愛妻弁当には愛が詰まりすぎている!?なのじゃ!
朋花ちゃんに連行された僕は、中庭にあるベンチでお弁当を食べていました。
結局、白木君の所在は分からないままですが、昼休みに入ってまだ何も口にしてなかった僕は、不覚にも朋花ちゃんの手作り弁当を見てお腹の虫が鳴ったというわけです。
さて、朋花ちゃんの手作りお弁当ですが、中身はオムライスというあまり凝った料理ではありませんでした。
しかし、味はとても良く、僕は鶏肉が入っているのが個人的に好きなんですが、まさにその鶏肉が入っており僕は夢中になってオムライスを頬張りました。
「あなたって、美味しいと思った物には無言で食べ続けるタイプ?」
「あ、ごめん。あまりにも美味しいからつい何も言わないで食べ続けてしまったね」
ついでに言っておくと、僕は朋花ちゃんが言ったとおり美味しいと思ったものは無言で食べ続けてしまうタイプの人間です。
僕はこうして誰かの手作り料理を食べるのは、親を除いて初めてだったので、少し心遣いが足りなかったようです。
ここは一言でも美味しいと言うべきだったと、僕は少し反省しました。
「いいのよ……あなたの食べる姿、とても可愛らしかった」
朋花ちゃんはニコッと微笑み、僕はその顔を見て少しドキッとしてしまいました。
……そういえば、朋花ちゃんの告白を聞いてからこうして二人きりで話すのは初めてでした。
「……ええと、このオムライス、どれくらい時間かかったの?」
そんな事を考えていると急に気まずくなって、僕はとりあえずと言ってはなんですが、話題を振ってみました。
「……そんなに長くはなかったわ。ざっと3日ぐらいかしら?」
「いやいやいや、充分長いから! てかオムライスを3日かけて作るって逆に難しいよね!?」
特に煮込むとかそんなややこしい工程はないはずなんですが。
「愛情込めて作るとつい時間がかかってしまって……途中で調味料と間違えて媚薬を入れてしまったけど、味に問題はなかったからそのままにしといたわ」
「おいぃぃっ! 問題大アリだよ! どうやったら調味料と媚薬を間違えるんだよ!?」
そもそも媚薬を調味料と同じ所に置いているのもおかしいというツッコミを誰か僕と一緒にしていただきたい。
あとなぜ媚薬があるのかというツッコミも誰か僕と一緒にしていただきたい。
「……あなたのことを考えているとつい媚薬を入れたくなったの。媚薬が入ったオムライスをあなたが食べることによって、興奮して私のことを襲うあなたの姿が見たいの!」
自分の腕で自分の身体を抱き締めてクネクネする朋花ちゃんの傍ら、僕のツッコミ魂はさらに加熱していきます。
「確信犯だろ! 調味料と間違えてないよね!? つかこんなところでそんな淫らな行為をしたら大問題だよ!」
問題どころか、僕は社会的に抹殺されるでしょう。
「私は別に構わないわ……人に見られてる方が興奮するかも……」
ああ……顔を赤らめてポーっとしている朋花ちゃんを見ていると僕はこの子の将来がかなり心配になってきました。
僕は朋花ちゃんの性癖をどやかく言うつもりはないですが……。
……いやでも、友達として言っておいた方がいいのか非常に悩みます。
「ねぇ? 何だか熱くなぁい?」
ふいに朋花ちゃんはそんな事を言い出して、シャツのボタンを一つ外しました。
……まさか。
ここで僕は、ある一つの仮説を立てました。
媚薬入りのオムライスを僕に渡すつもりが、自分のと間違えて僕に普通のオムライスを渡し、朋花ちゃんが媚薬入りのオムライスを口にしたという仮説。
確かにお弁当の形もそっくりでどちらもオムライスだから間違える可能性は充分にありえます。
「……私、ここで脱いでもいーい?」
いや、可能性ではなくてそれはもう確定でしょう! 朋花ちゃんは二つ目のボタンに手をかけてます! このままでは本当に脱いじゃう!
それに顔も少し赤くてなんだか色っぽく見えちゃいます! こんなときに限って普段気にしない唇とかを見てもプルっとして艶があり、ふわふわした顔でとても愛らしく見えちゃいます!
