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3/7

2日目。妄想はオートマチック。

個人き(ry

参考文献、放課後プレイ2。

久しぶりに三人称形式で描いてます。

何回でも繰り返すけど、シモの話が苦手な人はブラウザバック推奨。

 さぁ、涙を拭け。

 ここからが本当の戦いなのだから。

 ラブコメが始まる。





 いつもよりたくさん寝たせいか、寝覚めは爽やかだった。

 爽やかではあるのだが、約一部分はあまり爽やかではない。……とはいえ、ただの生理現象だ。放っておけばいつも通り収まるだろう。

 そう判断して、俊介はベッドから起き上がる。

「おはよう、ずいぶん長く寝てたのね。もう昼よ?」

「やることねーんだから、昼まで寝てても問題ねーだ……ろ」

 声の方向に振りむいて……息を呑む。

 ブラトップにショートパンツというラフな服装に、濡れた長い髪。

 みやびはタオルで髪を拭きながら、スポーツドリンクを飲んでいた。

 飾り気などなく俊介が『可愛い』と思う範疇からは逸脱しているはずなのに、なぜかみやびから目が離せなかった。

「いきなり黙ったりしてどうしたのよ?」

「いや……そういえば、俺、ここ二日風呂入ってねぇなと思ってさ」

「くんくん」

「っ……い、いきなりなにしやがるっ!?」

「別に匂いは普通だけど、気になるなら、まだお湯落としてないからバスタブ使ったらどう? 着替えとかはテキトーにこっちで用意してあげるわよ」

「どーせ風呂にも監視カメラ設置してんだろ? ……もういいけどさ」

「そうそう。人間、諦めが肝心ってね。食事は居間のテーブルの上に出してあるから勝手に食べてちょうだい。私は居間で漫画描いてるから、用があったら呼んで」

 そう言って、みやびはPCを起動して俊介から関心を切った。

 ちらりとみやびの方を見てから、俊介は早足でバスタブに向かう。

(待て……ちょっと待て! 俺! アホか俺は!?)

 相沢みやびは俊介の好みではない。全く違う。可愛くない。可愛げがない。

 ただ……意外と形のいい足とかお尻とかは、いいのではな。

「うっひぇい!」

 風呂場に着くなり即座に服を脱ぎ捨て、冷水を汲んで頭からかぶる。

 それを、二度三度と繰り返し、ようやく頭が冷えた所で風呂に浸かった。

 熱い……体との温度差で滅茶苦茶熱いが、今はむしろありがたかった。

「……ふぅ」

 一息吐いて、俊介は顔を洗い思考をまとめる。

「違う違う……これは、アレだ。余裕がないんだ」

 指折り数えて勘定する。最後に『いたした』のは、おおよそ六日前である。健康的な男の子として、余裕がなくなるのは当然なのではないだろうか?

 しかし、もちろんこちらの余裕のなさは、相手にとって圧倒的に有利である。

 世間話の延長で『好みじゃない女の子に迫られたらどうするか?』という話題で昼休みを潰したことを思い出す。言うまでもないが高校生男子特有のアホ妄想である。

 如月は『好みはあんまり関係ないだろうねぇ。状況にもよるけど、男のってのは迫られれば折れるもんさ』と、諦観気味に言い放ち、俊介は『そんなことはない。俺は好みの女に迫られてもどうってこたぁないね。間違いないね』と主張し続けた。

 もちろん、自分の身にそれが起こるわけがないと、内心では高をくくっていた。

 実際は、迫られてすらいないのにこの有様である。

「……如月。前言を撤回するぜ……なんにもされてねぇのに折れそうだ」

 溜息混じりに、お湯の温度に身を委ねてリラックスする。

 ふと、そこで気づいた。

「そういえば、俺が入る前にみやびが入ってんだよな……」

 我知らず呟いて欠伸をし、我に返る。

 顔を強張らせたまま湯船から上がり、再び頭から冷水をかぶった。

「なにその発想!? 入ってたからなに!? 意味分かんねーんだけど!」

 訳が分からない。そもそも意識する相手ではないはずだ。

 冷水をさらに二杯頭からかぶり、湯船に浸かる。

 頭を湯船に沈め、息の続く限り思考を続ける。

(待て待て待てまて。落ちつけ。落ちつけないかもしれないが、落ちつけ。俺は別に相沢のことはなんとも思ってないし、異性としてはぶっちゃけありえん)

