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奇襲を仕掛けるのじゃ!

「熱もそんなにないし。一応、本人も大丈夫だと言ってるから大丈夫だと思うけど、今日はここで安静にしてた方がいいわね」

 

 保健の先生の言葉に、僕はホッと胸を撫でおろしました。 

 あれから保健室に朋花ちゃんを運んで、先生に朋花ちゃんの容態を診てもらい、僕は一緒に居たからその時の状況を説明し、先生はウンウンと頷いて柔らかい表情で僕にそう告げたのです。


 ちなみにその時の状況の事ですが、さすがに如何(いかが)わしい物が入った弁当を食べたら熱が出たとは言えなかったので、急に熱が出て倒れたということにしました。


「まあ、季節の変わり目とかだったら急に体調を崩す人も多いのよね。白木君もさっきまで体調が悪くてここにいたの」


「え!? 白木君、保健室に居たの!?」


 大袈裟に驚いた僕、隣で驚く僕とは対照的に冷静な白木君は首を縦に振りました。

 ってことは、白木君は体調が悪くて授業に出なかったのか。いやまあ、これで白木君が消えた原因はサヤ姫ちゃんでもなく強制的に席替えをさせられたことでもないんだね。


 僕は再びホッと安堵のため息を吐きました。

 

「けど、白木君。急に放送で決闘とか言われたからねぇ。ちょっと戸惑って結局、保健室から出ていったよね。まさかまたすぐに戻ってくるとは思わなかったけど」


 決闘、という言葉に僕はすぐに反応しました。朋花ちゃんのこともあってか僕はその事をすっかり忘れていたのです。

 決闘を申し込んだサヤ姫ちゃんの隣に居た僕は、罪悪感でいっぱいになりました。

 

「え、えっと……。あれは、サヤ姫ちゃんが……」


 

 と、僕が何とか弁解しようとした時でした。


「白木殿! 見ぃつけたのじゃ!」


 どこか聞き覚えがある声と共に、


 僕の後頭部にゴンッ!という衝撃&激痛が走り、僕は椅子から転げ落ちて後頭部を押さえながらゴロゴロと床の上で悶絶しました。

 

「白木殿! 敵に背後を見せるとはまだまだじゃのう!」


 そう言って高笑いしているのは恐らく声からしてサヤ姫ちゃんでしょう。

 そして、コロコロと転がり床を移動しているのは野球ボール ……なるほど、これが僕の後頭部に直撃したのか……って!


「サヤ姫ちゃん! 高校で使う野球のボールは硬球といって中学とかが使っているボールとは違って痛いんだよ! それに打ち所によっては死ぬ可能性もあるんだよ!?」


 後頭部でも充分、打ち所が悪いというツッコミはさておき、僕は保健室の入り口で高笑いしているサヤ姫ちゃんに向かって言いました。


「? なんじゃ、白木殿かと思うたら主か。ここまで来て白木殿と主を間違えるとは……儂もまだまだじゃ……」


「てか、サヤ姫ちゃん。授業はどうしたの?」


 ガックリと肩を落としているサヤ姫ちゃん。

 本来ならもう昼休みは終わって授業が始まっている筈です。僕と白木君は事情を話すために先生の公認で少し遅れることになっていますが……。


「授業のことなら大丈夫じゃ。すでに先生には白木殿を見つけるまで帰らぬと告げておる」


「大丈夫じゃないよ! てかずっと白木君を探していたの!?」


「うむ。で、ここの前を通りかかると主の声がしてのぅ。扉にあった小さな窓から覗くと、主と白木殿が一緒にいる所を発見したのじゃ。で、突撃しようかと思ったのじゃが、何故か急に飛び道具がほしくなって、適当に探していたらその球を持った輩がいて儂はそやつから球を奪い取り、その球を使って奇襲を仕掛けたのじゃ」


 そしてその球……硬球が僕の後頭部に当たって、僕は悶絶する羽目になったんだね。

 一応、奇襲には成功しているけど相手を間違えたみたいです。


 いや、こんな呑気に結末を代弁していり場合ではありません。もしこの球が白木君に当たっていればそれはそれで大問題で再びベッドへ戻る可能性だってあった訳です。


「君があの噂のサヤさん? 噂通り、元気な子ね」


 ボールが僕の後頭部に直撃したのを間近で見ていたのにも関わらず、先生は落ち着いた様子……しかも僕のことには一切触れませんでした。


「うむ、いかにも。儂こそがいつかは天下を統べるサヤ姫じゃ!」


 サヤ姫ちゃんは小さな胸を張って言いました。

 それにしても、自分のことを姫と呼ぶのは少し痛いと思われるのでは? いや、実際かなり痛い。



「ふふ……元気な子ね。けど、あまり乱暴はしないでね」


 先生の仰る通りですが、このアホ姫にはそれが理解できないらしく、いつもその被害に合うのは決まって僕なのです。


「……さてと、私はちょっと休憩に行ってくるから。みんな仲良くしてね~」


 先生はおもむろに立ち上がり、軽いノリで手を振りながら僕達にそう告げて保健室から出て行ってしまいました。

 

「……」


 そして残された僕達、白木君はサヤ姫ちゃんに顔を合わすことなく背中を向けて微動だにしません。

 

「えっと……」


 シン……とした保健室に僕の声が響く。


「停戦しない?」

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