたが儂を閉じ込めるから悪いのじゃ。じゃが、さっきのでストレスが解消できた。主に礼を言う」
「いやいや、謝ってよ! ってか何で撲殺未遂で捕まらなかったの!?」
「儂は姫じゃ。捕まるわけなかろう」
サヤ姫ちゃんは戦国時代に生まれ育ち、結婚はしたのはいいものの夫に斬られ亡くなったが、霊となり夫の刀に取り憑いて夫とその一族に復讐すると誓ったものの、夫がまさかの隠居。
刀は使われなくなり、それから長ーい年月が経ちようやく刀を再び鞘から取り出したのが僕。
鞘から刀を抜くとサヤ姫ちゃんが現れるが、なぜ一度死んだ者が復活できるのか、サヤ姫ちゃん自身よくわからないそうだ。
現代の電子機器に溢れた世の中の事を全然知らないサヤ姫ちゃんは、とにかくメチャクチャで僕は振り回される一方です。
ちなみに、サヤ姫ちゃんの首にある刀のネックレスですが、その刀の鞘を抜くと今度はおじいちゃんがくれた普通の刀に戻っちゃいます。
「主よ、儂は決めたぞ」
サヤ姫ちゃんは立ち止まり、とても真剣な顔になってまた僕を困らせるようなことを考えているにちがいありません。僕は無視して歩き続けます。
またネックレスの刀を抜いて、大人しくさせようかと思いましたが、安易にそんなことをするとまた酷い目に合うのでやめることにしました。
「主よ、儂は決めたぞ! 」
後ろから聞こえる声も無視して歩き続けます。
「主よ、儂は決めたぞ!!」
「そんだけ声出るならそこから言ってよ! 」
反応してはいけないと思いつつもついツッこんでしまい、サヤ姫ちゃんはニヤリと不敵な笑みを浮かべ――。
「天下を統べるのじゃ!!」
と、高らかに宣言しちゃいましたけどここは戦国時代ではありません。もう天下を争うとかそんな時代ではないことを昨日、教科書(サルでもわかる現代社会)で教えたのに……。
「とりあえず首相に合ってくるぞ」
「ええ!? ちょっと待って! 行ってなにするのさ! 」
「斬る」
「ゴラァ! そんなことしたら僕らはテロリスト扱いにされるだろ! 」
「大丈夫じゃ。これは儂とお主だけでやった事にするから誰にも迷惑をかけぬ」
「大丈夫じゃねぇ! もう! 早く家に帰るよ! 」
「家で作戦を練るのか?」
「そんなことしないよ! お腹減ったしごはん食べるんだよ! 」
「飯とな! 腹が減っては戦はできぬ。主よ、いい判断じゃ」
サヤ姫ちゃんとはいつもこんな感じです。あのクソじじいはとんでもない物を僕にくれました。
僕を不幸にする者とは恐らく、サヤ姫ちゃんのことでしょう。
もう充分僕に不幸を提供して下さったサヤ姫ちゃんとの生活はまだまだ続きます。
そして、明日から学校です。
読んで下さりありがとうございます♪