 可愛くない。可愛らしくない。綺麗でもない。

 ただまぁなんというか……生々しいというか……艶めかしいというか。

 そこで呼吸が限界になったので、顔を上げた。

「げほっげほっ……くそったれ、如月の言う通りになっちゃってんじゃねぇか」

 なに意識しちゃってんの? ざまぁwwww

 メールにはそんな風に書かれていた。言う通りになってしまっている。

「……とにかく、我慢だ。如月の言う通り折れたり切れたりしたら、負けだ」

 憮然とした表情のまま、体を洗い、頭を洗い、髭を剃ろうと思ったが使い慣れたタイプの髭剃りがなかったのでそちらは断念し、湯船に浸かって風呂を出た。

 さっぱりとしたが気分は釈然としなかった。

「そういえば……ここの部屋って、一体全体どうなってんだろ……」

 見晴らしの良く日当たりの良い上の階。クイーンサイズベッドを二つ置いても余裕なほどの寝室。娯楽の満載された居間。面倒だからという理由でみやびも俊介も居間で食事は済ませてしまうが、食卓も別に用意されている。バスはやたら広いが、なぜかトイレとバスを隔てるガラスが擦りガラスではなく、普通の透明のガラスだった。

 かれこれ二日、この部屋に宿泊しているがよく行く居住スペース以外は間取りをあまり把握していないことに気づき、少しだけ愕然とする。

「余裕もなかったし……仕方ないか」

 それでも、昨日に比べるとショックは少なかった。

 タオルで頭を拭きつつ、居間のドアを開ける。まずは食事だ。そう思っていた。

「結構長風呂だったわね? こっそり別の意味でさっぱりしてない?」

「してねぇし、どうせ見張ってるんだろ?」

「むぅ……つまんないわね。まぁ、その通りよ。さっぱりしたら新田君の負けと判断されてブザーが鳴る仕組みになってるわ」

「それなんだけどさ……イマイチ、ルールが把握できねぇんだよ」

「ん?」

「俺がアレしたり、お前に襲いかかったら負けってのは分かった。じゃあ、俺はどうしたらお前に勝つことができるんだ? 勝利条件ってのを教えてくれよ」

「……ふぅん? なんだか前向きね。勝つつもりなんだ?」

「ただでさえこっちが不利なんだ。曖昧な部分は潰しておかないと、後でどんなイチャモンを付けられるかたまったもんじゃないからな」

「思ったよりは、賢明なのね」

 にやりと、楽しそうにみやびは笑う。

 そして、あらかじめ用意してあったかのように、言葉を紡いだ。

「新田君は、十日逃げ切るか、私に負けを認めさせたら勝ちよ」

「またなんつーか……ずいぶんと曖昧な勝利条件だな」

「勝負ってのは平等じゃないのよ。新田君がやってる球蹴り遊びも、平等じゃない。おデブの熊原くんにキーパーを押し付けて、自分はフォワードやって楽しいもんね?」

「もう十分に思い知ったから皮肉はたくさんだ。……分かった。お前の言う条件で受けてやる。その代わり、俺が勝ったら信じられないくらいの現金を要求する」

「了解。もう勝負は始まってるけど……改めて、新田君を負かしてやるわ」

「ああ」

 深く頷いて、俊介はテーブルに着いた。

(くそ……やっぱり、過去のことを持ち出されるとキツい……。熊ちゃん、本当にあの時はすまん。俺が馬鹿だった)

 頭をがりがりと掻いて、俊介は深く息を吐く。

 今は勝負に集中しよう。勝負が終わったら改めて土下座しに行こう。

 現金とは言ったが、これはあくまで方便だ。金を受け取る気も要求する気もさらさらない。相手を完全に負かすことが目的だ。

 これは、心を摘む戦いなのだ。

 覚悟を決めて、テーブルの上に置いてあった自分の食事を手に取る。

 重箱だった。開けてみると、中には濃い飴色をした魚がご飯の上に乗っている。

 うな重だった。うな重の隣には温められた肝吸いが添えられていた。

「みやび」

「なに?」

「昨日も思ったんだけど、ここの飯って豪華過ぎないか?」

「そーね。私はコッペパンでいいって言ってるんだけど、聞きゃしないのよ」

「………………」

 なにか事情がありそうだとは思っていたが、やっぱりあるらしい。

 うな重を一口頬張ってみる。滅茶苦茶美味しかった。

(しかし……食ってばっかりいると太るな。器具も揃ってるし運動でもするか)