「ちょ、朋花ちゃん! こんな所で脱いだらダメだよ!」
それでも僕は誘惑に負けず、どうにかして朋花ちゃんが脱ぐのを阻止しようとします。
どうにかしてって言っても、ここで僕が強引に朋花ちゃんの身体に触れて阻止しようとすると、それはそれで傍から見ればかなり誤解を招きそうなので、説得して止めるしかありませんが……。
「じゃあ、人がいない場所だったらいいの……?」
曇りのない真っ直ぐな目で僕を見詰めながら朋花ちゃんは甘えた声で言いました。
この台詞を二人きりの所で言われていたら、僕は既にノックアウトされていたかもしれませんが……、それはあくまでも二人きりだった場合です。
「そーいう問題じゃないよ! とりあえず……って、ああ!」
だから僕は全力で阻止しようとしましたが……見ると朋花ちゃんは既に3つ目のボタンを外しており、シャツの中がチラチラと見えるようになっていました。
……そう。
布が……ピンク色の布が僕の視界にチラチラと映っていたのです。
さらにはその布に覆われた朋花ちゃんの素晴らしく大きな胸が……そして谷間が……見えます。
「と、と、と、朋花ちゃん! 見えてる! 見えてるよ!」
少し遅れて僕は手で顔を覆うようにして、視界からそれが見えないようにします。
「見えてる……? ああ……もぅ、エッチ……」
「いやいやいやいやいや! 僕も見たくて見た訳じゃないからね!? 朋花ちゃんがボタンを外すから見えたんだよ!」
そう言って必死に弁解しますが、正直言って僕はもう少し見とけば良かったと、少なからずですが後悔しています。
このまま指を少しでも開けると見えるとは思いますが……僕はここでゲスな男になるつもりはありません。
それに、今ここで見てしまうとさらにボタンが外れててもっとはっきり見える状況になっていたら……僕はここで昇天する可能性だってあるのです。
いや、このままこの状況が続くと結局は見るハメになってしまいそうです。
本当、誰かに助けてほしいですが、肝心な時にあのアホ姫はいないし……かといって他の人に頼める訳でもないし……。
……ん? それにしても朋花ちゃんがやけに静かになったような気がします。
それに何だか胸の方が少し熱いような……。
僕は気になり、おそるおそる覆った手をゆっくり下ろすと、
「と、朋花ちゃん?」
僕の身体に寄りかかったまま動かない朋花ちゃんが視界に映りました。
「ええ……と。大丈夫?」
僕の問い掛けに、朋花ちゃんの返事はありませんでした。
ちょうど僕の胸あたりに顔が当たっており、少し熱い。
……熱い?
シャツの上からでも分かる熱に僕は不安になり、朋花ちゃんの頬に手を当てました。
「もしかして……風邪引いてる?」
返事は返ってきませんでしたが、僕は確信しました。
しかしこれが媚薬による熱なのか本当に風邪なのかわかりませんが、返事もないのでかなり危ない状況でしょう!
……こーいう時に誰かいてくれたら本当に助かるのですが、例えばアホ姫とかいてくれたらいいのですが……。
残念ながらアホ姫どころか、僕が目を覆っている時にもう居なくなったのか、校庭には学生が一人もいませんでした。
どうしよう……どうしよう! と、僕が一人でオロオロしていると……、
「あの、大丈夫ですか?」
背後から突然声をかけられ、僕は振り向くとそこに立っていたのは……僕がずっと探していた人物……そう、白木君でした!
「白木君! ちょっと! 先生呼んできてくれる!? 緊急事態なんだ!」
まさかの白木君の登場に、僕は目を丸くして驚きましたが、今は驚いてる状況ではありません。
僕は白木君に先生を呼んできてほしいと頼むと、白木君は少し戸惑いながらも走って校庭を後にしました。
「──大丈夫!? なにかあったの!?」
そんなに待つこともなく、白木君が先生を連れて戻ってきました。
僕は先生に朋花ちゃんが熱を出して倒れたことを伝え、先生にタンカーを持ってきてもらい、僕と一緒に保健室まで運びました。
……言っておきますが、朋花ちゃんのシャツのボタンは先生が来るまでにしっかり留めておきましたよ。
寄りかかったていたので、柔らかい胸が僕の手にふにょんと当たって僕も気絶しそうになっていました。