第4話:嵐の中で言い訳を
藤咲冬馬は、とても美人に思えた。整った顔立ちと艶のある長い髪、しかしその瞳はツンドラのように冷たく、何者も寄せ付けない印象を感じた。
「あんたが冬馬さんか?」
一応の確認をしてみる。彼女はややぶっきらぼうに、
「だったら何?」
「俺は木村春人、こいつは坂本いつき。俺たちは理事長に頼まれてあんたを説得に来た…何で登校拒否なんかしてるんだ?」
「誰が好き好んであんなつまらない所に行くと思ってるの?面倒になったから行かなくなった、それだけよ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
冬馬の態度は変わらない。しかし、このまま帰ると何かマズい気がしてならない。俺は隣りの同居人に助けを借りることにした。
「なあいつき、お前からも何か言ってくれ。このままじゃ埒があかない」
冬馬に聞こえないよう小声で促した、いつきは小さく頷く。
「ねえ冬馬さん、もう一度学校に行こ?家に閉じこもってても身体に悪いだけだよ?」
しかし冬馬は、ふん、と鼻を鳴らして俺たちから目を逸らした。いつきも俯く。やれやれ、厄介な性格の奴だなあと思いながら、俺はいつきの肩に手を置く。
「仕方ない、一旦家に帰ろう。ずっといるのも迷惑になるだろうし」
「そうしなさい。私に対して無駄な時間を使うより、自分たちの事に時間を使った方がよっぽどマシよ」
冬馬が突き放すように言う。
「あぁそうするよ。だけどな冬馬、俺たちはまた来るからな。そんでもって、あんたをもう一度学校に行かせる」
そう言い残して俺といつきは冬馬の家をあとにした。
自宅に着くなり俺は自室にこもった、手早く制服を脱ぎ、ジャージ姿になる。ついでにポケットからハンカチやらを取り出したとき、一緒に小さな鍵がでてきた。それは言うまでもなく、冬馬の家の鍵である。
帰路に着く前に林さん鍵を返そうと思っていたのだが、そのまま持っていてくれと言われたので譲り受けた。帰る間際に林さんに言われたことを思い出す。
「もしよかったら、今後も冬馬ちゃんに会いに来てくれないかい?年寄りが心配するより、同年代の人に任せたほうがいいと思うから」
もちろん俺たちもそれを考えていたので頷いた。
ひとしきりの回想を終えた俺は、脱いだ服を持って脱衣所に行く。服を洗濯機のなかに入れながら考えていたのはもちろん今後のことで、
(冬馬や林さんにああ言った手前、また行かなければならんが……さてどうするか)
とうの本人には嫌われてるっぽいし林さんからは鍵を預かっている。それに元々、今回は理事長に恩を返すのが本命だ。それを返さないのも気が引ける……。それを踏まえたうえで考えると、
「やっぱりいつきが頑張らないとダメなわけか……」
「でも冬馬さんがあんなに突き放してるから、こっちも動きづらいよ」
「そうだよなあ。どうにかちゃんと話を聞いてもらわないといけないし、さてどうするか」
「わたしも出来る限りアイデアを考えるよ」
「あぁ、そうしてくれると助かる」
ふと違和感を感じた。ちょっと待て、俺は誰と話してるんだ?ココは脱衣所、風呂場の隣り。
つまり、
「……うおおぉぉおお!?」
なぜか風呂場の戸が開いており、そこにタオルで身体を包んだいつきが居た。
「おま、何で居るんだよ!」
「そっちが後から入ってきたんだしょ!」
さっきまでのシリアス展開からなぜかコメディー展開。さすがに俺も混乱する。
「待て待て落ち着け、いいか、俺はやましいことなど考えてない!お前がいるなんて知らなかったんだ!」
必死の証言もいつきには届いていない。背後から怒りのオーラが見えるのは俺だけでしょうか?
「問答……無用ーーー!」
俺は重かった空気と共に、嵐のような勢いで脱衣所から追い出された。
最近、色々ありますよネ。いざっくです。最近思うんですが、私って余りコメディー系の才能ないんじゃない?と言う疑問に圧迫されてます。