 そんなことを思いながら、俊介はあっという間にうな重を完食した。

「ふぅ……食った食った」

「デザートにアイスがあるけど、食べる?」

「食う食う」

「私は棒アイスのバニラで、新田君はカップのチョコアイスだけどいい?」

「おう……チョコは大好きだぜ」

 受け取ったアイスは見覚えのあるメーカーだったが、一食三百円くらいはする、ちょっといいものだった。

 少々憮然としながらカップアイスを開け、スプーンですくって口に運ぶ。

 ふんわりとしながらもほろ苦い甘味が口に広がり、ほんの少しほっとした。

「そういえば新田君って、サッカー部なのよね?」

「おう」

「あれ楽しい?」

「いや、楽しいぞ。『絶対に楽しくないよね?』って感じの言い方はやめてくれよ……」

 ふと、胸に蘇る苦い感情をチョコアイスで誤魔化しつつ、みやびの方を見る。

 棒状のバニラアイスを美味しそうに食べていた。

「だ、大体だな、楽しくないと続かないだろ。ウチの学校は部活動とかテキトーだけど、サッカー部はそこそこ厳しいし、負ければやっぱり悔しいからな。まぁ……先輩も顧問もクソだけどさ」

「その厳しさが今の体罰問題に繋がってるのよね。嘆かわしいわ……」

「ウチのクソ顧問も頭引っ叩くくらいは普通に……やる……し、な」

 考えるふりをして言葉を濁し、こっそりとみやびの様子を見る。

 バニラアイスを美味しそうに食べている。アイスに舌を這わせ、唇をすぼめて味わい、時折口から離して満足そうに笑う。

(……あれ? アイスを食うってこんなにエロい行為だっけ?)

 なにやらこう、奇妙な艶めかしさを感じる。

 もちろん、みやびはアイスを食べているだけである。棒状のバニラアイスを普通に食べているだけである。他に意味はないし、意味などあるわけがない。

 俊介はゴホンと咳払いをし、話を続けた。

「やっぱり、信頼が重要なんじゃないか? 信頼関係を構築する前に叩かれたり無茶されりゃ誰だって嫌だろ。『この人なら安心して付いて行ける』って相手に思わせないと、なにやったって駄目って気はするんだよな……」

「そーゆーもんかしらね。私は運動全般大っ嫌いだけど」

「なんでさ?」

「人並みにできないからよ。体が小さかったり贅肉が付いてたりすると、運動だと大体足手まといなの。新田君たちの業界じゃ、足手まといは容赦なく切り捨てるでしょ?」

「……そうだな」

「こらこら、そこは『俺たちは仲間を見捨てたりはしない!』みたいな綺麗事で通してくれないと。皮肉を言って新田君を困らせることができないじゃない」

「いや、皮肉を言うためにそーゆー凹むことを言うなよ!」

「あ、そっちのアイス一口ちょうだい」

「唐突に話を逸らしやが……る?」

 そっちのアイス一口ちょうだい。

 同年代の男子に向かって、食っているアイスを一口くれと言う女。そのせいで不意に思い出しかけた嫌なことが、頭の中からあっさりと消え去った。

(待て……待て待て。もしかしたらこれも困らせるための伏線なのかもしれん)

 こっちの反応を見て楽しむための策略。よく考えると、話の切り替え方があまりにも唐突だったし、こうやってこちらを揺さぶるのが目的なのかもしれない。

 その目的はとうに達成されている。言われた時点で揺さぶられてしまっている。

(……つまり、こっちにはもう失うモノなどなにもねぇ!)

 相手に見られないように喉を鳴らし、俊介はアイスのカップを差し出した。

「ほれよ」

「スプーン借りるね。あ、こっちも美味しい」

 失うモノあったよ! スプーンは借りるなよ!

 全力で叫びたい衝動に駆られたが、ぎりぎりで堪える。

(なんだこいつ……マジでなんなんだ。策略なのか? 策略なんだろう? 俺を困らせる気満々なんだろう? まさか素でやってないよな? 策略でいいんだよなっ!?)

 色香に狂ったら負けだが、必要以上に動揺しても負けだと、俊介は思った。

 全く興味がないと断言していた女の子に『色香』という二文字を使い出した時点で、なんだか色々と手遅れなのだが、俊介は全く気付いていない。

 間接キスではあったが、心の暴風雨を抑え込み、チョコアイスを食べた。

 爆発しそうな心臓の鼓動を誤魔化すように、話題を変えた。

「なぁ、みやびはどんな漫画描いてるんだ?」

「女の子受けするやつ。具体的には男の子と男の子が……」

「あ、すみません。もういいです」

「まぁ、正直な所を言うとね、エロいのは『受ける』から描いてる所があるのよね」

「……受ける?」

「男の子だって、女の子だって、エロ本は大好きでしょ。『どちらかに偏る』という極端な側面はあるけど、エロってのは受けやすいの」

「それって楽しいのか?」

「お察しの通り楽しくはないわ。人間の体の構造って意外と難しくてね、特に裸体は難しいと思う。正直描いてて苦しい時の方が多い。それでも、描いたものを褒められると嬉しいわ。とてもとても嬉しいと思う。楽しさと嬉しさってのは、また別の問題よ」

「……よく分からんな」

「サッカーをするのは楽しい。でも、サッカーをやってても嬉しくはないでしょ? 嬉しさってのは自分や他人に認められた時に発生するものなのよ。勝てば嬉しい負ければ悔しい。私にとってはそれが漫画で『人に認められれば』勝ちってわけ」

 みやびはアイスを食べ終わり、足を組み替えて息を吐く。

 足を組み替える時にうっかり凝視しそうになったことに、俊介は自己嫌悪した。

「いや、でも……やっぱり野郎と野郎は、ちょっとなぁ……」

「女の子ならいいんでしょ? 文化祭の時にこっそり販売した男性向けのイラスト集とか楽しそうに見てたじゃない。新田君からの要望もちゃんと見て描いたわよ?」

「………………え」

「へっへっへ」

 にやにやと、楽しそうに笑いながら、みやびは言った。

 俊介達の学校の文化祭には、闇が這入る。一体どういう巡り合わせなのか悪童が異様に多いらしく、写真部が『ちょっと際どい』写真や、茶道部が『好きな彼に振り向いてもらえちゃうかもしれないお茶っ葉』を、闇から闇に販売したりする。

 その中の一つが、漫画部の『要望があった人物をイラストにおこす』というものだ。

 もちろん、色々と侵害している。描いた方も要望した方もバレるとやばい。

 あくまで闇から闇にさばかれるモノなのだ。

「ずいぶんと高尚なご趣味ですねぇ? 新田君?」

「あ、あれぐらいは普通だ。如月とかもっとすごいに決まってる」

「如月君のは意外にも普通だったわ。逆に、水無月君のはドン引きしたけど」

「……ちなみに、どんな感じだったんだ?」

「絶対に誰にも言わないでよ? ……ごにょごにょ」

 耳打ちされる。

 喋っている内容はともかく、吐息が耳に当たってぞくぞくした。

(部屋に二人きりで他に誰もいないのに耳打ちする必要あるか? ……っていうか、耳打ちってこんなにエロい行為だっけ?)

 勝手にエロ行為に変換しているのは俊介自身なのだが、全く気づいていない。

 ただ、耳打ちされた内容で、少しだけ熱が冷めた。

「…………うん、まぁ……すげぇ引いたな」

「如月君は『ブラ透け最高!』とか、平気な顔で言っちゃうオープンエロスだから分かりやすいんだけど、水無月君はなんていうか……闇を感じるわね。モテるのにね」

「水無月は、告白は全部断ってるらしいけどな」

「なんでっ!? 私が水無月君の立場なら女の子食い放題なのに!」

「食い放題言うな生々しい。……あんまり詳しく聞いたことはないけど、家の事情とか、他に好きな女がいるとか」

「テキトーに誤魔化されてない?」

「なんでもかんでも突っ込んで聞けるか。さすがに空気くらい読むわ」

「モテモテの男が心に鬱屈した感情を抱いていると思うと、ちょっと萌えます」

「なんでもありじゃねーか」

「なんでもありじゃないわよ。髪の毛がもじゃもじゃしたキャラには萌えられないわ。苦しみを共有することはできるけど。あと、天パなのに美少女キャラは死ね」

「うちのクラスだと、内田みたいなのか?」

「ほほぅ、やっぱりああいう可愛い系がいいのね? 皆川さんと山田ちゃんを出さない所が新田君らしいわ」

 にひひ、とみやびは嫌らしく笑う。

 そう……可愛い方が良い。綺麗なのも良い。俊介はそう思っている。当たり前だ。

 当たり前なのだが、なぜ興味のない唇や、薄い胸や、足の付け根に目が行く。

(溜まってるんだ。そうに違いない……とりあえず落ちつけ)

 気づかれないようにゆっくり息を吸い、吐き、口を開いた。

「そりゃあ、可愛くないよりは可愛い方がいいだろ」

「ホントにね。新田君も私みたいな駄目でブスな女より、もっと可愛い女の子なら良かったのにね。船幽霊なんかで、色々ごめんね?」

「皮肉が痛いからやめてくれ。悪かったよ。ホント、悪かった。ごめん……この状況がなかったらもっと素直に謝れると思うがな!」

「あはは……まぁ、事実だから。それはずっと言われてきたし自覚もあるわ」

 苦笑しながら、みやびはさらりと言った。

 胸が少しばかりちくりと痛む。本人に『いい』と言われると罪悪感が強くなる。

 俊介は頭を掻いて気分を切り替えることにした。

「ここのトレーニング器具とかは、自由に使ってもいいんだよな?」

「ご自由にどうぞ。元々、ママが飽きて放置したもんだし」

「ルームランナー三台放置とか……何者だよ、お前のお袋さんは」

 呆れつつ柔軟体操を開始。筋トレにしろランニングにしろ、柔軟性は全ての基本だ。

「男の子の柔軟体操は、エロい」

「その理屈だと、なんでもかんでもエロいだろうが」

「っていうか、よくそんな角度で曲がるわね。間接壊れてんの?」

「壊れてねーよ。鍛えてるんだよ。ランニングと違って、ストレッチは足を広げるスペースがあればどこでもできるし、柔軟性が付いて怪我しにくくなるし、腰痛や肩こりなんかにも効くし、基礎代謝が上がって太りにくくなるしで、良いことしかないぞ」

「でも、痛いんでしょ?」

「それはやり方が悪いんだよ。ストレッチってのは無理したらいかん。ちょっと痛気持ちいいくらいの位置をキープして、毎日続けるのがポイントだな」

「へー」

「……全く興味なさそうな感じだな」

「興味はあるわよ。なんていうかこう……頭を踏みたくなる姿勢よね」

 言うが早いが、みやびは俊介の頭を軽く踏みつけてきた。

 思ったより力は込めていないらしく、特に痛くはなかったが屈辱的だった。

「おい、やめろ。すげぇ屈辱的なんだけど」

「むぅ……これは予想外。思った以上に良い気分だわ」

「踏みつけるんなら背中にしてくれよ。あ、勢いはつけるなよ? 本当に壊れちゃうからな?」

「……なんかセリフがエロい」

「今のどこにエロ要素があったっ!?」

「はいはい、背中ね。どっこいしょっと」

 どっこいしょってなんだ!? と、聞く前に衝撃が来た。

 実際には衝撃と言うほどには重くはない。むしろ軽い。しかし、背中に当たる柔らかい感触を意識してしまう程度には、衝撃的だった。

「……みやび。待てコラ。なにしてんの?」

「柔軟体操の手伝いに決まってるじゃない。っていうか……背中に座ってるんだけど、本当に痛くないの? 絶対に曲がっちゃいけない角度でしょ、それ」

「別に痛くはないな」

 痛くはないが、無意識に背中に全神経が集中していた。

(さ、最低だ……俺は本当にさいて……ぐぅおっ!?)

 股間に走った激痛に、俊介は内心で血の涙を流した。背中を抑えつけられた状態で、息子さんが身勝手な自己主張を始めたのだ。激痛も走ろうってもんである。

 悲しきは男の性であった。

「うりうり。さすがに全体重かけると痛いでしょ?」

「ああ……さすがに痛いな。どいてくれ」

「はいはい。しかしまぁ、よくそこまで曲がるもんよね。私なら絶叫してるわ」

 絶叫したいのは俊介の方だった。

(うりうりじゃねーよ……わりとマジで死ぬかと思ったぞ)

 柔軟を切り上げてこっそりと溜息を吐き、さりげなく痛んだ箇所を気にしながら、口を開いた。あくまでさりげなさを装って、である。

「じゃあ、俺はランニングするわ」

「んー。頑張ってねー」

 ひらひらと手を振るみやびに、俊介は背中を向ける。

 とにかく、アホほど走って体を疲れさせれば、まだましだろうと思っていた。



 俊介はそれからひたすら走り続けた。

 夕飯の後はこれといったこともなく、二人でぼんやりとテレビを眺め、ゲームで遊び、風呂に入ってさっさと寝た。わりと楽しかったのは俊介だけの秘密だ。

 かくて、2日目が終わる。



 ○ヤらない。理性で本能はコントロールできる。

 ○ヤる。本能の前では理性などクソ同然である。


 戦いは、続く。

後書きで描くことなんてあんまりないんだけど、一つだけ描いておこう。

男の色気ってどう表現したらいいのかね?

次回に続く。

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